エビやカニはなぜ脱皮する?硬い殻と成長の仕組み

カニの甲羅やエビの殻は、体の外側を覆う鎧のようなものです。これほど硬いもので包まれていて、どうやって体を大きくしているのでしょうか。

その答えが脱皮です。エビやカニの殻は体の外側にある骨格(外骨格)で、殻そのものは大きくなりません。そこで古い殻の内側に新しい殻を用意し、水を取り込みながら古い殻を脱ぎ捨て、まだ軟らかい新しい殻ごと体を膨らませてから硬くします。この流れと、殻が軟らかい時期の暮らし方について、SOLBOY DIVE CENTERが解説します。

紹介する研究や解説は、アメリカ東海岸のアオガニ、北西大西洋のロブスター、アラスカの海のカニ、日本海のズワイガニなど、特定の種と海域を調べたものです。マクタン周辺のエビやカニを調べたものではなく、回数や日数は、その種・その条件での値です。

殻は成長しないから、脱いで大きくなる

NOAA(アメリカ海洋大気庁)の水産部門は、カニなどの甲殻類は多くの動物のように連続して大きくなることができない、と説明しています。体を覆う硬い殻、つまり外骨格は成長しないため、殻を脱ぎ捨てる必要があり、これを脱皮と呼びます。北西大西洋のロブスター(Homarus americanus)についても、体が殻に収まらないほど大きくなると殻を脱ぎ捨て、新しい殻をつくる、とNOAAは解説しています。

殻は、キチンやタンパク質でできたクチクラという層からなり、多くの甲殻類ではそこに炭酸カルシウムが沈着して硬くなります。また、NOAAによると、脱皮は寄生虫や、フジツボなど殻の上で育つ生き物を落とすのにも役立ちます。

カニの殻と貝殻は別のもの

同じ「殻」という言葉を使いますが、エビやカニの殻は自分の体の一部である外骨格で、巻貝や二枚貝の貝殻とは別のものです。ヤドカリが背負っている巻貝の殻も、ヤドカリ自身の骨格ではありません。

脱皮はくり返す周期の一部

脱皮は、殻を脱ぐ瞬間だけの出来事ではありません。十脚甲殻類(エビ・カニ・ザリガニの仲間)を扱った2021年の総説によると、脱皮周期は脱皮間期、脱皮前期、脱皮、脱皮後期と進み、次の脱皮間期へ移ります。周期は脱皮ホルモン(エクジステロイド)などの体内のホルモンで調整されていると考えられ、準備の途中までなら、条件が悪いときに脱皮を遅らせることもできるといいます。

脱皮の前に、新しい殻は古い殻の内側でつくられる

NOAAの解説によると、カニは脱皮の前に、古い殻から炭酸カルシウムの一部を吸収し、酵素を出して古い殻をその下の皮膚(表皮)から切り離します。次に表皮が、古い殻の下に軟らかい紙のような新しい殻をつくり、カニは体のすべての部分を古い殻から数ミリずつ引っ込めていきます。この過程には数週間かかることもあります。

京都府海洋センターは、日本海の京都府沖でとれるズワイガニの雄について、甲羅は硬いけれどその内側に新しい甲羅がつくられている段階を「脱皮準備の段階」と呼んでいます。1977年の日本の解説によると、新しい殻の外側の層は、脱皮の前に土台がつくられても、脱皮のあとまで石灰化しません。脱皮を迎える時点で、新しい殻はまだ軟らかいのです。

脱皮のとき:水を取り込み、古い殻を割って抜け出す

NOAAのアラスカのカニについての解説では、脱皮の1日前からカニは海水を吸収し、風船のように膨らみ始めます。この膨らみが古い殻を押し広げ、体の周りを一周する特別な継ぎ目で殻が割れて、甲羅がふたのように開きます。カニは後ろ向きに体を出し、後ろの脚、前の脚の順に引き抜いて抜け出し、NOAAはこれに約15分かかると書いています。アメリカ・サウスカロライナ州の天然資源局は、アオガニの脱皮は数分間で終わると説明しています。

水を取り込み始める時刻は、種や測り方で違います。ロブスター(H. americanus)を調べた1980年の研究では脱皮の約1時間前、アオガニを調べた1989年の研究では約4時間前に水の取り込みや体重の増加が始まり、どちらも脱皮の2時間後までにほぼ終わりました。アオガニの体重は、脱いだ殻を除く脱皮前の値の2倍を超え、増えた分は主に水でした。

