テッポウエビの仲間はなぜパチンと鳴る?はさみがつくる気泡の仕組み

テッポウエビの仲間は、片方だけ大きく発達したはさみを閉じて、「パチン」と鋭い音を出すエビです。はさみの先どうしが打ち合わさる音を想像するかもしれませんが、実は研究者の間でも、以前ははさみの二つの面がぶつかって鳴ると考えられていました。

いまの理解は違います。はさみが閉じるときに押し出される速い水流の中で圧力が大きく下がり、「キャビテーション気泡」ができます。この気泡がつぶれた直後に周りの水へ広がる圧力の波が、大きな「パチン」の正体だと考えられています。

はさみのつくりから音が生まれるまでを、SOLBOY DIVE CENTERが研究をもとに解説します。紹介する研究は、Alpheus heterochaelis などの特定の種や日本の沿岸のエビを、水槽やコンピューターの計算で調べたもので、マクタン周辺の海のエビを調べたものではありません。

音のもとは、はさみの衝突ではなく気泡だった

考え方が変わる転機となったのは、トゥウェンテ大学の研究者たちが2000年に発表した研究です。Alpheus heterochaelis という種を水槽で調べ、ハイドロホン(水中マイク)で音を測りながら、はさみが閉じる様子を時刻を合わせて高速度撮影しました。すると、パチンという音が出ていたのは、はさみが閉じたときではなく、キャビテーション気泡がつぶれたときでした。気泡の大きさの変化と音は、気泡の動きを表す物理のモデルで数量的に説明できました。2013年の別の研究も、二つの面がぶつかって鳴るという以前の考えが、この発見で改められたと振り返っています。

ただし、はさみが閉じる瞬間に圧力の変化がまったく起きないとまでは言えません。東北大学の研究者がコトブキテッポウエビを使って行った2016年の水槽実験では、「はさみの凹凸部が当たるときの音圧」と「気泡がつぶれるときの音圧」の時間差から、気泡ができてつぶれるまでの時間を求めています。はさみが当たる瞬間にも、測定できる圧力の変化があることがうかがえます。それでも、大きな「パチン」の主役は、気泡がつぶれる瞬間です。

研究から見えてきた流れを、4つの段階にまとめると次のようになります。

  • はさみが一気に閉じ、くぼみにたまっていた水が押し出される
  • 押し出された水が、速い水の噴流になって前へ飛び出す
  • 噴流の中で圧力が大きく下がり、キャビテーション気泡ができる
  • 気泡がつぶれた直後に、圧力の波(パルス)が周りの水へ広がる

片方だけ大きなはさみが、水を勢いよく押し出す

テッポウエビ属のエビは、第一脚に、片方が大きい非対称のはさみを持ちます。音を出すのは、この大きいほうのはさみです。2013年と2017年の研究は、その仕組みを次のように説明しています。はさみの動く側の指には栓のような突起があり、反対側にはそれがはまるくぼみがあります。はさみが開いているとき、くぼみには水が満ちています。はさみが急に閉じると、突起がくぼみの水を押しのけ、その水が前側の細い溝から逃げ出して、速い水の噴流になります。

閉じる動きも並外れて速く、はさみの超高速な動きの進化を調べた2018年の研究は、テッポウエビ科のはさみが約0.5ミリ秒(2,000分の1秒ほど)で閉じると説明しています。同じ研究によれば、こうした極端に速い動きには、ばねのようにエネルギーをためるしくみと、ためたエネルギーを一気に放す留め金(ラッチ)のしくみが必要です。

水流の中で生まれる「キャビテーション気泡」

東京大学生産技術研究所の研究報告は、キャビテーションを、液体の中で圧力が下がる作用によって局所的に空洞ができる現象、と定義しています。2000年の研究によると、はさみから出る噴流は、キャビテーションが起こる条件を超えるほど速いものでした。日本原子力研究開発機構の研究者は2009年の発表で、この研究グループの推察として、噴流の内部が強い負圧(周りより圧力が大きく下がった状態)になり、海水中の微小な泡などの「気泡核」が急に膨らみ始める流れを紹介しています。

