海洋酸性化は、海が「酸性になる」という意味?弱アルカリ性のままpHが下がること

「海洋酸性化」という言葉は、海が酢のように酸っぱい水になっていくという意味なのでしょうか。海は本当に「酸性」の水に変わるのでしょうか。

いいえ。海洋酸性化は、海が酸性(pH7以下)になることではありません。今の海の表面は弱アルカリ性で、pHは約8.1です。海洋酸性化とは、海水のpHが長い期間にわたって下がり、より酸性の側へ近づいていくことを指します。言葉の意味と仕組み、観測で分かっていることと将来の予測、生き物への影響の研究を、SOLBOY DIVE CENTERが気象庁などの資料をもとに読み分けます。

海は今も、弱アルカリ性

気象庁の解説によると、海水のpHは一般に弱アルカリ性で、表面では約8.1です。深くなるほど下がり、北西太平洋の亜熱帯の海域では、深さ1,000m付近で約7.4と最も低くなります。

気象庁は、海洋酸性化を「海洋が酸性(pH7以下)になることではなく、より酸性側に近づく(pHが低下する)こと」と説明しています。アメリカ海洋大気庁(NOAA)も、主に大気から二酸化炭素を吸収することで、長い期間にわたり海のpHが下がることを海洋酸性化としています。NOAAの説明でも、水素イオンが増えることで海水が「より酸性に(more acidic)」なるという言い方をしています。

二酸化炭素が溶けると、pHが下がる仕組み

pHは水素イオンの濃さを表す値で、水素イオンが増えるとpHは下がります。海に溶けた二酸化炭素は炭酸になり、そこから水素イオンが生まれます。生まれた水素イオンの大部分は反応で使われますが、一部はそのまま残り、その反応で炭酸イオンが減ります。結果として水素イオンが増え、pHが下がり、海水のアルカリ性が弱まります。

つまり、海洋酸性化で起きている変化は、水素イオンが増えることと、炭酸イオンが減ることの2つです。NOAAによると、海は大気に出された二酸化炭素の約30%を吸収しています。なお、海水のpHは、二酸化炭素がたまることだけでなく、海の循環や生き物の活動によっても変わります。

観測で分かっている、pHの低下

海洋酸性化の可能性が指摘された当時は、海水のpHを正確に測る方法が確立されておらず、実態は分かりませんでした。現在は、ハワイ近海や西部北太平洋などの長期の観測データから、酸性化が実際に進んでいることが明らかになっています。

気象庁の解析では、全球の表面海水のpHは、1990〜2024年の期間に10年あたり0.018の割合で下がっていました。太平洋・大西洋・インド洋のいずれでも低下していて、酸性化は海の広い範囲で進んでいます。北西太平洋では、気象庁の観測線の東経137度線で1985〜2025年に10年あたり平均0.019、東経165度線で1996〜2025年に10年あたり平均0.021の割合で低下し、観測しているすべての緯度帯でpHが下がっていました。表面だけでなく、北西太平洋の亜熱帯の深さ約150〜800mでも、1990年代以降、10年あたり0.016〜0.029の速さで低下しています。ただし、表面海水のpHは、海の循環や生き物の活動の違いで、海域ごとに値が大きく違います。

将来は、どこまで下がると予測されているか

将来の値は、モデルによる予測です。気象庁が引用する気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の2021年の報告書によると、全球平均の海洋表面のpHは、今世紀末には19世紀終盤と比べて0.16〜0.44下がると予測されています。予測の値には、このように幅があります。

同じ報告書の引用では、北極域ではすでに季節的に、殻の材料になるアラゴナイト(炭酸カルシウムの結晶の一種)が溶ける水準に季節的に達していて、南大洋では早ければ2030年代に季節的にその水準になると予測されています。

殻や骨格をつくる生き物への影響

炭酸カルシウムの骨格や殻をつくる生き物は、石灰化生物と呼ばれます。酸性化の影響を考えるときには、炭酸カルシウムの飽和度(Ω)が目安に使われます。Ωが1を下回ると炭酸カルシウムは溶けるようになり、アラゴナイトはカルサイトより溶けやすいため、アラゴナイトの殻や骨格をもつ生き物のほうが影響を受けやすいと予想されています。

