オタマボヤの仲間は粘液の家を作る?海水をこして使い捨てるハウス

オタマジャクシのような形をした、数mmほどの小さなプランクトンがいます。オタマボヤの仲間です。この生き物は、自分の体のまわりに「ハウス」と呼ばれる透明な構造を作り、その中で暮らしています。いったいどんな家なのでしょうか。

ハウスは、海水をこして餌を集めるためのフィルターです。オタマボヤの仲間は尾を動かしてハウスに水を送り込み、フィルターで小さな餌の粒子をこし取って食べます。フィルターが詰まると、ハウスを捨てて新しく作り直します。英語では mucus house(粘液の家)と呼ばれますが、ワカレオタマボヤなどの研究では、セルロースとタンパク質でできていることが分かっています。ハウスのつくりと使い方、深海の大きな仲間のハウスについて、SOLBOY DIVE CENTERが研究からお伝えします。

一生オタマジャクシの形をした生き物

オタマボヤの仲間(オタマボヤ綱、尾虫類とも呼ばれます)は、ホヤと同じ尾索動物の仲間です。大阪大学の研究者による2016年の解説によると、ワカレオタマボヤ(Oikopleura dioica)はホヤと違って岩などに付かず、一生のあいだ脊索をもち続けるので、一生オタマジャクシのような形をしています。

2017年の論文によると、オタマボヤの仲間は世界中の海にいて、動物プランクトンの中で、カイアシ類に次ぐ数になることがよくあります。ほとんどの種は全長2〜8mmと小さく、直径4〜38mmのハウスに住んでいます。

分泌して、ふくらませる家

ハウスは、材料を集めて組み立てるわけではありません。ワカレオタマボヤを調べた2012年の論文によると、ハウスは体の表面の細胞から、折りたたまれた「ハウスの原基」として分泌されます。原基は水を吸ってふくらみ、さらに特別な尾の動きでふくらまされて、使える形になります。体の表面の決まった場所の細胞が、それぞれ別のフィルターを作り出しています。

この論文によると、ハウスはいくつもの部屋とフィルターからなり、セルロースとタンパク質でできています。動物はふつうセルロースを作れませんが、ホヤの仲間を含む尾索動物はその唯一の例外です。原基が水を吸ってふくらむには、プロテオグリカンという物質の硫酸化が必要なことも、実験で示されました。

尾で水を送り、二段階でこす

ハウスの中では、尾がポンプの役目をします。2023年の論文は、ノルウェーの研究所で飼育したワカレオタマボヤを高速度カメラで撮影し、水の流れを測りました。こしているとき、尾は波打つように動いて、尾の入った部屋の中にぜん動ポンプのような流れを作り、水は尾と平行に動いていました。尾は1回打つごとに部屋の決まった点に触れ、部屋を閉じてポンプを動かします。5℃、15℃、25℃で比べると、尾の振れ幅は変わらず、尾を打つ回数が3倍になりました。

送り込まれた海水は、まず入口のフィルターを通り、そこで大きな粒子がふるい分けられます。次に、食べ物を濃縮するフィルターで、ちょうどよい大きさの粒子が捕まって口へ運ばれます。2018年の総説によると、多くの種では入口のフィルターが、種によって約15〜54μmより大きな粒子を締め出しています。粘液には粘り気があるので、網の目より小さな粒子も捕まえられます。ワカレオタマボヤは、160〜180nmのウイルスさえ、大きな藻類と同じくらいの割合でこし取れることが実験で示されています。

実験室の研究では、外の海水の100〜1000倍の濃さに餌の粒子を濃縮できる種もいます。

詰まったら捨てて、作り直す

フィルターが詰まると、オタマボヤはハウスを捨てて新しいものを作ります。2018年の総説は、望ましくない粒子が多い環境への反応として捨てることもあるかもしれないと述べています。

作り直す頻度は、種と水温で大きく違います。東京水産大学の研究者が10種を17〜29℃で飼育した2003年の研究では、交換の速さは、20℃の Oikopleura cophocerca の1日2個から、23℃の Fritillaria formica digitata の1日40個まで幅がありました。水温が高いほど、交換は速くなる傾向がありました。ハウス1個に使う炭素が少ない種ほど交換が速く、多い種ほど遅いという関係も見られました。冷たい海の Oikopleura vanhoeffeni では、1日1.7個という値が紹介されています。2016年の解説によると、ワカレオタマボヤのハウスは、数時間に一度脱ぎ捨てられて作り直されます。

