マングローブはなぜ塩水のある場所で育つ?根と葉の工夫

海辺の浅い場所で、たこ足のような根を広げた木や、泥の中から鉛筆のような根がたくさん突き出た林を見たことはありますか。潮が満ちると海水が入り込む場所なのに、木が育っているのは不思議に思えます。

簡単にいうと、マングローブは一つの木の名前ではなく、潮の満ち引きがある海辺に生える木々をまとめた呼び名です。根で塩を入れにくくする、葉から塩を出す、塩をためた葉を落とすといった方法を、種類ごとに組み合わせて塩に対処しています。酸素の少ない泥の上では、空気中に出した根から酸素を取り入れています。海の生き物の暮らしを紹介しているSOLBOY DIVE CENTERが、マングローブの塩と水への工夫を、研究や公的機関の解説をもとにご紹介します。

マングローブには多くの種類があり、仕組みや根の形は種類によって違います。ここで挙げる日本の樹種の例は、沖縄県の西表島や鹿児島県の資料によるもので、マクタン周辺にどの種類のマングローブがあるかを示すものではありません。

海岸に広がるマングローブ林の空撮

マングローブは一つの木の名前ではない

NOAA(アメリカ海洋大気庁)は、マングローブを、海岸の潮間帯(潮が満ちると水に浸かり、引くと地面が出る場所)に生える高木と低木のグループだと説明しています。林野庁の資料も、「マングローブ」という名前の植物があるわけではなく、熱帯・亜熱帯の河口などの潮間帯に生え、塩分のある水を利用できる植物をまとめてマングローブと呼ぶ、と紹介しています。

2022年の総説によると、マングローブは、さまざまな陸上植物の仲間から別々に進化して似た性質を身につけた植物の集まりで、18の科にまたがっています。種類の数は数え方によって変わり、NOAAは約80種、FAO(国連食糧農業機関)の2007年の報告は50〜70種、2022年の総説は約73の種と雑種としています。FAOの同じ報告の表には、フィリピン全体の「真のマングローブ」として35種が挙げられています。

種類が多いため、すべてのマングローブに共通する特徴があるわけではなく、それぞれが一般の植物にはない特徴のいくつかを持っている、と日本語の解説も述べています。

潮が満ち引きする泥の上で育つ

NOAAによると、マングローブは、流れがゆるやかで細かい泥がたまり、土の中の酸素が少ない場所に育ちます。密に絡み合った根のおかげで、毎日の潮の満ち引きにも耐えられ、多くのマングローブは少なくとも1日に2回は水に浸かります。

ただし、いつも完全に水の中にあるわけではありません。FAOの報告は、マングローブの空気中に出る根(気根)は、1日のうち少なくとも一時は全体か一部が空気にさらされ、満潮のときに水に覆われると説明しています。

塩への対処は、種類によって違う

FAOの報告は、マングローブは種類によって異なるいくつかの方法で海水の塩に対処していると説明しています。研究者の解説では、塩を「入れない」「出す」「ためる」の3つに分けて紹介されることがありますが、一つの種類がいくつかの方法を組み合わせていることもあります。

根で塩をこし取る

2022年の総説によると、ヒルギの仲間のRhizophora属やBruguiera属、Ceriops属などは、根の細胞膜の表面で水をこして、余分な塩を取り除いています。

葉から塩を出す

Avicennia属などには、葉に塩を出す腺(塩類腺)があります。日本にも生えるヒルギダマシ(Avicennia marina)の葉の表面には塩類腺があり、出された塩が結晶になって点々と見えることがある、と日本語の解説は紹介しています。

葉から塩を出す種類も、根で塩を止めないわけではありません。2024年の総説は、Avicennia属の2種で、まわりの塩分が高くなると根の外側の層に水を通しにくい物質が多くたまり、ナトリウムが根の奥へ入りにくくなるという研究を紹介しています。

塩をためた葉を落とす

塩類腺を持たない種類では、根から入った塩が水と一緒に葉へ運ばれて細胞の中にたまり、塩が多くたまった葉が落ちることで、体から塩が取り除かれる、と日本語の解説は説明しています。FAOの報告も、葉に塩をためて、その葉を落とす方法を挙げています。

このほか、2015年の総説は、マングローブが水をこして塩を除く、体の中の水分の状態を、根のまわりの水よりも水を引き込みやすく保つ、水を節約する、塩分の薄い水が得られればそれを使う、といった働きを組み合わせて、塩分のある場所でも水を吸い続けていると説明しています。

芽生えにも工夫があります。ヒルギの仲間では、種子が木から離れずに親木の上で芽を出し、育った芽生えが落ちて広がります。2022年の総説は、親木の上で育つことで、芽生えの時期に塩分にさらされるのを避けられる利点があると説明しています。

親木に付いたヤエヤマヒルギの細長い芽生え

塩水でなければ育たない?塩は濃いほどよい?

