ヒトデの中には、胃を口から外へ出して獲物を包む種がいます。胃を体の外に出して、どうやって食べるのでしょうか。そして、すべてのヒトデがそうするのでしょうか。
答えは「そういうヒトデもいる」です。Asterias rubens や日本のマヒトデ、イトマキヒトデ、オニヒトデなどは、胃を反転させて口の外へ出し、獲物を体の外で消化し始めます。一方で、京都大学白浜水族館の解説資料によると、多くのヒトデは獲物をそのまま口で食べ、モミジガイの仲間のように貝を丸ごと呑み込む種もいます。胃を外へ出す食べ方の仕組みと、丸呑みする種との違いを、SOLBOY DIVE CENTERがご紹介します。
ヒトデには胃が2つある
白浜水族館の資料によると、ヒトデを縦に割ると、背中側に肛門、腹側に口があります。消化管は腕の中にも入り込んでいます。
Asterias rubens を調べた2018年の論文によると、口は短い食道につながり、その上に、ひだの多い大きな胃があります。食事のときに口から反転して外へ出されるのは、この胃です(英語では cardiac stomach)。その上(背中側)にはもう一つの胃があり、管を通じて腕の中へ伸びる幽門盲嚢につながっています。
胃を出すヒトデも、ふだんは胃を体の中にしまっています。食事のときだけ、胃を体の外に出します。
胃をかぶせて、体の外で消化を始める
モントレーベイ水族館の解説によると、北米の太平洋岸にすむ Patiria miniata は、管足のセンサーで獲物のにおいをかぎ、獲物を見つけると胃の一つを口の外へ伸ばします。そして消化酵素で獲物を分解し始め、半ば消化した獲物ごと胃を体の中へ引き戻して、消化を終えます。体の外で始めて、体の中で仕上げる、二段階の食べ方です。このヒトデは、生きている物も死んだ物も、さまざまな植物や動物をあさって食べます。
2021年の論文も、ヒトデは胃を口から反転させて大きな獲物を体の外で消化し、消化が終わると胃を引っ込めると説明しています。胃を外へ出すには、胃の壁の筋肉と、胃を引き戻す索の筋肉がゆるむ必要があり、消化が終わると、これらの筋肉が縮んで胃が体の中へ戻ります。
白浜水族館の資料によると、アカヒトデなど一部のヒトデは、胃を吐き出して体の外で消化吸収できるため、かなり大きな獲物も食べられ、数日から1週間ほどかけて消化することもあるようです。
二枚貝を開ける、管足の力
胃を外へ出すヒトデは、二枚貝も食べます。2019年の論文によると、Asterias rubens はまず管足でイガイなどの二枚貝の殻をこじ開け、それから胃を口から出して、むき出しになった貝の身にかぶせます。食べているあいだは、腕を曲げて体の中央を盛り上げた姿勢になります。
管足の力を測った2010年の研究もあります。実験室でガラス面に付かせた管足の付着の強さは、Asterias rubens で平均0.24MPa、Marthasterias glacialis で平均0.43MPaで、管足1本あたりの最大の付着力は、それぞれ約0.15Nと0.35Nと推定されました。管足を縮める筋肉が出す力は、平均0.017Nでした。著者らは、これらの力を、二枚貝の殻を開けることと、波の当たる場所で体を保つことの2つの活動に照らして論じています。いずれも管足1本の値で、ヒトデ全体が貝を引く力ではありません。
殻を大きく開けなくても食べられる場合があります。白浜水族館の資料によると、一部のヒトデは、貝殻のすき間から胃だけを差し入れることができます。
胃の出し入れを調節する物質
胃の出し入れの仕組みは、Asterias rubens を使った実験室の研究で調べられています。2018年の論文によると、神経ペプチドの一種 S1・S2 は筋肉をゆるめ、試験管の中と体の中の実験で、胃をゆるめて反転させることが示されています。ただし、ふだんの食事でこの物質が使われているかは、推定の段階です。
2019年の論文では、別の神経ペプチド asterotocin を注射すると、約2分30秒で胃の反転が始まり、平均8分で最大になりました。ヒトデは食事のときに似た姿勢もとり、「疑似的な摂食」のような状態になりました。反対に、2013年の研究によると、NGFFYamide という神経ペプチドは、試験管の中で胃を縮ませ、体の中では反転した胃を引き戻させました。2021年の論文は、人の食欲の調節に関わるホルモンに似た物質が、ヒトデの胃を出して食べる摂食を抑えることも報告しています。
