捨てられた漁網が、魚を捕り続ける?ゴーストフィッシングが続く期間と、長引く条件

海の中に残された漁網が、誰にも引き上げられないまま魚を捕り続ける。そんな話を聞くと、網はいつまで魚を捕り続けるのだろう、と気になります。本当に、捨てられた網は魚を捕り続けるのでしょうか。

人の手を離れた漁具が生き物を捕り続ける現象は「ゴーストフィッシング」と呼ばれ、刺網や籠などで、潜水による観察や実験で確かめられています。ただし、対象は捨てられた網だけでなく、嵐や事故などで失われた漁具も含みます。また、多くの場合、捕る力は最初の数日から数か月で大きく下がり、その後は低い水準で続きます。どのくらい続くかは、漁具の種類や海底の状態、水深、捕られる生き物によって大きく違います。ゴーストフィッシングの仕組みと続く期間を、SOLBOY DIVE CENTERが日本の実験と国際機関の評価から紹介します。

ゴーストフィッシングとは

鹿児島大学の研究者による2006年の報告は、漁業者の手を離れて水中に残った漁具が、捕る機能を保ったまま、生き物の死亡を起こし続けることをゴーストフィッシングと説明しています。こうした漁具は、まとめて「逸失漁具」と呼ばれます。

アメリカ海洋大気庁(NOAA)は、海で失われたり捨てられたりした漁具が、魚・甲殻類・海の哺乳類・ウミガメ・海鳥を捕らえて殺し続けることがあると説明しています。環境省の2020年版の白書も、持ち主のいなくなった漁具が人の管理を離れて長い間生き物を捕り続けることから、ゴースト・フィッシングとも呼ばれ、生態系だけでなく漁業にも悪い影響を与えていると書いています。

国連食糧農業機関(FAO)と国連環境計画(UNEP)の2009年の報告書は、漁具の放棄や逸失の程度と影響は、漁獲の努力・能力の増加と、漁具が丈夫になったことで、過去50年で大きく増えたとしています。

問題になりやすいのは、待って捕る漁具

FAOの2016年の報告書によると、ゴーストフィッシングが最も問題になるのは、生き物が網に入ってくる動きに頼って捕る刺網や三枚網などです。こうした刺網・三枚網は、主に沿岸の小さな規模の漁業で使われ、世界の海の漁獲量の約5分の1を占めています。一方、巻網やトロールのように網を動かして捕る漁具は、船から離れて網がつぶれると、捕獲がふつう止まります。

2006年の報告によると、これまでに籠、刺網・三枚網、小型の曳き網で、ゴーストフィッシングが確認されています。トロール網はめったにゴーストフィッシングしないとされますが、海底を覆ったり、サンゴ礁などを傷つけたりする別の影響があります。

平らな海底では、捕る力は早く落ちる

鹿児島県の沿岸の水深15〜21mで、長さ72m・高さ2.3mの底刺網1枚を1,689日間海底に置いた2004年の研究では、捕る力が初めの5%まで下がる期間は142日、死んだ魚の総数は455尾と推定されました。多く網にかかったのは、カワハギ・ネズミゴチ・マダイで、マダイが網にかかった例の93%は、網を置いてから6日以内に起きていました。

2006年の報告によると、平らな海底では、時間とともに網の高さが減って見えやすくなり、捕る力が急速に下がります。FAOの2016年の報告書が紹介する研究でも、刺網の捕獲の効率は、数週間から数か月で初めの約5%以内まで下がりました。継続期間を示した11の研究の平均は35.0週でした。ただし、継続期間を捕獲が止まるまでとするか、捕る力が小さな割合まで下がるまでとするかは、研究ごとに異なります。ただし、こうした研究の多くは、比較的浅い沿岸に、逸失した網に見立てて置いた底刺網を調べたものです。

千葉県館山湾の人工魚礁のある水深13mの海域で行われた2010年の研究では、刺網の捕獲数が最大値の5%まで下がる期間は182日と算出されました。捕られる生き物は、時間とともに変わっていきます。FAOとUNEPの報告書は、網の捕獲の効率は、捕られる種が魚から甲殻類へ移りながら、最初に急に下がって低い水準に向かうとしています。館山湾の研究でも、イセエビ以外の甲殻類や巻貝の仲間は、イセエビや魚より長い期間、網にかかりました。

