ブダイはなぜ岩をかじる?魚の食事とサンゴ礁の砂のつながり

サンゴ礁の上を泳ぐブダイ

サンゴ礁には、くちばしのような口で、岩や死んだサンゴのかけらの表面をかじる魚がいます。ブダイの仲間です。「岩を食べているの?」「かじったかけらはどうなるの?」と不思議に思う方もいるでしょう。

先に答えをまとめると、ブダイの仲間が岩や死んだサンゴをかじるのは、その表面や内側にすむ小さな生き物を食べるためだと考えられています。一緒に削り取った石灰質のかけらは、喉の奥でさらに細かく砕かれ、砂のような粒になってフンとして出されます。サンゴ礁の砂の一部はこうして生まれますが、砂のでき方はほかにもいろいろあります。マクタン島でダイバーを育てているSOLBOY DIVE CENTERが、ブダイの食事とサンゴ礁の砂のつながりを、研究をもとにお伝えします。

なお、ブダイの仲間には多くの種類があり、食べ方や役割は種類や体の大きさ、すむ場所によって違います。この記事で紹介する数字の多くは、インド洋のモルディブのサンゴ礁で調べられたもので、マクタンの海や浜にそのまま当てはまるものではありません。

ブダイがかじっているのは何?

NOAA(アメリカ海洋大気庁)は一般向けの解説で、ブダイがオウムのくちばしのような口で岩や死んだサンゴの表面から藻類をかじり取り、食べられない炭酸カルシウムの礁のかけら(主にサンゴの骨格)をすりつぶして、砂として出すと説明しています。

ブダイが何から栄養をとっているのかについては、餌の中身をより細かく捉える見方も示されています。2017年に発表された総説は、摂食の観察や歯・消化管の形、食べた物や体の成分の分析など複数の証拠をもとに、多くのブダイが狙っているのは、岩やサンゴの骨格の表面や内側にすむシアノバクテリアなど、タンパク質に富む小さな微生物だという仮説を示しています。

いずれにしても、ブダイは岩そのものを栄養にしているわけではありません。かじり取られた石灰質のかけらは、餌と一緒に口に入る「食べられない部分」です。

生きたサンゴばかりをかじっているわけではない

ブダイの仲間は、主に死んだサンゴの上で餌をとりながら、顎で礁の表面を削っています。モルディブのラヴィヤニ環礁にあるサンゴ礁で6種類のブダイを調べた研究(2021年発表)では、かじった回数の95%以上が死んだサンゴやサンゴのかけら(礫)の上で、石灰質の海藻や生きたサンゴを直接かじった割合は、ふつう5%未満でした。

ただし同じ論文は、種類によっては、生きたサンゴが餌をとる場所のかなりの部分(最大で半分ほど)を占めることがあるとも紹介しています。よく知られているのが、ブダイの仲間でも特に大きくなるカンムリブダイです。NOAAの水産部門は、カンムリブダイがほかのブダイと違って礁を大きくかじり続け、その約半分が生きたサンゴだと説明しています。日本の研究者の論文でも、カンムリブダイは魚類としては極めて珍しく、生きたサンゴを主な餌にすると紹介されています。

頭のこぶとくちばし状の口が特徴的なカンムリブダイ

かじり方にもいくつかのタイプがある

ブダイの仲間のサンゴ礁での役割をまとめた2014年の総説は、藻類に覆われた表面を削る、立ち上がった海藻の一部をかじり取る、サンゴを食べる、礁を削って少しずつ壊していく(生物侵食)、そして堆積物をつくったり、すでにある砂を飲み込んで出し直したり(再処理)、運んだりする、といった役割を挙げています。

礁の表面を変え、砂の材料を生み出すことに関わるのは、主に2つのタイプだと考えられています。礁の表面を浅く削る「スクレーパー」と、より大きく深くかじり取る「エクスカベーター」です。同じブダイの仲間でも、どんな表面をどうかじるかは、種類や体の大きさによって違います。

