カニは、なぜ海藻やカイメンを体に付ける?クモガニ類が身を守る飾り

海藻の切れ端やカイメンを背中に付けたまま歩くカニがいます。なぜ、わざわざ体に物を付けるのでしょうか。

体に物を付けて飾るのは、カニ全般ではなく、主にクモガニ類(クモガニ上科)のカニに見られる行動です。最も支持されている説明は、捕食者に見つかりにくく、食べられにくくするため、というものです。ただし、その効果が実験で確かめられたのは一部の種で、海藻などの化学的な守りを借りるのか、見た目で周りに紛れるのかも、種や材料によって違います。何を、どう付け、どんな効果があるのかを、SOLBOY DIVE CENTERが、実験で確かめられた種の例からひもときます。

体を飾るのは、おもにクモガニ類

2015年に発表された総説によると、クモガニ上科には900種以上が含まれ、そのうち約75%の種が体の一部または全体を飾ります。これらのカニは、周りの材料を引っかけて付けるための、鉤(かぎ)のような形の特殊な毛を持っています。

付ける場所や付け方は、種によって違います。日本のヨツハモガニとヨツハモドキは、どちらも甲の6か所にある鉤状の毛の部分に、海藻の切れ端を付けます。ヨツハモドキでは、形の変わった板のような毛も海藻などの付着場所になり、体の輪郭をぼかしていました。千葉県館山の潮間帯の岩礁で調べられたイソクズガニは、小さな海藻やカイメン、ヒドロ虫などで体を飾り、穴やすき間にいると見つけにくいことが多いと報告されています。

なお、同じ総説では、物を持ち上げて背負う「運ぶ行動」が、少なくとも4つの科のカニで記録されていることにも触れています。これは、毛に引っかけて付ける装飾とは別の行動です。

はさみで選び、口で整えて、毛に引っかける

日本のツノガニを調べた2006年の研究では、脱皮した直後の個体を水槽で撮影しました。カニははさみで材料を注意深く選び、口で加工してから、甲と歩く脚の鉤状の毛に付けていました。脱皮直後の個体は約2時間でほぼ付け終え、その後も1〜2時間、ときどき作業を続けました。

脱皮そのものの仕組みは脱皮の記事にまとめています。古い殻の飾りとの関係では、北米太平洋岸の Loxorhynchus crispatus で、脱皮したばかりの個体が脱け殻から材料を取り外したという1975年の報告が知られています。また、北米大西洋岸の Libinia dubia では、甲から材料を取り除くと、カニがすぐに付け直すことが予備実験で示されています。

付けるのにかかる時間の例もあります。2017年のデラウェア大学の発表によると、インド太平洋のモクズショイを飼育下で調べた研究では、材料として水に沈めた手芸用のポンポンを与えたところ、すべての個体が24時間以内に全身を飾りました。隠れ家がある条件では、胴より先に腕や脚を飾ったと伝えています。

飾ると、食べられにくくなる?

2015年の総説は、クモガニ類の装飾の働きは捕食者よけと考えられ、自然の中の捕食者に対する効果が実際に示された珍しい例だと述べています。いくつかの研究で、装飾を実験的に変えたり取り除いたりすると、捕食者に襲われやすくなりました。

米国ノースカロライナ州の海草の茂みで Libinia dubia の幼体を調べた1999年の研究では、褐藻の Dictyota menstrualis で飾った幼体をつないで野外に置くと、地元の魚が嫌がらない紅藻で飾った幼体よりも、食べられる率が有意に低くなりました。実験室では、捕食者がいると幼体は餌を食べる速さを落としましたが、飾る速さは落としませんでした。

イソクズガニを調べた2003年の研究では、潮間帯の潮だまりにつないで2日置いたあと、飾った個体のほうが飾っていない個体より生き残る率が有意に高くなりました。実験室では、捕食者のフグの仲間がいるときのほうが、いないときより多くの海藻を飾りに使いました。

北米太平洋岸のモガニ科を調べた2008年の研究では、Pugettia producta では主に体の色による隠れ方が、P. richii では体の色ではなく装飾による隠れ方が、食べられる率を下げていました。近い仲間でも、身を守る方法は種によって違います。

海藻の「まずさ」を借りる

総説によると、飾りに使われる材料は、化学物質で身を守っている海藻や、岩などに付いて暮らす動物であることが多く、捕食者がカニに気づいても、嫌な味やにおいのために攻撃を避けるという仕組みが考えられています。

その具体例が Libinia dubia の幼体です。魚が嫌う化学物質を持つ Dictyota menstrualis を選んで体に付けますが、この海藻を餌としてはあまり好みません。1999年の研究では、魚が食べるのを最も強く妨げる Dictyota の成分が、このカニが材料を選ぶ決め手になっている成分そのものでした。

