四角い箱から、小さなひれと尾だけが出ているようなハコフグ。どうしてこんな形をしているのでしょうか。
硬い箱のような体は、骨の板をすき間なく並べたよろいで、主に捕食者から身を守るためのものと考えられています。一方、この形が泳ぎにどう役立つのかについては、研究によって結論が分かれてきました。箱の形が泳ぎを安定させるという研究と、反対に向きを崩して小回りを助けるという研究があり、その後の研究でさらに細かい働きも見えてきています。SOLBOY DIVE CENTERが、研究の流れに沿って解説します。
骨の板を敷きつめた、硬いよろい
ハコフグの仲間(ハコフグ科)の体は、ほぼ全身が硬い板を敷きつめたよろいに覆われています。この甲羅は、縫い合わされたように並ぶたくさんの六角形の骨の板(鱗板)でできていて、サンゴ礁の捕食者にかまれるのを防ぐ硬いよろいになっています。
コンゴウフグの甲羅を調べた研究によると、1枚1枚の鱗板は、表面の強く石灰化した板と、しなやかなコラーゲンの土台からできています。石灰化した板は主に六角形で、中心から縁へ向かって盛り上がった支柱で補強されていました。研究者は、このつくりが、捕食者に突き刺されたり押しつぶされたりしたときに力を広い面に分散させ、甲羅を強くしていると説明しています。
2024年に13種の標本を調べた研究では、板を敷きつめた配置が、ひびが甲羅全体に広がるのを防ぐと考えられていました。体の形が種によって違っても、板と甲羅の両方のつくりで曲げへの強さを高め、守りを保っていることが示唆されています。
ただし、こうした守りの効果は材料の試験や形の分析から考えられているもので、実際の捕食者の攻撃で確かめたものではありません。
代わりに、体をくねらせて泳げない
硬い甲羅は動きを制限します。ハコフグの仲間が体をくねらせて泳ぐのは、急いで加速するときに尾を1回振る程度に限られます。ふだんは、背びれ・しりびれ・胸びれを動かして進み、尾びれはかじとして使います。
コンゴウフグの研究者は、この甲羅を、動きやすさや速さを犠牲にしてでも身を守るためのものと位置づけています。
ハコフグの仲間には、多くの魚が持つ腹びれや、立てて横転を防げるような丈夫で長い背びれ・しりびれもありません。それでもサンゴ礁の入り組んだなわばりで、よく向きを変えながら泳いでいます。ここに、研究者が「パラドックス」と呼んだ問いがあります。
説1:箱の形が泳ぎを安定させる
2003年の研究は、大西洋の Lactophrys triqueter の正確な模型を流れの中で上下・左右に傾け、まわりの流れと力を3つの方法で調べました。模型を上下に傾けると、腹側の左右の稜(角の部分)に沿って、互いに逆向きに回る渦がよく発達しました。3つの方法のどれもが、甲羅が上下・左右の向きのずれを自動的に直す力を生むことを示しました。
2008年には、生きた2種を流れの中で泳がせた研究で、大きく上下に傾いたときには、模型と似たらせん状の流れが稜のまわりに見られました。研究者は、この自動で直す仕組みをひれの動きで調整できることが、安定と小回りの両立に重要だとしています。
ハコフグの形は、抵抗が小さく、流れの向きに自動的にそろうとされ、自動車のデザインの参考にもされてきました。
説2:向きを崩す力が、小回りを助ける
2015年の研究は、博物館の標本をスキャンして、ひれを取り除いた2種(Rhinesomus triqueter とミナミハコフグ)の模型を作り、流水槽の実験とコンピューターの計算で調べ直しました。
その結果、甲羅のまわりの流れが進路を安定させるという説は否定され、向きを崩す力が一貫して見つかりました。この向きを崩す力は、秒速0.1 mのゆっくりした泳ぎから秒速0.5 mの速い泳ぎまで変わりませんでした。以前に安定の証拠として報告された力は、再現できませんでした。研究者は、向きを崩す力こそが小回りを高め、サンゴ礁で効率よく向きを変えたり傾いたりする暮らしに合っている、と結論しています。抵抗の小ささも、一般的な魚の体形と比べて比較的低い性能でした。自動車のデザインの参考になったという話の前提には、疑問が示された形です。
その後の研究:尾びれと稜の役割
体そのものが不安定なら、安定はどこから来るのでしょうか。2020年にミナミハコフグの模型と計算で調べた研究では、尾びれが、もともと不安定な体の左右の向きについて、進路の安定装置とかじの両方として働くことが示されました。
2022年には、5種の標本から作った模型で、稜を小さくした甲羅と比べる研究が行われました。もとの甲羅は、抵抗を減らすことにも、上下・左右の向きを受け身で安定させることにも効いていませんでしたが、どの種でも横転(ロール)への抵抗を強く高めていました。研究者は、甲羅の形が、横転せずに前へ泳ぐことに大切で、向きを変える動きの制御も助けている可能性があるとしています。
小回りの評価も、何を基準にするかで変わります。クロハコフグはその場でほとんど半径ゼロで回れるため、回転の小ささでは非常に機動的です。ただし、背びれ・しりびれ・胸びれでの回転は、体と尾びれで曲がる柔らかい魚より遅いことも分かっています。
皮膚から出る毒
ハコフグの仲間は、よろい以外の守りも持っています。ハワイのハコフグの仲間を調べた1964年の報告では、ストレスを受けると皮膚の粘液に、魚に毒性のある物質を出しました。日本のハコフグの粘液からも、同じ成分(パフトキシン)が見つかっています。フグの仲間が体をふくらませて身を守る仕組みは、フグ・ハリセンボンの記事でご紹介しています。
よくある質問
ハコフグの硬い体は、何のためにあるのですか?
主に捕食者から身を守るためと考えられています。六角形の骨の板が敷きつめられ、かまれたり押しつぶされたりする力を分散し、ひびが広がるのを防ぐつくりになっています。
箱の形は、泳ぎを安定させるのですか?
研究で結論が分かれています。2003年と2008年の研究は安定させる流れを示しましたが、2015年の研究は向きを崩す力を見つけ、それが小回りを助けると結論しました。2022年の研究では、甲羅の稜が横転を強く抑えることが示されています。
ハコフグは速く泳げるのですか?
体をくねらせられないため、ふだんはひれを動かして進みます。その場でほとんど半径ゼロで回れる一方、回る速さは体を曲げて泳ぐ魚より遅いことが分かっています。
まとめ
ハコフグの箱のような体は、六角形の骨の板を敷きつめた硬いよろいで、主に捕食者から身を守るためのものと考えられています。その代わり体をくねらせられず、ふだんはひれを使って泳ぎます。
この形が泳ぎにどう働くのかは、「安定させる」とする研究と「向きを崩して小回りを助ける」とする研究に分かれてきました。尾びれが安定とかじの両方を担うこと、甲羅の稜が横転を抑えることも分かり、硬い体でサンゴ礁を泳ぐ仕組みが少しずつ明らかになっています。