水中をふわふわと漂うクラゲ。小さなクラゲが生まれて、そのままの形で大きくなるように思えますが、多くのクラゲの一生はそれほど単純ではありません。
ミズクラゲをはじめとする鉢虫綱のクラゲの多くは、卵から生まれた幼生がまず海底などにくっつき、小さなイソギンチャクのようなポリプになります。やがてポリプがお皿を重ねたような姿になり、そこから星形の小さなクラゲが1枚ずつ離れて、傘の形に育ちます。私たちが「クラゲ」と呼ぶ泳ぐ姿は、一生のうちの一つの段階なのです。ただし、すべてのクラゲがこの道筋をたどるわけではありません。日本のミズクラゲを主な例に、傘の姿になるまでの道筋と種による違いを、SOLBOY DIVE CENTERが説明します。
紹介するのは、日本各地の内湾やアメリカのチェサピーク湾などでの研究と、大学・研究機関・水族館の解説の内容で、マクタン周辺のクラゲを調べたものではありません。
泳ぐクラゲの姿は、一生のうちの一つの段階
チェサピーク湾のクラゲを紹介するVIMS(アメリカ・バージニア州の海洋科学研究所)の解説は、私たちが「大人のクラゲ」だと思っている泳ぐ姿は、生活環(一生のうちに姿や暮らし方が移り変わる道筋)の一つの段階にすぎず、メデューサと呼ばれる、と説明しています。
カリフォルニア大学マーセド校の解説サイトによると、ほとんどの鉢虫綱のクラゲは、泳ぐクラゲ(メデューサ)と、海底にくっついて暮らすポリプの2つの段階をもちますが、目立った例外もあります。鉢虫綱の生活環を見直した2015年の論文によると、ポリプやストロビラ、エフィラは姿があまりに違うため、かつては互いに無関係の別の動物だと考えられていました。
ミズクラゲは刺胞動物門の鉢虫綱(鉢水母綱とも書きます)に属し、日本のミズクラゲには現在、Aurelia coeruleaという学名が使われています。ただ、ミズクラゲの仲間(Aurelia属)にはよく似た別の種が少なくとも16あると遺伝子の解析から示唆されており、日本の研究結果をほかの海の仲間にそのまま当てはめることはできません。
ミズクラゲの一生をたどる
広島大学の博士論文(2024年)は、ミズクラゲの生活環を、受精卵からプラヌラ、ポリプ、ストロビラ、エフィラと形を変えながら、成体のクラゲ(メデューサ)へ育つ流れとしてまとめています。
受精とプラヌラ:雌の体の中で育つ幼生
ミズクラゲは雌と雄に分かれていて(雌雄異体)、クラゲが卵か精子をつくります。受精は雌の体の中で行われ、受精卵は雌の口腕のつけ根付近にある保育嚢(育嚢)で分裂をくり返し、表面に細かい毛(繊毛)をもつ楕円形のプラヌラ幼生になります。東京湾などのミズクラゲについての論文によると、プラヌラは約1週間雌の体に付いて過ごしてから、海水中へ泳ぎ出します。ふつうのプラヌラの長さは約0.2〜0.3mmと報告されています。一方、VIMSによると、チェサピーク湾のChrysaora属のクラゲは卵と精子を水中へ放出するなど、受精の仕方は種によって違います。
ポリプ:海底にくっつく小さな姿
泳ぎ出したプラヌラは貝殻や岩などに着生し、足盤と呼ばれる部分で付いて暮らすポリプへと姿を変えます。瀬戸内海のミズクラゲを調べた広島大学の紀要論文(2015年)は、ポリプを小さなイソギンチャクのような形で、出芽や分裂によって無性的に増えると説明しています。NOAA(アメリカ海洋大気庁)によると、クラゲ、イソギンチャク、サンゴは、どれも刺胞動物門の仲間です。サンゴの体のつくりはサンゴは植物?動物?サンゴ礁ができる仕組みと、触れると傷つく理由で紹介しています。
京都大学瀬戸臨海実験所の久保田(2001年)は、鉢水母綱のポリプはクラゲに比べて小さく単体で暮らすため、野外では見つかりにくいとしています。
ストロビラ:お皿を重ねたような姿
広島大学の博士論文によると、日本のミズクラゲのポリプは、冬に海水温が下がると触手のすぐ下にくびれができ、ストロビラ(横分体)と呼ばれる姿になります。東京水産大学の論文(2002年)は、東京湾などの代表例として、その時期を12月ごろとしています。ミズクラゲの生活を講演した三宅(1999年)は、この姿を「お皿を重ねた様な」と表現しています。ポリプからストロビラを経てクラゲができるこの変わり方はストロビレーションと呼ばれ、鉢虫綱の多くの種で見られます。
エフィラ:星形の小さなクラゲ
ストロビラの一つひとつの節は、まだ成熟していない若いクラゲであるエフィラになり、口のある側から1枚ずつ順に離れて漂い始めます。ポリプからクラゲへの変態を調べた2025年の論文は、エフィラを浮遊する星形の姿と描写しています。
