太陽の光が届かない海で、生き物は何を食べる?沈んでくる有機物と、化学合成の細菌

植物は太陽の光で栄養をつくり、それを動物が食べます。では、太陽の光がまったく届かない深い海の底では、生き物は何を食べて生きているのでしょうか。

答えは2つあります。1つは、光の届かない深海でも、多くの生き物は海の表層で光合成によってつくられ、沈んでくる有機物に頼っているということ。もう1つは、熱水が噴き出す場所や、海底から水がしみ出す場所では、硫化水素やメタンなどの化学物質のエネルギーで有機物をつくる細菌が生産者になり、その細菌と一緒に暮らす動物の集まりができているということです。深海の食べ物の源を、SOLBOY DIVE CENTERが2つに分けてお答えします。

深海の多くの生き物は、上から沈んでくる有機物に頼る

2007年の日本の解説によると、地球上の生き物はほとんどすべて、太陽の光のエネルギーに頼って生きていて、光の届かない深海底も例外ではありません。海の表層で植物プランクトンが光合成してつくった有機物が、直接または間接的に海底に降り積もり、深海の生き物の食べ物になります。

ただし、海底まで届くのは、表層でつくられた光合成の産物の1%以下とされています。そのため、ふつうの深海底は食べ物が乏しく、生き物の密度も小さくなります。

熱水や湧水のそばでは、化学物質から食べ物がつくられる

一方、深海の熱水域や湧水域には、硫化水素・メタン・水素など、地球の内部から噴き出す化学物質をエネルギー源にして有機物をつくる微生物がすんでいます。無機物から有機物をつくり出す生物を「生産者」といい、ここではこの化学合成をする微生物が生産者になって、「化学合成生態系」ができています。海底の温泉のような熱水噴出孔や、冷たい水がしみ出す湧水の周りにできる生物の集まりの成立は、基本的に太陽に頼らないとされ、光合成に頼る生物群集とは独立した生態系をつくることが知られています。

アメリカ海洋大気庁(NOAA)の解説によると、熱水噴出孔は、冷たい海水が熱いマグマで温められて再び噴き出すことでできます。熱い海水が沸騰しないのは、噴出孔がある深さの非常に高い圧力のためです。熱水噴出孔は1977年に、ガラパゴス諸島の近くの海底を探査していたときに初めて見つかり、水深約2,500mで温水の湧き出しにともなう生物の集まりが確認されました。1979年の論文では、その動物の集まりは、光合成ではなく、硫黄を酸化する細菌の化学合成からエネルギーのすべてを得ているように見えると報告されました。

熱水だけではありません。1984年には、メキシコ湾の深海で、熱水域に似た大型の動物の密な集まりが見つかり、周りとほぼ同じ温度でしみ出す、硫化物の多い水に養われているらしいことが報告されました。日本では、1984年に相模湾の水深1,000〜1,130mでシロウリガイの密集域が見つかってから、本格的な探索が始まりました。2003年の時点で、熱水の生態系は小笠原諸島の海域・沖縄トラフ・鹿児島湾に、メタンがしみ出す冷湧水の生態系は日本海溝・相模湾・南海トラフなど各地で見つかっています。

化学合成生態系は、深海にありながら1平方メートルあたり数十kgを超える生き物の量をもつことがあるといわれます。ただし、同じ2003年の解説は、群集の規模を数字で評価したデータはまだ少ないとも述べています。

細菌を体の中にすまわせる動物たち

熱水域や湧水域にすむ二枚貝、チューブワームなどの環形動物、コシオリエビなどの甲殻類の多くは、化学合成をする微生物を体の中や外にすまわせ、微生物がつくった有機物を使って生きています。2003年の日本の総説は、この共生の最大の特徴を、動物の体の中で活発に有機物がつくられることだとし、こうした動物は栄養の大部分、あるいは全部を共生細菌に頼っていて、共生細菌なしでは生きられないと考えられているとしています。