かじったかけらが砂になるまで

ブダイは、口の顎で礁の骨組みを削り、表面にたまった砂も含めて、有機物と一緒に飲み込みます。飲み込んだかけらは、えらの骨が変化してできた、喉の奥の臼のような部分(英語でpharyngeal mill)で砕かれ、消化管を通ったあと、堆積物として外へ出されます。

2006年の形態の研究は、この喉の奥の歯のかみ合わせ面は、サンゴの粒を細かくするのに適した形をしていると報告し、粒とこすれ合うことで餌の細胞が壊れ、中身から栄養を得ている可能性が高いと推定しています。

出てくる粒の大きさも調べられています。モルディブで6種類のブダイのフンを集めて調べた2021年の研究では、どの種類・どの大きさの魚も、泥のように細かい粒から粗い砂まで(0.032mm未満〜2mm)幅広い粒を出していて、多くの場合、0.25〜0.5mmほどの粒が最も多くなっていました。顕微鏡で粒の由来を見分けると、ふつう80%以上がサンゴの骨格のかけらで、残りは石灰質の海藻や有孔虫、貝殻のかけらなどでした。

「新しい砂」と「運び直された砂」は違う

ブダイが出した砂が、すべて新しく生まれた砂とは限りません。ブダイは、礁を削って新しい粒をつくるだけでなく、表面にすでにたまっていた砂も一緒に飲み込み、別の場所で出しています。2021年の研究は、すでにある砂を飲み込んで運び、別の場所に落とす「再処理」は、礁にとって新しい砂の供給にはならない点で、礁を削ってできる新しい堆積物とは区別されると説明しています。

その割合は、場所によって大きく違いました。同じ研究では、サンゴのかけらが広がる場所でブダイが出した堆積物の90%以上は、礁の骨組みを削ってできた新しいものでした。この場所は調査した礁全体の面積の8%ほどでしたが、礁全体でブダイが生み出した堆積物の半分近くがここでつくられていました。一方、ミドリイシの仲間のサンゴが多い場所や、サンゴの塊が点在する場所では、ブダイが出した堆積物の半分近くが、すでにあった砂の再処理でした。場所ごとに暮らしているブダイの顔ぶれが違うことで、こうした差が生まれていると研究者は考えています。

1匹がつくる砂の量は決まっていない

ブダイ1匹は、1年にどれくらいの砂をつくるのでしょうか。2021年の論文が紹介する先行研究の推定には、1匹あたり年に3kg未満から5,000kgを超えるものまで、大きな幅があります。種類や体の大きさによって、削る量が大きく違うためです。しかもこれは、削った量がそのまま新しい堆積物になると仮定した推定です。1匹あたりの量を、決まった数字として考えることはできません。

場所全体で見た研究もあります。モルディブのラー環礁にある島、ヴァッカルの周りのサンゴ礁を調べた2015年の研究では、外側の礁原(礁の浅く平らな部分)で毎年つくられる新しい砂サイズの堆積物(1m²あたり5.7kg)の85%以上を、ブダイが生み出していると推定されました。これは魚の数と、これまでに報告された種類ごとの削る速さから計算した推定で、この島の周りでの結果です。ほかのサンゴ礁や、マクタン周辺の砂浜に当てはまる割合ではありません。

さまざまな形や大きさのサンゴ片が混じる砂

白い砂は、ぜんぶブダイのフン?

「白い砂浜の砂はブダイのフン」という話を聞いたことがあるかもしれません。ブダイが砂の大切なつくり手になっている場所は確かにありますが、砂の起源は一つではありません。

NOAAは、砂は分解された岩石や生き物がつくったもの、そしてブダイのフンなど、さまざまなものからできると説明しています。岩石が長い時間をかけて風化・侵食されてできる砂もあれば、火山の溶岩などからできる黒い砂、有孔虫という小さな生き物の殻からできるピンク色の砂もあります。

