ヘコアユはなぜ逆立ちで泳ぐ?曲がらない体と、身を隠す姿勢の考え方

ヘコアユは、細長く平たい体を縦にして、頭を下に向けたまま泳ぐ魚です。ほかの多くの魚のように体を水平にしないのは、なぜなのでしょうか。

研究者は、この逆立ちのような姿勢が、身を守ることや目立たなくすることと関係していると考えています。ただし、これは考え方の段階で、理由ははっきりしていません。分かってきたのは、曲がらない体とひれの配置が、頭を下にした向きで泳ぐのに合っていることです。逆立ちで泳ぐ理由の謎を、SOLBOY DIVE CENTERがヘコアユの体のつくりから考えます。

頭を下にして泳ぐ、薄い体の魚

ふつうの魚は、腹を下、頭を前にして体を水平に保ちます。一方で、えさをとる、隠れる、何かにつかまるといった目的で体を縦にする硬骨魚もいます。ヘコアユ科のヘコアユ(Aeoliscus strigatus)はその一つで、頭を下、尾を上にした逆立ちのような格好で泳ぎます。

2019年の研究によると、ヘコアユの仲間は、1匹で、または最大100匹ほどの群れで、頭を下にし、丸みのある背中側の縁を先にして進みます。この研究で調べられた同じ属の Aeoliscus punctulatus も、頭を下に向けた縦の姿勢を保ちます。

名前について、沖縄・阿嘉島臨海研究所の記事は、「逆さ」を意味する「へこ」と「歩む」に由来するようだと紹介しています。

曲がらない体と、位置のずれたひれ

ヘコアユの仲間の体は細長く、左右から強く押しつぶしたように薄く、半透明の骨の板に包まれています。うきぶくろが、このよろい越しに透けて見えるほどです。阿嘉島臨海研究所の記事は、ヘコアユはエビの殻のような甲らに覆われていて、体を曲げられないと説明しています。

体を左右にくねらせて尾びれで水をかくことができないため、ヘコアユはおもにひれだけで泳ぎます。ひれの配置も独特です。背骨の後ろの4分の1が腹側へ曲がり、背びれ・尾びれ・しりびれの位置がずれています。最初の背びれは小さくなって体の末端でとげのようになり、動かせる2番目の背びれが尾びれのような位置にあり、尾びれは腹側のしりびれの近くへ移っています。

2019年の研究は、こうした体とひれの変化によって、ヘコアユの仲間は頭を下にした向きで効果的に泳げるとまとめています。

姿勢はどうやって保たれているのか

頭を下にした姿勢は、体が勝手にその向きになるのでしょうか。2019年の研究では、紅海の Aeoliscus punctulatus の博物館標本8個体を測り、体の重さの中心(重心)と浮力の中心(浮心)の位置を求めました。体の長さの方向では重心と浮心がほぼ同じ位置にあり、頭を下にした姿勢を安定させるには、ひれを動かす必要があると結論しています。

ただし同じ研究は、体の高さの方向のずれからは、泳ぐときには水平の姿勢のほうが安定かもしれないとも書いています。2015年の別の研究では、重心が浮心よりわずかに後ろ・背中側にあり、頭を上にした姿勢が安定するという、2019年の研究とは食い違う測定結果が出ました。2019年の研究は、測り方の違いを原因の候補に挙げています。体のつり合いだけで頭が下を向く、という単純な説明はできません。

逆立ちのままでも、すばやく動ける

逆立ちでは泳ぎにくそうに見えますが、測ってみると違いました。2019年の研究は、イスラエル・エイラートの海中観測所で約60リットルの水槽に展示されていた Aeoliscus punctulatus 6個体を、毎秒500コマで撮影しました。最も速い突進は、体の長さを基準にすると1秒に体長の2.3倍でしたが、進む向きに合わせて体の高さを基準にすると1秒に体高の14.1倍でした。縦の軸を中心に回る速さは最大で1秒に957.5度で、こうした泳ぐ力はふつうの向きの魚と同じくらいでした。