マングローブは塩水がないと育たない、というわけではないようです。2013年に発表された短い総説は、マングローブの成長に最適なのは中程度の塩分だとしたうえで、現在の証拠からは、生き延びるために塩が体の働きとして必要とはいえない、とまとめています。一方で、一部のマングローブは正常に育つために塩を必要とするという見方もあり、2022年の総説も、マングローブを塩に強い植物としてどう分類するかには議論があると紹介しています。

塩分が濃ければ濃いほどよい、というわけでもありません。日本語の解説によると、マングローブには、海水(平均約3.5%)より濃い4.0%以上の塩分の水で育つ種類から、淡水が多く混ざった3.0〜2.0%以下の塩分で育つ種類までいます。FAOの報告は、非常に塩分が高い場所や環境が乱された場所では、低く育ちの悪い木の小さな群れになることがある一方、条件がよければ高さ30〜40mの森になると説明しています。

酸素の少ない泥で、根から空気を取り入れる

海水が入り込む泥の中は酸素が少なく、根が呼吸をするのに不利な場所です。マングローブの中には、やわらかい泥に体を固定する根や、空気中から酸素を取り込む根を発達させた種類があります。FAOの報告は、空気中に出る根の主な働きを、空気の出し入れ、泥の中で木を支えること、養分の吸収としています。ただし、こうした根を発達させたのは特に海辺に適応した種類だけで、根のつくりも種類によって違います。

根の形もいろいろ

  • 支柱根:幹や下のほうの枝から伸びて、たこ足のように木を支える根。Rhizophora属で見られます(日本では西表島などのヤエヤマヒルギ)。
  • 呼吸根(通気根):地中の根から、鉛筆のように地上へ突き出る根。Avicennia属やSonneratia属で見られます(日本ではヒルギダマシやマヤプシキ)。
  • 膝根:横に伸びる根が、弓や膝のように地上へ曲がって出る根。Bruguiera属などで見られます(日本ではオヒルギ)。
泥の上で幹を支えるヤエヤマヒルギの支柱根

根の呼び名は資料によって少しずつ違い、たとえば地上に突き出る根を「呼吸根」と呼ぶ資料も「通気根」と呼ぶ資料もあります。地上に目立った根を出さない種類もあります。

根から空気が運ばれる仕組み

2024年の総説によると、呼吸根には、表面の「皮目」という小さな穴と、内部で空気の通り道になる組織が発達していることが多く、酸素の少ない場所での空気の出し入れを助けています。空気は地上に出た根から地下の根へ運ばれ、酸素は根の呼吸に使われ、一部はまわりの土へも出ていきます。

鹿児島県立博物館の解説は、オヒルギの膝根が地上に出た部分で酸素を吸収し、レンコンのように穴のある根で全体に酸素を行きわたらせていると紹介しています。

根のまわりは、生き物のすみかになる

NOAAは、入り組んだマングローブの根は、餌や、捕食者から身を隠す場所を求める魚などの生き物を引きつけると説明しています。マングローブの生き物についての2008年の総説によると、水中にある根には、ホヤや海綿、藻類、二枚貝などがびっしりと付き、根と根のすき間は、エビやカニ、魚の隠れ場所や餌場になります。

同じ総説は、マングローブがカニやエビ、魚の幼い時期を育てる場として働くことがあるとしながらも、魚や沿岸の漁業にとってどれほど重要かについては、研究者の意見が分かれていると整理しています。また、カリブ海では長い支柱根を持つRhizophora属の木が潮間帯の低い帯を占めるのに対し、インド太平洋の多くの場所では同じ帯を支柱根のないAvicennia属やSonneratia属が占めるなど、地域によって根のまわりの景色も違います。

マクタン周辺の海にある海草藻場や干潟、オランゴ島の湿地については、海草と海藻は何が違う?藻場が海の生き物を支える仕組みで紹介しています。

マングローブを見かけたら

マングローブの林や干潟を歩くときは、泥から突き出た根や芽生えを踏んだり、枝や根を折ったりしないように気をつけましょう。根のまわりにはカニや貝などの小さな生き物も暮らしています。少し離れた位置から、根の形や葉の様子を眺めてみてください。

マクタンの海で

当店はマクタン島でダイビングをご案内しています。セブの海で出会えることがある魚や生き物は、セブ島のダイビングで見られる魚や海の生き物で紹介しています。初めての方は、10歳以上であればライセンスがなくても体験ダイビングで海に潜れます。ライセンスをお持ちの方にはファンダイビングをご用意しています。ダイビングについてのご質問は、LINEで日本語でお送りいただけます。

よくある質問

「マングローブ」という名前の木があるのですか?

いいえ。マングローブは一つの樹種の名前ではなく、潮の満ち引きがある海辺に生え、塩分のある水を利用できる木々をまとめた呼び名です。種類の数は数え方によって変わり、約50〜80種と幅があります。

マングローブは塩水がないと育たないのですか?

塩が生き延びるために必要とはいえない、とする研究があります。ただし、成長に最適なのは中程度の塩分とされ、一部の種類は塩を必要とするという見方もあります。逆に、塩分が非常に高い場所では、低く育ちの悪い木になることがあります。

マングローブはいつも水に浸かっているのですか?

いいえ。多くのマングローブは潮の満ち引きで少なくとも1日に2回水に浸かりますが、空気中に出る根は、1日のうち少なくとも一時は空気にさらされます。

マングローブは、どうやって塩分に対処しているのですか?

種類によって違います。ヒルギダマシなどは葉にある塩類腺から塩を出し、ヒルギの仲間のRhizophora属などは根で塩をこし取ります。塩をためた葉を落とす方法もあり、一つの種類がいくつかの方法を組み合わせていることもあります。

まとめ

マングローブは、潮の満ち引きがある海辺に生える木々をまとめた呼び名で、一つの樹種の名前ではありません。根で塩をこし取る、葉から塩を出す、塩をためた葉を落とすといった方法を種類ごとに組み合わせ、塩分のある場所でも水を吸い続けています。塩水でなければ育たないとはいえず、塩分が濃いほどよいわけでもありません。

酸素の少ない泥の上では、支柱根や呼吸根、膝根など、種類ごとに違う形の根を空気中に出し、皮目などから空気を取り入れています。その入り組んだ根のまわりは、魚やカニ、貝などのすみかにもなります。海辺でマングローブを見かけたら、根や葉に隠れた工夫を探してみてください。