マグロの体は温かい?筋肉の熱を逃がさない奇網の仕組み

魚の体温は、まわりの水と同じだと思われがちです。ところがマグロの仲間は、水温より温かい体を持っています。魚なのに、どうやって体を温かく保っているのでしょうか。

マグロの仲間は、泳ぎ続けるための筋肉「血合筋(赤色筋)」が出す熱を、「奇網」と呼ばれる血管の熱交換器で体の中にとどめ、筋肉や内臓、脳、目などを水温より高く保っています。ただし、哺乳類のように体温をいつも一定にしているわけではなく、温かさは体の部位や測り方、成長の段階によって違います。マグロの体が温かい仕組みを、SOLBOY DIVE CENTERが体のつくりと測定の記録をもとに整理します。

水温より温かい魚がいる

1993年の日本の総説は、魚は変温動物で体温は水温と同じだと一般に考えられているが、カツオ・マグロ類や大型のサメ類など活発な魚は、水温より数℃から10℃前後も高い体温を持つと紹介しています。2022年の総説も、魚の大部分は体温がまわりと同じだが、マグロ類など一部の魚は水温より数℃高い体温を持つことが発見された、と書いています。

温かいのは、体の全体ではありません。太平洋のクロマグロは、ほかのマグロと同じく、泳ぐための筋肉、内臓、脳、目の組織の温度を水温より高くできます。こうした性質は「部分的な内温性」と呼ばれます。

熱をつくるのは、泳ぎ続ける血合筋

魚が巡航速度以下でふだん泳いでいるときに働いているのは血合筋だけで、ここがおもな熱源になります。血合筋以外の体の横の筋肉の大部分は普通筋(白色筋)と呼ばれ、血合筋より赤みが弱い筋肉です。

多くの魚は、体の表面に近いところにしか血合筋を持ちません。一方、カツオ・マグロ類は体の深いところにも血合筋を持っています。マグロ類は、血合筋を血管の少ない普通筋で包み、体の中心近くに置いていて、これも熱を保つのに有利なつくりだと考えられています。

熱を逃がさない「奇網」

マグロ類の血合筋の部分には、細い動脈と静脈が密に集まり、「奇網」という器官をつくっています。奇網は、動脈と静脈が交互に並んだ網の目のような組織です。動脈と静脈がくっついて逆向きに流れるため、効率のよい熱交換器として働きます。

組織で温められた静脈の血と、えらで水温と同じまで冷えた動脈の血とが、奇網の中ですれ違いながら熱をやり取りします。静脈の血の熱のかなりの部分が動脈の血へ渡されるので、えらから逃げる熱が抑えられ、熱は体の組織に保たれます。クロマグロの保温の仕組みは2種類の奇網からなり、一つは熱源の赤色筋を覆い、もう一つは肝臓の表面にあると報告されています。カツオでは、心臓の後ろの背骨の下に大きな奇網があることが知られていて、奇網の位置は種によって違います。

体温を一定にしているわけではない

1993年の総説によると、クロマグロの体温は、まわりの水温が5〜10℃の範囲で変わっても、ほぼ20℃前後に保たれていることが分かっています。それでも総説は、クロマグロを本当の恒温動物とは言いがたいが、単純な変温動物の枠からも外れている、と書いています。体の熱を保つ力が高いため、水温の変化に体温が追いつくのが遅くなり、結果として体温が保たれている、という解釈も紹介されています。

体の中に記録計を入れた研究もあります。対馬沖でとれた尾叉長43〜78cmのクロマグロの腹の中に記録計を入れ、1995〜1998年の11〜12月に計229個体を放流した研究では、腹の中の温度は昼も夜も水温より2℃ほど高く、その差は水温が変わってもほぼ一定でした。体の熱が逃げにくいうえに、体の中でつくる熱の量も多いためだと分かってきました。一方で、いったん体温が下がると、熱が逃げにくいぶん冷えたままになり、戻るのに時間がかかることも分かりました。そのため、このクロマグロは水温躍層の下に長く入ることをできるだけ避け、表層の混ざった水の中を泳ぎながら、行動で体温を調節していました。

