平たい体の片側に、目が2つ並んでいるヒラメやカレイ。生まれたときから、この形なのでしょうか。
実は、ヒラメやカレイの仲間(異体類)も、卵からかえったばかりの仔魚のころは、ほかの魚と同じように目が左右に1つずつあります。成長の途中で片方の目が頭の反対側へ移動し、両目が片側にそろうのです。この変化を進めているのは甲状腺ホルモンです。「なぜ片側なのか」という問いには、「どうやって目が移るのか」と「何のためなのか」という2つの面があります。SOLBOY DIVE CENTERが、研究で分かっていることと、まだ説明の段階にあることを区別しながら解説します。
はじめは左右対称の姿
ヒラメやカレイの目は、最初から片側にできるわけではありません。胚の段階では、一般の魚と同じく2つの眼球が左右対称にできます。浮かんで暮らす仔魚の時期を経て、仔魚期の後半に片方の目が移動し、両目が頭の片側に並びます。
目が移ると、体を傾けて目のない側(無眼側)を下にし、海底で暮らすようになります。浮遊生活から海底での生活へ移る「変態」の一部として、目の移動が起きているのです。
日本の総説によると、飼育下のヒラメでは、受精後22〜25日ごろの変態前期に右目が左へ動き始め、およそ15日かけて頭の中央を越え、左側に落ち着きます。移動が終わると、無眼側を海底に向けて着底します。
変態を進める甲状腺ホルモン
この変化を進めているのが甲状腺ホルモンです。1985年の研究では、飼育下の仔魚に甲状腺ホルモン(T4)を与えると変態が早まり、自然に変態した稚魚を小さくしたような姿になりました。反対に、甲状腺の働きを抑える薬(チオ尿素)を与えると変態が止まり、大きな仔魚のままになりました。研究者たちは、両生類の変態で知られる甲状腺の役割に、異体類の変態も匹敵すると結論しています。
1987年のヒラメの仔魚を使った実験では、チオ尿素で変態を止めた仔魚にT4を10 ppbまたは100 ppb与えると、右目の左側への移動が完了しました。1 ppbでは変態の最盛期まで進みませんでした。ただし、チオ尿素だけでは、右目が動き始めること自体は完全には抑えられませんでした。
目を動かす仕組みは、まだ説明が分かれる
甲状腺ホルモンが変態を進めることははっきりしていますが、目そのものを押し動かしている仕組みについては、研究によって説明が分かれています。
- 眼の下の組織の細胞が増えることで、最初の移動が起こるという報告(2011年、シタビラメ類の一種 Solea senegalensis やヒラメなどの稚魚を使った実験)
- 甲状腺ホルモンに反応する場所が頭の片側にでき、その側の骨が非対称にできていくことが目の移動を動かすという報告(2018年、Solea senegalensis)。著者らは、この仕組みがすべての異体類に共通するのではないかと提案しています
- 目の移動を、脳の左右の非対称ができる過程の一つととらえる日本の研究者の考え
2019年の総説は、細胞の増殖を薬で抑えても目は通常ほどではないものの半分以上移動できたことから、細胞の増殖は関わっていても主な仕組みではない、という見方を示しています。同じ総説は、頭の非対称な発生を遺伝子がどう制御しているかは、まだはっきりしていないとも述べています。
右に寄るか、左に寄るか
どちらの目が移動するかは、ふつうは種ごとに決まっています。日本では「左ヒラメに右カレイ」と言われ、ヒラメ科の魚は両目が左側に、カレイの仲間は大部分の種で右側に並びます。ヒラメとカレイ類を使った日本の研究では、視神経の束の交差や、体の左右の違いをつくる遺伝子群(ノダル経路)がこの向きを制御するとされています。ヒラメなど2種を調べた2009年の研究では、変態の前に脳の左側の手綱核という部分で pitx2 という遺伝子が再び働き、これが失われると目が寄る側がばらばらになって、逆向きの個体や左右対称のままの個体が現れました。
