ウミグモはクモの仲間?陸のクモとは別の、海だけにすむ古い系統

小さな胴から、細い脚を何本も伸ばしたウミグモ。名前も見た目もクモに似ていますが、本当にクモの仲間なのでしょうか。

ウミグモは、陸のクモ(クモ目)でも、クモやサソリ、ダニなどからなる陸の仲間でもありません。ただし近年の系統の研究では、クモ・サソリ・カブトガニなどを含む大きなグループ(Chelicerata)の中に入り、そのほかのすべての現生の仲間から最初に分かれた、海だけにすむ系統とされています。「クモの仲間」かどうかは、どこまでを仲間と呼ぶかで答えが変わります。体の中まで脚に入り込んだ不思議な体のつくりとあわせて、SOLBOY DIVE CENTERが系統の研究から答えを探ります。

脚の長い、海の節足動物

北海道大学が2020年に発表した資料によると、ウミグモ類は歩くための脚を8本持つ、クモに似た見た目の海の生き物です。世界で約1,300種が報告され、沿岸から深海底まで、両極から赤道直下まで、あらゆる海域にすんでいます。日本近海では分類の研究が比較的よく行われていて、約160種が報告されています。2018年の総説は約1,500種としていて、資料によって数が少し違います。

脚の数は、多くの種で4対(8本)ですが、5対や6対の種もいます。大きさもさまざまで、脚を広げた幅は1〜750mmと幅があり、深海や極域の一部の種では最大75cmに達します。浅い海の種は一般に小さく、しがみつく場所に色が溶け込んで見つけにくいことが多いとされています。

クモの仲間?答えは「どこまでを仲間と呼ぶか」次第

ウミグモ類の系統上の位置は、長いあいだ議論されてきました。2017年の総説は、正確な位置はまだ完全に議論の余地がないわけではないとしながら、近年の解析ではウミグモ類がクモ・サソリ・カブトガニなどを含むグループの中に入り、残りすべての現生の仲間の姉妹群になると述べています。2022年の論文も、ウミグモ類は今ではこのグループにしっかり位置づけられていると書いています。

このグループは、はさみ状の付属肢を持つことで特徴づけられます。最もなじみがあるのは、クモ・サソリ・ダニなど陸の12の目からなる仲間で、ほかに海だけにすむ系統として、ウミグモ類とカブトガニ類が含まれます。95種の遺伝子データを解析した2019年の研究では、海のウミグモ類とカブトガニ類が、陸のクモやサソリの仲間に対して、順に外側の枝として分かれていました。

つまり、ウミグモは陸のクモそのものとは別の系統ですが、大きなくくりでは同じグループに入ります。現生のウミグモ類は、最も古い節足動物の系統の一つの子孫と広く受け入れられていて、最も近い現生の仲間からカンブリア紀に分かれたと考えられています。

胴が小さく、内臓が脚に入っている

ウミグモ類の体は、ふつう小さな胴が長い脚に圧倒されるつくりで、主な器官の枝分かれが脚の中へ伸びています。腸(中腸)には、それぞれの脚の中へ伸びる枝があり、多くの種ではほぼ脚の先端まで届いています。

生殖器官の大部分も、いくつか、またはすべての脚の中へ枝分かれしていて、メスの卵の卵黄は脚の節(腿節)でつくられます。

口吻で、液状の食べ物を吸う

ウミグモ類が食べ物を取り込む主な器官は、先端に口があり、3つの動く唇に囲まれた独特な口吻です。口吻の筋肉で、主に液状にした食べ物を吸い込んで送り込みます。消化でも、液状のものだけが細胞に取り込まれると記載されています。

2018年の総説によると、一般的な教科書では、ウミグモ類は主に刺胞動物・カイメン・コケムシなど動かない生き物を食べるとだけ書かれています。例えば Pycnogonum litorale はイソギンチャクの主に足元の部分から食べ、第1脚で皮膚を広げてから口吻を差し込みます。ただし、多くのグループの食性はまだよく調べられていません。

変わった例として、日本のカイヤドリウミグモでは、アサリなどの二枚貝の中に寄生した幼生が、貝の体に吻を突き刺して体液を吸いながら、殻の中で育ちます。

卵を運ぶのはオス

ウミグモ類では、卵を運ぶのはオスです。成体のオスは、メスが産んだ卵を体外で受精させたあと、粘液性のセメント物質で受精卵を卵塊にし、頭部にある「担卵肢」という付属肢で、多くの場合は孵化まで持ち運びます。セメント物質を出す腺は、ほとんどの種で脚の腿節にあります。

卵を運ぶオスは、1,200種以上のウミグモ類のほぼすべてで観察されています。2017年の総説は、これを無脊椎動物では珍しい、父親による子育ての例としています。孵化までの日数は種によって違い、最長3か月かかる種もあります。カイヤドリウミグモでは、多くのオスが複数の卵塊を持ち、その数は最大7個に達し、約19℃の飼育条件で抱卵から孵化まで11日かかりました。

えらがなく、体の表面から酸素を取り込む

ウミグモ類は、えらのような専用の呼吸器を持たず、体の表面(クチクラ)を通した酸素の拡散に頼っていると考えられています。南極マクマード湾で採集した種を調べた研究では、クチクラには孔があり、孔を通る酸素の量をモデルで計算すると、さまざまな体の大きさで酸素の消費量とよく一致しました。孔が酸素の取り込みを助けていることを示す結果です。

取り込んだ酸素を体の中で運ぶ仕組みも、2017年に報告されました。12種のウミグモを調べた研究によると、体を満たすように広がった腸の枝が蠕動で収縮し、腸の中の液と血リンパの流れを生んで、酸素を運んでいます。観察したウミグモの心臓は胴の中央部より先へ血を送っておらず、腸の動きが比較的弱い心臓を補っていると考えられています。

体を満たす腸が、最初は消化のために生まれ、呼吸の役割が後から加わったのか、その逆なのかは、まだ分かっていません。

よくある質問

ウミグモの脚は、何本ですか?

多くの種は4対(8本)の歩く脚を持ちますが、5対や6対の種もいます。オスはこのほかに、卵を運ぶための担卵肢を持っています。

ウミグモは、どうやって呼吸しているのですか?

えらはなく、体の表面のクチクラを通して酸素を取り込んでいると考えられています。体の中では、脚まで伸びた腸の蠕動が、酸素を含む液を運んでいることが報告されています。

ウミグモの食べ物は、分かっているのですか?

口吻で、主に液状にした食べ物を吸い込みます。刺胞動物やカイメン、コケムシなど動かない生き物を食べるとされますが、多くのグループの食性はまだよく分かっていません。

まとめ

ウミグモは、陸のクモやサソリ、ダニの仲間そのものではありませんが、近年の研究では、クモ・サソリ・カブトガニなどを含む大きなグループの中で、最初に分かれた海だけの系統とされています。系統上の位置は長く議論されてきたもので、今も完全に決着したわけではありません。

小さな胴に長い脚を持ち、腸や生殖器官の枝が脚の中まで伸び、口吻で液状の食べ物を吸い、オスが卵を運びます。えらはなく、体の表面から酸素を取り込み、腸の動きで体の中へ運んでいます。