タコの仲間なのに、貝のような白い殻に入って海を漂うアオイガイ。タコは殻をもたないはずなのに、なぜ殻があるのでしょうか。
アオイガイの「殻」を作るのは雌だけで、雄は殻をもちません。この殻は、貝のように体の外套膜から作られるのではなく、雌が背側の第1腕の先に広がる膜から分泌して作るもので、卵を抱えるためのケースです。貝の殻とは起源が違うため、日本では擬殻や卵鞘とも呼ばれます。雌はこの殻に海面で空気を取り込み、浮き沈みの調節にも使っています。殻の正体と使い方を、SOLBOY DIVE CENTERが論文と大学の発表から紹介します。
雌だけがもつ、紙のように薄い殻
2010年の論文によると、アオイガイの仲間の雌は、「ペーパーノーチラス」と呼ばれるもろい白い殻を作ってその中にすみ、小さな雄は殻をもちません。スミソニアン図書館の解説によると、この紙のように薄い卵のケースはしばしば貝殻と間違えられ、その名の由来になりました。
日本の資料に出てくるのは、アオイガイ Argonauta argo やタコブネ Argonauta hians などです。島根大学などの2022年の発表によると、アオイガイという名は、殻を2枚重ねると葵の葉に見えることに由来します。殻の大きさには幅があり、2026年の研究で調べられたアオイガイの殻は、2.3×3.1cmから18.3×21.6cmまででした。
腕の膜から分泌される殻
2021年の論文によると、19世紀にヴィルプルー=パワーは、アオイガイの雌の殻が、すべての貝類のように外套膜からではなく、2本の背側の腕の先に広がる幅の広い膜から分泌されることを記載しました。そのため、この殻は貝類の殻と同じ起源の構造ではなく、アオイガイの仲間だけがもつ独自の特徴だと、同じ論文は述べています。東京大学などの2026年の発表によると、ヴィルプルー=パワーは飼育の観察で、第1腕を切り取ると殻が作られなくなること、殻を壊すと第1腕で破片をかき集めて直すことも確かめました。
2026年の研究によると、アオイガイの仲間では、貝殻のもとになる殻腺は胚の時期に完全に消えてしまいます。雌はふ化したときには殻をもたず、殻作りは、ふ化後約12日、外套長5〜7mmほどで始まります。2022年の論文は、それまでの研究から、殻の材料のタンパク質に貝類の殻のタンパク質とよく似たものがほとんどないことを紹介し、殻は貝の殻と同じ起源ではないとしています。島根大学などの発表は、沿岸のタコと近い仲間であることから、進化の途中で一度貝殻を失ったタコが、再び殻を作れるようになったことを示していると説明しています。
貝殻とは違うつくり
殻のつくりも、ふつうの貝殻とは違います。2026年の研究は、高知県と島根県の定置網で漁業者が採集した試料を調べ、殻が5つの層からなることを示しました。外側と内側の柱のような結晶の層は、どちらも中央の有機物の層から両方向に育っていて、これは典型的な貝殻には見られない特徴です。殻はどれも薄くもろく、渦巻きの中心に向かうほど厚く硬くなっていました。
2021年の論文によると、殻の鉱物は方解石だけで、仕切り(隔壁)や連室細管などの内部の構造はありません。2026年の発表は、修理の跡のある殻を分析し、破片を腕でつなぎ直す方法と、新しい分泌物で作り直す方法の2通りを組み合わせて直していると推定しています。
卵を抱え、空気で浮き沈みする
殻は、雌が卵を抱えるためのケースです。2010年の論文によると、1923年の研究以降、殻は主に卵のひもを付けて抱える容器と考えられてきました。2021年の論文は、殻が卵を抱えることと、浮力のために中に空気をためることの両方に使われるとしています。殻にたまった空気は、かつては飼育の装置の泡による人工的なものではないかという指摘もありました。
そこで2010年の研究では、2006年1月に島根半島沖の定置網で生きたまま採集されたアオイガイの雌3個体を、隠岐の港の水深2〜7mで放して観察しました。放す前に殻の空気を水中ですべて抜くと、アオイガイは沈む状態になりました。雌は海面に上がり、漏斗を背側に向けて水面に激しく噴射して殻を水面の上に浮かせ、空気を取り込みました。取り込んだ空気は第2腕で殻の中に封じ、漏斗からの強い噴射で殻を下へ押し下げて潜りました。浮力がつり合うと、雌は水面と平行に、泳ぐダイバーより速く泳げました。
観察からは、浮力がつり合う目標の深さは7〜8mほどと考えられました。空気は硬い部屋に閉じ込められているわけではないので、深く潜ると圧縮されすぎて体重を支えられなくなります。著者は、浮力がつり合う深さは比較的浅く、10m未満の可能性があると推測しています。観察は3個体についてのもので、全ての個体や種で同じとは言えません。
小さな雄と、見つかりにくい姿
アオイガイの仲間は、大きな雌と小さな雄という、はっきりした性の違いをもちます。2010年の論文が引く研究によると、一部の種の雌は全長50cmに達し、小さな雄に比べて長さで最大8倍、重さで600倍にもなります。殻をもたない小さな雄と若い雌は、水深50〜200mのネットで採集されています。
雄が採集されることは、とてもまれです。イタリアのメッシナ海峡に打ち上げられたアオイガイ20個体を調べた2023年の研究では、主に雌で、成熟した雄は1個体だけ、外套長は6.2mmでした。卵を産んでいた雌9個体のうち6例で、殻の中に雄の交接腕が見つかりました。
よくある質問
アオイガイの殻は、貝の殻と同じものですか?
いいえ。貝の殻は外套膜から作られますが、アオイガイの殻は雌が第1腕の膜から分泌して作る卵のケースで、起源が違います。そのため擬殻や卵鞘とも呼ばれます。
雄も殻をもっているのですか?
いいえ。殻を作るのは雌だけで、雄は殻をもちません。雄はとても小さく、採集されることもまれです。
殻の中の空気は、何のためにあるのですか?
2010年の研究の観察では、雌は海面で殻に空気を取り込み、浮力がつり合う深さまで潜って、水平に速く泳ぎました。著者は、殻の空気が殻の向きを保ち、泳ぐために必要だと考えています。観察は3個体についてのものです。
まとめ
アオイガイの殻は、雌だけが第1腕の膜から分泌して作る、卵を抱えるためのケースです。貝の殻とは起源もつくりも違い、仕切りのない薄い殻の中で卵を守ります。
雌はこの殻に海面で空気を取り込んで第2腕で封じ、浮力のつり合う深さで泳ぐことも観察されています。タコの仲間が一度失った殻を、別の方法で作り直したと考えられている例です。