コウイカの仲間はごちそうを待てる?「待つ力」を調べた実験

目の前においしそうな餌があっても、もう少し待てばもっと好きな餌が手に入る。そんなとき、コウイカの仲間は待つことができるのでしょうか。

2021年に発表された研究で、飼育下のヨーロッパコウイカ Sepia officinalis 6個体に、子どもの自制心を調べる「マシュマロテスト」に似た課題を試したところ、好物の生きた小エビを得るために、すぐ食べられるエビの切り身を食べずに待つことができました。待てた時間は個体によって最大50〜130秒でした。長く待てた個体ほど、別の学習の課題の成績もよい傾向がありました。ただし、実験は6個体だけで、結果を人間の知能と同じものとみることはできません。実験の中身と分かったことを、SOLBOY DIVE CENTERが紹介します。

実験に参加したコウイカ

実験は、アメリカのウッズホール海洋生物学研究所で、2018年6月から9月に行われました。参加したのは、イギリス海峡で採集された卵から育てられた、生後9か月のヨーロッパコウイカです。8個体で始めましたが、2個体は実験装置を怖がりすぎて訓練から先へ進めず、6個体がすべての訓練と試験を終えました。ヨーロッパコウイカは代謝が速く、寿命はふつう2年未満の頭足類です。

日本で「コウイカ」と呼ばれるのは Sepia esculenta という別の種です。この実験の結果は、ヨーロッパコウイカの飼育下の6個体についてのものです。

すぐ食べるか、待って好物をとるか

まず、ふだんよく食べる3種類の餌で好みを調べると、すべての個体で、生きた小エビが最も好まれ、エビの切り身が2番目、カニが最も好まれませんでした。そこで、すぐ食べられる餌にはエビの切り身を、待てば手に入る好物には生きた小エビを使いました。

装置は、透明な引き戸のついた2つの黒い小部屋で、中の餌が見えるようになっていました。すぐ取れる部屋にはエビの切り身が、遅れて開く部屋には生きた小エビが入っています。コウイカはいつでも待つのをやめてエビの切り身を食べることができ、その餌は試行のあいだずっと見えて、手の届くところにありました。待ち時間は10秒から始めて、10秒ずつ延ばしました。試行の間隔は6分とし、どちらを選んでも6分に1個しか餌が得られないようにしました。

比べるために、好物が見えていても決して取れない条件も用意しました。この条件では、コウイカはすぐに切り身を食べ、食べ始めるまでの時間は平均8.75秒でした。

好物のために、1分以上待てた

待てば好物が手に入る条件では、コウイカは好物を得るために、食べるのを平均83.33秒遅らせました。待てた最大の時間は個体によって違い、50〜130秒でした。その後さらに待ち時間を延ばしても、各個体はおおむね自分の最大の待ち時間のあたりで待つのをやめました。最大の待ち時間で待てた割合は、試行の2/9から4/9で、毎回待てたわけではありません。待ち時間が長くなるほど、すぐ食べられる餌に負けることが増えました。

論文の著者は、待てば手に入る条件でだけ待ったことから、この判断は本当の自制心を反映していると述べています。待っているあいだ、すぐ食べられる餌から体をそむけ、気をそらしているように見えるコウイカもいました。ただし、この行動は観察されただけで、測定はされていません。

同じ研究者らによる2021年の総説は、選んだあとに取り消せない課題では、待とうとする気持ちは試せても、待ち続ける力は試せないと指摘しています。今回の実験は、いつでも待つのをやめられ、すぐ食べられる餌がずっと見えている形になっていて、待ち続ける力を試せるようにしてあります。

待てる個体は、学習も得意?

研究チームは、学習の成績も調べました。白と濃い灰色の2つの板の一方に報酬が結びつくことを学ばせ、その後、報酬をもう一方へ切り替えて学び直させる課題です。明るさの見分けは全個体が覚え、基準に達するまでの試行数は平均27でした。

結果は、長く待てた個体ほど学習の成績がよいというものでした。平均の待ち時間は、学習の基準に達するまでの試行数と強い負の相関を示しました。ただし、統計の評価で相関を支持する証拠の強さは「中程度」とされ、6個体の相関で、原因と結果の関係を示したものではありません。著者自身も、どちらの課題も学習を含むため、自制心と学習の本当の関係なのか、両方の課題で学んだ結びつきの強さを反映しているだけなのかを見分けるのは難しいと認めています。高い自制心が、実験の設計によって生まれた可能性も挙げています。

なぜ待てるのかは、まだ仮説

コウイカは、なぜ待つことができるのでしょうか。著者は、獲物に近づいてから待ち伏せで襲うほうが狩りに成功しやすいため、自制心が採餌の成功を高めるのかもしれないという仮説を挙げています。一方で、関係のない別の性質が選ばれた結果、副産物として生まれた可能性もあるとしています。どちらも、まだ確かめられていません。

コウイカの「先を見越した」ふるまいを調べた研究は、ほかにもあります。2020年の研究では、夜に好物のエビがもらえると決まっているとき、ヨーロッパコウイカは昼に食べるカニの数を減らし、エビがもらえるか分からないときは、昼のカニを食べ続けました。ただし著者らは、この行動が将来の計画にあたると言うには、まだ確かめるべき基準があるとしています。

論文の著者は、コウイカが質の高い餌のための遅れを、一部の大きな脳をもつ脊椎動物と同じくらい許容できると結論しています。課題の作り方は研究ごとに違うため、待てた秒数を種のあいだで単純に比べることには注意が必要です。マシュマロテストは、もともと子どもの意志の強さを試すために作られた課題で、餌を使ったこの実験と、人の実験が同じものというわけではありません。

よくある質問

コウイカは人間の子どもと同じくらい賢いのですか?

そうは言えません。この実験は、マシュマロテストに似た課題で、好物のために餌を待てるかを調べたものです。著者の比較は、一部の大きな脳をもつ脊椎動物と同じくらい待てたというもので、人の知能と同じだと示したものではありません。

どのくらい待てたのですか?

好物を得るために食べるのを遅らせた時間は平均約83秒で、最大の待ち時間は個体によって50〜130秒でした。ただし、最大の待ち時間で毎回待てたわけではありません。

日本のコウイカでも同じ結果になるのですか?

この実験はヨーロッパコウイカの飼育下の6個体で行われたもので、日本のコウイカ Sepia esculenta を調べたものではありません。種や環境が違えば、結果も違う可能性があります。

まとめ

飼育下のヨーロッパコウイカ6個体は、すぐ食べられるエビの切り身を前にしても、好物の生きた小エビのために平均約83秒、個体によって最大50〜130秒待つことができました。長く待てた個体ほど、学習の課題の成績もよい傾向がありました。

ただし、個体数は少なく、学習との関係は相関にとどまり、待てる理由もまだ仮説です。結果は、コウイカが人と同じように考えていることを示すものではありません。