左右で目の大きさが違うイカがいる?上寄りと下寄りを見る深海の目

深海のイカの中には、左の目が右の目よりずっと大きい仲間がいます。ゴマフイカ科のイカです。左右で目の大きさを変えて、何を見ているのでしょうか。

2017年に発表された研究は、米国カリフォルニア州のモントレー海底谷で無人潜水機が撮影した映像から、このイカの目の向きを調べました。Histioteuthis heteropsis の成体では、大きい左目は上寄り(真上から平均約45°)、小さい右目は水平よりやや下を向いていました。視覚の計算モデルと合わせて、研究者は、大きい目は上からのかすかな太陽の光を背にした影を、小さい目は下に光る生物発光を見るのに向いていると考えています。ただし、目の働きを直接測った研究ではありません。左右で違う目のつくりと、その役割を調べた研究について、SOLBOY DIVE CENTERがお伝えします。

左右で大きさも形も違う目

ゴマフイカ科(Histioteuthidae)のイカは、左右の目の大きさや形、ときにはレンズの色まで違います。2017年の論文によると、この科は当時18種で、ゴマフイカ属(Histioteuthis)15種と Stigmatoteuthis 属3種からなります。

同じ論文が先行研究から紹介するところでは、左目の直径が右目の2倍を超えることもあります。小さい右目はふつうの半球の形のままですが、左目は筒を半分にしたような形になります。違いは脳にも及び、目からの情報を受け取る視葉という部分も、左が右の2倍の大きさになることがあります。

生まれたときから違うわけではありません。ふ化したばかりの幼生の目は小さく、左右同じです。稚イカに育つあいだに左目が大きくなり、種によっては頭が胴の軸からずれるほどになります。

深海の光は、上からと、生き物から

目の役割を考えるには、すんでいる場所の光を知る必要があります。2017年の論文によると、水深200〜1000mほどの中深層で、目に使える主な光は、上から届く太陽の光と、生き物が出す光(生物発光)の2つです。太陽の光は、澄んだ外洋では水深100mごとにおよそ1.5桁ずつ弱まります。

上から届く光がつくる広がった像は、目を真上に向けたときに最も見つけやすく、生物発光は、太陽の光が少ない下向きのほうが、まわりとの明暗の差がはっきりします。かつては、左右の目がそれぞれ浅い場所と深い場所の明るさに合わせたものだという考えもありましたが、一部のゴマフイカ科が昼と夜で深さを変えるという証拠が出て、疑問視されるようになりました。

映像で確かめた、目の向き

このイカは、大きい目を上に、小さい目をやや下に向けているのではないか。1975年に、ハワイ・オアフ島沖でとれた標本を調べた研究者が、そう予測していました。しかし、深海で生きたイカを観察するのは難しく、2017年まで野外で確かめられていませんでした。

2017年の研究では、米国のモントレー湾水族館研究所(MBARI)が1989年から2015年7月までに無人潜水機で記録したゴマフイカ科の全目撃記録を見直し、Histioteuthis heteropsis 152個体と Stigmatoteuthis dofleini 9個体の姿勢と目の向きを調べました。

観察した161個体はすべて、頭と腕を下、胴の後ろの端を上にした、垂直か斜めの姿勢でした。H. heteropsis の成体の体は、垂直から平均20°ほど傾いていました。大きい左目は、真上を0°、真下を180°としたとき、平均45°の上寄りに向いていました。小さい右目は平均123°で、水平よりやや下を向いていました。S. dofleini も、同じような向きでした。

研究者は、この姿勢と目の向きを自然な行動とみなしましたが、潜水機やその照明がイカを驚かせている可能性もあると書いています。

大きい目は上に、小さい目は下に向いている理由

研究者は、目の大きさと見える距離の関係を、計算モデルで調べました。水深300〜500mの澄んだ外洋で、真昼の太陽を仮定した計算です。その結果、ひとみを大きくしたときに見える距離が伸びる効果は、真上を向いて、上からの光を背にした黒い物を見る目で最も大きくなりました。

たとえば水深300mで、下向きの目が、上向きの直径1.5mmのひとみと同じ距離で黒い物を見つけるには、直径40mmのひとみが必要になります。下向きの目は、大きくしても影を見る力はほとんど伸びないということです。研究者は、このモデルの見える距離は実際より大きく見積もられている可能性が高いと注意しています。

こうした結果から、研究者は、左右の目の違いは浅い場所と深い場所の明るさの違いに合わせたものではなく、中深層の、方向によって大きく違う光の環境に合わせたものだと結論しました。目は作るのも使うのもエネルギーがかかるため、仕事に足りるだけの大きさの目が有利になり、上向きの目だけが大きくなる方向へ進化が進んだのではないか、と研究者は考えています。ただし、これは推論で、進化の過程を直接示したものではありません。

黄色いレンズの謎

大きい左目には、黄色いレンズをもつものがいます。2017年の研究の映像の判定では、H. heteropsis の稚イカ18個体の左目のレンズはすべて無色でしたが、成体では69個体のうち45個体が黄色でした。小さい右目のレンズは、2種のどの標本でも無色に見えました。

船の上で S. dofleini 1個体の黄色いレンズを測ると、波長465nmで光の半分を通す、短い波長の光を切るフィルターとして働いていました。上を向く深海魚にも黄色いレンズが多く見られ、腹側を光らせて自分の影を消す生き物を見破るのに役立つと考えられています。研究者は、このイカの黄色いレンズも同じ働きをするかもしれないと考えていますが、この研究は、イカが黄色いレンズで擬態を見破れることを実験で確かめたものではありません。

H. heteropsis の稚イカは水深173〜487m、成体はそれより深い200〜766mで見られ、左目が大きくなる時期は、より深く暗い層へ移っていく時期と重なっていました。ただし、二つが同時に起きることが分かっただけで、どちらが原因かは示されていません。

よくある質問

大きい目は真上を、小さい目は真下を見ているのですか?

H. heteropsis の成体では、大きい左目は真上から平均約45°の上寄り、小さい右目は水平よりやや下(平均123°)を向いていました。「上を見る目」「下を見る目」というより、「上寄り」と「やや下」に向いた目です。

左右の目の違いは、生まれつきですか?

いいえ。ふ化したばかりの幼生の目は左右同じで、稚イカに育つあいだに左目が大きくなります。

海のどのあたりにすむイカですか?

外洋の中深層にすむ仲間です。この研究では、Histioteuthis heteropsis の稚イカは水深173〜487m、成体は200〜766mで観察されました。研究は無人潜水機の映像や、網でとれた標本を使って行われています。

まとめ

ゴマフイカ科のイカは、左目が右目より大きく、形やレンズの色も違います。モントレー海底谷の映像を調べた2017年の研究では、大きい目は上寄り、小さい目は水平よりやや下を向き、尾を上にした姿勢がその向きを支えていました。

計算モデルとあわせて、大きい目は上からのかすかな光を背にした影を、小さい目は生物発光を見るのに向いていると考えられています。黄色いレンズの役割など、確かめられていないこともまだ残っています。