これらは注射などで人為的に胃の動きを起こした実験です。自然の食事で、何日もかけて消化が進む時間の流れとは分けて考える必要があります。2013年の研究は、この発見が、貝類やサンゴを食べるヒトデを化学的に抑える方法の手がかりになりうると述べていますが、この研究は、実用化を示したものではありません。
貝の中身だけが消える
胃を外へ出す食べ方は、日本の水産業にも関わっています。2026年の論文によると、北海道東岸のオホーツク海から根室海峡にかけての放流ホタテガイの漁場では、マヒトデとニッポンヒトデが主な捕食者で、放流したホタテガイが初期に死ぬ最大の要因として、ヒトデ類の捕食が古くから繰り返し報告されてきました。
この研究の水槽での飼育試験をまとめて解析すると、マヒトデの捕食はホタテガイの大きさに、ニッポンヒトデの捕食はホタテガイの密度に強く左右され、2種で捕食の仕方が違っていました。どちらも水温が高いほど捕食率が上がりました。試験では、身がなく殻だけが残ったホタテガイを、捕食で死んだものと判定しています。
サンゴ礁のオニヒトデも、胃を反転させてサンゴを包み込んで食べます。2022年の総説によると、オニヒトデの成体は10〜20本の腕をもち、稚ヒトデは藻類を食べることから始めて、直径8mmを超えるころからサンゴを食べるようになります。1個体が1年に最大12m²のサンゴの組織を食べるという推定も紹介されています。高知県と愛媛県で採集したオニヒトデを使った2026年の論文の実験では、目で見たり触れたりしなくても、サンゴ由来の化学的な手がかりだけで、においに導かれた移動や、ときに胃の反転が起きました。
丸呑みするヒトデもいる
胃を外へ出さないヒトデもいます。1981年の論文は、神奈川県の小田和湾でヒトデ類の暮らし方を調べました。マヒトデとイトマキヒトデは、胃を反転させて貝類や甲殻類などを捕らえ、体の外で消化吸収するという共通の食べ方をしていました。体の外で消化するので、胃の中身から食べ物を直接調べることはできませんでした。
一方、同じ湾のモミジガイ、トゲモミジガイ、スナヒトデの3種は、砂や泥の上をはって底にすむ動物を捕らえ、消化管の中へ呑み込んでいました。熊本県天草の砂地で調べた1974年の報告によると、モミジガイの仲間は貝を丸ごと胃に入れて消化します。そのため、殻を閉じて身を守ることは役に立ちません。飼育したモミジガイの仲間は、あとで消化できない貝殻を吐き出しました。
同じ種でも、食べ方を変える例があります。米国フロリダ州のタンパ湾で Luidia clathrata を調べた1985年の研究によると、このヒトデはふだん獲物を口の中に取り込みますが、獲物の少ない時期には、口の中と外の両方で、海底の有機物のかけらを食べる方へ切り替えることがありました。
ヒトデの食事を見かけても、触ったりひっくり返したりせず、そのままの姿を観察しましょう。
よくある質問
ヒトデはみんな胃を外へ出して食べるのですか?
いいえ。白浜水族館の資料によると、多くのヒトデは獲物をそのまま口で食べます。胃を外へ出すのは、Asterias 属やイトマキヒトデ、オニヒトデなど一部のヒトデで、モミジガイの仲間やスナヒトデは獲物を呑み込みます。
外へ出した胃は、どうやって戻すのですか?
胃を外へ出すときにゆるんでいた胃の壁と、胃を引き戻す索の筋肉が、消化が終わると縮んで、胃を体の中へ戻します。Asterias rubens の実験では、この動きに神経ペプチドが関わることが示されています。
ヒトデは貝をどうやって開けるのですか?
Asterias rubens は、管足で二枚貝の殻をこじ開けてから、胃をかぶせると説明されています。ガラス面を使った実験で推定された管足1本の最大の付着力は、Asterias rubens で約0.15N、Marthasterias glacialis で約0.35Nでした。殻のすき間から胃だけを差し入れるヒトデもいます。
消化にはどのくらいかかるのですか?
白浜水族館の資料によると、体の外で消化するヒトデは大きな獲物も食べられ、数日から1週間ほどかけて消化することもあるようです。かかる時間は、種や獲物の大きさで変わると考えられます。
まとめ
Asterias rubens やマヒトデ、イトマキヒトデ、オニヒトデなどは、2つある胃のうち一つを口から反転させて外へ出し、獲物を体の外で消化吸収します。二枚貝は管足で殻をこじ開けたり、すき間から胃を入れたりして食べます。
ただし、これはヒトデ全体の食べ方ではありません。多くのヒトデは獲物を口で食べ、モミジガイの仲間は貝を丸ごと呑み込みます。「ヒトデは胃を出して食べる」は、一部のヒトデの特徴です。