体温を調節する仕組みについては、研究で見方が分かれてきました。1993年の総説は、奇網や血合筋のつくりは熱を保つ働きだけで、体温を調節する仕組みとはいいがたいとしました。ただ、その前年の1992年には、ハワイで自由に泳ぐメバチを調べた研究が、体全体の熱の伝わりやすさを100倍も素早く変えられると報告しています。メバチは冷たい深みから温かい表層へ上がるときは熱交換器を止めて早く温まり、深みへ戻るときは再び働かせて熱を保っていました。

体温の差は、測り方で大きく違う

1960年3〜5月に東部太平洋で延縄にかかったマグロ類やカジキ類を調べた研究では、生きて揚がった魚の直腸に温度計を差し込んで測ったところ、体温の平均は釣れた層の水温より6℃高くなっていました。メバチの平均体温は24.9℃で水温の平均18.9℃より6.0℃高く、キハダは24.3℃で5.4℃高くなっていました。延縄で釣れたメバチの体温は水温より最高12℃、キハダでは最高7℃高いという報告もあり、最も温かいのは背の筋肉の中の血合いの部分でした。

これらは釣り上げた直後に測った値で、記録計で測ったクロマグロ若魚の腹の中の約2℃とは条件が違います。マグロの体温の差を比べるときは、種、体の大きさ、体のどこを、どう測ったかをそろえて見る必要があります。

小さなマグロは、体温を保てない

マグロは、生まれたときから温かいわけではありません。2026年の研究紹介によると、仔魚や稚魚の時期のマグロは体温を保てず、尾叉長約20cmから少しずつ内温性を示し始め、45cmほどになると水温より2〜4℃ほど高い体温を示すようになります。2025年の研究も、太平洋クロマグロの内温性の能力は尾叉長20〜40cmで発達するとしています。

温かい体は、何に役立つのか

2004年の総説は、マグロ類のこうした特殊なつくりが、比較的速い泳ぎを続けることを支え、水温の壁を小さくして、高緯度の海や深い海へすむ場所を広げることを可能にしていると述べています。取り出した筋肉を使った実験からは、温度差10℃を保てる熱交換器があれば、筋肉の最大の出力と、最大の出力が出る収縮の頻度がおよそ2倍になると見積もられています。泳いでいるマグロで測った値ではありません。

同じような体のつくりは、マグロ類だけのものではありません。Lamnidae という科のサメとマグロ類は、4億年以上も別々に進化してきたにもかかわらず、赤色筋を体の中心に置くことなど、よく似た形を持つようになりました。また、サバ・マグロ・カジキの仲間では、脳と網膜を温める能力が3つの系統で別々に生まれ、そのたびに冷たい海への進出と結びついていたと報告されています。

よくある質問

マグロは恒温動物なのですか?

恒温動物とは言いがたいとされています。筋肉や内臓、脳、目などを水温より高く保ちますが、水温の影響を受け、いったん冷えると戻るのに時間がかかります。体の一部を温かく保つ「部分的な内温性」の魚です。

マグロの体は、水温よりどのくらい温かいのですか?

種や体の大きさ、測り方で違います。記録計で測ったクロマグロ若魚の腹の中では水温より約2℃、釣り上げた直後の直腸の測定では平均6℃前後、メバチで最高12℃という報告があります。

生まれたばかりのマグロも、体が温かいのですか?

いいえ。仔魚や稚魚の時期は体温を保てず、尾叉長20cmほどから、成長とともに体温を保つ力が発達していきます。

まとめ

マグロの仲間は、泳ぎ続ける血合筋が出す熱を、動脈と静脈が逆向きに並ぶ奇網で体の中にとどめ、血合筋を体の深いところに置くことで、筋肉や内臓、脳、目を水温より温かく保っています。

ただし、体温を一定に保つ恒温動物とは違い、温かさは部位や大きさ、測り方によって変わります。小さいうちは体温を保てず、成長とともにこの仕組みが整っていきます。