頭が左右に大きく張り出し、その両端に目があるシュモクザメ。鐘を打ち鳴らすT字形の撞木(しゅもく)に似ていることから、この名前が付きました。なぜ、こんなに横に広い頭をしているのでしょうか。
この問いには、まだ一つの答えがありません。目で見える範囲が広がる、獲物を探す幅が広がる、においの方向をとらえやすくなる、泳ぎの小回りが利く、など複数の説があり、研究で支持された部分と支持されなかった部分が混ざっています。研究ごとに調べた種も条件も違うため、SOLBOY DIVE CENTERが説を一つずつ取り上げて解説します。
「頭翼」と呼ばれる横に広い頭
シュモクザメ科の魚は、背から腹の方向に平たく、左右に広がった頭を持っています。研究ではこの頭を「頭翼(cephalofoil)」と呼び、目はその両端にあります。2020年の論文では、シュモクザメ科は現生8種・2属とされています(資料によって種の数は異なります)。
この頭がなぜ進化したのかについては、昔からいくつもの考えが出されてきました。2020年の論文は、それを大きく3つの理論に整理しています。一方で2009年の研究は、提案されてきた要因のうち、実際に実験で確かめられたものは少ないと指摘しています。
説1:目で見える範囲が広がる
2009年の研究は、3種のシュモクザメ類(Sphyrna tiburo、アカシュモクザメ、Eusphyra blochii)と、頭の形が一般的なメジロザメ科の2種の視野を比べました。両目で同時に見える前方の範囲(両眼視野の重なり)は、最も頭の幅が広い Eusphyra blochii で48度と最大で、メジロザメ科2種(10度・11度)のほぼ4倍でした。
アカシュモクザメは34度で、頭の幅が狭い Sphyrna tiburo(13度)より大きく、Sphyrna tiburo はメジロザメ科と差がありませんでした。全体として、頭が横に広いほど両眼視野の重なりは大きくなっていました。同じシュモクザメの仲間でも、頭の形によって結果が違うということです。
ただし、頭の前方には大きな死角もありました。シュモクザメ2種は泳ぐときに頭を左右に大きく振っており、研究者はこの動きで死角を補っていると解釈しています。
説2:獲物の電気を探す幅が広がる
シュモクザメ類の頭の腹側には、生き物が出すごく弱い電気を感じ取る器官(ロレンチーニ器官)の小さな孔が分布しています。頭が広ければ電気への感度も上がるのではないか、という考えがありました。
2002年の研究では、同じくらいの大きさのアカシュモクザメの幼魚と、メジロザメ科の Carcharhinus plumbeus の幼魚を飼育下で比べました。獲物に似せた電場に反応した最大の距離はどちらも約30 cmで、反応する強さの境目も同じくらいでした。研究者は、頭の形は電気への感度を高めるわけではないものの、横方向に探せる範囲を広げると結論しています。
アカシュモクザメの幼魚は、電場に近い側の頭の端を止めたまま体を曲げ、その場で向きを変えるようにして電場の中心へ向かうことが多かったと報告されています。
説3:においの方向をとらえやすくなる
頭が広いと、左右の鼻の穴の間隔も広くなります。2005年の研究では、シュモクザメ類は左右の嗅覚器の距離が大きく、においの濃さの違いを見分ける力が高まる可能性があるとしました。多くのシュモクザメ類には鼻の前に溝があり、鼻に取り込む水の量を大きく増やしています。
一方で、同じ研究でアカシュモクザメのにおいを感じる組織(嗅上皮)の面積を調べると、比べたメジロザメ科のサメより大きくはありませんでした。においを感じる組織そのものが多いわけではない、ということです。
左右の鼻ににおいが届く時間の差を手がかりに向きを変えることは、2010年の研究で示されました。ただしこの実験の対象は、シュモクザメではない小型のサメ Mustelus canis です。研究者は、鼻の間隔が広い動物ほど速く泳ぎながら小さな角度の違いを見分けられ、それがシュモクザメ類の進化に役立った「かもしれない」と述べるにとどめています。
