深海の魚の映像で、頭の上が透明なドームのようになっていて、その中に緑色の目が光っている魚を見たことがあるでしょうか。デメニギス(Macropinna microstoma)です。なぜ頭の上が透けているのでしょうか。
デメニギスの目は、頭の上部をおおう透明で液体に満ちたシールドの中に収まっています。筒の形をした管状の目は、ふだんは上を向いて頭上の獲物の影を探しますが、シールドの中で向きを変え、食べるときには前を向けられることが、深海の映像と船上での観察から分かりました。一方で、シールドがなぜ透明なのか、どんな役に立っているのかは、まだ仮説の段階です。デメニギスの目とシールドのしくみを、深海の映像を使った研究とあわせてSOLBOY DIVE CENTERがご紹介します。
北太平洋の深海にすむ魚
デメニギスは、デメニギス科(Opisthoproctidae)の魚です。モントレー湾水族館の解説によると、体長はふつう15cmまでの小さな魚で、繁殖についてはほとんど分かっていません。2008年の論文によると、米国のモントレー湾をはじめ、北太平洋の亜寒帯から温帯の、中深層の下のほうにすんでいます。モントレー湾水族館研究所(MBARI)の解説は、分布をベーリング海から日本、バハカリフォルニアまでとしています。
MBARIの2009年の発表によると、カリフォルニア州中部の沖で無人潜水機のカメラがとらえたデメニギスは、水深600〜800mで、ほとんど動かずに浮かんでいることが多くありました。大きく平らなひれで、水中でほとんど止まったまま、正確に向きを変えられます。
筒の形をした目
デメニギス科のいくつかの魚は、目が筒の形をしていることから、英語で「barreleye(樽の目)」と呼ばれます。2016年の論文によると、デメニギス科のすべての種が、この管状の目をもっています。
MBARIの発表によると、管状の目は光を集めるのに優れていますが、見える範囲がとても狭いのが弱点です。2014年の論文によると、上を向いた管状の目は、上から差し込む光への感度が高く、上にいる動物の影をとらえやすくなっています。その反面、管状の目では、主な網膜に光が届く範囲は、ふつう真上を中心とした50°未満に限られます。
デメニギスの管状の目の先には、明るい緑色のレンズがあります。口の上にある2つの点は目ではなく、においを感じる鼻の穴です。
透明なシールドの発見
MBARIの発表によると、それまでのデメニギスの記載や図には、頭の上の透明なシールドは描かれていませんでした。網で引き上げるときに、このもろい構造が壊れてしまったためと考えられています。無人潜水機の映像によって、目が頭の上をおおう透明で液体に満ちたシールドに囲まれていることが、初めて分かりました。
2008年の論文の要約によると、透明なのは頭全体ではなく、目をおおう頭の上の部分です。デメニギス科の別の論文は、この仲間の種はどれも透明なシールドをもつらしいと述べていますが、確かめられたことではありません。
上を向いた目で、どうやって食べる?
かつて、デメニギスの目は頭に固定されていて、視線は真上を向いたままだと考えられていました。ところが、目が上を向いた状態では、口が見える範囲に入りません。どうやって食べているのかは謎でした。
2008年の論文は、現場の観察と実験室での研究から、目の向きが上向きから前向きへ変わることを明らかにし、この謎を解いたとまとめています。MBARIの発表によると、網で採集した1個体を船上の水槽で数時間観察すると、体を水平から垂直に向けるときに、管状の目を回転させました。頭上の餌を探すときは目を上に向け、食べるときは前に向けるのです。目を大きく動かして見回すことで、狭い視野を広げていると考えられています。ただし、目や体を動かしても、ある瞬間に見られる範囲は限られています。
2022年の論文は、さらに別の仕組みを報告しています。デメニギス科の中深層の魚は、これまで調べられた種のすべてが、下の方からの光を感じる「憩室」という部分で視野を広げていました。デメニギスでは、標準体長32mmの小さな個体に比較的単純な憩室があり、55mmの大きな個体ではより大きく複雑になっていました。大きな個体の憩室は、体の下から入る焦点の合わない光を感じ、下の空間を確かめる働きをしていると考えられています。これは2個体を調べた予備的な結果です。
シールドと緑のレンズは何のため?
シールドの役割については、仮説がいくつかあります。2008年の論文は、透明なシールドが刺胞動物の触手から目を守っているのかもしれないと述べています。MBARIの発表によると、網で採集した2個体の胃にはクラゲの断片が入っていました。研究者は、デメニギスがクダクラゲの仲間の触手の間を慎重に動き、触手に捕まった獲物を横取りしているのではないかと推測しています。そうであれば、目の回転は獲物を見続けるのに役立ち、シールドはクダクラゲの刺胞から目を守ることになります。モントレー湾水族館も、胃の中身から、クダクラゲの触手に捕まった甲殻類を食べている可能性があると紹介しています。
緑色のレンズについても、MBARIの研究者は、海面から真上に差し込む日光をこし取り、頭上のクラゲなどが出す光を見つけやすくしているのかもしれない、という作業仮説を示しています。1988年の研究では、デメニギスのレンズの色素は、青から近紫外の短い波長の光を吸収していましたが、日光をこし取る働きそのものを確かめた研究ではありません。
研究者は2009年の時点で、この発見がほかの管状の目をもつ深海魚にも当てはまるかを、これから調べたいとしていました。
よくある質問
デメニギスは頭全体が透明なのですか?
透明なのは、目をおおう頭の上の部分のシールドです。その中が液体で満たされていて、管状の目が収まっています。
デメニギスの目は、真上しか見られないのですか?
いいえ。シールドの中で目を回転させて、前を向くことができます。2022年の論文では、下からの光を感じる憩室という部分も見つかっていますが、2個体を調べた予備的な結果です。
なぜ頭の上が透明なのですか?
シールドがなぜ透明なのか、どんな役割をもつのかは、はっきりしていません。目は透明なシールドの中で上を向き、頭上の獲物の影を探しています。シールドがクダクラゲなどの刺胞から目を守っているという考えがありますが、仮説の段階です。
まとめ
デメニギスの管状の目は、頭の上部をおおう透明で液体に満ちたシールドの中に収まっていて、上向きから前向きへ向きを変えられます。上を向いて頭上の影を探し、前を向いて食べることで、管状の目の狭い視野という弱点を補っています。
シールドが刺胞から目を守る、緑のレンズが日光をこし取るといった考えは、まだ仮説です。観察は少ない個体に基づいていて、深海での暮らしには分からないことが多く残っています。