ザトウクジラはなぜ歌う?オスの歌の組み立てと、まだ決まらない理由

ザトウクジラは「歌う」クジラとして知られています。決まった組み立ての音を長く繰り返すその声は、何のためのものなのでしょうか。

歌うのは繁殖期のオスで、冬の繁殖の海でよく歌いますが、回遊の途中やえさを食べる海でも歌います。同じ海域のオスの多くはほぼ同じ歌を歌い、その歌は年ごとに少しずつ変わっていきます。一方で、なぜ歌うのかについては、メスへの宣伝、オスどうしの関係などいくつもの説があり、どれもまだ確かめきれていません。ザトウクジラの歌の研究を、SOLBOY DIVE CENTERが日本近海の研究も交えてお届けします。

冬の繁殖の海で、オスが歌う

ザトウクジラは、夏は高緯度のえさの多い海で食べ、冬は温かい低緯度の海で交尾・出産・子育てをします。北太平洋の個体群は、メキシコ、中央アメリカ、ハワイ諸島、フィリピン、日本、マリアナ諸島を繁殖の海として使い、日本周辺では小笠原諸島、沖縄諸島、奄美群島のまわりが冬に訪れる海として知られてきました。2000年の東京大学の研究者らの報告によると、小笠原諸島と沖縄県の慶良間諸島の近海には、繁殖のため1月から3月ごろまでザトウクジラがやって来ます。

ザトウクジラの歌が報告されたのは1971年です。Payne と McVay は、ザトウクジラが7〜30分にわたる一連のさまざまな音を出し、それをかなり正確に繰り返すことを報告し、これを「歌」と呼びました。ただ、そのときは、歌っているのがオスかメスかも、歌の働きも分かっていませんでした。

その後、写真で1頭ずつ見分ける地道な観察から、繁殖期にはオスだけが歌うことが明らかになりました。ただし、歌うのは繁殖の海だけではありません。オスは回遊の途中にも歌い、程度は少ないものの、えさを食べる海でも歌います。北大西洋の米国メーン湾の録音では、えさを食べる夏にも歌っていることが分かりました。

歌には、決まった組み立てがある

ザトウクジラの歌は、階層的に組み立てられています。いちばん小さな単位が「ユニット」で、いくつかのユニットで「フレーズ」ができます。フレーズが繰り返されて「テーマ」になり、いくつかのテーマで「歌」ができます。歌はふつう5〜30分続きます。

ある時点で、同じ個体群の大部分のオスは、同じ版の歌を歌います。そして歌は、一つの繁殖期の中でも、年をまたいでも少しずつ変わり、その変化が積み重なっていきます。

日本と北太平洋の歌

沖縄では、2011〜2013年の1〜3月に、本部の周辺と慶良間諸島でザトウクジラの歌が録音されました。2025年に発表された研究によると、2011年と2012年の歌はほとんど変わりませんでしたが、2013年の歌はより違っていました。沖縄の歌のテーマの多くは北太平洋のほかの繁殖の海と共通で、北太平洋全体で一つの歌の系統があるという証拠が加わりました。沖縄の個体群は、小笠原やフィリピンを含む、より広い繁殖の個体群の一部と考えられています。

2019年の研究は、フィリピン北部のバブヤン諸島、小笠原諸島、ハワイ、メキシコで2011〜2013年に歌を集めて比べました。北太平洋全体で共通のフレーズがある一方、一時的な地域の違いや、変わる速さの違いも見られました。距離は似ている度合いに関わる要因でしたが、それだけで似ている度合いを予測できるわけではありませんでした。2006年の研究では、地理的に近いフィリピンと日本の歌は、遠いハワイの歌よりよく似ていました。

水産工学研究所の研究者の解説も、北太平洋の各海域で冬に歌われる歌は、旋律や最も小さな音の周波数の変化がよく似ていて、その旋律が毎年少しずつ変わると紹介しています。メーン湾で夏にも歌うことが分かったことから、この研究者は、歌合わせは繁殖の前にすませているらしいと推測しています。

南太平洋で起きた「歌の革命」

南の海では、もっと急な変化が記録されています。オーストラリアでは、西の個体群の歌が東の個体群に現れ、それまでの歌を急速に置き換えました。この出来事は「歌の革命」と名づけられました。南太平洋では、歌の型が東オーストラリアからフランス領ポリネシアまで、2年かけて段階的に広がります。2011年の研究は、南太平洋の西部と中部で、11年間に複数の歌の型が、波紋のように東へ、群れから群れへと繰り返し速く広がったことを報告しています。

一方、北半球の個体群は大洋の両側を大陸に囲まれているため、このような「革命」の動きは見つからないと予想されています。

なぜ歌うのかは、まだ決まっていない

歌の働きについては、2002年の日本の解説が、オスの呼吸の力の宣伝、メスを引き寄せること、なわばりを示すこと、音で周りを探ることなど、さまざまな推測があるが、十分に検証されていないと書いています。

2017年の総説は、よく注目されてきた3つの説を検討しました。メスを個々の歌い手に引き寄せる説、オスどうしの関係を決めたり助けたりする説、オスの集まり(レック)にメスを引き寄せる説です。野外の観察や、歌を水中で流す実験では、メスが個々の歌い手を訪れることはほとんどなく、訪れるのは、ほとんどがそのとき歌っていない単独のオスでした。総説は、3つの説のどれにも限界と利点があると結論しています。2025年の研究も、性的な信号としての歌の正確な働きについては、議論が続いていると書いています。歌はおもに周りを音で探るためのものだとする、ソナー説という別の仮説もあります。

よくある質問

歌うのはオスだけですか?

写真で1頭ずつ見分ける観察から、繁殖期に歌うのはオスだけだと分かりました。1971年に歌が報告されたときは、歌い手の性別は分かっていませんでした。

ザトウクジラは、どこで歌うのですか?

冬の繁殖の海でよく歌い、日本では小笠原諸島や沖縄の慶良間諸島などで録音されています。回遊の途中やえさを食べる海でも歌うことが分かっています。

毎年、同じ歌を歌うのですか?

歌は年ごとに少しずつ変わります。沖縄の録音では、2011年と2012年はほとんど同じで、2013年はより違っていました。南太平洋では、別の海の歌がまるごと置き換わる「歌の革命」も記録されています。

まとめ

ザトウクジラの歌は、ユニット、フレーズ、テーマと階層的に組み立てられ、繁殖期のオスが歌います。同じ海域のオスの多くは同じ版を歌い、その歌は少しずつ変わり、北太平洋では海域をまたいで共通の部分を持っています。

歌う理由については、メスへの宣伝やオスどうしの関係など複数の説があり、どの説にも限界があります。冬の海に響く歌の働きは、今も研究者の間で議論が続いています。