砂浜や干潟、砂地の海底には、小さな穴がいくつも開いていることがあります。あの穴の中には、誰が住んでいるのでしょうか。穴の形を見れば、住んでいる生き物が分かるのでしょうか。
砂や泥の底にある穴の多くは、カニやエビの仲間、ユムシなどがつくった巣穴の入り口です。ただ、外から見えるのは入り口だけで、中の形は種や場所によってさまざまです。違う生き物が似た形の穴をつくることもあれば、巣穴に作り手以外の生き物が住んでいることもあり、穴の形だけで「誰の家か」を決めることはできません。砂の下に広がる巣穴の世界を、SOLBOY DIVE CENTERが研究者の調査をもとに案内します。
砂の中に巣穴をつくる生き物たち
海の砂や泥の底では、すみかを確保し、捕食者を避けるために、多くの甲殻類が巣穴をつくります。巣穴の構造は、口脚目・等脚目・端脚目のほか、十脚目のエビ・ザリガニ・ヤドカリ・アナジャコ・カニの仲間など、さまざまな分類群で研究されています。十脚甲殻類(エビ・カニの仲間)では、長く使う巣穴をつくる性質が、いくつものグループで別々に進化しました。
巣穴は、夏の高温や冬の低温、大雨のときの塩分の低下などの厳しい環境から体を守り、脱皮や繁殖、餌をとる場所にもなります。
甲殻類のほかにも、ユムシは、アナジャコの仲間と同じようにU字状やY字状の巣穴をつくります。砂地の巣穴から体を出して暮らす魚のチンアナゴについては、チンアナゴの食事の仕組みを説明したページがあります。
入り口の下には、長い通路が続いている
巣穴の中の形は、穴に樹脂を流し込んで固め、型をとる方法で調べられてきました。高知県土佐市の浦ノ内湾の干潟で、テッポウエビの巣穴の型を9個とった研究では、巣穴は漏斗状の入り口を複数もち、水平方向に長く、浅いつくりでした。深さは平均13.8cm、全長は平均132cmでした。
アナジャコの巣穴は、さらに深くなります。熊本県の荒尾干潟のアナジャコは、深さ3mを超える縦の部分が下に伸びたY字型の巣穴をもっていました。その形は、内側の壁を絶えず塗り固めることで保たれています。台湾西部の干潟に多いアナジャコの仲間 Austinogebia edulis も、深さ1mを超える巣穴をつくり、型の研究ではおおむね上がU字で下に縦穴が続くY字型です。研究者らは、このアナジャコの仲間を、巣穴によって堆積物の性質を変える「生態系エンジニア」と位置づけています。
穴の形だけでは、作り手を決められない
2022年の研究によると、巣穴の形と大きさは、一般に、住む動物の食べ方や活動の程度、体の形と大きさを反映します。それでも、穴の形から作り手を確定するのは簡単ではありません。
地層に残る巣穴や足跡などの「生痕化石」の分類では、作り手の生き物との関係を名前に持ち込まないことになっています。全く違う生き物が似た形の痕跡をつくる一方で、1匹の生き物がいろいろな形の痕跡をつくるためです。たとえば、シオマネキの仲間は、いろいろな形の痕跡を残します。化石の巣穴では、その場に作り手が残っていないかぎり、エビ・カニの仲間を作り手と特定するのはかなり難しいと、2015年の研究は述べています。
今の海の巣穴でも、形はそろっていません。テッポウエビの仲間の巣穴の型をまとめた報告では、深さ・長さ・入り口の数のばらつきが大きく、同じ種でも形が違う場合がありました。すむ場所や堆積物の種類、共生するハゼの有無も、巣穴の形に影響すると考えられています。ベリーズの Alpheus floridanus では、単独でいるときは深さ20cmのU字型、ハゼと一緒にいるときは深さ40cmのY字型でした。