つまりこの気泡は、エビが空気を吐き出した泡ではなく、水の流れで圧力が下がった場所に、その場でできる空洞です。テッポウエビ属の一種 Alpheus bellulus のはさみの形をもとにした簡略なモデルで流れを計算した2017年の研究では、閉じる速さが十分に大きいと、噴流のまわりにできる渦の中心で圧力が大きく下がり、水がその場で気化して、ドーナツのような輪の形のキャビテーションができました。ただし、この計算は水と水蒸気だけを扱ったもので、気泡の中身を水蒸気だけと言い切れるわけではありません。形についても東北大学の研究者は、実験でレーザーを使ってつくる気泡が球形や半球形になることが多いのに対し、テッポウエビの仲間のキャビテーションは形が大きく異なると述べています。

稚エビでは、はさみが大きいほど気泡も大きい

デューク大学の研究者による2023年の研究では、Alpheus heterochaelis を卵から実験室で育てました。ふ化後1か月ごろから、はさみにばねで動くしくみが少しずつでき、はさみを鳴らし始めました。稚エビどうしで比べると、はさみが大きい個体ほど閉じる動きが速く、より大きく、より長く続くキャビテーション気泡をつくっていました。

気泡がつぶれた直後に、圧力の波が広がる

「気泡がつぶれること」と「音」は同じではありません。つぶれるのは水の中の空洞が一気に小さくなる現象で、音はそのとき周りの水へ広がる圧力の波です。

この順番を映像でとらえたのが、防衛大学校の研究者による2018年の研究です。水の密度のわずかな変化を映し出す「シュリーレン法」で、神奈川県と静岡県の海で採集したテッポウエビ属の3個体(種は特定されていません)を、水槽で高速撮影しました。映像では、はさみが閉じ切ったあとに気泡が最も大きくなり、その気泡がつぶれたすぐ次のコマに、球面状に広がる音のパルスが映っていました。膨らみ直した気泡が再びつぶれると、2回目のパルスも放射されていました。

2017年の計算でも、輪の形のキャビテーションは、できてまもなくつぶれては膨らみ直し、高い圧力のパルスを出しました。著者たちは、気泡がつぶれるときに周りの水の動きが急に止められることで、水撃(ウォーターハンマー)のような効果が生じ、圧力のパルスが出ると説明しています。

つぶれる瞬間の光は、生物発光とは別のもの

トゥウェンテ大学の研究グループは2001年、気泡がつぶれるときに短く強い光の閃きが出ることも報告し、この光を「shrimpoluminescence」と名づけました。研究者たちの知る限り、このしくみによる発光が動物で観察された初めての例だとしています。

これは、ホタルやクラゲが体内の化学反応で光る生物発光とは違い、気泡がつぶれるという物理的な現象にともなう光です。エビの体そのものが光るわけではありません。

パチンは何のため?獲物や仲間とのやりとり

2000年の研究は、はさみを鳴らす効果の一つとして、獲物になる動物を気絶させたり殺したりすることを挙げています。2017年の研究は、気泡がつぶれるときの圧力のパルスが、そのために使われていると推測されているしくみだ、と述べています。どちらも「効果の一つ」「推測されているしくみ」としての紹介です。

噴流は、仲間どうしの争いでも使われます。Alpheus heterochaelis を実験室で観察した1998年の研究では、争う一方が大きいはさみを素早く閉じて噴流を出し、噴流はふつう、平均約0.9cmの距離から相手の大きいはさみに当たっていました。はさみの毛を覆った個体との比較から、噴流を受ける側のはさみにある、機械的な刺激を感じ取る毛(機械感覚受容器)が、争いで重要な役割を果たしていることも分かりました。音だけでなく、水の動きそのものも相手への信号になりうることを示す結果です。2021年の研究も、パチン音は同じ種の仲間への信号になりうるほか、生息地の様子を調べる人間にも音の情報を与えると述べています。

海に響く「パチパチ」という音

2021年の研究は、テッポウエビの仲間を、世界の温帯から熱帯の沿岸の海で、水中の音をいたるところで生み出している生き物だと説明しています。トゥウェンテ大学の研究者たちが2000年に学会で発表した内容によれば、テッポウエビの仲間はふつう多数がいっしょに暮らし、絶え間なく続くパチパチという背景の音をつくるため、科学用や軍用のソナー(音で水中を探る装置)の利用を大きく制限しています。これは、人が使う水中の音響機器にとっての話です。