水槽の中でえさをとるときは、頭から下へ向かって突進し、そのあと、ひれを動かして尾のほうから上へ戻っていきました。

逃げるときの姿勢も観察されています。阿嘉島臨海研究所の記事によると、敵との距離があるうちは逆立ちのまま遠ざかり、さらに危険が迫ると頭を先にしてやや斜めに、もっと慌てるとほとんど真横になって逃げます。

ガンガゼのとげの間に隠れる

2019年の研究は、頭を下にした姿勢が、自然の中で身を守ることや、周りにまぎれることと関係していると考えられていると書いています。ヘコアユ属の魚は長いとげを持つウニとの結びつきが記録されていて、2025年に報告された沖縄島の漁港の調査では、壁面のガンガゼ(Diadema setosum)の周りでヘコアユが多く確認されました。

阿嘉島臨海研究所の記事によると、ヘコアユの体の横には口から尾まで1本の黒い線があり、ガンガゼのとげに似ているため、とげの間に入るとまわりのとげの並びに溶け込んでしまいます。また、体の向きを90度変えて腹側や背中側を見せると、とても薄い線のようになり、見つけにくくなります。ガンガゼのとげは毒を持つため、そこへ逃げ込めば多くの天敵はあきらめるだろうと、記事は推測しています。

ただ、ヘコアユがいつもウニのそばにいるわけではありません。同じ記事は、ガンガゼに入っているヘコアユはときどき観察される程度だと書いています。ヘコアユでは、ウニと結びつくのは単独の個体だけだという指摘もあります。2019年の研究の著者は、紅海のアカバ湾の水深30mで、ソフトコーラルの枝の間に頭を下にして隠れる数匹を見ています。

2026年の総説によると、ヘコアユ属などの生き残りや捕食についての情報は、まだありません。泳ぎが速くないから隠れやすい姿になったのか、うまく隠れられるから速く泳ぐ必要がなくなったのか、どちらが先かは分からない、と阿嘉島臨海研究所の記事も書いています。

ガンガゼのとげは危険なので、ヘコアユを近くで見ようとしてウニに近づいたり、触ったりしないでください。生き物を観察するときの基本は、サンゴと生き物を守る保護区のマナーにまとめています。

よくある質問

ヘコアユは、いつも頭を下にしているのですか?

ふだんは頭を下にした姿勢で泳ぎますが、阿嘉島臨海研究所の観察では、危険が迫ると頭を先にして斜めや真横の姿勢で逃げることがありました。

ヘコアユは、いつもガンガゼの中にいるのですか?

いいえ。ガンガゼのとげの間は隠れ場所の一つですが、ガンガゼに入っているのが観察されるのはときどきです。ウニと結びつくのは単独の個体だけだという指摘もあります。

逆立ちの姿勢だと、泳ぐのは遅いのですか?

紅海の Aeoliscus punctulatus 6個体を水槽で撮影した2019年の研究では、突進の速さや回る速さは、ふつうの向きの魚と同じくらいでした。日本のヘコアユを測った値ではありません。

ヘコアユは何を食べているのですか?

小さな口で、小型の動物プランクトンなどを食べています。タイ南部の海草藻場の研究を紹介した総説によると、小さい個体はおもにカイアシ類を、大きい個体はおもにヨコエビの仲間を食べていました。

まとめ

ヘコアユは、骨の板に包まれて曲がらない体と、位置のずれたひれを使い、頭を下にした姿勢で泳ぎます。この姿勢を保つにはひれの動きが必要だとする研究がある一方、体のつり合いの測定結果は研究によって食い違っています。

逆立ちの理由としては、ガンガゼのとげの間やソフトコーラルの枝の間で身を守ることとの関係が考えられています。とはいえ、隠れることがどれほど身を守るのに役立っているのかは、まだ分かっていません。