この水は、えらや体の表面からしみ込むのではなく、主に口から飲み込まれて消化管から吸収されることが、ロブスターとアオガニの研究で示されています。

抜け出すとき、カニはすべての脚、眼柄(目がついている柄)、触角、口の部分、えらまで古い殻から引き抜き、NOAAによると、食道や胃の内側を覆う膜まで脱ぎ捨てていきます。

脱皮のあと:膨らんで大きくなり、時間をかけて硬くなる

サウスカロライナ州の解説によると、脱皮したばかりのアオガニはぐったりとしわが寄っていますが、膨らんでふだんの形になり、ふつう25〜35%大きくなります。2007年のアオガニの論文も、軟らかい新しい殻が大きく膨らむまで水を吸収し続けると説明しています。殻が硬くなる前に膨らむことで、一回り大きな殻ができあがります。

アオガニを調べた1989年の研究では、殻の石灰化は脱皮後1〜2時間たってから急速に高まりました。2007年の論文は先行研究を引いて、アオガニの殻は脱皮のおよそ12時間後に紙のような手触りの「ペーパーシェル」の段階になり、炭酸カルシウムなどの沈着は脱皮後最大30日続くとしています。

サウスカロライナ州の解説では、アオガニの殻は2〜3日で完全に硬くなり、NOAAのアラスカのカニの解説では、数日で硬くなって1か月後にはとても硬くなります。「硬くなった」とみなす基準も日数も資料によって違い、エビやカニに共通する日数ではありません。

殻を硬くするカルシウムはどこから?

2012年の総説によると、殻の石灰化に使うカルシウムの主な供給源は、甲殻類の多くが暮らす周りの水です。カルシウムの少ない淡水や陸では、脱皮の前にカルシウムを体内に蓄える方法が発達しています。蓄え方の一つが胃の壁にためる「胃石」で、総説によると一部の十脚類に見られます。1977年の日本の解説では、周りの水からカルシウムを取りにくいザリガニやアカテガニの胃石の例が紹介されています。

NOAAは、ロブスターが脱いだばかりの自分の殻を食べることも多く、失ったカルシウムを補って新しい殻を硬くするのを助けると説明しています。一方で総説は、脱皮殻を含む食べ物からのカルシウムの寄与は小さいとしており、資料によって重点の置き方が違います。

殻が軟らかい間は、どう過ごしている?

アオガニを調べた1997年の論文は、殻を脱いでいる間とその後の短い間、アオガニは動けず、はさみも使えず、逃げることも身を守ることもできないと述べています。

ただし、殻が硬くなるまでずっと動けないわけではありません。2003年の研究は、脱皮したばかりのカニの水で膨らんだ体が、ミミズなどと同じように内側の圧力で支えられているのではないかと考え、体内の圧力とはさみを閉じる力に強い相関を見つけました。2007年のアオガニの論文も、殻が硬くなるまでの数日間、カニはこの仕組みで体を支え、動いているとしています。

サウスカロライナ州の解説によると、軟らかいアオガニは邪魔されれば泳いだり歩いたりできますが、人目につかない場所を好みます。1997年の論文も先行研究から、脱皮が近づくと隠れ場所を探す甲殻類がいることを紹介しています。

この論文の野外実験では、1990年の夏の夜、アメリカ東海岸のチェサピーク湾で、前の晩に脱皮したアオガニをひもでつないで置いたところ、軟らかいカニは殻の硬いカニより生き残りがずっと低く、特定できた死因は同じアオガニによる共食いだけでした。ひもでつないだ実験で、野外で実際に食べられる割合を示すものではありませんが、論文は、どこで、いつ脱皮するかが生き残りを大きく左右しうると結論しています。

軟らかい時期と繁殖が結びつく種もいる

NOAAによると、ロブスターはふつう雌の脱皮のあとに交尾します。サウスカロライナ州の解説では、アオガニの雌は殻の軟らかい最終脱皮のときにだけ交尾し、雄は雌の殻が硬くなるまで抱えて守ります。これらはアメリカ東海岸のアオガニや北西大西洋のロブスターの例で、サンゴ礁のエビやカニにも当てはまるかどうかは、これらの研究からは分かりません。