ただし、この選び方はどこでも同じではありません。2000年の研究によると、Dictyota が生えていない北の3地点(ロードアイランド、コネチカット、ニュージャージー)の個体は、特定の種を選ばず、周りの環境に合わせて飾りました。ノースカロライナでも、Dictyota が季節的になくなる冬と春には、地元の魚が嫌うカイメンの一種 Hymeniacidon heliophila を選んで付けていました。

見た目で紛れる働きも

一方で総説は、すべての装飾が化学的な守りになるわけではなく、多くの場合は、背景に紛れる、物に見せかける、輪郭をくずすといった見た目の隠れ方として働く可能性が高いとしています。ヨツハモドキの板のような毛が体の輪郭をぼかしていたのも、見た目の隠れ方に関わる観察です。

モクズショイについては、色を見て材料を選んでいるのか、においで選んでいるのかが、2017年の時点で研究の途中でした。どちらか一方の仕組みだけで、すべての種の装飾を説明することはできません。

体が大きくなると、飾りは減る?

体の大きさとの関係も、種によって違います。総説によると、多くのカニは体が大きくなるほど飾りが少なくなり、この傾向は同じ種の中でも、種どうしの比較でも見られます。Libinia dubia では、甲の幅が一緒にすむ魚の口の大きさを超える成体は、野外でも実験室でも体を飾りませんでした。

クモガニ上科の複数の種を比べた2009年の研究では、体に鉤状の毛がどれだけ広がっているかが、野外での飾りの覆い具合をよく予測しました。著者らは、鉤状の毛を作って飾りを保つ負担や、大きな種では隠れることの価値が下がることが、飾る種の広がりを限っているのかもしれないと述べています。日本のヨツハモガニでも、鉤状の毛は大きな個体より小さな個体で、オスよりメスで、甲の背面に広く分布していました。

反対の例もあります。沖縄の亜熱帯の海でイソクズガニと Micippa platipes を調べた2006年の研究では、年長で大きい個体のほうが、若く小さい個体より甲がよく覆われていました。米国カリフォルニアなどにすむ小型の Pelia tumida では、成長に伴う飾り方の変化がないと報告されています。

飾りは、食べ物にもなる?

飾りを餌の貯えとみる報告もあります。ツノガニは、飼育下で餌を与えられないと、付けた材料を食べました。沖縄の2種を調べた研究の著者は、材料は選ばれて甲の上に蓄えられ、餌として使われていたと結論しています。

一方、北米太平洋岸のモガニ類を調べた研究者は、食べる物と飾りに使う物の間に強い相関がないことから、餌の貯蔵という説明は可能性が低いと考えました。餌としての働きは、一部の種で報告されている段階です。

飾ることには負担もあると考えられています。2019年の研究で紹介された Oregonia gracilis の絶食実験では、飾ったカニのほうが飾っていないカニより、一貫して体の組織の分解が大きく、代謝が高くなっていました。

水中で見かけたら

体に海藻などを付けたカニを見かけても、飾りをはがしたり、体に触れたりしないでください。飾りは、カニにとって捕食者から身を隠す手段の一つと考えられています。水中で生き物を観察するときの注意点を、海洋保護区マナーのページにまとめています。

よくある質問

体を飾るのは、どんなカニですか?

主にクモガニ類(クモガニ上科)のカニです。900種以上のうち約75%の種が体を飾ると紹介されていて、カニ全般の行動ではありません。

飾りは何のためにあるのですか?

捕食者に見つかりにくく、食べられにくくするため、という説明が最も支持されています。Libinia dubia やイソクズガニなどでは、飾ると食べられにくくなることが実験で示されました。海藻の化学的な守りを借りるのか、見た目で紛れるのかは、種や材料によって違います。

脱皮したあと、飾りはどうするのですか?

脱皮直後のツノガニは、飼育下で約2時間のうちに材料をほぼ付け終えていました。北米太平洋岸の Loxorhynchus crispatus では、脱皮したばかりの個体が脱け殻から材料を取り外したという報告もあります。

まとめ

海藻やカイメンを体に付けるのは、主にクモガニ類のカニです。鉤状の毛に材料を引っかけて付け、捕食者に食べられにくくするため、という説明が最も支持されています。Libinia dubia やイソクズガニ、Pugettia richii などでは、飾ることの効果が実験で示されました。

ただし、化学的に守られた海藻を選ぶのか、周りに合わせて見た目で紛れるのか、体が大きくなると飾りを減らすのか増やすのかは、種や地域によって違います。飾りを餌として使う種がいるという報告もあり、飾りの働きは一つではありません。