外洋には、透明な樽のような生き物が何十、何百とつながって、鎖のように漂っていることがあります。サルパの仲間です。どうして1匹ずつではなく、つながった姿になるのでしょうか。
サルパは、1匹で暮らす「単独個虫」の世代と、たくさんの個体が鎖のようにつながった「連鎖個虫」の世代を、交互にくり返します。鎖は、単独個虫が体から無性的に作り出したもので、つながった個体はみな遺伝的に同じです。つながっていることには泳ぎの利点があることも分かってきましたが、その研究の多くは真っすぐな鎖をつくる種で行われたもので、ほかの形の鎖の利点はまだ分かっていません。サルパの一生と鎖で泳ぐしくみについて、研究で分かってきたことをSOLBOY DIVE CENTERがまとめました。
水を噴き出して進む、透明な樽
ウッズホール海洋研究所の2009年の解説によると、サルパは透明な樽の形をした生き物で、北極海を除くすべての海にいて、約40種が知られています。サルパは拍動のたびに体の前の口から海水を吸い込み、筋肉の帯を縮めて後ろの口から水を噴き出し、その噴流で前へ進みます。そのあいだに、水の中の小さなプランクトンが体の中の粘液の網に捕らえられます。一つのポンプの動きで、食べることと泳ぐことを同時にこなしているのです。
体の両端に口があるので、サルパは前にも後ろにも泳げます。2026年の解説によると、サルパの仲間は、一生のどの時期にも泳いで暮らします。日本でも、北海道の石狩浜に、淡いピンク色で長さ5〜10cmほどのモモイロサルパ(Pegea confoederata)が大量に打ち上げられた記録があります。
単独の世代と、連鎖の世代
サルパの一生は、2つの姿を交互にくり返します。単独個虫は無性的に新しい個体を作り出し、それらはたくさんの個体が連なった鎖として親から出てきます。鎖の個体は有性生殖をして、次の世代の単独個虫を作ります。2023年の論文によると、鎖の個体は胎盤で次の単独個虫を育てます。サルパは幼生の時期を経ずに、親の体の中で育つ直接発生をします。
鎖ができるしくみも調べられています。同じ論文によると、サルパの鎖は、鏡に映したように左右が反対の個体の対が2列に並んだ形で作り出されます。どの種の鎖も、はじめは横向きの2列の鎖として作られ、その後で種ごとの形に育っていきます。放出されたばかりの鎖は、数十から数百の個体からなります。
季節との関係は、南極海の Salpa thompsoni でよく調べられています。2023年の論文によると、鎖の個体は生まれたときは雌で、出産後に雄に変わる雌雄同体とされてきました。雌の個体が産んだ1匹の単独個虫は、冬に深い場所で育ち、夏に新しい鎖を放出します。夏の鎖は1時間に長さが10〜20%伸びるほど速く育ち、大群になることがあります。ただし2025年の論文は、2018年の夏から秋に南極半島の周辺で採集した個体で、条件によってはこの雌から雄への順序から外れる発達が見られたと報告しています。
鎖の形は、種によってさまざま
「鎖」といっても、形は一つではありません。2023年の論文によると、サルパのつながり方には、横向き、斜め、真っすぐ、らせん、羽のような形の鎖のほか、輪の形や房の形の群れまであり、41種のサルパに分かれています。
この論文が遺伝子から祖先の形を推定すると、真っすぐな鎖は何度も別々に進化していて、ほかのどの形より多く生まれ直していました。真っすぐな鎖は水の中で最も効率がよいという仮説がありますが、真っすぐ以外の形にどんな利点があるのかは、もしあるとしても分かっていません。
ばらばらの拍動が、泳ぎを滑らかにする
鎖で泳ぐと、どんな利点があるのでしょうか。2017年の論文が紹介する Salpa fusiformis の実験室のデータでは、1個体だけで拍動すると、水を噴き出すあいだに速くなり、吸い込むあいだに遅くなる、むらのある泳ぎ方になりました。8個体の鎖で全員が拍動すると、1個体だけが拍動したときより、速さの変化がずっと滑らかになりました。
大切なのは、全員がそろって拍動しないことです。この論文は、パナマの太平洋岸にある研究所で Iasis cylindrica(以前の名前は Weelia cylindrica)の鎖を撮影し、それぞれの個体が自分の速さで拍動して、隣の個体とずれていることを確かめました。理論の上では、ずれた拍動で泳ぐと速さが一定に近づき、水の抵抗も抑えられます。全員が同時に拍動すると、加速と惰性をくり返す効率の悪い泳ぎ方が残ってしまいます。研究者は、ふだんの前進では、鎖の個体の噴射は協調しておらず、拍動の速さとずれから全体の動きが生まれていると述べています。ずれた泳ぎ方には、鎖の一部の個体が失われても泳ぎ続けられる利点もあります。
個体どうしは、つながっている部分を通じて電気的な信号を伝えることができます。そのつながりで前にも後ろにもそろって泳げますが、そろった泳ぎが見られるのは、危険から逃げるときだけです。
噴流がぶつからない並び方
研究者が夜の外洋で蛍光の色素を使って水の流れを見ると、噴流は各個体の口から別々の時刻に出て、互いにぶつかりませんでした。
2024年の論文は、フロリダ州ウェストパームビーチ沖、ハワイ島コナ沖、パナマの太平洋岸の3か所の外洋で Iasis cylindrica の鎖66本を撮影し、31本を採集して調べました。この種の鎖は、時計回りにも反時計回りにも回転でき、10個体を超える長い鎖は、らせんを描いて泳ぎます。立体の撮影から、このらせんの動きは、鎖の軸に対して斜めに並んだ個体が生むねじる力から生じることが分かりました。噴流は進む方向に対して小さな角度で出るので、互いに打ち消し合わず、推す力を大きく保てます。
2025年の論文では、真っすぐな鎖の群れがほかの形より速く泳ぎ、速く泳ぐほど移動にかかるエネルギーが少ないと見積もられました。研究者は、サルパがとても深くまで毎日上下に移動できるのは、少なくとも一部はこうした効率のよい泳ぎで説明できると考えています。
よくある質問
鎖になったサルパは、1匹の生き物ですか?
鎖は、遺伝的に同じたくさんの個体がつながったものです。一つ一つの個体が自分で水を吸い込んで噴き出し、それぞれ有性生殖をします。強い刺激で鎖がばらばらになっても、個体は1匹で泳げますが、自然の中ではまれです。
鎖の個体は、そろって泳いでいるのですか?
ふだんの前進では、個体ごとに拍動の速さとタイミングがずれています。そのずれが、鎖全体の泳ぎを滑らかにしています。全員がそろって拍動するのは、逃げるときだけです。
サルパの鎖はどのくらい長くなるのですか?
放出されたばかりの鎖は数十から数百の個体からなります。2017年の論文の著者は、個体の大きさによっては最長10mにもなる鎖を観察したと書いています。北海道の石狩浜に打ち上げられたモモイロサルパは、多くが数個体から10個体ほどの鎖でした。
まとめ
サルパは、1匹で暮らす単独個虫と、遺伝的に同じ個体がつながった連鎖個虫の世代を交互にくり返します。鎖は、単独個虫が左右反対の個体の対を2列に並べて作り出したもので、種によって真っすぐ、らせん、輪などさまざまな形に育ちます。
真っすぐな鎖をつくる種の研究では、個体ごとにずれた拍動が泳ぎを滑らかにし、噴流もぶつからないことが分かりました。ほかの形の鎖にどんな利点があるのか、なぜ何度も真っすぐな鎖が生まれたのかは、まだ仮説の段階です。