海面から飛び出し、ひれを広げて水の上をすべるように進むトビウオ。魚なのに、どうやって空中を進んでいるのでしょうか。
トビウオの仲間(トビウオ類)の「飛ぶ」は、鳥のような羽ばたきではなく、広げたひれで空気を受ける滑空です。胸びれを羽ばたかせて浮く力を得ることはできず、進む力は水の中で生み出します。下側が長い尾びれを素早く動かして水面から飛び出し、大きな胸びれ(種によっては腹びれも)を翼のように広げて滑空します。SOLBOY DIVE CENTERが、研究で分かっている飛び方の仕組みと、なぜ飛ぶのかについてご紹介します。
なお、「トビウオ」は1種の魚の和名でもあります。この記事では仲間全体を「トビウオ類」と呼びます。
羽ばたかない「飛行」
トビウオ科の魚は、水中を泳ぎ、空中も進むという、海では珍しい脊椎動物です。大きく発達したひれと、腹側が平たい筒形の体という、滑空に向いた体の形をしています。
ただし、トビウオは胸びれを鳥の翼のように羽ばたかせることはできません。胸びれを支える骨格や筋肉のつくりに制約があり、羽ばたいて浮く力(揚力)を得ることはできないと考えられています。空中で進むための力は、水から飛び出す前に、水の中で生み出しています。
尾びれで水から飛び出す
飛び出す力を生むのは尾びれです。トビウオ類の尾びれは上下が対称ではなく、下側(下葉)が硬く長くなっています。水中で勢いをつけ、この尾びれを素早く動かして水面から飛び出します。
種によっては、いったん空中に出たあとも体が完全には水に戻らず、尾びれで推進力を足すことができます。この水面を滑走する段階は「タクシング」と呼ばれ、トビウオは滑走と滑空を繰り返して長い距離を進むことがあります。
胸びれが大きいだけで、このような非対称な尾びれを持たない魚は、本当の意味で滑空する魚とは言えない、と考える研究者もいます。飛び出す力を生む尾びれが、トビウオ類の滑空には欠かせないということです。
胸びれと腹びれは、翼の役目
空中では、大きく広げた胸びれが翼の役目をします。トビウオ類には、胸びれだけが大きい種と、腹びれも大きく、補助の翼のように使う種がいます。
2010年の研究では、Cypselurus hiraii というトビウオ類の模型に働く空気の力を直接測り、ひれの形との関係を調べました。その結果、
- 腹びれは揚力と滑空の効率(揚抗比)を高め、胸びれと腹びれの間にはジェット状の空気の流れができていた
- 胸びれと腹びれの両方を広げると、腹びれをたたんだときより前後方向の姿勢が安定した
- 揚力がいちばん大きくなるのは、迎え角が30〜35度付近で、これはトビウオが海面から出てくるときに観察される角度だった
- 海面すれすれを飛ぶと、空気の抵抗が減って滑空の効率が上がった
といった結果が得られました。模型から求めた滑空性能は、タカなど一部の鳥の翼に匹敵すると報告されています。一方で、ひれの先端にできる強い渦が、主な抵抗の一つにもなっていました。
2022年には、トビウオを模したロボット模型を使った実験で、腹びれの位置と角度によって、滑空の効率と姿勢の安定のあいだに一長一短があることが示されました。どんな腹びれが最も良いかは、滑空・滑走・離水のどの段階かによって変わります。いずれも模型やロボットでの結果で、生きた魚を空中で測ったものではありません。
どのくらい飛べるのか
2013年の論文は、それ以前の研究を引用して、トビウオは滑走と飛行を繰り返して最大で約400 mを30秒かけて滑空でき、最も速いときで秒速約10〜20 mになると紹介しています。ただし、どの種をどんな条件で測った値かは示されておらず、ふつうの1回の飛行距離ではありません。
トビウオ類の胸びれは、体が成長するにつれて急速に長くなることも分かっています。
なぜ飛ぶのか
トビウオ類が飛ぶ理由として有力なのは、捕食者から逃げるためという考えです。トビウオはイルカやシイラ、マグロの仲間、イカなどにとって主要な餌になっていることが観察されており、この考えを支えています。一方、長い距離を移動するときにエネルギーを節約するために飛ぶという考えは、トビウオの滑空がエネルギーの面でとても高くつくことから否定されています。
2021年には、トビウオ類と近い仲間の35種のゲノムを調べた研究で、大きな胸びれと滑空する行動の進化に関わる遺伝的な特徴が見つかりました。トビウオ類に近い仲間にも滑空する魚が2つの属にいますが、トビウオ類ほど制御された長い飛行はできません。
大昔にも、海の上を滑空した魚がいた
2013年の論文では、魚の水上滑空が次の2つの系統で別々に進化したと説明されています。1回はトビウオ科、もう1回は、はるか昔の三畳紀にいた Thoracopteridae と呼ばれる別の魚の仲間です。
2013年の論文で報告された、中国の中期三畳紀の Potanichthys の化石は、脊椎動物で最も古い水上滑空の証拠とされています。この魚の尾びれも下側が上側より強く、尾びれを素早く動かして滑空のための力を生んでいた可能性があります。現生のトビウオ類の祖先ではなく、別の系統で似たしくみが生まれた例です。
よくある質問
トビウオは胸びれを羽ばたかせて飛んでいるのですか?
いいえ。トビウオは胸びれを羽ばたかせて浮く力を得ることはできず、広げたひれで滑空しています。進む力は、水中で勢いをつけ、尾びれを素早く動かして生み出しています。
腹びれにはどんな役割があるのですか?
模型を使った2010年の研究では、腹びれが揚力と滑空の効率を高め、前後方向の姿勢も安定させていました。ただし、腹びれが大きい種と小さい種がいて、模型やロボットでの結果です。
トビウオは何のために飛ぶのですか?
捕食者から逃げるためという考えが有力です。トビウオが多くの捕食者の主な餌になっているという観察がこの考えを支えています。移動のエネルギーを節約するため、という考えは否定されています。
まとめ
トビウオの「飛行」は、羽ばたきではなく滑空です。下側が長い尾びれを素早く動かして水面から飛び出し、大きな胸びれ(種によっては腹びれも)を翼のように広げて空中を進みます。種によっては尾びれで推進力を足しながら水面を滑走し、滑走と滑空を繰り返すことで長い距離を進みます。
模型の研究では、腹びれが浮く力と姿勢の安定を助け、海面近くを飛ぶことで抵抗が減ることも分かりました。飛ぶ理由として有力なのは、捕食者から逃げるためという考えです。