エフィラがすべて離れたあとも、ポリプはなくなりません。ミズクラゲでは、いちばん下のくびれと足盤の間に残った部分(残体)が触手と口を作り直し、再びポリプに戻ります。
傘の姿のクラゲへ
東京水産大学の論文は、東京湾などの代表的なミズクラゲの暮らしとして、春に現れたエフィラが1か月後には約1cmの稚クラゲに、夏には約20cmの成体のクラゲになると説明しています。エフィラが成熟したクラゲに育つまでの期間は、鉢虫綱全体では数週間から数か月と幅があります(カリフォルニア大学マーセド校)。
こうして見ると、ポリプは自分のコピーで増え(無性生殖)、クラゲは卵と精子で増えます(有性生殖)。日本のミズクラゲのプラヌラを調べた2025年の論文は、ミズクラゲの仲間の典型的な生活環を、この2つの段階を交互にくり返すものと説明しています。三宅はこれを無性世代と有性世代の「世代交代」と呼んでいます。
クラゲが生まれる時期と数は、種や海によって違う
ストロビラになるきっかけは、冬の冷え込みとは限りません。鹿児島湾での1990年代の観察では、水温が17℃から16℃に下がる12月下旬ごろからミズクラゲのストロビラができ始めました。一方、VIMSによると、チェサピーク湾のChrysaora属のクラゲでは、春に水温が約62°F(約17℃)まで上がるとポリプがストロビラになります。生活環を見直した2015年の論文は、この移り変わりには水温の変化に加え、体内のリズムや環境からの化学的な手がかりも関わると述べています。また鹿児島湾では、期間中にストロビラになったポリプは全体の半分に満たない程度と考えられています。
1つのポリプから生まれるクラゲの数も決まっていません。ミズクラゲのストロビラの枚数は、福井県の浦底湾では大体2〜3枚と報告されている一方、鹿児島湾では平均7〜9枚でした。東京湾奥部でポリプを付けた板を海に置いて調べた実験(1998〜1999年)では1〜6枚の範囲で、大部分は1枚でした。タコクラゲなどのように、1つのストロビラから1匹のエフィラしか離れない種もいます。
季節の流れも海域ごとに違います。鹿児島湾では例年、エフィラが12月下旬から3月上旬に現れました。相模湾の江の島周辺の調査(2018〜2022年)では、冬に採集されたミズクラゲはすべてエフィラでした。一方、三宅の講演では、東京湾では一年中クラゲがいるという報告も紹介されています。ここで紹介した時期はいずれも日本やアメリカの海での報告で、セブ周辺のクラゲの季節を調べたものではないため、日本の季節の流れをそのままセブの海に当てはめることはできません。
ポリプを経ずに育つクラゲもいる
鉢虫綱でも、すべての種がポリプの段階をもつわけではありません。生活環を見直した2015年の論文と2026年の論文によると、一生を水中で漂って過ごすPelagia noctilucaにはポリプの段階がなく、受精卵がポリプを経ずにエフィラへ育ちます。2026年の論文は、こうした暮らし方は海の表層にすむ鉢虫綱のクラゲの中では珍しいとしています。クラゲの仲間の進化を調べた2025年の論文は、鉢虫綱ではPelagia属と、深海にすむPeriphylla periphyllaでポリプの段階が失われたと推定しています。
ミズクラゲ自身にも例外があります。日本のミズクラゲのプラヌラを調べた2025年の論文は、先行研究をもとに、日本とドイツのミズクラゲの仲間で、着生したプラヌラがポリプを経ずにそのままエフィラへ変わる例を紹介しています。こうしたプラヌラは長さ0.5〜0.8mmほどとふつうより大きく、11℃のような低い水温ではエフィラになれますが、20℃を超える水温ではポリプになると報告されています。生活環を見直した2015年の論文も、報告されている生活環の特徴がすべての鉢虫綱に当てはまるとは限らない、と断っています。
「クラゲ」と呼ばれる仲間でも、育ち方は同じではない
刺胞動物門には、鉢虫綱のほかに、ヒドロ虫綱、箱虫綱、十文字クラゲ綱というクラゲの仲間のグループがあります。江の島周辺の調査では、「クラゲ類」として記録された77種のうち、鉢虫綱は5種でした。
広島大学の博士論文によると、ヒドロ虫綱では、成熟したポリプが「クラゲ芽」をつくり、それが離れてクラゲになります。箱虫綱のTripedalia cystophoraでは、1つのポリプの組織すべてが1匹のクラゲに変わると報告されています。クラゲの仲間の進化を調べた2025年の論文によると、クラゲの仲間の大多数の種(その多くはヒドロ虫綱)では、クラゲの段階そのものが失われています。
