サケは、どうやって生まれた川へ戻る?手がかりは川のにおいと、地磁気の可能性

海で何年も過ごしたサケが、生まれた川へ戻ってくる。広い海から、どうやって自分の川を見つけるのでしょうか。

答えは一つの仕組みではなく、旅の段階によって手がかりが違うと考えられています。川の近くでは、幼魚のときに覚えた川のにおいを頼りにしていることが、実験で強く支持されています。一方、においが届かない外洋から河口の近くまでは、地磁気を覚えて戻るという考えがあり、漁業データの解析や幼魚の実験で支持されていますが、まだ状況証拠の段階です。また、すべての魚が生まれた川へ戻るわけではありません。どこまで分かっていて、どこからが仮説なのかを、SOLBOY DIVE CENTERが研究の段階ごとに確かめていきます。

生まれた川へ戻るサケ

2018年に北海道大学の研究者がまとめた総説によると、日本の4種の太平洋サケ(カラフトマス、サケ〈シロザケ〉、ベニザケ、サクラマス)は、生まれた川(母川)から海へ下り、数年後に大海原を回遊して、ほぼ正確に母川へ戻る能力を持っています。

川のにおいを覚えて戻る

1950年代、米国でギンザケを使った研究から、幼魚のときに覚えた(刷り込まれた)川のにおいを頼りに帰ってくるという「嗅覚記銘仮説」が提唱されました。同じ総説は、提唱されてきたどの説も嗅覚が母川へ戻るのに重要な役割を果たすことを示していて、太平洋サケには嗅覚記銘仮説が最もよく当てはまるとしています。

サケの仲間はえらで呼吸するため、鼻の穴は呼吸には関わらず、においなどを受け取る器官です。シロザケのにおいを感じる細胞の数は、稚魚で18万個、親魚で1,420万個と計測されています。

においの正体として示されたのが、川の水に溶けているアミノ酸です。北海道の洞爺湖のサクラマスで、においを感じる神経の反応を調べた研究から、母川を見分けるのに役立つ成分はこのアミノ酸であることが示されました。北海道の天塩川で4年間、稚魚が下る5月と親魚が戻る9月の川の水を分析すると、15種類のアミノ酸のうち5〜7種類は春と秋で変わっていませんでした。これらのアミノ酸は、川辺の植物や土の中、川底の石などに付く微生物がつくると考えられています。

川の水のアミノ酸の組成をまねた人工の川の水を使い、Y字形の水路でどちらへ進むかを調べた実験では、サケ、ベニザケ、サクラマスは母川の人工の川の水を選びました。ところが、カラフトマスは母川の人工の川の水を選びませんでした。種によって、母川へのこだわり方が違うのかもしれません。

においを覚える時期も調べられています。ヒメマスの幼魚を特定のアミノ酸に2週間さらし、2年後に Y字形の水路で試した実験では、アミノ酸を覚えられる特定の時期があり、覚えたアミノ酸は数年後の成熟期まで保たれることが示されました。

下る道筋を順に覚える、という考え

稚魚は川を下る間に、産卵場から河口までの道筋を連続して覚えているという「連続記銘仮説」もあります。ノルウェーの野生の大西洋のサケ(Salmo salar)で、若魚のときに2kmの水力発電のトンネルを通って下った魚を追った2022年の研究では、親になって並行する川の区間を上りきる確率が、同じ川の区間を下った魚に比べて18%(海で1冬過ごした魚)と23%(2冬の魚)低くなっていました。

においが届かない外洋では

2022年の日本水産学会誌の巻頭言では、母川のにおいは河口から数kmしか届かないため、サケが河口の位置をどう知るのかが分かっていなかったと述べています。2022年の総説も、外洋から自分の川の近くまでの移動は、その距離を考えると、においの手がかりによるとは考えにくいとしています。

これまでの研究では、大海原では日の長さを使った太陽コンパスや、地磁気による磁気コンパスを使って回遊していることが示唆されています。記録計を付けてベーリング海で放したシロザケのうち1尾は、67日間で直線距離にして2,760kmを泳いで北海道の沿岸で回収されました。同じように記録計を付けたシロザケは、戻る途中に経験した平均の地磁気の強さが等しい線に沿って回遊していたと報告されています。

生まれた場所の地磁気を覚えている?

