多くの川や湖の水は海ほどしょっぱくないのに、海の水はなぜしょっぱいのでしょうか。海の塩は、どこから来て、どこへ行くのでしょうか。
海の塩のおもなもとは、陸の岩石です。空気中の二酸化炭素を溶かし込んでわずかに酸性になった雨が、長い時間をかけて岩石を溶かし、溶け出した成分を川が海へ運びます。海の底の熱水や海底火山からも加わります。海では、生き物に使われにくいナトリウムと塩化物が長く残るため、食塩の成分が多くなります。一方で、塩は海から出ていく道もあり、今の海は出入りがおおむねつり合っているとみられています。塩のもととゆくえ、そして「塩分35」という数字の意味を、SOLBOY DIVE CENTERがアメリカ地質調査所(USGS)や気象庁などの解説と研究論文をもとに答えます。
雨が岩石を溶かし、川が海へ運ぶ
USGSの解説によると、陸に降る雨は、まわりの空気から二酸化炭素を少し溶かし込んでいます。そのため雨水は、炭酸によってわずかに酸性になります。雨は岩石を物理的に削り、酸は岩石を化学的に分解して、塩類や鉱物をイオンとして溶かした状態で運びます。流れ出た水の中のイオンは、小川や川へ、そして海へ運ばれます。
運ばれる量は大きく、アメリカ海洋大気庁(NOAA)は、世界の川が1年に約40億トンの溶けた塩類を海へ運ぶと推定しています。それでも川の水がしょっぱくないのは、雨が川の淡水を絶えず補っているからです。海の水は、流れ込むすべての川から塩と鉱物を集めることになります。
海の底からも加わる
NOAAは、海の塩の供給源として、陸からの流れ出しと、海底の開口部の2つを挙げています。海底の開口部のひとつが、中央海嶺の頂上付近にある熱水噴出孔です。USGSによると、海洋地殻の岩石にしみ込んだ海水が熱くなり、岩石の鉱物の一部を溶かして、噴出孔から海へ戻ってきます。いま噴出孔から出ている熱水の量から見積もると、海の水全体が1000万〜2000万年ごとに熱水の通り道を循環しうるといいます。
ただし、熱水の働きは加えるだけではありません。熱水の中では、海水が酸素やマグネシウム、硫酸塩を失い、まわりの岩石から鉄や亜鉛、銅などの金属を取り込む傾向があります。溶けていた塩類の一部は、岩石と反応して海水から取り除かれます。さらに、海底火山の噴火も、鉱物を直接海へ放出します。
食塩の成分が多く残る理由
川や熱水が運ぶ成分は、すべてが海にたまり続けるわけではありません。USGSは、溶けたイオンの多くは海の生き物に使われて水から取り除かれる一方、使われないものは長いあいだ残り、時間とともに濃くなると説明しています。ウッズホール海洋研究所(WHOI)の解説では、鉄や亜鉛、銅は生き物によって海水から取り除かれますが、食塩の主成分であるナトリウムと塩化物は取り除かれません。
2022年の論文も、現在の海の塩分を形づくるおもなイオンはナトリウムと塩化物だとしています。同じ論文が引く教科書の値では、海の中でのナトリウムと塩化物の滞留時間は、それぞれ約8000万年と約9800万年です。とても長い時間ですが、地球の年齢と比べるとずっと短い値です。
海水に溶けている成分の割合は、海水の性質を計算する国際的な基準(TEOS-10)の標準組成で確かめられます。この組成は、北大西洋のある海域の表面の海水から作られる標準海水をもとにしたものです。溶けている物質の重さで見ると、塩化物イオンが約55%、ナトリウムイオンが約31%、硫酸イオンが約8%、マグネシウムイオンが約4%、カルシウムイオンとカリウムイオンがそれぞれ約1%です。
ナトリウムと塩化物の割合は、資料によって「90%以上」(USGS)とも「約85%」(NOAA)とも書かれています。同じ標準組成から計算した割合は、重さでは約86%、イオンの数では約91%です。本稿で用いる約86%は、重さを基準にした値です。
「塩分35」は何を表している?
