砂の中に隠れた獲物は、目で見つけるのが難しいはずです。サメは、目やにおいのほかに何を手がかりに獲物を探しているのでしょうか。
その手がかりの一つが、生き物の体から出るごく弱い電気です。サメやエイの仲間は、頭の皮膚に開いた小さな孔から続く「ロレンチニ器官」で、獲物が出す弱い電場を感じ取れることが研究で示されています。ただ、どのくらい弱い電気まで分かるのかは、種や測り方によって大きく違います。地球の磁場を感じて移動に使うのかどうかも、まだ研究の途中です。SOLBOY DIVE CENTERが、分かっていることと議論が続いていることを解説します。
300年近く謎だった器官
サメやエイの頭には、皮膚に小さな孔がたくさん開いています。この孔の奥にある器官(ロレンチニ器官)の働きは、300年近く謎のままでした。のちの研究で、サメやエイの仲間が、獲物の出すごく弱い電場を感じ取っていることが示されました。
日本の総説によると、1960年代から70年代はじめにかけての行動実験で、サメやエイのように自分では電気を起こす器官を持たない魚も、電気を感じる感覚を餌探しに使っていることが明らかになりました。
小さな孔、ゼリーの詰まった管、感覚の袋
ロレンチニ器官の1つ1つは、外に開いた皮膚の小孔、ゼリーのような物質が詰まった管、そして電気を感じる細胞が並ぶ袋状の部分(アンプラ)からできています。管は皮膚の下で行き止まりになっていて、その先のアンプラに、感覚細胞と支える細胞が1層に並んでいます。
管の中のゼリーについても研究が進んでいます。2016年に、サメ(Sphyrna tiburo)とエイの仲間2種の皮膚の孔から押し出したゼリーを調べた研究では、室温でのプロトン(水素イオン)の伝わりやすさが約2 mS/cmと、生物の材料で報告された中で最も高い値でした。ただし、ゼリーが電気を感じる働きにどう関わっているのか、弱い電場が管を通って感覚細胞まで伝わる仕組みについては、まだはっきりせず、議論があります。
このタイプの感覚器官は、電気の変化のうち、直流からおよそ50 Hzまでのゆっくりした変化に応じます。
どのくらい弱い電気まで分かるのか
感じ取れる電気の強さは、何を使って測ったかで数字が大きく変わります。日本の総説は、同じ種でも測り方によって100倍ほど違うと指摘しています。研究で示された値を、条件とともに並べると次のようになります。
- 海上の実験で、英名で dogfish、blue shark と呼ばれるサメが獲物をまねた電場に摂餌のような反応を示し、訓練したエイの仲間とあわせて、1 cmあたり5ナノボルト(10億分の5ボルト)という小さな電位の差で反応が起きた
- ハワイで飼育した若いアカシュモクザメとメジロザメでは、反応の境目はどちらも1 cmあたり1ナノボルト未満だった
- 海のエイの仲間で、心拍の変化から求めた値は1 cmあたり0.01マイクロボルト、神経の反応で測った値は1 cmあたり1マイクロボルトだった
どれか1つの数字を「サメの感度」として考えることはできません。また、若いアカシュモクザメとメジロザメの実験では、獲物をまねた電場に向きを変えた最大の距離は約30 cmでした。これは実験で使った電場の強さで決まる距離で、どの獲物でも30 cm先から分かるという意味ではありません。
獲物は、どんな電気を出しているのか
獲物の側も、実際に弱い電場を出しています。2013年にアメリカ・フロリダで11科の海の生き物を測った研究では、無脊椎動物の電位は14〜28マイクロボルト、硬骨魚は39〜319マイクロボルトでした。電位がいちばん大きかったのは、粘膜に覆われ、周りの海水とイオンを直接やりとりしている口とえらでした。どの生き物の電場も、サメやエイが感じ取れる周波数の範囲(16 Hz未満)に入っていました。
獲物の側にも対抗する手段があるようです。コウイカを飼育下で調べた研究では、捕食者が近づく刺激を受けたコウイカは動きを止め、体から出る電気の手がかりを減らしていました。動きを止めたときの電場をまねた実験では、サメに見つかりにくくなる可能性が示されています。
サメとエイで、感覚の使い方が違う?
電気を感じる細胞のしくみも調べられています。エイの仲間(Leucoraja erinacea)を調べた2017年の研究では、電気を感じる細胞で、カルシウムを通す特定のチャネルと、カリウムを通すチャネルが多く働いていることが分かりました。
2018年にトラザメ科のサメ(Scyliorhinus retifer)とこのエイを比べた研究では、どちらも似たカルシウムのチャネルで細胞の反応を始めますが、それを調整するカリウムのチャネルが違っていました。研究者は、サメは電気の感覚を主に獲物探しに使い、幅広い周波数の電気をとらえ、一定の強さを超えると反応する「閾値検出器」のような働きが合っているのではないか、エイの仲間は仲間どうしの信号を感じることにも使い、特定の周波数に合わせられているのではないか、と考えています。いずれも細胞の実験からの推論です。
地球の磁場も感じているのか
サメやエイの仲間は、地球の磁場を手がかりに位置を知り、移動していると考えられています。電気の感覚の研究者 Kalmijn は、海流や自分の動きが地球の磁場の中で生む電場を使って方向を知る、という理論を唱えてきました。
ただし、サメで実際にどの感覚器官が磁場を感じているのかは、多くが不確かなままです。ハワイの研究所で飼育したメジロザメの実験では、磁気の刺激が出ているあいだ、餌の出る的へ近づく回数が、刺激の前後より有意に多くなりました。研究者たちは、この結果が、磁場を感じる仕組みが電気の感覚だけではなく、鼻(嗅覚器)に磁場を感じる構造がある可能性を支持するとしています。2021年には、野生で捕まえた Sphyrna tiburo を使った実験で、地図のような磁場の手がかりが、すみかの方向へ向く反応を引き起こしうることが示されました。
サメがロレンチニ器官で地磁気を感じて回遊していると結論づけられる段階には、まだ至っていません。
よくある質問
ロレンチニ器官は、サメだけが持っているのですか?
いいえ。エイやガンギエイの仲間、ギンザメの仲間などの軟骨魚類も持っています。この記事で紹介した研究の一部は、エイの仲間を調べたものです。
サメは何メートルも先の獲物の電気が分かるのですか?
研究で示されているのは、近い距離での反応です。飼育下の若いアカシュモクザメとメジロザメの実験では、獲物をまねた電場に反応した最大の距離は約30 cmでした。これも実験の電場の強さで決まる値です。
獲物の体のどこから、強い電気が出ているのですか?
フロリダの研究では、口とえらで電位がいちばん大きくなっていました。粘膜に覆われ、周りの海水とイオンを直接やりとりしている場所です。
まとめ
サメやエイの仲間は、頭の皮膚の小さな孔から管でつながるロレンチニ器官で、獲物が出すごく弱い電場を感じ取っています。獲物の電場は口やえらで大きく、サメやエイが感じ取れる周波数の範囲に入っていました。感じ取れる強さは種や測り方によって大きく違い、実験で示された反応の距離は数十cmほどでした。
器官の中のゼリーの働きや、電場が感覚細胞まで伝わる仕組みには議論が残っています。地球の磁場を感じて移動に使うかどうかも、行動の実験で手がかりが得られ始めた段階です。