今の世界の表層の海では、Ωはおおむね1を上回っています。それでも、Ωが下がると、1以上であっても炭酸カルシウムをつくる生き物の成長が遅くなることが実験で分かっています。2005年の研究では、予測された溶けやすい水準の海水に、浮遊性の巻貝の仲間である翼足類を船の上で2日間さらすと、アラゴナイトの殻がはっきり溶けました。

サンゴがすむ海域は、アラゴナイトのΩが3以上の海域とほぼ一致しています。これは分布の対応で、酸性化の影響を直接示したものではありません。また、水温の上昇によるサンゴの白化は、酸性化とは別の現象です。白化についてはサンゴの白化の原因と回復の仕組みのページで説明しています。

影響の出方は、生き物によって大きく違う

多くの実験を集めて分析した2010年の研究では、酸性化が生存・石灰化・成長・繁殖に悪い影響を与える一方で、生き物による感受性の違いが大きいことが示されました。石灰化する生き物は、一般に石灰化しない生き物より大きな悪影響を受けましたが、甲殻類は石灰化するのに悪影響が見られませんでした。溶けやすい炭酸カルシウムを使う生き物のほうが、かえって酸性化に強い場合もありました。2009年の総説によると、一部の光合成をする生き物では、炭素を取り込む速さが上がります。

228の研究を分析した2013年の研究は、応答の大きさは分類群によって違うとしたうえで、1種だけの実験室の結果から野外の個体数を予測するときは注意が必要だと指摘しています。

魚の行動への影響も議論されてきました。NOAAの解説には、酸性化した水では一部の魚が捕食者に気づく力が下がるという説明があります。一方、2020年の研究は、今世紀末の酸性化の水準でも、サンゴ礁の魚の重要な行動への影響は無視できる程度で、これまで報告されてきた影響は再現できなかったと結論しています。

野外の様子を知る手がかりとして、日本の暖かい海の、火山性の二酸化炭素が湧き出す沿岸の岩礁を調べた研究があります。潮間帯の分類群の70%、浅い潮下帯の分類群の40%は高い二酸化炭素の条件に耐えましたが、サンゴ・二枚貝・巻貝の数は大きく減り、生き物の食べ方の幅が狭まった単純な生態系になっていました。二酸化炭素が局所的に多い場所を、将来の海の似た例として調べたもので、日本の海の今の状態を示すものではありません。

よくある質問

海が酸性になると、海の水は酸っぱくなるのですか?

海は今も弱アルカリ性で、表面のpHは約8.1です。海洋酸性化は、海が酸性(pH7以下)になることではなく、pHが下がって酸性の側へ近づいていくことを指します。

貝の殻は、すぐに溶けてしまうのですか?

今の世界の表層の海では、炭酸カルシウムの飽和度はおおむね溶けない水準にあります。ただし、溶けない水準でも飽和度が下がると成長が遅くなる例が実験で分かっていて、影響の出方は生き物によって大きく違います。

フィリピンの海でも、酸性化は進んでいるのですか?

フィリピンの2地点のサンゴの骨格から過去の海水のpHを復元した2026年の研究では、これらの地点の値が海全体の平均より上向きの傾向を示し、局所的に低下を打ち消している可能性が示されました。セブ周辺の記録ではなく、地点によって状況は違います。

まとめ

海洋酸性化は、海が酸性になることではなく、弱アルカリ性の海のpHが下がり、酸性の側へ近づいていくことです。二酸化炭素が溶けて水素イオンが増え、炭酸イオンが減ることで起こり、表面でも深い所でもpHの低下が観測されています。

将来の値は、幅のある予測です。殻や骨格をつくる生き物への影響が心配される一方、影響の出方は種によって大きく違い、実験室の結果をそのまま野外に当てはめることには注意が必要です。