ウミウシは光合成を利用する?食べた藻の葉緑体を体に残す嚢舌類

緑色のウミウシの中には、食べた藻の葉緑体を自分の体の中に残し、しばらく光合成をさせるものがいます。動物なのに、光合成を利用しているのでしょうか。

この現象は「盗葉緑体現象」と呼ばれ、嚢舌類というウミウシのグループで知られています。嚢舌類は藻の細胞に穴をあけて中身を吸い、葉緑体を腸の細胞に取り込みます。葉緑体が光合成を続ける期間は種によって1日から300日以上までさまざまです。光合成が飢えたときの生き残りや産卵を助けるという研究がある一方で、野外の個体は主に藻を食べて栄養をとっているという研究もあり、どこまで光合成に頼っているのかは、種や条件によって答えが変わります。盗葉緑体のしくみと研究の現在地を、SOLBOY DIVE CENTERが種ごとの違いに気をつけながらまとめます。

藻の細胞を吸い、葉緑体だけを残す

2021年の論文によると、嚢舌類のウミウシは、餌の藻の細胞壁に穴をあけて中身を吸い出し、腸の表面の細胞が葉緑体を取り込みます。2026年の日本貝類学会誌の論文も、嚢舌類は藻の組織をかじるのではなく、歯舌で細胞壁を突き刺して細胞の中身を吸い出して食べると説明しています。

取り込まれるのは葉緑体だけで、ウミウシの細胞には藻の核は含まれません。2021年の論文によると、葉緑体はウミウシの生殖細胞では見つかったことがなく、子には受け継がれずに、世代ごとに餌から新しく取り込まれます。サンゴの中で生きた藻の細胞が暮らす共生とは違い、ここでは藻の一部である葉緑体だけが残されます。

動物で盗葉緑体が知られているのは、嚢舌類のウミウシと、扁形動物の2種です。2022年の総説によると、扁形動物の場合は珪藻の葉緑体で、光合成が続くのは数日だけです。

保つ期間は、種によって大きく違う

2021年の論文によると、葉緑体の光合成を保つ期間は嚢舌類の種によって違い、1日から300日超まで幅があります。2週間未満を「短期保持」、20日を超えるものを「長期保持」と呼ぶ研究もあります。系統の解析によると、嚢舌類の共通の祖先は光合成の働きを保たない形で葉緑体を残すようになり、その後、いくつかの系統がそれぞれ独立に、光合成を保つ力を手に入れました。嚢舌類のすべてが、光合成できる葉緑体を長く保つわけではありません。

具体的な例を見てみましょう。チドリミドリガイ Plakobranchus ocellatus は、2012年の論文で、食べた藻の葉緑体を消化腺の細胞に最長10か月保つと報告されました。ただし、その後の解析で、チドリミドリガイは近い種を含む種の集まりであることが分かりました。2021年の論文によると、沖縄の type black と呼ばれる系統の保持期間は3〜5か月です。2022年の総説によると、葉緑体を最も長く保つ Elysia chlorotica と Elysia timida は、それぞれ決まった1種類の藻からだけ葉緑体を取り込みます。一方、同じミドリガイの名がつくクロミドリガイ Elysia atroviridis は、保持期間が4〜8日の短期型です。

野外では、主に藻を食べて栄養をとる

光合成は、ウミウシの栄養にどのくらい役立っているのでしょうか。沖縄のチドリミドリガイを調べた2012年の論文は、体のアミノ酸の窒素の同位体を測って、野外の個体は光合成にあまり頼らず、主に食べた藻を消化して栄養を得ていると結論しました。同じ研究グループの2013年の発表によると、飼育下で光合成だけに頼らせた個体は生産者に近い値を、野外で採集した直後の個体は植物食の動物の値を示しました。野外の個体は頻繁に藻を食べて、葉緑体を入れ替えていると考えられています。

2012年の論文の調査では、チドリミドリガイは少なくとも8種の管状の緑藻から葉緑体を得ていて、1個体に複数の藻の葉緑体が含まれていました。2026年の論文は、実験室で type black が、ハゴロモ科の藻を自分から食べる様子を撮影しています。

飢えたときに、光が役に立つ

一方で、餌がないときには光合成が意味をもつようです。2012年の論文は、葉緑体の光合成産物は野外の栄養にはあまり寄与しないものの、飢えた個体では重要な栄養源になるとしています。