低い水準でも、長く続けば影響は大きい

捕る力が下がっても、ゴーストフィッシングがすぐに終わるわけではありません。FAOの2016年の報告書は、初めの5%の力でも何年も続けば、死亡は大きな数になると指摘しています。鹿児島の研究でも、カワハギなど長く網にかかる魚の仲間に対しては、捕る力が1年後でも35%に下がるだけで、5%まで下がるのに1,035日かかると推定されました。

長く続く条件もあります。2006年の報告によると、網の高さが減って汚れた状態でも、網の周りで暮らす魚では長く続き、魚礁などに立体的にからんだ網では、付着生物に覆われた後も捕る力がほとんど下がりません。人工魚礁にからんだ刺網が、3年以上たっても捕る力が下がらなかったという研究もあります。FAOの報告書によると、深い水など網が壊されにくい条件では、数か月から数年、高い捕獲率を保ちうるとされ、カナダの研究では非常に深い水に置いた網が何年も捕り続けました。

網にかかった生き物が、それを食べに来る腐肉食の生き物を引き寄せ、それらがまた捕まる「自己餌付け」も、長く続く原因の一つです。東日本大震災のあと、岩手県沖の水深127〜140mに約3か月残された刺網では、網が棒のように巻かれて広がりにくくなっていたにもかかわらず、底魚が網にかかって死ぬことが繰り返されていました。

籠のゴーストフィッシング

籠では、餌が大きく関わります。2006年の報告によると、籠のゴーストフィッシングには、失われた直後に餌が残っていて捕獲の多い短い段階と、餌がなくなってから捕獲の少ない長い段階があります。NOAAは、回収されなかった籠は、中で死んだ生き物が次の餌になって捕獲を続け、籠が傷むまで死亡を起こすと説明しています。

捕られ方は、種や大きさでも違います。日本海の隠岐諸島西方でベニズワイガニの商業籠を試した研究では、雌の多くは甲幅90mm以下で籠から抜け出せるため、ゴーストフィッシングされないことが分かりました。南九州の沿岸の籠に推定法を当てはめた研究では、捕る力が初めの5%になるまでが602日、籠1個あたりの死亡はタコ70尾を含む283尾と報告されています。

世界全体の被害は、一つの数字では表せない

ゴーストフィッシングの規模について、FAOとUNEPの2009年の報告書は、逸失漁具の捕獲率のばらつきが非常に大きいため、全世界の推定は意味をなさないとしています。示されている数字は、それぞれ対象と方法が違います。たとえば、NOAAの資金による研究は、アメリカのチェサピーク湾に約14万5,000個の放置されたカニ籠があり、毎年330万匹のカニを殺し続けうると推定しました。2022年の研究は、7か国の漁業者への聞き取りから、世界の年平均の漁具の逸失率を1.82%と推定していますが、これは失われる漁具の割合で、ゴーストフィッシングで死ぬ生き物の数ではありません。

東南アジアや中西部太平洋では、漁具の逸失を数量で調べた研究自体が少ないとされています。2006年の籠の研究の報告は、ゴーストフィッシングは憶測が先行しやすい問題でもあると述べています。

よくある質問

失われた網は、いつまでも魚を捕り続けるのですか?

多くの場合、捕る力は最初の数日から数か月で大きく下がり、平らな海底の刺網では数週間から数か月で初めの約5%以内になります。ただし、魚礁にからんだ網や深い所の網では、数年続いた例もあります。

捕られるのは、魚だけですか?

魚のほか、甲殻類や巻貝の仲間も捕られます。時間がたつと、捕られる生き物は魚から甲殻類へ移り、甲殻類や巻貝の仲間が長く捕られることが多いと報告されています。NOAAは、海の哺乳類・ウミガメ・海鳥も捕らえられることがあると説明しています。

どの漁具でも起こるのですか?

刺網や籠など、生き物が入ってくるのを待って捕る漁具で問題が大きくなります。巻網やトロールなど網を動かして捕る漁具は、船から離れると捕獲がふつう止まります。

まとめ

人の手を離れた漁具が生き物を捕り続けるゴーストフィッシングは、刺網や籠などで確かめられています。捨てられた網だけでなく、事故などで失われた網も含みます。捕る力は多くの場合、初めに大きく下がりますが、低い水準でも長く続けば、死亡は大きな数になります。

続く期間は、海底の状態、水深、網のからみ方、捕られる生き物によって数か月から数年まで違います。世界全体の被害を一つの数字で表すことは難しく、それぞれの研究の対象と方法を確かめて読む必要があります。