脱皮の回数や間隔は、種と成長段階で違う

2021年の総説によると、成体の十脚類では、脱皮と脱皮の間(脱皮間期)が数週間から数年続くことがあります。サウスカロライナ州の解説では、アオガニの最も小さい個体は3〜5日ごと、稚ガニは10〜14日ごと、3インチ(約7.6cm)以上の個体は20〜50日ごとに脱皮します。NOAAによると、ロブスター(H. americanus)は、ふ化から、繁殖ができて漁獲が認められる大きさになるまでの5〜8年で、約20〜25回脱皮します。

最後の脱皮を迎える種もいる

京都府海洋センターが、京都府沖のズワイガニの雄の脱皮段階を2年間調べたところ、はさみの小さいカニは年に1回、9〜10月ごろに脱皮する一方、はさみの大きいカニはすでに最終脱皮を終えていて、その後は脱皮しないことが分かりました。アオガニの雌にも最終脱皮があります。ただし最終脱皮があるかどうかは種によって違い、エビやカニがみな一生脱皮を続けるとも、大人になれば脱皮をやめるともいえません。

失った脚は、脱皮を重ねて元に戻っていく

NOAAの解説によると、カニの脚は特別な関節のところで外れ、次の脱皮の前に、その関節から新しい脚のもとが伸びてきます。脱皮で出てきた新しい脚はほかの脚より小さく、NOAAはアラスカのカニについての解説の中で、元の大きさに戻るまでに3回の脱皮が必要だと書いています。この回数が、ほかのカニやエビにもそのまま当てはまるとは限りません。

抜け殻らしいものを見かけても、確かめようと触らない

水中でエビやカニの形をした殻を見かけても、脱いだ殻か死んだ個体かを確かめようと、手に取ったり、ひっくり返したり、つついたりしないでください。京都大学白浜水族館は、脱皮直後の殻は軟らかく傷つきやすいので、あまり触らないようにと呼びかけています。触れない、追いかけない、隠れ場所をのぞき込んで刺激しない、距離をとる、を基本にしてください。観察の基本は海洋保護区でのマナーの記事でも紹介しています。

殻のある生き物の観察をもっと楽しむために

硬い殻を脱ぎ替えて大きくなる仕組みを知っておくと、海の生き物を見る目も少し変わってくるかもしれません。セブの海の生き物については、海の生き物の紹介ページもあわせてご覧ください。ダイビングへの参加は体験ダイビングやファンダイビングのページでご案内しています。日程などのご相談はLINEからどうぞ。

よくある質問

カニの殻と貝殻は同じものですか?

違います。エビやカニの殻は自分の体の外骨格で、脱皮で新しくします。巻貝や二枚貝の貝殻とは別もので、ヤドカリが背負う巻貝の殻もヤドカリ自身の骨格ではありません。

脱皮したばかりのカニは、殻が硬くなるまでじっとしているのですか?

ずっとじっとしているわけではありません。アオガニでは、殻を脱いでいる間と直後の短い間は動けませんが、その後は水で膨らんだ体の内側の圧力で体を支えて動けます。ただ、狙われやすい時期で、人目につかない場所を好むと説明されています(アオガニ)。

殻が硬くなるまで、どのくらいかかりますか?

種や資料によって違います。アオガニでは2〜3日で完全に硬くなるという州の解説がある一方、炭酸カルシウムなどの沈着は脱皮後最大30日続くとする論文もあります。NOAAはアラスカのカニについて、1か月後にはとても硬くなると説明しています。

エビやカニは一生脱皮を続けるのですか?

種によって違います。京都府沖のズワイガニの雄のように、最終脱皮を終えるとその後は脱皮しないものがいて、アオガニの雌にも最終脱皮があります。一方で、成体の十脚類でも、数週間から数年の間隔をあけて脱皮をくり返すことがあります。

まとめ

エビやカニの硬い殻は自分の体の外骨格で、殻そのものは成長しません。そのため古い殻の内側に新しい殻を準備し、水を取り込みながら古い殻を脱ぎ捨て、軟らかい新しい殻ごと体を膨らませてから、時間をかけて硬くしていきます。脱皮の時期はホルモンの働きで調整され、カニでは失った脚も脱皮を重ねるうちに元に戻っていきます。

殻が軟らかい時期は、まったく動けないわけではないものの身を守る力が弱く、アオガニのように隠れて過ごすことを好む種が知られています。脱皮の回数や間隔、殻が硬くなるまでの日数、最終脱皮があるかどうかは、種や成長段階によって違います。