2021年の論文では、沖縄の type black を餌なしで飼い、各群5個体の平均寿命を比べました。ずっと暗い条件では156日、弱い光の12時間ごとの明暗では195日で、光のある群のほうが長く生きました。論文は、光合成が飢えへの強さを高めるという解釈が最も素直だとしつつ、葉緑体だけを取り除く方法がないため、直接の証明ではないとしています。一方、短期型のクロミドリガイでは、光を当てても生存率は上がりませんでした。

2017年の研究は、Elysia timida を飢えさせると、消化腺の細胞の中でデンプンの成分がいったん増えて、その後急に減ることを示しました。光合成を止めるとデンプンは見られず、研究チームは、葉緑体が栄養をつくる装置と、ためておく装置の両方として働くと考えています。

産卵への影響を調べた研究もあります。2021年の別の研究では、E. timida のペアに餌を与えながら28日間飼うと、通常の光の下では1ペアあたり平均7.5個の卵塊を産み、弱い光の下では平均3.0個でした。研究チームは、この差が葉緑体の光合成による資源のためという仮説を立てていますが、光の条件が産卵に直接影響した可能性も否定できないとしています。

「食料の蓄え」とみる研究も

反対の見方もあります。2014年の研究は、長期保持型の E. timida とチドリミドリガイが、光の下で二酸化炭素を取り込むことを示しつつ、真っ暗な中でも、光合成を止める薬を入れた光の下でも、数か月の飢えを生き延びたと報告しました。研究チームは、盗葉緑体を太陽光発電の装置ではなく、ゆっくり消化される食料の蓄えのようだと結論しました。

これに対し2022年の総説は、その実験は1条件2個体と数が少なく、餌を与えた明るい条件の対照も示していなかったと指摘し、結論は言い過ぎだろうとしています。長い期間の真っ暗な条件は、自然には起こりにくいという注意もあります。2021年の論文も、光合成の働きは生存率を上げないとした別の研究の結果は、チドリミドリガイの系統の違いのために type black には当てはまらないと述べています。種や系統、実験の条件によって、結果の読み方が変わるのです。

藻の遺伝子が移った証拠は見つかっていない

藻の核がないのに、葉緑体はどうやって長く働き続けるのでしょうか。かつては、藻の遺伝子がウミウシに移ったという説がありました。しかし、2021年の論文は、沖縄の type black と鹿児島湾のコノハミドリガイ Elysia marginata のゲノムを読み解き、光合成に関わる藻由来の遺伝子が核に移った証拠は見つからなかったと結論しました。2022年の総説も、嚢舌類は光合成のための外来の藻の遺伝子を取り込んではいないようだとしています。藻に由来するタンパク質を保つしくみなどが考えられていますが、葉緑体が長く働くしくみは、まだ解き明かされていません。

よくある質問

嚢舌類のウミウシは、光合成だけで生きていけるのですか?

そうとは言えません。沖縄のチドリミドリガイの研究では、野外の個体は主に藻を食べて栄養をとっていました。光合成が役立つのは、主に飢えたときや光の条件を変えた飼育実験で確かめられています。光合成への頼り方は、種や系統によっても違います。

葉緑体は子どもに受け継がれるのですか?

受け継がれません。葉緑体はウミウシの生殖細胞では見つかっておらず、世代ごとに餌の藻から新しく取り込まれます。

葉緑体を残すのはウミウシだけですか?

動物では、嚢舌類のウミウシのほかに、扁形動物の2種で知られています。扁形動物の場合、光合成が続くのは数日だけです。

まとめ

嚢舌類の一部のウミウシは、藻の細胞の中身を吸い、葉緑体だけを腸の細胞に取り込んで、しばらく光合成をさせます。保つ期間は1日から300日以上まで種によって大きく違い、葉緑体は世代ごとに餌から取り込まれます。

光合成は、飢えたときの生き残りや産卵を助けるという研究があります。野外のチドリミドリガイの研究では、主に藻を食べて栄養をとっていました。調べられたゲノムでは、光合成に関わる藻由来の遺伝子が核へ移った証拠は見つかっていません。葉緑体が藻の核なしで長く働くしくみの解明は、まだ道半ばです。