深海には、ガラスの繊維を編んだかごのような骨格をもつ海綿がいます。カイロウドウケツの仲間です。動物が、どうやってガラスの骨格を作り、なぜ網目のような形にしているのでしょうか。
六放海綿と呼ばれるこの仲間は、海水に溶けたケイ素を取り込み、シリカ(二酸化ケイ素)の針状の骨片を作って骨格を組み立てます。カイロウドウケツ属の Euplectella aspergillum の骨格は、骨片の束を四角い格子に組み、斜めの補強とらせん状の張り出しを重ねた円筒形のかごです。模型や計算機の実験では、この形が少ない材料で壊れにくく、流れの負担を減らすことが示されています。ガラスの骨格のつくりと、その形を調べた研究について、SOLBOY DIVE CENTERが解説します。
シリカの骨格をもつ海綿たち
鳥取大学の2024年の発表によると、海綿動物は六放海綿綱、尋常海綿綱、同骨海綿綱、石灰海綿綱の4つに分けられ、石灰海綿綱以外の3つの仲間がシリカの骨格を作ります。海綿は、海水に溶けたケイ素を取り込み、生き物の体の中という穏やかな条件で、精巧なシリカガラスの骨格を作ります。2024年の論文は、大規模なシリカの骨格を発達させる動物は海綿だけだと述べています。
カイロウドウケツの仲間が属する六放海綿は、国立科学博物館の研究者による2005年の解説によると、ケイ素質の骨片をもち、主に深海に分布します。ここでいう「ガラス」は、結晶になっていないシリカのことで、窓ガラスと同じ材料ではありません。
骨片の中は、ガラスとタンパク質の層
骨片は、ただのガラスの棒ではありません。2005年と2007年の研究によると、Euplectella の骨片は、中心にタンパク質の軸の糸があり、その周りをシリカの細かい粒の層と有機物の層が交互に取り巻いています。シリカの粒は同心円状の輪に並び、有機物で貼り合わされています。
骨片づくりに関わるタンパク質も見つかっています。鳥取大学などの研究グループは、2012年に東シナ海の水深236mで採集された Euplectella curvistellata などを調べ、骨片の中心の軸の糸を作るタンパク質と、周りの層を作るタンパク質を見つけました。軸の糸を作るタンパク質は骨片が伸びることに、周りの層を作るタンパク質は骨片が太くなることや飾りに働くと考えられています。2015年の研究では、Euplectella のタンパク質グラシンが、試験管の中でpH 6〜8のときにシリカができるのを急速に進めました。
こうした層のつくりには意味があると考えられています。2019年の論文によると、ガラスの強さは表面の傷で決まり、大きさが数μmを超えると強さが大きく下がります。この研究で骨格の一部を押しつぶす試験をすると、層状の骨片は層に沿った割れ方や放射状の割れ方をして、骨格全体が壊れにくくなっていました。
四角い格子に、斜めの補強
骨片は組み合わされて、大きな骨格になります。Euplectella の仲間を調べた2005年の研究は、層状の骨片が束ねられ、シリカで固められて、斜めの稜で補強された円筒形の四角い格子のかごができると報告しました。この研究は、ナノメートルからセンチメートルの大きさまで7つの階層を見分けています。2007年の研究は、西太平洋の E. aspergillum の骨格に少なくとも6つの階層があるとしていて、数え方は研究によって違います。
2007年の研究によると、十字形の骨片が作る2組の格子が重なり、近くで見ると四角、全体では円筒の形になります。格子は、縦、横、斜めに並ぶ骨片の束で支えられています。円筒の上の端はふるいのような板でふさがれ、下の端は、返しのある繊維状の骨片の柔らかな束で海底に根を下ろしています。外側には、表面から垂直に張り出すらせん状の稜があり、格子をさらに強めています。
2021年の研究によると、E. aspergillum の格子は、四角い格子に二重の斜め補強が重なり、開いた区画と閉じた区画が市松模様になっています。研究者は、この方式を計算機の上で再現し、3Dプリンターで作った模型を押して試しました。比べた格子の中で、海綿の斜め補強の方式は、同じ材料の量で、押されて急に曲がるように壊れる「座屈」に最も強い結果になりました。ただし、これは模型と計算の結果で、生きた海綿の骨格を測ったものではありません。
流れの中で働く形
六放海綿の骨格にかかる力は、主に周りの海流と、柔らかい組織を支える必要から生じると、2019年の論文は述べています。
2021年の研究は、E. aspergillum の骨格を再現した流れの計算をしました。その結果、骨格の模様は体全体が受ける水の力を減らし、遅い流れの中でも、体の内側の空間に一定の回る流れを作りました。研究者は、この流れが水をこして餌を集めることや、繁殖に役立つと論じていますが、これも計算機の上の実験で、実際の個体で確かめた結果ではありません。
海底に体を固定する部分も調べられています。2015年の研究によると、E. aspergillum は、返しのある長い毛のようなガラスの繊維数千本からなる柔らかな固着の器官で、海底に固定されています。この繊維を取り巻くシリカの筒は外側ほど薄く、研究者は、これが内部の力を分散させる適応だという仮説を立てました。2004年の研究では、基部の骨片が、光ファイバーのように光を導ける性質をもつことも実験室で測定されていますが、海綿が光を使っているかどうかは分かっていません。
ガラスの骨格は、別々に生まれた?