入り口の見た目と中のつくりが合わないこともあります。韓国の干潟の6種を調べた研究によると、Urechis unicinctus の巣穴は、表面の入り口が体よりずっと細いのに、中の通路は太くなっています。アナジャコは1つの巣穴に入り口が2つあるため、厚岸湖・万石浦・三番瀬の干潟でアナジャコの量を調べた研究では、入り口の数の半分として数えています。
同じ浜に、よく似た仲間が一緒に暮らしていることもあります。高知県中部の砂浜では、スナガニ・ツノメガニ・ナンヨウスナガニの3種のスナガニ類が共存していて、巣穴を調べた研究でも、種の組成は個体を採集して確かめていました。
巣穴には、作り手以外も住んでいる
隠れ場所の少ない砂や泥の底では、甲殻類の巣穴が、ほかの生き物のすみかになることがよくあります。アナジャコの仲間の巣穴にも共生する生き物がいて、日本の干潟では、ハゼの仲間のビリンゴがアナジャコの巣穴を産卵室に使うことが報告されています。アナジャコが住むことで新しい暮らしの場ができ、そこに入り込むように進化してきた生き物がいくつもいます。
使われなくなった巣穴が残ることもあります。荒尾干潟のアナジャコの研究では、放棄された巣穴がどの程度残るかは、干潟の堆積物の硬さと深く関わっていました。穴があるからといって、今も誰かが住んでいるとは限りません。
研究者は、穴から何を調べているのか
砂や泥の中に隠れている生き物の暮らしを観察するのは、とても難しいことです。研究者らは、巣穴や這い跡などの痕跡を手がかりに、それまで見えなかった海底の下の生き物の生態を明らかにしてきました。
巣穴の入り口を数える方法は、隠れて見えない種を含む干潟の生き物の量を推定するのに広く使われています。ただし、生き物の重さまで求めるには限界があり、韓国の干潟の研究では、水中の粒子を食べる種で入り口の大きさと生き物の量の関係が比較的弱く、まだ一般化できないとされました。
スナガニ類の巣穴は、砂浜の状態を見る手がかりとしても注目されています。巣穴の密度や直径が人の影響に応じて変わるためです。高知県中部の8地点で2023年6月〜2024年11月に調べた研究では、巣穴の密度は夏から秋に高く、8〜10月にピークを迎え、冬には減る傾向でした。人の影響が小さい浜ほど、巣穴の密度も直径も大きくなっていました。研究者らは、巣穴の直径と実際の体の大きさの対応を確かめることを今後の課題としています。
巣穴の中の生き物は、隠れることで捕食者から身を守っています。砂浜や海底で穴を見つけても、掘ったり手を入れたりせず、そのままにしておきましょう。
よくある質問
穴の大きさで、住んでいる生き物の大きさが分かりますか?
入り口の大きさと体の大きさが合わない例があります。韓国の干潟の Urechis unicinctus では、入り口が体よりずっと細いのに、中の通路は太くなっていました。スナガニ類の研究でも、巣穴の直径と体の大きさの対応は、これから確かめる課題です。
1つの穴には、1匹しか住んでいないのですか?
作り手以外の生き物が一緒に住んでいることがあります。日本の干潟では、ハゼの仲間のビリンゴがアナジャコの巣穴を産卵室に使う例が報告されています。アナジャコは1つの巣穴に入り口が2つあるので、穴の数が住む数を表すとも限りません。
巣穴はどのくらい深いのですか?
種と場所で大きく違います。浦ノ内湾のテッポウエビの巣穴は深さ平均13.8cmで横に長く、荒尾干潟のアナジャコの巣穴は深さ3mを超えていました。
まとめ
砂浜や海底の小さな穴の多くは、カニやエビの仲間、ユムシなどがつくった巣穴の入り口です。巣穴は、厳しい環境や捕食者から身を守り、脱皮や繁殖、餌とりの場にもなります。
ただ、違う生き物が似た穴をつくり、同じ種でも形が変わり、作り手以外の生き物が住むこともあります。穴の形だけでは「誰の家か」は決められず、研究者も個体を確かめながら調べています。