Sphyrna tudes の死んだ個体1体から作った模型の計算では、鼻の前の大きな溝が前から来る水を鼻へ導き、広い範囲のにおいを取り込む助けになることが示されました。
説4:泳ぎの小回りが利く
頭の翼が、飛行機の前翼(カナード翼)のように舵の役目をして操縦しやすくする、という考えもありました。2003年に、Sphyrna tiburo とアカシュモクザメの幼魚、比較のメジロザメ科の幼魚を飼育下で泳がせた研究では、シュモクザメ類のほうがより鋭く曲がれました。
ところが、シュモクザメ類は曲がるときに体を傾けなかったため、頭が舵の翼として働いているわけではないと考えられました。シュモクザメ類は旋回のときに体を横へ大きく曲げており、この柔らかさは背骨の数よりも体の断面の形によるのかもしれない、とされています。
2020年には、シュモクザメ科全8種と比較のメジロザメ科3種の頭の模型を使った計算流体力学の解析が行われました。この解析では、頭翼は小回りを助ける一方、流れに平行に保ったときに大きな浮き上がる力(揚力)は生まず、どの角度でも一般的なサメの頭より水の抵抗が大きくなりました。エネルギー上のコストは一般的なサメの頭の10倍と見積もられています。英名に「翼」を意味する言葉が入る Eusphyra blochii の頭は、最も大きな抵抗を生み、小さな角度では揚力が最も小さいという結果でした。
エイを押さえ込むため、という説
長崎大学の解説では、好物のエイを食べるためにあのような頭になったという説もあると紹介され、T字形の頭を砂底のエイに打ち付けて弱らせ、頭で海底に押さえ込んで食べると述べられています。フロリダ自然史博物館の解説も、Sphyrna mokarran はエイ類がいるときは好んで食べると紹介しています。ただし、頭がこのためにできたのかどうかは、一つの説の段階です。
種ごとに違う頭の形
シュモクザメ科の系統を調べた研究では、頭翼はいったん進化したあと、系統ごとに違う暮らしに合わせて形を変えてきたと示唆されています。頭の幅や形は種によって違い、その違いには機能的な意味があると考えられています。系統の根元に近い Eusphyra blochii は目が小さく前寄りで、後に分かれた種ほど目が大きく内側に寄っていることも報告されています。
よくある質問
シュモクザメの頭は、結局何のためにあるのですか?
一つの答えはまだ出ていません。両目で見える範囲が広がる、獲物の電気を探す幅が広がる、鋭く曲がれるといった点は研究で支持されています。一方、電気への感度が上がる、頭が舵の翼として働く、流れに平行に保った頭が大きな揚力を生むといった考えは、研究では支持されませんでした。
頭が広いほど、電気を感じる力も強いのですか?
2002年の幼魚の実験では、アカシュモクザメと比較したメジロザメ科のサメは、同じくらいの距離と強さの電場に反応しました。頭の形は感度ではなく、横方向に探せる範囲を広げていると考えられています。
どのシュモクザメでも、同じように見える範囲が広いのですか?
種によって違います。2009年の研究では、頭の幅が広い種ほど両目で見える範囲が大きく、頭の幅が狭い Sphyrna tiburo では一般的なサメと差がありませんでした。
まとめ
シュモクザメの横に広い頭については、見える範囲を広げる、獲物の電気を探す幅を広げる、においの方向をとらえる、小回りを利かせる、エイを押さえ込むなど、いくつもの説があります。視野の広さや探す幅、鋭い旋回は研究で支持されましたが、電気への感度の向上や舵としての働きは支持されませんでした。揚力については、頭を流れに平行に保った計算で大きな力が生じなかった、という条件付きの結果です。
研究ごとに調べた種や条件が違い、頭の形も種によって異なります。頭翼は一つの目的のためではなく、複数の働きが重なってできたものなのかもしれません。