入口のフィルターをもたない Oikopleura longicauda では、大きな粒子がそのまま入るので、食べ物を濃縮するフィルターがすぐ詰まり、より頻繁にハウスを作り直さなければならないと、研究者は考えています。

深海の巨大なオタマボヤのハウス

中には、ずっと大きな仲間もいます。2017年の論文によると、Bathochordaeus 属の巨大なオタマボヤの仲間は、成体で全長3〜10cmと、ふつうのオタマボヤより1桁大きく、最大で長さ1mを超えるハウスを作ります。米国カリフォルニア州のモントレー湾には、B. stygius、B. charon、尾の縁が鮮やかな青い新種 B. mcnutti の3種がいます。

このハウスは、大きな粒子を締め出す外側の構造と、食べられる大きさの粒子を濃縮する目の細かい内側のフィルターの二重のつくりです。MBARI(モントレー湾水族館研究所)の解説によると、外側の風船のような網は最大1mほど、内側のフィルターは握りこぶしほどの大きさです。2017年の別の論文によると、外側の構造は、内側のフィルターと、絶えず降ってくる海中の粒子とのあいだの、屋根のような防壁として働きます。ふくらませたばかりのハウスはほとんど見えないほど透明で、時間がたつと粒子が付いて見えやすくなります。

モントレー湾で2015年に、無人潜水機に取り付けたレーザーの装置で流れを測った研究では、胴の長さが1.5cmを超える10個体のろ過量が、平均で毎時42.9L、最大で毎時76.2Lでした。研究者は、巨大なオタマボヤの仲間が時間の約66%で海水をこしていると推定しています。2020年の研究は、同じ種類の装置で撮影したレーザー画像から、ハウスの立体の形を高い解像度で再現し、その構造が餌を捕らえることと捕食者を避けることに役立っていると報告しました。

ただし、巨大な仲間がハウスをどう作るかは、直接観察されていません。ハウスは大きく壊れやすいため無傷で採集できず、生きた個体を採集しても、実験室で使えるハウスを作った例はありません。モントレー湾の巨大な仲間は、およそ1日に1個のハウスを作ると見積もられています。

捨てられたハウスのゆくえ

捨てられた巨大なハウスはつぶれて、深い海底へ速く沈みます。2017年の論文によると、モントレー湾の無人潜水機の観察では、捨てられたハウスが水中や海底で、クシクラゲの仲間、等脚類、ナマコの仲間、さらに Vampyroteuthis infernalis に食べられていました。2005年の研究によると、モントレー湾沖で10年間続けた観測で、巨大な仲間の捨てられたハウスが、海面近くで作られた有機物のかなりの部分を深海底へ運んでいることが分かりました。

水産総合研究センターが飼育下で行った実験では、ふ化後9日のニホンウナギの仔魚が、ワカレオタマボヤの幼生と捨てられたハウスの残骸を食べました。飼育した条件での観察で、天然の海での食べ物を示したものではありません。

よくある質問

ハウスは粘液だけでできているのですか?

英語では mucus house(粘液の家)と呼ばれますが、ワカレオタマボヤなどの研究では、セルロースとタンパク質でできていることが示されています。巨大な仲間のハウスについては、ムコ多糖類でできているという記述もあり、資料によって表現が違います。

どのくらいの頻度でハウスを作り直すのですか?

種と水温で大きく違います。飼育実験では1日2個から40個まで幅があり、水温が高いほど速くなる傾向がありました。ワカレオタマボヤでは数時間に一度、モントレー湾の巨大な仲間ではおよそ1日に1個と見積もられています。

巨大なオタマボヤは、ハウスをどうやって作るのですか?

まだ分かっていません。巨大な仲間のハウスの作り方は直接観察されておらず、実験室でハウスを作った例もありません。小さなワカレオタマボヤでは、体の表面の細胞から分泌した原基を、水を吸わせて尾の動きでふくらませることが分かっています。

まとめ

ワカレオタマボヤは、体の表面の細胞からハウスの原基を分泌し、水を吸わせて尾の動きでふくらませます。尾で送り込んだ海水を、入口のフィルターと食べ物を濃縮するフィルターの二段階でこし、詰まるとハウスを捨てて作り直します。ハウスは粘液の家と呼ばれますが、セルロースとタンパク質を含んでいます。

10種を飼育した実験では、ハウスの交換は種と水温によって1日2〜40個と大きく違いました。深海の巨大な仲間は長さ1mを超えるハウスを作りますが、紹介した研究では、その作られる過程は直接観察されていません。