サンゴ礁の中でも、砂のでき方はいろいろです。貝や有孔虫のように殻や骨格を持つ生き物が死んだあとに残る粒もあれば、魚やウニが餌をとるときに礁を削ってできる粒もあります。モルディブのサンゴ礁を調べた2015年の研究では、サンゴのかけらが砂になる経路として、サンゴの礫がすり減ること、サンゴに穴を開けて暮らす海綿がつくる副産物、ウニやブダイが削って出すものが挙げられています。サンゴ礁の島の砂の構成は、地域の間でも同じ地域の中でも大きく違い、有孔虫が多い場所もあれば、サンゴや石灰質の海藻が多い場所もあります。

サンゴが骨格を積み重ねて礁をつくる仕組みはサンゴは植物?動物?サンゴ礁ができる仕組みと、触れると傷つく理由で、海草が砂や泥を捕らえて海底を安定させる働きは海草と海藻は何が違う?藻場が海の生き物を支える仕組みで紹介しています。ある浜の砂がどこから来て、どんな割合でできているかは、その場所ごとの調査がなければ分かりません。

ブダイを見かけたら

サンゴ礁でブダイの仲間を見かけたら、追いかけずに少し離れた位置から、どんな所をかじっているかを眺めてみましょう。死んだサンゴのかけらなのか、岩の表面なのか、口の動きや、かじったあとの表面に目を向けると、ここまで紹介した話が少し身近に感じられるかもしれません。

観察するときは、サンゴや生き物に触れず、フィンで砂を巻き上げないように、浮力と姿勢を整えて距離をとることが基本です。

マクタンの海で

当店がご案内するナルスアン島では美しいサンゴ礁と、ドロップオフとスロープが混ざる地形を、海洋保護区のヒルトゥガン島では透明度の高い海を楽しめます。セブの海で出会えることがある生き物はセブ島のダイビングで見られる魚や海の生き物で紹介しています。初めての方は10歳以上なら、ライセンスがなくても体験ダイビングにご参加いただけます。ライセンスをお持ちの方はファンダイビングをご覧ください。行きたいポイントのご相談は、LINEから日本語でどうぞ。

よくある質問

ブダイは岩やサンゴを食べているのですか?

岩や死んだサンゴをかじりますが、栄養にしているのは表面や内側にすむ藻類や微生物だと考えられています。削り取った石灰質のかけらは砕かれて、砂のような粒として出されます。生きたサンゴを主な餌にするのは、カンムリブダイのような珍しい例です。

白い砂浜の砂は、ブダイがつくったものですか?

ブダイが砂の大切なつくり手になっている場所はありますが、砂は岩石の風化や、有孔虫・貝の殻、サンゴのかけらの摩耗など、さまざまな起源からできています。どの起源がどれだけの割合を占めるかは場所によって違い、ある浜の砂についてはその場所の調査がなければ分かりません。

ブダイ1匹で、1年にどれくらいの砂をつくるのですか?

決まった量はありません。2021年の論文が紹介する先行研究の推定は、1匹あたり年に3kg未満から5,000kgを超えるものまで、種類や体の大きさによって大きく違います。しかも、削った量がそのまま新しい砂になると仮定した推定です。

ブダイが出した砂は、すべて新しくできた砂ですか?

そうとは限りません。ブダイは礁を削って新しい粒をつくるだけでなく、表面にたまっていた砂も一緒に飲み込んで出しています。モルディブのサンゴ礁を調べた研究では、場所によって、ブダイが出した堆積物の半分近くが、すでにあった砂を運び直したものでした。

まとめ

ブダイが岩や死んだサンゴをかじるのは、表面や内側にすむ藻類や微生物を食べるためだと考えられています。一緒に削り取った石灰質のかけらは喉の奥で砕かれ、砂のような粒として出されます。ただし、生きたサンゴを主な餌にする種類もいるなど、食べ方は種類によってさまざまです。

ブダイが出す粒には、新しく削り出されたものと、すでにあった砂を運び直したものがあり、その割合も1匹あたりの量も、種類や大きさ、場所によって大きく違います。砂の起源もブダイだけではありません。サンゴ礁でブダイを見かけたら、少し離れた位置から、その一かじりが海底の砂とどうつながっているのかを想像してみてください。