水の中では、目で見える距離が限られます。そこでイルカは、音を使ってまわりを知る「エコーロケーション」という力を持っています。イルカは音で物を「見ている」のでしょうか。
イルカは鼻の奥で空気を使って高い音(クリック)を出し、頭の「メロン」という脂肪の器官で前方へ絞って送り出し、はね返ってきた音をおもに下あごの脂肪を通して受け取ります。訓練したハンドウイルカの実験では、物の大きさや厚さ、材質、形まで見分けました。ただし「音で見る」は研究者のたとえで、見分けにくい材質もあります。また、飼育下のネズミイルカでは、探索音がほとんど記録されない時間もありました。SOLBOY DIVE CENTERが、エコーロケーションの仕組みと見分ける力を、実験の条件を添えて伝えます。
音を出して、はね返りを聞く
エコーロケーションは、超音波のパルス(短い音)を出し、その反射を聞いて、物の位置や形、材質などを知る能力です。暗闇でも使えるので、夜や濁った水の中でも、えさをとったり障害物をよけたりするのに役立っていると考えられています。水産工学研究所の研究者の解説によると、イルカは、仲間を見分ける信号としての低い連続音と、探索のための高いパルス音を出し分けています。
音は、鼻の奥でつくられる
2001年の解説によると、イルカは、噴気孔の下にある前庭嚢などの袋と、骨の鼻孔の間の狭い部分に空気を通して、探索用の超音波のパルス音を出します。海外の研究では、鼻の通り道にある「音唇(phonic lips)」と呼ばれるひだと、その近くの組織の振動で、クリックがつくられると説明されています。
音の出る場所については、かつて意見が分かれていました。1996年の解説では、のど(咽頭)で出るという説と、鼻の通り道の途中の袋で出るという説が並べて紹介されています。2023年の研究は、ハクジラ類が鼻の通り道を通る空気で音を出す仕組みを持ち、それが哺乳類の喉頭や鳥の鳴管による発声と似た働きをすることを示しました。
クリックの高さは種によって違い、1996年の解説では、ネズミイルカやスナメリで130kHz前後、ハンドウイルカで110〜130kHzとされています。
メロンは、音のレンズ
イルカの頭には、メロンという脂肪の器官があります。メロンは外側ほど音の速さが速いため、中を通った音は前方へ集まります。後ろへ出た音は、頭の骨で前へ反射されます。こうして、探索の音は前方の狭い範囲に絞って出されます。その幅は、同じ研究者の解説でも、2001年には約20度、1998年には約10度と書かれていて、資料によって数字が違います。
日本の研究者が Phocoenoides dalli というハクジラの死亡個体の頭の組織を測った2018年の研究は、メロンが海水と音の伝わりやすさを合わせて、クリックを効率よく外へ出すという説を支持する結果を得ています。
はね返った音は、下あごから
魚のうきぶくろなど、目標からはね返った音は、下あごの両側から、音をよく伝える脂肪の組織を通って、内耳を収める骨に届きます。イルカでは、哺乳類がもともと持つ耳の穴(外耳道)を通る経路は、痕跡的になったか、働きを失ったと考えられていて、代わりに下あごの脂肪とまわりの骨などが、水中の音を受け取る一つの仕組みをつくっています。
ただし、受け取る経路はほかにも提案されています。2026年の研究は、下あごの薄い骨と脂肪を通る経路のほか、のどを通る経路や横からの入力など、複数の経路が提案されていると書いています。聞く力にも向きがあり、前方の感度がよいことが分かっています。
どこまで見分けられるのか
訓練したハンドウイルカの実験をまとめた1993年の総説を紹介した解説によると、ハンドウイルカは、直径7.6cmの金属の球を100m以上離れたところから見つけることができました。円筒の厚さの違いは0.3mmほどまで、アルミニウムとサンゴ石はほぼ100%の確率で見分け、反射の強さの違いは1〜2dBで区別できました。いずれも、訓練を受けたイルカの実験の条件での値です。
イルカは音で物を「見る」ことができる、という理論を示した研究者もいます。一方、香港の水族館で生まれた Tursiops aduncus のオス1頭を調べた2021年の研究では、音だけで調べた物を目で見て選ぶ課題で、空気の入った塩ビ管なら正答率は92.7%でしたが、水の入った塩ビ管に替えると62.5%に下がりました。材質によっては、音だけでは見分けにくい場合があるのです。この研究は、イルカの平均的な能力ではなく、照合ができる能力を示すことが目的だったとしています。
いつも音で探しているわけではない
野外での使い方は、飼育下と違うこともあります。中国・揚子江の三日月湖の保護区で、スナメリ2頭に記録計を付けた研究では、音を出す間隔から推定した探索の距離は130mに達しました。飼育下で測られた同じ種の探索距離は、最大15m、平均7mでした。スナメリは、自分がこれから泳ぐ場所を、前もって音で調べていたと思われました。
一方、生け簀や円形水槽で飼育したネズミイルカでは、エコーロケーションをほとんどしない時間があり、自由に泳いでいるときは、音による認知にあまり期待できないと考えられました。和歌山県の太地港の生け簀でハンドウイルカ2頭を調べた実験では、イルカが網にからまったのは、夜に網地だけがあるときだけでした。研究者らは、夜のイルカは網があることは分かっても、網の形の細部はほとんど認知できないと結論しています。
よくある質問
イルカは本当に、音で物を見ているのですか?
「音で見る」は研究者のたとえです。訓練したイルカは音で物の大きさや材質まで見分けますが、材質によっては見分けにくい場合もあります。また、飼育下のネズミイルカでは、探索音がほとんど記録されない時間もありました。
イルカは、どこで音を聞いているのですか?
代表的なのは、下あごの両側から脂肪の組織を通って内耳の骨へ届く経路です。のどや横から入る経路なども提案されていて、下あごだけで聞いていると決まったわけではありません。
どれくらい遠くまで探れるのですか?
訓練したハンドウイルカの実験では、直径7.6cmの金属の球を100m以上離れて見つけました。揚子江の野外のスナメリでは、探索の距離が130mに達したと推定されています。
まとめ
イルカは、鼻の奥で空気を使って高い音を出し、メロンという音のレンズで前方へ絞って送り出し、はね返った音をおもに下あごの脂肪から受け取ります。訓練したイルカは、この音で物の大きさや厚さ、材質まで見分けます。
ただし、材質によっては見分けにくいこともあります。また、飼育下のネズミイルカでは、探索音がほとんど記録されない時間もありました。数字の多くは訓練や飼育の条件で測られたもので、野外での使い方は飼育下と違うこともあります。