ただし、「左ヒラメに右カレイ」はあくまで目安です。
- カレイの仲間にも、両目が左側に並ぶ種がいます。
- ヌマガレイは左目型と右目型が混ざる種で、左目型の割合はカリフォルニアの50%から日本の100%まで、地域によって変わります。日本のヌマガレイは、ほぼすべてが左側に目を持つと報告されています。
- ボウズガレイ(Psettodes erumei)は左右がほぼ半々です。アラビア湾西部で採集された215個体では、右目型107、左目型108でした。
- 目の向きがふつうと逆になった個体は、天然でも見つかっています。東京湾では、本来右側に目があるマコガレイで、左側に目がある個体が報告されました。
目の位置だけで、ヒラメかカレイかを必ず見分けられるわけではありません。
何のために、片側に集まるのか
目が片側に集まる意味は、海底での暮らし方から説明されています。頭の形が大きく作り替えられることで、大人の異体類は目のない側を下にして海底に横たわっても、両目を砂や泥に埋もれさせずに保てる、というものです。これは研究論文の序論などで述べられている説明で、実験で確かめられた結果とは性質が違います。
化石が示す「途中の段階」
長いあいだ、異体類と左右対称の魚をつなぐ中間の形が見つからず、目の非対称がどのように進化したのかは分かっていませんでした。2008年、ヨーロッパの始新世の地層から見つかっていた Amphistium と、新しく名付けられた Heteronectes という絶滅魚が、知られている中で最も原始的な異体類だと報告されました。
これらの化石では目の移動が途中までで、変態を終えた個体でも、目は頭の反対側どうしに残っていました。研究者は、現生の異体類と他の魚の中間にあたるこの状態から、頭の非対称は段階的に進化したと結論しています。
非対称が一度だけ生まれたのか、複数回生まれたのかは、議論が続いています。2016年の研究は遺伝子の解析から一度だけの起源を支持し、2021年のゲノム研究は2つの系統が別々に生じた可能性を示し、2024年にはふたたび一度だけの起源を支持する反論が出されています。
よくある質問
ヒラメやカレイは、生まれたときから目が片側にあるのですか?
いいえ。卵の中でできる目は左右対称で、仔魚も目が左右に1つずつあります。仔魚期の後半、変態の時期に片方の目が頭の反対側へ移動して、両目が片側にそろいます。
目が移動するとき、何が働いているのですか?
変態全体を進めているのは甲状腺ホルモンです。ヒラメの仔魚を使った実験では、甲状腺ホルモンを与えると変態が進み、甲状腺の働きを抑える薬では変態が止まりました。目そのものを動かす仕組みは、眼の下の組織の細胞増殖、片側の骨のでき方など、研究によって説明が分かれています。
「左ヒラメに右カレイ」は必ず当てはまりますか?
目安としては当てはまりますが、例外があります。カレイの仲間にも左側に目が並ぶ種がいて、日本のヌマガレイはほぼすべてが左側です。ボウズガレイは左右がほぼ半々で、目の向きが逆になった個体も天然で見つかっています。
目が片側にあると、どんな利点があるのですか?
目のない側を下にして海底に横たわっても、両目を砂や泥に埋もれさせずに保てる、と説明されています。ただし、これは暮らし方から考えられた説明で、実験で確かめられた結果ではありません。
まとめ
ヒラメやカレイの目が片側に集まるのは、左右対称に生まれた仔魚の片方の目が、変態の時期に頭の反対側へ移動するためです。変態を進めるのは甲状腺ホルモンで、目を動かす直接の仕組みには、細胞の増殖や骨のでき方など複数の説明があります。
どちら側に寄るかはふつう種ごとに決まっていますが、「左ヒラメに右カレイ」には例外もあります。片側にそろう意味は海底で両目を砂から出しておくためと説明され、化石は非対称が段階的に進化したことを示しています。その始まりが一度だったのかどうかは、いまも議論が続いています。