カナダのフレーザー川のベニザケについて、56年間の漁業データを解析した2013年の研究があります。サケは初めて海に入る場所の磁場を覚え、戻るときに同じ磁場を探すという仮説を確かめるためのものです。その結果、バンクーバー島の北と南にある2つの水路のうち、入口の磁場が河口の磁場とずれている水路ほど、そこを通る魚は少なくなっていました。ただし、通る水路の違いのうち磁場のずれで説明できたのは16%で、水温は22%、両者の組み合わせは28%でした。

実験もあります。米国オレゴン州のふ化場で育てた、海へ出たことのないマスノスケの幼魚は、磁場を変える実験で、海での分布域の南北の端に似た磁場に対し、それぞれ海の餌場の方向を向きました。研究者は、サケの「磁気の地図」は生まれつきのものと考えています。ただし、これは餌場へ向かう話で、母川への帰り道を直接示したものではありません。米国の湖にすむ、海へ下らない大西洋のサケの幼魚でも、磁場を変えると泳ぐ向きが変わりました。

2022年の総説は、これらの研究を合わせると、サケが生まれた場所の磁場を覚えることの強い状況証拠になるとまとめています。一方、地磁気の情報を記憶する神経のしくみは、まだ解明されていません。

磁石を付けても戻れた湖の実験

地磁気だけでは説明できない結果もあります。北海道の洞爺湖で、ヒメマスの頭に強力な磁石を付けて磁気の感覚を妨げても、生まれたふ化場まで直線的に戻りました。ところが、視覚を妨げると方向が分からなくなりました。また、ヒメマスとサクラマスは、ある程度河口に近づかないと、湖の水と川の水を見分けられないことも分かっています。これは湖での結果で、外洋の結果とは分けて考える必要があります。

戻らずに、別の川へ入る魚もいる

生まれた場所に戻ることを「ホーミング」、別の場所へ入ることを「ストレイング(迷い込み)」と呼びます。この2つの釣り合いで、集団どうしの隔たりと広がりが保たれていると考えられています。米国コロンビア川流域のマスノスケ19集団を23年間追った2025年の研究では、水温が1度上がるごとに、ふ化場への迷い込みと、ふ化場からの迷い出の割合が、およそ0.5%ずつ高くなっていました。

よくある質問

サケは、すべて生まれた川へ戻るのですか?

いいえ。ほぼ正確に戻る能力を持っていますが、別の川へ入る迷い込みもあり、米国のマスノスケでは水温によってその割合が変わる例が報告されています。

川のにおいは、どのくらい遠くまで届くのですか?

2022年の巻頭言では、母川のにおいは河口から数kmしか届かないと述べています。そのため、外洋から河口の近くまでは別の手がかりが必要だと考えられています。

地磁気で戻ることは、証明されているのですか?

まだ証明されていません。漁業データの解析や幼魚の実験から、生まれた場所の磁場を覚えることの強い状況証拠があると2022年の総説はまとめていますが、神経のしくみは分かっていません。

まとめ

サケが生まれた川へ戻る手がかりは、旅の段階によって違います。川の近くでは、幼魚のときに覚えた川のアミノ酸のにおいを頼りにすることが実験で強く支持されています。外洋から河口の近くまでは、地磁気を覚えて戻るという考えが有力ですが、まだ状況証拠の段階で、太陽や視覚が関わる可能性もあります。

戻る力は高いものの、別の川へ入る魚もいます。においの覚え方や地磁気の使い方は、種や場所によって違う結果も出ています。