ホタテの目の鏡はどうできる?四角い結晶を並べる眼と2つの網膜

ホタテガイの仲間の殻の縁には、小さな眼がずらりと並んでいます。その眼の奥には、光を集める「鏡」があります。鏡は何でできていて、どうやって作られ、どんなふうに見えているのでしょうか。

ホタテガイの仲間の眼は、レンズではなく、眼の奥の凹面鏡で光を集めて像を結びます。鏡は、グアニンという物質の四角く薄い結晶をタイルのように重ねた層でできていて、結晶の向きまでそろえられています。眼の中には2つの網膜があり、それぞれ違う光の情報を受け取っていると考えられています。鏡のつくりと作られ方、2つの網膜と見え方の研究を、SOLBOY DIVE CENTERが論文から掘り下げます。

レンズではなく、鏡で像を結ぶ眼

ホタテガイの仲間の眼は短い柄の先にあり、角膜、レンズ、2つの網膜、凹面鏡を含むことが100年以上前から知られていました。2016年の論文によると、1965年の研究が、ヨーロッパホタテガイ Pecten maximus のレンズには、どちらの網膜にも光を集める屈折力がないことを示しました。像をつくるのは眼の奥の鏡で、ホタテガイの仲間は、像を結ぶのに凹面の球面鏡を使うことが示された最初の動物だと、同じ論文は述べています。のちに、深海魚 Dolichopteryx longipes なども加わりました。

1992年の日本語の解説は、レンズが鏡のゆがみ(球面収差)を補正し、シュミットカメラの補正板と同じような働きをするという見方を紹介しています。2017年の研究は、タイルを張ったような、光軸から外れた配置のホタテガイの鏡を、反射望遠鏡の分割鏡にたとえています。

四角い結晶を敷き詰めた多層の鏡

鏡は、何層にも重なった反射体です。2019年の論文によると、グアニンの結晶が、厚さ約75nmの屈折率の高い層をつくっています。2017年の研究によると、この層構造は、ホタテガイのすむ場所まで届く光の波長を反射するよう調整されていて、ナノメートルの結晶からミリメートルの立体的な形まで、像を結ぶように段階的に組み立てられています。

ヨーロッパホタテガイを調べた2023年の論文によると、鏡は正方形の結晶がタイル状に重なってできています。グアニンの結晶はその性質から本来は正方形にはならないため、これは特別な形です。正方形の結晶は、3つの領域が組み合わさった双晶でできています。さらに、結晶の反射率の高い面が鏡の全体で入ってくる光の方を向き、光を2つの網膜の焦点へ向けています。グアニン結晶は、結晶の面に沿った方向の屈折率がとても高く(1.83)、すぐれた光学的な性質をもちます。一方、水溶液の中で人工的に育てた結晶は、屈折率の低い(約1.45)面が出る向きに育ちます。

鏡の結晶は、どうやって作られるのか

グアニンの結晶は、虹色素胞という細胞の中の、イリドソームという膜で囲まれた小さな袋の中でできます。2023年の論文の研究チームは、ノルウェーで育てられたヨーロッパホタテガイの幼貝(殻の大きさ10〜20mm、孵化後約2か月)の眼で、この袋のでき方を追いました。幼貝は、直径150〜250μmの小さな眼を数十個もっていました。

幼貝の鏡は、成貝のように正方形がきっちり敷き詰められた形ではなく、ゆるく並んだ枕のような形の袋でできていました。袋の中には、あらかじめ組み上がった繊維状のシートがあり、未熟な結晶はこのシートのあいだで生まれます。シートは結晶の反射率の高い面をふさいで、その方向への成長を抑え、結晶はシートに沿って育って、反射率の高い板になります。研究チームは、結晶の向きが、初期の袋の中に「あらかじめ組み込まれて」いることを示しました。

ただし論文は、シートが結晶の生まれ方をどこまで制御し、形を決めているのかは、止まった電子顕微鏡の画像からは決めきれないとしています。研究チームは、この袋の形づくりが、脊椎動物で色素の沈着の型となるメラノソームのでき方によく似ているとも述べています。

