マンボウには「3億個の卵を産む」という有名な数字があります。この数字は、いったい何を数えたものなのでしょうか。
3億個という数は、マンボウが実際に産んだ卵を数えたものではありません。もとになっているのは、1921年の論文などを出典として引用されてきた、雌1個体の卵巣の中の卵の推定数です。マンボウが実際にいくつ卵を産むかは、確かめられていません。マンボウの仲間の分類も、ここ数年で大きく整理されました。3億個という数字の出どころと、マンボウの仲間の今の分類を、SOLBOY DIVE CENTERが資料をさかのぼって確かめます。
「3億個」のもとは、1個体の卵巣の中の卵
2007年に発表された日本の成熟の研究は、マンボウの成熟について分かっていることは乏しいと書いています。知られているのは、全長1.5mの雌が3億個以上の卵を持っていたことから、それ以上の卵を産むと言われている、ということだけだとし、その出典として1921年の Schmidt の論文などを挙げています。
つまり、もとの記録は「卵巣の中に持っていた卵の推定数」です。体の外に産み出した卵の数ではありません。
同じ数字は、ほかの資料にも引かれています。2016年に発表されたマンボウの遺伝情報(ゲノム)の論文は、別の文献を引いて、全長137cmの雌が推定3億個の卵をつくるとしています。日本の研究の「1.5m」とは雌の大きさが違っていて、資料によって数字の伝わり方が一致していません。2015年に発表されたカリフォルニア沖の研究も、マンボウを最も繁殖力の高い硬骨魚とし、その出典の一つに1921年の論文を挙げています。2023年の生物学の総説では、多くの硬骨魚は数十万個の卵を産み、最大はマンボウの3億個だと、「産む」数として書かれています。
マンボウの産卵は、まだ分かっていないことが多い
2007年の研究によると、マンボウの成熟や産卵の生態には分からない点が多く、飼育下で繁殖に成功した例もありませんでした。この研究では、1981年12月から2006年10月までに、南房総・三浦半島の沿岸の定置網でとられた天然のマンボウ180尾と、鴨川シーワールドで1週間以上飼育された148尾の生殖腺を調べました。成熟の度合いを比べると、飼育されたマンボウのほうが、成長とともに成熟が進みやすい傾向があり、飼育下では自然界より成熟が早い可能性が示されました。調べたのは成熟の度合いで、卵の数ではありません。
卵巣の記録は、数ではなく重さ
マンボウ属の卵巣について記録されているのは、おもに重さです。2018年の論文では、台湾の花蓮沖で2008年3月にとられた体重1,380kgの雌のウシマンボウの卵巣が117kgあり、生殖腺指数(8.5)とともに、マンボウ属で記録された最大・最高の値でした。卵巣の中の卵は、肉眼の特徴から「発達中」と「産卵」の間の段階と推定されました。同じ論文の表には、島根県の湯津沖でとられた体重1,150kg、全長275cmのマンボウの卵巣が約36kgだった記録も載っています。
比べると、硬骨魚で最も重い卵巣の記録は、1924年にカスピ海の北部でとられたチョウザメの仲間 Huso huso のものです。体重1,228.5kgの個体の245.7kgの卵巣に、推定7,729,700個の卵が含まれていました。2018年の論文は、ウシマンボウは今のところ世界で最も重い硬骨魚の種だが、最も重い卵巣の記録は持っていない、と書いています。
マンボウの仲間は5種、分類は今も整理中
2021年の日本の資料によると、マンボウ科には現在3属5種が認められています。クサビフグ、ヤリマンボウ、マンボウ、ウシマンボウ、カクレマンボウです。日本の近海に出るのは、カクレマンボウを除く4種で、マンボウ以外の種はまれです。マンボウ自体も、分類の知見が足りないため、今のところ1種として扱われています。
マンボウの仲間は、世界的に分類が混乱してきた長い歴史があります。ウシマンボウの学名をめぐっても、2022年に有効な種かどうかを疑う意見が出されましたが、2023年の反論で、有効な名前は Mola alexandrini (Ranzani, 1834) と結論されました。3億個という数字の出典とされる1921年の論文は、こうした整理よりずっと前のものです。
世界一重い硬骨魚は、ウシマンボウ
マンボウを世界で最も重い硬骨魚とする資料もありますが、量って確かめられた記録はウシマンボウのものです。2022年の研究は、2,000kgを超えるとされたマンボウ科の15個体を調べ、1個体がマンボウ、14個体がウシマンボウで、実際に体重を量ったのは5個体だけだったと報告しました。そして、2,000kgを超えると確認できた現生の硬骨魚の種はウシマンボウだけだと結論しています。
その後、2022年に発表された別の論文では、北大西洋で見つかった体重2,744kgのウシマンボウが報告され、従来の記録を更新しました。鴨川で1996年に量られた2,300kgの個体も、かつてはマンボウとされていたものをウシマンボウに同定し直した記録です。
フィリピンの海でも、種の取り違えが報告されています。フィリピンの海でとられたマンボウ科12個体の写真を見直した研究では、ウシマンボウ1個体、マンボウ5個体、ヤリマンボウ6個体で、地元ではウシマンボウとヤリマンボウがマンボウと混同されていました。
よくある質問
マンボウは、本当に3億個の卵を産むのですか?
確かめられていません。3億個は、1921年の論文などを出典とする雌1個体の卵巣の中の卵の推定数で、実際に産んだ卵を数えたものではありません。2007年の時点で、飼育下で繁殖に成功した例もなく、産卵の生態には分からない点が多く残っています。
3億個の卵を持っていたマンボウは、どれくらいの大きさだったのですか?
日本の研究は全長1.5mの雌と書き、英文のゲノム論文は137cmの雌と書いていて、資料によって大きさが一致していません。
マンボウとウシマンボウは、別の魚なのですか?
はい。どちらもマンボウ科の魚で、2021年の日本の資料では別の種として扱われています。量って確かめられた世界最重の硬骨魚は、ウシマンボウです。
まとめ
「マンボウは3億個の卵を産む」という話のもとは、1921年の論文などを出典とする雌1個体の卵巣の中の卵の推定数で、産んだ卵の数ではありません。その雌の大きさも資料によって違い、マンボウの産卵はまだよく分かっていません。
マンボウの仲間は3属5種に整理され、世界一重い硬骨魚として量られた個体は、マンボウではなくウシマンボウでした。よく知られた数字も、出どころをたどると、記録の範囲が見えてきます。