このような共生が初めて報告されたのは1981年で、ガラパゴス諸島沖の熱水噴出孔にすむガラパゴスハオリムシと、硫黄細菌の関係でした。この動物には口も消化管もなく、栄養体と呼ばれる特別な組織に硫黄細菌をもっています。1981年の研究では、栄養体に二酸化炭素を固定する酵素が多く見つかり、筋肉にはなかったことから、細菌との共生で栄養を得ていることが示唆されました。

二枚貝にも、同じような共生があります。シンカイヒバリガイの仲間は、えらの細胞の中に、硫黄細菌、メタンを酸化する細菌、またはその両方をすまわせています。沖縄トラフや相模湾のシンカイヒバリガイは、メタンを酸化する細菌を共生させています。シマイシロウリガイのえらの組織にも、硫化水素をエネルギー源にする細菌が共生しています。

共生細菌のエネルギーの得方には、主に2つの型があります。硫化水素からエネルギーを得て、酸素を使い、二酸化炭素から有機物をつくる型(硫黄酸化型)と、メタンをエネルギー源にも材料にも使う型(メタン酸化型)です。2015年の発表では、伊豆・小笠原の深海の熱水にすむシチヨウシンカイヒバリガイの共生細菌のゲノムに、硫化水素をエネルギー源にして二酸化炭素から有機物をつくる遺伝子がそろっていることが分かりました。さらに、水素を使う遺伝子などを、もっている細菌ともっていない細菌が混ざっていました。

体の表面の細菌を食べる、ゴエモンコシオリエビ

体の表面にすむ細菌を食べる動物もいます。ゴエモンコシオリエビは、深海の熱水噴出孔の周りにすむ甲殻類で、ヤドカリに近く、体の表面に多くの毛が生えています。このエビは、手のような器官で、細菌の付いた毛をこそげ取って口に運ぶような動作を頻繁に行います。

2014年のJAMSTECの発表では、沖縄トラフのゴエモンコシオリエビが、自分の体毛に付いた化学合成細菌を食べて栄養にしている直接の証拠が得られました。体の表面の細菌が固定する炭素の量は、エビが受け取った量の40倍以上あり、体の表面の細菌だけで栄養をまかなえることが分かりました。ただし、エビが食べ物になる細菌を積極的に育てているかどうかは、その時点では分かっていませんでした。

化学合成の共生は、深海だけのものではない

2008年の総説によると、化学合成の共生は、深海での発見をきっかけに、冷たい湧水、鯨骨や沈んだ木、浅い沿岸の堆積物など、世界中のさまざまな場所にあることが分かりました。化学合成細菌と共生する動物は少なくとも7つの動物門で知られ、こうした共生は、別々の系統で何度も独立に生まれたことが示されています。

たとえば、ツキガイの仲間の二枚貝は、マングローブの底や、人の影響で富栄養化した海底などの浅い海から、深海の湧水域まで幅広く分布しています。フィリピンでは、レイテ島北西部の地層から、東南アジアで初めてとなる冷湧水の化石の生物群集が見つかっています。現在の生き物ではなく、地層に残された化石の記録です。

よくある質問

深海の生き物は、みんな化学合成の細菌に頼っているのですか?

いいえ。ふつうの深海底の生き物は、表層の光合成でつくられて沈んでくる有機物に頼っています。化学合成の生態系ができるのは、熱水域や湧水域などの限られた場所です。

化学合成の生き物は、太陽とまったく関係がないのですか?

熱水や湧水の生物群集は、その成立が基本的に太陽に頼らないと説明されています。ただし、硫黄を酸化する型の共生細菌は、エネルギーを得るときに酸素を使います。

熱水噴出孔の熱い水は、なぜ沸騰しないのですか?

NOAAの解説によると、噴出孔がある深さでは水の圧力が非常に高いため、熱い海水でも沸騰しません。

まとめ

太陽の光が届かない深海でも、多くの生き物は、表層の光合成でつくられて沈んでくる有機物を食べています。ただ、海底まで届く量はわずかで、ふつうの深海底は食べ物の乏しい場所です。

熱水や湧水のそばでは、化学物質のエネルギーで有機物をつくる細菌が生産者になり、その細菌を体の中にすまわせたり、体の表面の細菌を食べたりする動物が集まります。こうした化学合成の共生は、浅い海や鯨骨などにも見つかっています。