USGSによると、海水の塩分はおよそ35パーミル(千分率)で、海水の重さの約3.5%が溶けた塩類によるものです。海上保安庁(第六管区海上保安本部)の用語の説明でも、塩分は海水に溶けている物質の質量と海水の質量の比で、千分率(パーミル)で示します。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の解説では、岸から離れた海域の海水1kgには、だいたい30〜40gの塩が含まれています。同じ解説の表では、塩分がとても高い死海は1kgあたり330〜340gです。
ただし、塩分の単位は、測り方の移り変わりとともにいくつも提案され、使われてきました。1978年に定められた実用塩分は、海水の電気伝導度を基準と比べた比で決めるもので、単位のない数です。この比が1のとき、実用塩分は定義により35になります。TEOS-10によると、実用塩分35の標準組成の海水には、1kgあたり約35.17gの物質が溶けている計算です。「塩分35」と書かれていても、千分率なのか実用塩分なのかで意味が少し違います。
場所によって濃さが違う
海の塩分は、どこでも同じではありません。気象庁は、海面の塩分は降水などで低くなり、海面からの蒸発で高くなると説明しています。NOAAによると、塩分は一般に赤道付近と極付近で低く、中緯度で高くなります。
JAMSTECの解説では、雨の多い熱帯域や、アマゾン川などの大きな川の河口付近では塩分が低く、蒸発が盛んな亜熱帯域では高くなっています。ロンドン自然史博物館は、紅海のように蒸発が多い海域がほかより塩辛いことを、WHOIは、地中海がほかの海より塩辛いことを挙げています。
塩はどこへ行くのか
川が毎年たくさんの塩を運んでいるのに、海がどんどん塩辛くなっているわけではないようです。NOAAは、ほぼ同じ量の塩が堆積物として海底に沈むと考えられ、今の海はおそらく塩の出入りがつり合っていて、もう塩辛くなり続けてはいないと説明しています。
出ていく道は、海底の堆積物だけではありません。2022年の論文は、蒸発岩(岩塩など)として沈殿することで海から塩が取り除かれる量の変化によっても、海の塩の量は変わりうるとしています。先に見たように、熱水の通り道で岩石と反応して取り除かれる塩類もあります。
では、昔の海はどのくらいしょっぱかったのでしょうか。NOAAは、はじめの海はおそらくわずかに塩辛い程度だったと説明しています。一方、同じ2022年の論文が紹介する1984年の推定では、知られている蒸発岩を海に戻すと、太古代と呼ばれる遠い昔の海の塩分は1kgあたり約50gになります。この推定は、いま地表にある塩素のほぼすべてが地球の初期から地表にあった、という仮定の上に立っています。論文自身が、地球の海の塩分の歴史はまだよく分かっていないと書いていて、見方は一つに定まっていません。
よくある質問
川の水は、なぜしょっぱくないのですか?
川の水にも、岩石から溶け出した成分は含まれています。NOAAによると、雨が川の淡水を絶えず補っているため、しょっぱく感じません。海は、流れ込むすべての川から塩と鉱物を集めています。
海の塩は、今も増え続けているのですか?
NOAAは、ほぼ同じ量の塩が堆積物として海底に沈み、今の海はおそらく塩の出入りがつり合っていると説明しています。地球の長い歴史の中で塩分がどう変わってきたかは、まだよく分かっていません。
海水の塩分が「35」というのは、何の数字ですか?
千分率(パーミル)なら、海水1kgあたり約35gの塩類が溶けていることを表します。電気伝導度の比から求める実用塩分なら、単位のない数で、実用塩分35の標準組成の海水には1kgあたり約35.17gの物質が溶けている計算です。
まとめ
海の塩のおもなもとは陸の岩石で、わずかに酸性の雨が岩石を溶かし、川が海へ運びます。海底の熱水や海底火山からも加わります。生き物に取り除かれにくいナトリウムと塩化物が長く残るため、海水は食塩の成分が多く、標準組成では重さで約86%を占めます。
塩は堆積物や蒸発岩として海から出ていく道もあり、今の海は出入りがおおむねつり合っているとみられています。塩分は場所によって変わり、雨や川の水で薄まり、蒸発で濃くなります。