2つの網膜は、別の光を受け取る

ホタテガイの仲間の眼は、2つの別々の網膜をもつ数少ない眼の一つです。2016年の論文がまとめた先行研究によると、外側(遠位)の網膜の視細胞は光が急に減ると反応し、奥(近位)の網膜の視細胞は光の強さに応じて反応します。ヨーロッパホタテガイでは、遠位の網膜は動く物に反応して止まった物には反応せず、近位の網膜は動きには敏感でないものの、光の強さの情報を伝えます。2つの網膜の視細胞のあいだには、つながり(シナプス)は見つかっていません。

視細胞の種類も違います。遠位の網膜には、脊椎動物の桿体や錐体のように光で過分極する繊毛型の視細胞が、近位の網膜には感桿型の視細胞があります。日本語の総説は、感桿型が明暗の見分けに、繊毛型が物の動きの検出に関わると考えられているとしています。ホタテガイの繊毛型の視細胞が、桿体・錐体とは違う経路で光の信号を伝えることは、日本の研究グループが1997年に報告しています。

像がどちらの網膜に結ぶかについては、見方が分かれています。従来の光線追跡のモデルでは、遠位の網膜が鏡の焦点の近くにあり、近位の網膜にはピントの合わない光が届くと考えられてきました。2016年の論文のモデルは、色のずれや物までの距離の違いから、両方の網膜に同時にピントが合うことはないと予測しています。一方、2017年の研究は、鏡が二層の網膜に像を結び、周辺の視野と中心の視野を別々に写すとしています。

どのくらい見えているのか

見え方を調べた実験もあります。2016年の論文が紹介する電気生理の研究では、ヨーロッパホタテガイの眼は、幅2°の細い動く暗い縞にも反応しました。一方、米国の業者から入手した Argopecten irradians を使った2021年の行動実験では、ゆっくり回る縞を追う個体は、縞の幅20°で16個体中11個体、5°で9個体でしたが、2°では0個体でした。この実験では、ホタテガイは体を動かさずに、殻のまわりの少なくとも270°の範囲で目の手がかりの位置を見分け、感覚の触手をそちらへ向けました。研究チームは、遠くの捕食者を目で見つけ、近くでは触手で確かめるという2段階のしくみを仮説として提案しています。

2008年の研究では、流れのある水槽で漂う粒子の映像を見せると、A. irradians は1.5mm角の粒子のときに、前方の外套膜のすき間をより多く開きました。研究チームは、動く粒子の大きさと速さを目でとらえ、餌をとりやすい条件の判断に使っている可能性があるとしています。眼には瞳もあり、2019年の研究によると、光を当てると数分のうちに、最大に開いたときの約60%の面積まで縮みます。

日本の研究もあります。鹿児島大学の研究者による2005年の論文によると、ツキヒガイ Amusium japonicum の眼は左の殻の側だけにあり、調べた個体では大きな眼が57個、小さな眼が46個でした。眼の電気的な反応を調べると、433〜700nmの広い波長の光に感じ、470〜520nm付近で最も敏感でした。

よくある質問

ホタテガイの鏡は何でできているのですか?

グアニンという物質の、四角く薄い結晶をタイル状に何層も重ねてできています。2023年の研究によると、結晶の反射率の高い面が、光の来る方にそろって向いています。

2つの網膜は、同じものを見ているのですか?

先行研究によると、外側の網膜は動きや光が急に減ることに、奥の網膜は光の強さに反応します。ただし、像がどちらの網膜に結ぶかは研究によって見方が分かれていて、2つの網膜で別々の像を見ていると言い切ることはできません。

日本のホタテガイでも同じ研究がされているのですか?

鏡の結晶の研究は主にヨーロッパホタテガイ、見え方の行動実験は主に北米の Argopecten irradians で行われています。日本のホタテガイでは視細胞の光の伝わり方の研究が、ツキヒガイでは眼の光の感じ方の研究が報告されています。

まとめ

ホタテガイの仲間の眼は、レンズではなく、グアニンの四角い結晶を何層にも敷き詰めた凹面鏡で像を結びます。結晶の向きは、眼が作られる初期から、細胞の中の繊維状のシートによって決められていると考えられています。

眼の中の2つの網膜は、動きや影と、光の強さという違う情報を受け取っているようです。実験では、殻のまわりの広い範囲で目の手がかりの位置を見分けることも分かってきましたが、像の結び方や情報の使われ方には、まだ見方の分かれる点が残っています。