日本の研究にも、この音は登場します。山口大学などの研究者による2000年の論文は、テッポウエビ属が出す独特のパルス音を「天ぷらノイズ」と呼ばれるものとして紹介しています。揚げ物の音にたとえた呼び名です。なお、ここで紹介した研究は、どれもマクタン周辺の海で音を測ったものではありません。

「テッポウエビ」は、1つの種の名前でもある

この記事で「テッポウエビの仲間」と書いてきたのは、和名の「テッポウエビ」が、Alpheus brevicristatus という特定の1種の名前でもあるからです。神奈川県で記録されたテッポウエビ類をまとめた1998年の資料によると、この種は東アジアの海に固有で、干潟の代表的な種です。グループ全体はテッポウエビ類(テッポウエビ科)と呼ばれ、サンゴ礁の海で特に多くの種に分かれています。

この記事で紹介した研究の多くも、テッポウエビ属のそれぞれ別の種を対象にしたもので、分かった数値や気泡の形が、ほかの種にもそのまま当てはまるとは限りません。また2018年の研究によると、はさみを鳴らす能力は、テッポウエビ科と、類縁の遠いテナガエビ科で、それぞれ別々に進化しました。

観察するときに気をつけたいこと

はさみを鳴らす行動は、獲物をねらうときや仲間どうしの争いなどで使われるものです。音を聞きたい、姿を見たいと思っても、生き物に触れたり、追いかけたり、刺激して反応を引き出そうとしたりせず、距離をとって見守りましょう。海の生き物との接し方は、海の生き物を観察するときのマナーでも紹介しています。

海の生き物のしくみをもっと知りたい方へ

セブ・マクタンの海にどんな生き物がいるのかは、セブの海の生き物を紹介したページをのぞいてみてください。体験ダイビングとファンダイビングの内容は、それぞれの案内ページにまとめています。日程やプログラム選びのご相談は、LINEからどうぞ。

よくある質問

テッポウエビの仲間の音は、はさみ同士がぶつかる音ではないのですか?

大きな「パチン」という音は、はさみが閉じるときの速い水流の中にできたキャビテーション気泡が、つぶれた直後に周りの水へ広がる圧力の波です。Alpheus heterochaelis の2000年の研究や日本のテッポウエビ属の撮影で示されたもので、はさみの面がぶつかって鳴るという考えは以前の説明です。ただし、はさみが当たる瞬間にも測定できる圧力の変化はあることがうかがえ、閉じる瞬間がまったくの無音とまでは言い切れません。

はさみから出る気泡は、空気の泡ですか?

いいえ。エビが空気を吐き出しているのではなく、速い水流の中で圧力が大きく下がった場所に、その場でできる空洞です。海水中に漂う微小な泡が急に膨らむことがきっかけになる、という説明もあります。

テッポウエビの仲間は光るのですか?

気泡がつぶれる瞬間に短く強い光が出るという研究報告はありますが、物理的な現象にともなう光で、ホタルやクラゲのような生物発光ではありません。

「テッポウエビ」と「テッポウエビの仲間」は違うのですか?

和名の「テッポウエビ」は、東アジアの干潟などにすむ Alpheus brevicristatus という1種の名前でもあります。研究で使われたほかの種やグループ全体を指すときは、「テッポウエビの仲間(テッポウエビ類)」と呼ぶほうが正確です。

まとめ

テッポウエビの仲間の大きな「パチン」は、はさみ同士がぶつかる音ではなく、はさみが一気に閉じて押し出した速い水流の中にキャビテーション気泡ができ、その気泡がつぶれた直後に広がる圧力の波です。気泡は空気の泡ではなく、圧力が下がった水の中にできる空洞で、つぶれる瞬間の短い光も生物発光とは別のものです。

この仕組みは、Alpheus heterochaelis などいくつかの種を、水槽やコンピューターの計算で調べた研究から見えてきました。気泡の大きさや音の性質が、どの種でも同じとは限りません。小さなエビの片方のはさみには、水の流れと圧力の変化を使って音を生み出す仕組みが備わっています。