二枚貝は、海の底でじっとしているイメージがあるかもしれません。ところがホタテガイは、殻をパクパクと開け閉めしながら泳ぐことができます。どうやって泳いでいるのでしょうか。
ホタテガイは、閉殻筋(貝柱)で殻をすばやく閉じ、殻の中の水をちょうつがいの近くのすき間から噴き出して、その反動で進みます。殻を開くのは筋肉ではなく、ちょうつがいの靭帯のゴムのような弾力です。ただし、二枚貝がみな泳げるわけではなく、ホタテガイの仲間の中でも暮らし方には幅があります。泳ぐ仕組みと、殻の縁に並ぶ眼、ほかの二枚貝の動き方を、SOLBOY DIVE CENTERが体のつくりから掘り下げます。
殻を閉じて、水を噴き出す
大阪大学などの研究者による2019年の論文は、ホタテガイの遊泳に主に関わる体の部分として、閉殻筋、外套膜、靭帯の3つを挙げています。殻を開くと、開いたところから中へ水が入り、開き終わると外套膜がその口をふさぎます。その状態で閉殻筋が殻をすばやく閉じると、ちょうつがいの近くのすき間から水が勢いよく噴き出し、ホタテガイはその反動で前へ進みます。
水は、進む方向の右後ろと左後ろから噴き出されます。ホタテガイは噴き出す向きを調節できるため、泳ぐ方向を器用に変えられます。殻を開け閉めする動きは、拍手にたとえて「クラッピング」と呼ばれています。
開け閉めの速さを調べた研究もあります。Placopecten magellanicus という種(殻の長さ6.5cm、水温10℃)を高速撮影した研究では、泳ぐときの1回の開け閉めは平均約0.28秒で、閉じる・すべるように進む・開く、の3つにほぼ等しく分かれていました。これは別の種の1個体の値で、ホタテガイの値ではありません。
殻を開くのは、筋肉ではなく靭帯
閉殻筋は筋肉なので、殻を閉じることはできても、開く方向へ力を伝えることはできません。殻を開く役割は、ちょうつがいの靭帯が担っています。靭帯はゴムに似た弾力を持ち、閉殻筋が殻を閉じるときに押し縮められて力をため、閉殻筋がゆるむとその力で殻が開きます。この靭帯の材料は abductin というタンパク質のゴムです。靭帯の弾力で殻が自然に開く仕組みは、アサリやハマグリなど、ほかの二枚貝にも共通しています。
閉殻筋の中にも役割分担があります。多くの二枚貝では閉殻筋が前後に2つありますが、ホタテガイでは前の閉殻筋が退化して、中央に1つだけです。この閉殻筋は、クリーム色の大きな横紋筋と、その脇の白いキャッチ筋からなります。泳ぐ力を生み出すのは横紋筋の部分で、殻を閉じたまま保つときには、小さなキャッチ筋が使われます。
泳ぐのは命がけ
ホタテガイの仲間は、軽く流線形の殻、大きな速く縮む閉殻筋、ちょうつがいの弾力に支えられて泳いでいます。それでも南極の種を調べた2006年の研究者は、ホタテガイの遊泳はいつも失敗と紙一重だと表現しています。泳ぐことは一部の捕食者から逃れるのに役立つかもしれませんが、一度泳ぐと回復する時間が必要で、その間は攻撃を受けやすくなると考えられています。
殻の縁に並ぶ、鏡の眼
ホタテガイの殻の縁には、外套眼と呼ばれる小さな眼と、触角(触手)が並んでいます。2017年の研究によると、ホタテガイの仲間は最大200個の眼を持ち、それぞれの眼はレンズではなく凹面鏡で光を集めます。鏡は四角いグアニンの結晶をモザイクのように敷き詰めてできていて、二層の網膜に像を結びます。2021年の研究は、ホタテガイの仲間の眼が、最高で2°の細かさで物を見分けられると紹介しています。1992年の日本の解説では、鏡で結ばれる像は明るいが不鮮明とされていて、見え方の評価は資料の年によって違います。
泳がない二枚貝のほうが多い
泳げるのは、二枚貝の中では限られた仲間です。2021年の研究は、多くの二枚貝と違い、ホタテガイの仲間の多くの種がジェット推進で泳ぐと書いています。そのホタテガイの仲間(イタヤガイ科)の中でも、岩に固着するもの、足糸で付着してときどき泳ぐもの、くぼみにすむもの、自由に暮らすもの、活発に泳ぐものまで、暮らし方はさまざまです。2003年の論文は、「泳ぐホタテ」と「固着するホタテ」という二分はかなり人為的だとしています。
一方、ウバガイ(ホッキガイ)やバカガイ、アサリは、干潟やその周辺の砂泥の底に潜って暮らす二枚貝です。こうした潜るタイプの二枚貝は、「足」と呼ばれる器官で底に潜ります。ホタテガイは底に潜らないため、足は痕跡的になっています。
よくある質問
ホタテガイは、どちら向きに泳ぐのですか?
殻を閉じたとき、水はちょうつがいの近くのすき間から、進む方向の左右の後ろへ噴き出されます。その反動で、殻が開く側を前にして進みます。
二枚貝はみな泳げるのですか?
いいえ。泳げるのはホタテガイの仲間の多くの種などに限られます。アサリなどは足で砂に潜って暮らし、ホタテガイの仲間にも固着したり付着したりして暮らす種がいます。
ホタテガイの眼は、何個あるのですか?
2017年の研究では、ホタテガイの仲間は最大200個の眼を持つとされています。数は種や個体によって違い、殻の縁に沿って並んでいます。
まとめ
ホタテガイは、外套膜で殻の口をふさいだまま閉殻筋で殻をすばやく閉じ、ちょうつがいの近くから水を噴き出して泳ぎます。殻を開くのは靭帯の弾力で、泳ぐ力は閉殻筋の横紋筋が生み出します。
ただし、泳げるのは二枚貝の中でも限られた仲間で、多くの二枚貝は泳がずに暮らしています。殻の縁には、鏡で光を集める眼も並んでいます。