ホウボウの仲間は、胸びれの下に指のような「脚」をもち、海底の砂の上で動かします。この脚で、砂の中の餌の「味」が分かるという話があります。本当なのでしょうか。
ホウボウ科の脚は、胸びれの3本の鰭条が分かれたもので、左右で6本あります。アメリカ大西洋岸にすむホウボウ科の一種 Prionotus carolinus を調べた2024年の研究で、この脚が化学物質を感じ取り、砂に埋まった餌を見つける感覚器官として働くことが実験で示されました。ただし、同じ働きが確かめられたのはごく一部の種で、近い仲間でも埋まった餌を見つけられない種がいます。脚が感じているもののしくみと、その限界を、SOLBOY DIVE CENTERが論文をもとに説明します。
胸びれから分かれた6本の脚
2023年の解説論文によると、ホウボウ科は浅い塩性湿地から深海まで、世界中のさまざまな環境にすむ魚の仲間です。その「脚」は、左右それぞれの胸びれの最初の3本の鰭条でできています。2024年の発生の研究によると、脚は胸びれの最も腹側の3本の鰭条から生まれ、はじめは胸びれの中にできて、発生の途中でほかの鰭条から分かれます。仔魚は脚のない状態で孵化してしばらく浮遊生活をし、脚が胸びれから分かれる最初の3週間ほどの頃に、海底に着底します。
日本のホウボウ Chelidonichthys spinosus の記載では、胸びれの14本の軟条のうち、第12〜14軟条がほかから離れています。数え方は資料によって違いますが、胸びれの鰭条の一部が分かれている点は同じです。
脚の動かし方にも特徴があります。2024年の発生の研究によると、脚は腱ではなく、付け根の突起に付く専用の筋肉で動かされます。脊髄には脚1本ごとに1つ、計6つの大きな葉があり、脚のない魚にはありません。2023年の解説論文によると、この葉の正確な働きは分かっていませんが、脚からの感覚の情報をまとめることに関わると考えられています。
埋めた餌を見つける実験
2024年の論文によると、ホウボウ科の魚が埋まった餌を見つける能力は、それまで実験では調べられていませんでした。研究チームは、ウッズホールの海洋生物学研究所から提供された野生の P. carolinus を、海水約750Lと深さ約8cmの砂を入れた直径1.5mのプールに入れ、見えないように埋めたカプセルを探させました。1回の実験は30分です。
P. carolinus は、砂に埋めたムール貝と、その抽出液を入れたカプセルを見つけ、海水だけのカプセルは掘り出しませんでした。L-アラニンやベタインなど、脚を刺激する1種類の物質だけを入れたカプセルも見つけました。埋める深さが深くなるほど、見つける成功率は急に下がりました。論文は、脚が表面近くのごく薄い濃さの手がかりを使って、埋まった物質の発生源を見つけていると結論しています。
脚の神経の電気的な記録では、脚の先は触れる刺激に強く反応し、餌の抽出液や、魚にとって一般的な味の物質である小さなL-アミノ酸にも反応しました。
掘る種と、掘らない種
同じ実験で、近い仲間の Prionotus evolans は、目に見える餌は食べたものの、埋まったムール貝やイカ、カニは見つけられませんでした。論文は、P. carolinus を掘る種、P. evolans を掘らずに脚を移動と見える餌を探るのに使う種としています。
脚の形も違いました。掘る P. carolinus の脚の先はシャベルのような形で、舌などに見られる乳頭に似た突起で覆われていました。掘らない P. evolans の脚は棒のような形で、乳頭がありませんでした。掘る種の脚は、掘らない種より、L-アミノ酸に約100倍敏感でした。P. carolinus は、生まれてから5週間ほどは脚に乳頭がなく、掘って餌を見つけ始める時期は、乳頭ができる時期と重なっていました。
世界のホウボウ科の博物館標本を調べると、脚の乳頭は、P. carolinus に最も近い小さなグループにしか見られず、多くの種の脚は鰭条に似た棒状でした。飼育下で比べた別の2種では、乳頭のある P. scitulus だけが掘る行動と化学物質への敏感さを示し、乳頭のない P. tribulus は示しませんでした。
「味」を感じるしくみは、まだ途中
脚が感じているものは、私たちの舌の味覚と同じなのでしょうか。2024年の論文によると、脚の乳頭には、味蕾や嗅覚の受容神経など、典型的な化学感覚の細胞の目印は見られませんでした。一方で、掘る P. carolinus の脚の先の表面の細胞では、味覚の受容体 T1R3 の遺伝子がよく働いていて、P. carolinus の T1R2 と T1R3 を培養細胞で一緒に働かせると、掘る種に特有のL-アミノ酸に強く反応しました。
2026年の総説は、この受容体が反応するのは脚を刺激する物質の一部だけだと指摘し、脚の化学感覚の細胞の正体はまだ解決していないとしています。脚は行動の上では触覚と体の外の味覚を合わせたように働きますが、脳へつながる神経の経路は、味覚や嗅覚の経路とは違うようです。「脚で味が分かる」という言い方は、たとえとして受け取るのがよさそうです。
脚のつくりを決める遺伝子も見つかっています。2024年の発生の研究は、古くから受け継がれてきた転写因子 tbx3a が感覚性の脚の発生を決める主要な因子であることを示し、P. carolinus のゲノム編集個体で、正常な脚や感覚乳頭、掘る行動に必要であることを確かめました。
日本のホウボウでは
日本のホウボウでも、脚の研究が始まっています。2026年の総説によると、ホウボウ Chelidonichthys spinosus を調べた研究で、脚の表面の細胞に、化学感覚の候補となる嗅覚の受容体が見つかりました。ただし、その感覚の働きは直接は試されていません。総説は、ホウボウ科の種によって脚の感覚に使う受容体が違う可能性があるとしています。
京都大学白浜水族館の展示解説は、ホウボウは歩いているのではなく海底すれすれを泳いでいて、指のような部分を動かして砂の中の獲物を探していると紹介しています。一方、アメリカの P. carolinus の論文は、水槽の中で泳ぎと「歩き」を交互にしていたと記録しています。種や観察の条件が違うため、ホウボウ科の全部が同じ動きをするとは言えません。
よくある質問
ホウボウの仲間は、みな脚で埋まった餌を見つけられるのですか?
いいえ。実験で確かめられたのは、アメリカ大西洋岸の Prionotus carolinus と、近い P. scitulus などです。近縁の P. evolans は埋まった餌を見つけられず、脚の乳頭もありませんでした。日本のホウボウでは脚の受容体の研究がありますが、2026年の総説によると、その感覚の働きは直接は試されていません。
脚には舌のような味蕾があるのですか?
2024年の研究では、脚の乳頭に味蕾は見られませんでした。脚の先の細胞に味覚の受容体がありますが、脚の化学感覚の細胞の正体は、まだ分かっていません。
脚は何本あるのですか?
左右の胸びれにそれぞれ3本ずつ、計6本です。胸びれの鰭条の一部が、発生の途中でほかの鰭条から分かれてできます。
まとめ
ホウボウ科の脚は、胸びれの鰭条が分かれてできた6本の「指」です。アメリカ大西洋岸の Prionotus carolinus では、脚が化学物質を感じ取り、砂に埋まった餌を見つけることが、飼育下の実験で示されました。掘る種の脚には乳頭があり、掘らない近縁種より化学物質にずっと敏感です。
ただし、この働きが確かめられたのは小さなグループの種だけで、脚の化学感覚の細胞の正体も解明の途中です。日本のホウボウの脚が何を感じているのかは、これからの研究が待たれます。