クリオネはどうやって餌を捕る?口から裏返って飛び出すバッカルコーン

「流氷の天使」とも呼ばれるクリオネ。透明な体で翼のようなひれを動かして泳ぐ姿からは想像しにくいのですが、クリオネは獲物を素早く捕らえる捕食者です。どうやって餌を捕っているのでしょうか。

クリオネの仲間を Clione limacina という学名で調べた研究では、獲物の小さな巻貝 Limacina に触れると、口の中から3対6本の「バッカルコーン(口円錐)」を、液体の圧力で裏返すように突き出して獲物を取り囲みます。口が開くのは10〜20ミリ秒、バッカルコーンがふくらむのは50〜70ミリ秒という一瞬の動きです。捕らえた獲物は殻の口を自分の口に向けさせ、フック(鉤)と歯舌を交互に動かして殻から体を引き出して食べます。バッカルコーンを使ったクリオネの食べ方を、SOLBOY DIVE CENTERが研究からご紹介します。

泳ぐ巻貝が、泳ぐ巻貝を食べる

モントレー湾水族館の解説によると、クリオネは泳ぐ巻貝の一種で、陸の巻貝では筋肉質の足にあたる部分が、外洋を泳ぐための翼のような部分に変わっています。体は透明でゼラチンのようで、殻はありません。クリオネも、その餌になる殻をもった小さな巻貝も、翼足類という同じ泳ぐ巻貝の仲間です。

クリオネは偏食で知られます。多くの研究が、Clione limacina を、Limacina 属の小さな巻貝、特に Limacina helicina を食べる専門家として扱っています。蘭越町貝の館の解説も、クリオネは巻貝の一種ミジンウキマイマイしか捕食しないと説明しています。ただし、胃の中身のDNAを調べた2013年の修士論文は、端脚類やカイアシ類のDNAの痕跡も見つけていて、ほかの餌も食べている可能性を示しています。これは査読を受けた論文ではありません。

「クリオネ」と呼ばれる種

クリオネという呼び名は、ハダカカメガイ属(Clione)の生き物を指します。蘭越町貝の館の2019年の解説によると、この属は、えらをもたず、口円錐(バッカルコーン)を3対6本もつことで定義されます。

和名と学名の対応には注意が必要です。2017年の研究で、北大西洋と北太平洋の「Clione limacina」は別の種だと提案され、日本の分類では、北太平洋のハダカカメガイは Clione elegantissima、北大西洋や北極の Clione limacina はダイオウハダカカメガイと呼ばれるようになりました。英語の研究の多くは Clione limacina を対象にしていて、標本をどの海でとったのかが分からない研究もあるため、この記事では研究で使われた学名のまま紹介します。

また、すべてのクリオネがバッカルコーンで獲物を捕らえるわけではありません。2017年に北海道東部の沿岸から新種として記載されたダルマハダカカメガイ(Clione okhotensis)は、バッカルコーンがとても短く、捕食に使いません。

口の中から裏返って飛び出す

捕らえる瞬間は、高速度撮影で調べられています。1992年の研究によると、Clione limacina が Limacina helicina を捕らえるとき、口がすばやく開き、3対のバッカルコーンが突き出ます。口が開くのに10〜20ミリ秒、バッカルコーンが液体の圧力でふくらむのに50〜70ミリ秒しかかかりません。獲物に触れなかったときは、すぐに引っ込めます。

モントレー湾水族館の解説は、これを「頭から指のような触手を押し出す」と表現していますが、2019年の論文によると、バッカルコーンは口の内側から裏返るように出てきます。高速度撮影の解析からは、口はバッカルコーンに押し開けられるのではなく、自分から開いていると考えられています。ふくらんだバッカルコーンは、獲物に触れる前はまっすぐで、最大113°まで大きく開いています。獲物に触れると、一本一本が口の方へ曲がります。

この速さを生む仕組みについて、1993年の研究は、反対の働きをする神経を同時に働かせて、まず頭の中の体の空間の圧力を高めておくためだと提案しています。2019年の論文は、筋肉の配置から、輪の形の筋肉が突き出しに、縦の筋肉が引っ込めや、獲物に触れた後の曲げと扱いに使われると考えています。どちらも、体のつくりや神経の実験からの推定です。

粘る物質で取り囲み、向きを変える

1992年の研究によると、バッカルコーンは獲物を取り囲み、粘り気のある物質を出します。表面に並ぶ小さな突起がその出どころとみられ、この物質は獲物の殻にくっつく接着剤として使われているのかもしれません。

2019年の論文によると、捕らえた獲物は、殻の口がクリオネの口の上に来るように向きを変えられます。神経の標本を使った1995年の研究では、獲物に触れたときの感触と化学的な刺激の両方が、捕獲に関わる神経を働かせました。生きた Limacina か、その汁以外の物では、これらの神経は反応しませんでした。ただし、これは取り出した神経の標本での結果で、海の中の行動をそのまま確かめたものではありません。

フックと歯舌で、殻から引き出す

獲物を殻から引き出すのは、フックと歯舌です。2020年の論文がまとめた先行研究によると、Clione limacina の狩りの道具は、粘る腺をもつ3対のバッカルコーン、2つのフックの袋、小さな歯舌からなります。それぞれのフックの袋には、キチン質のフックが約30本、不規則な列に並んでいます。

2002年の研究によると、フックと歯舌は常に逆のタイミングで動き、交互に獲物の体をつかんで殻から引き出します。1989年の研究では、口の部分と神経を一緒に取り出しても、歯舌とフックはリズミカルな食べる動きを続けました。神経だけでも、そのリズムを生み出せました。

2020年の論文は、ロシアの白海で採集した Clione limacina 13個体の歯舌を調べ、幅の広い中央の歯と、鉤の形をした7〜12本の側歯があることを報告しました。歯の大きさと数は、一生のあいだに増えていきます。筋肉の配置からは、獲物をこそげ取るときに歯舌が大きく役立っていることがうかがえるかもしれない、と著者は考えています。

食べ終わるまでの時間は、資料によって違います。モントレー湾水族館は捕食の全過程に2〜45分かかるとし、2020年の論文は、バッカルコーンが獲物を最長数時間保持するとまとめています。

よくある質問

バッカルコーンは、頭から出る触手ですか?

一般向けの解説では「頭から出る触手」と表現されることがありますが、研究によると、口の内側から液体の圧力で裏返るように出てくる器官です。頭にある触角とは別のものです。

クリオネは Limacina しか食べないのですか?

多くの研究や解説は、Limacina 属の小さな巻貝を専門に食べると説明しています。ただし、胃の中身のDNAから、ほかの小さな甲殻類の痕跡を見つけた修士論文(査読前)もあります。

どのクリオネもバッカルコーンで捕らえるのですか?

いいえ。ダルマハダカカメガイ(Clione okhotensis)は、バッカルコーンがとても短く、捕食に使いません。

まとめ

Clione limacina という学名で報告された研究では、獲物の Limacina に触れると、口の中から3対6本のバッカルコーンを液体の圧力で一瞬のうちに裏返して突き出し、獲物を取り囲みます。殻の口を自分の口に向けさせた後、フックと歯舌を交互に動かして、殻から体を引き出して食べます。

粘る物質の働きやふくらむ仕組みには、推定の部分も残っています。研究の多くは Clione limacina を対象にしたもので、日本のハダカカメガイ(Clione elegantissima)とは学名が分けられている点にも注意が必要です。