見た目がクラゲに似ていても、クシクラゲは別の門の生き物です。筑波大学の解説によると、クシクラゲは刺胞をもたない有櫛(ゆうしつ)動物に属し、虹色に輝いて見える「櫛板(くしいた)」という運動器官をもちます。ポリプ、ストロビラ、エフィラという育ち方を、クシクラゲに当てはめることはできません。
「不老不死のクラゲ」はミズクラゲの話ではない
クラゲの「不老不死」は、ヒドロ虫綱のTurritopsis属のクラゲについての話です。1996年の論文は、Turritopsis nutricula(当時の種名)のクラゲが、若い個体から成熟した個体まで、どの段階でもポリプの群体に戻ることができ、「潜在的な不死」を示すと報告しました。鶴岡市立加茂水族館も、ベニクラゲ(Turritopsis pacifica)ではクラゲが球状の塊になり、そこから走根が伸びてポリプになると説明しています。ただし同じ水族館は、ベニクラゲも年を取り、死ぬこともあるので不老不死ではない、とはっきり書いています。
ミズクラゲの仲間では、中国の廈門湾で採集したエフィラから実験室で育てたAurelia sp.1(日本のミズクラゲと同じ系統とされるもの)を調べた2015年の論文が、餌を断たれたり、酸素が少なくなったり、傷を負ったりしたクラゲが水槽の底に沈んで小さくなり、ポリプへ戻ったと報告しています。これは実験室でストレスがかかった条件での観察で、自然の海でよく起こることを示したものではありません。
クラゲの姿でいる期間も一律ではありません。鉢虫綱のクラゲは一般に寿命1年未満と考えられてきましたが、生活環を見直した2015年の論文はいくつかの種で冬を越す証拠を示しており、東京湾などのミズクラゲでも一部の成体は冬を越すと報告されています。
水中でクラゲの仲間を見かけたら
クラゲやクシクラゲに限らず、海の生き物を見かけたときは、触れない・追いかけない・刺激しない・距離をとる、が基本です。生き物との接し方は、セブ島ダイビングの海洋保護区マナー|サンゴと生き物を守る基本にまとめています。
姿を変えながら育つ生き物を知る
セブの海の生き物については、海の生き物の紹介のページで取り上げています。初めて潜る方向けの体験ダイビング、ライセンスをお持ちの方向けのファンダイビングがあり、日程や参加のご相談はLINEで受け付けています。
よくある質問
クラゲは、生まれたときからクラゲの形をしているのですか?
ミズクラゲなど鉢虫綱の多くの種は違います。受精卵からプラヌラ幼生になり、海底などに付いてポリプになり、ポリプがストロビラになって、そこから離れた小さなエフィラがクラゲに育ちます。ただし、Pelagia noctilucaのようにポリプの段階をもたない種もいます。
1つのポリプから、何匹のクラゲが生まれますか?
種や海域によって違い、決まった数はありません。ミズクラゲでも、鹿児島湾では平均7〜9枚、東京湾奥部の実験では大部分が1枚と、大きく異なる報告があります。また、ミズクラゲではエフィラが離れたあとも、残った部分が再びポリプに戻ります。
クラゲは不老不死なのですか?
いいえ。クラゲからポリプに戻る現象の代表例はヒドロ虫綱のTurritopsis属のクラゲで、その一種のベニクラゲについても、加茂水族館は不老不死ではないと説明しています。ミズクラゲの仲間でクラゲがポリプに戻った例は、実験室でストレスがかかった条件での観察です。
クシクラゲもクラゲの仲間ですか?
名前にクラゲとつきますが、刺胞動物のクラゲとは別の門の有櫛動物で、ポリプからエフィラへと育つ鉢虫綱の育ち方は当てはまりません。
まとめ
ミズクラゲをはじめとする鉢虫綱の多くのクラゲは、受精卵からプラヌラ、海底などに付くポリプ、お皿を重ねたようなストロビラ、星形のエフィラを経て、傘の姿のクラゲになります。ポリプは自分のコピーで増え、クラゲは卵と精子で次の世代を残します。私たちがクラゲと呼ぶ姿は、その一生の一つの段階です。
ただし、ポリプを経ない種や、条件によってポリプを経ずに育つミズクラゲの例もあり、ヒドロ虫綱や箱虫綱は別の育ち方をします。クシクラゲはそもそも別の門の生き物です。ストロビラになるきっかけや生まれるクラゲの数も、種や海によって違い、クラゲの一生は一つの型には収まりません。