シリカの骨格がどのように進化したかも研究されています。鳥取大学などの研究グループは、骨格づくりに関わるタンパク質を比べ、六放海綿、尋常海綿、同骨海綿のシリカの骨格は、同じ起源ではなく、似た働きのためにそれぞれ発達した構造だと考えています。海綿は先カンブリア時代に現れて多様になり、カンブリア紀になってから、それぞれの系統がシリカの骨格を作るようになった、というシナリオを支持する結果です。
「偕老同穴」とエビの夫婦
カイロウドウケツという名前は、「偕老同穴」という言葉から来ています。高知大学の研究者による2008年の総説によると、偕老同穴は夫婦の愛情が長く続くことを表す言葉で、カイロウドウケツ属などの海綿の中につがいで住むエビを、仲のよい夫婦に見立てたものです。
このエビは、ドウケツエビ(Spongicola venustus)を含むドウケツエビ科の仲間です。同じ総説によると、ドウケツエビの仲間は、深海の海底にすむ六放海綿の体の中の空洞に、通常は雌雄1対で共生しています。ただし、深海の海綿とエビは主に底引き網に一緒にかかった標本から調べられていて、網の中で海綿が壊れることもあるため、宿主が完全な形でとれたデータは貴重だと、2013年の報告は述べています。
2025年には、沖縄美ら海水族館と千葉県立中央博物館が、新種のカブキドウケツエビ(Spongicola kabuki)を発表しました。ドウケツエビ属の仲間は、それまで六放海綿とだけ共生すると知られていましたが、このエビは袋状になったツノサンゴ類の内部に雌雄1対で住んでいます。ドウケツエビ属は、この発表の時点で世界から13種が知られています。
よくある質問
カイロウドウケツの骨格は、本当にガラスなのですか?
結晶になっていないシリカでできていて、その意味でガラスと呼ばれます。ただし窓ガラスと同じ材料ではなく、骨片の中にはタンパク質や有機物の層も含まれています。
格子の形には、どんな利点があるのですか?
3Dプリントの模型と計算の研究では、斜めの補強の入れ方が、同じ材料の量で座屈に最も強い結果になりました。流れの計算では、骨格の模様が水の力を減らし、体の内側に回る流れを作りました。どちらも模型や計算の結果で、生きた海綿で確かめたものではありません。
ドウケツエビの仲間は、どれも海綿の中に住んでいるのですか?
ドウケツエビの仲間は、通常、六放海綿の中に雌雄1対で住んでいます。ただし2025年に、ツノサンゴ類の中に住むカブキドウケツエビが報告されていて、すべてが海綿に住むわけではありません。
まとめ
カイロウドウケツの仲間などの六放海綿は、海水のケイ素からシリカの骨片を作り、タンパク質と有機物の層を重ねて、もろいガラスの弱点を補っています。Euplectella aspergillum の骨格は、骨片の束を四角い格子に組み、斜めの補強とらせん状の稜で強めた円筒形のかごです。
模型と計算の研究では、この形が少ない材料でつぶれにくく、流れの負担を減らすことが示されましたが、生きた海綿の中での働きはまだ調べられている途中です。主に深海にすむ海綿ですが、その骨格には、材料のつくりと形の組み合わせで弱点を補うしくみが見えてきます。