
海の中で岩の一部だと思っていたものが、急に動き出してタコだと分かる。ダイビングの写真や映像で、そんな場面を見たことがある方もいるかもしれません。タコはなぜ、あれほど周りに溶け込めるのでしょうか。
先に答えをまとめると、タコの皮膚には色素の入った小さな袋「色素胞」がたくさんあり、脳から伸びる神経が袋の周りの筋肉を動かして、色や模様をすばやく変えています。皮膚に突起を出して、でこぼこした質感をつくることもできます。周りの様子は皮膚ではなく目で見て、脳が模様を決めていると考えられています。マクタン島でダイビングショップを営むSOLBOY DIVE CENTERが、色を変える皮膚の仕組みと、タコが周りの何に似せているのかを、研究をもとにご紹介します。
なお、ここで紹介する内容には、タコだけでなくイカやコウイカを含む「頭足類」全体についての研究のまとめと、特定の種類のタコを調べた研究が含まれます。すべてのタコに同じように当てはまるとは限らない点を踏まえて読んでください。
色を変える主役は、皮膚の「色素胞」
タコやイカ、コウイカの仲間の体の色や模様は、皮膚にある色素胞がつくっています。色素胞は、色素の入った伸び縮みする袋と、その周りを囲む筋肉でできていて、筋肉は脳から伸びる神経(運動ニューロン)に動かされています。
神経からの信号が届くと、袋の周りに放射状に並んだ筋肉が縮み、袋が引き伸ばされて、皮膚に色の点が現れます。信号がなくなると袋は見えないほど小さく縮み、下にある白っぽい皮膚の層が見えるようになります。タコやコウイカの皮膚には数百万個もの色素胞があり、色の違う色素胞を組み合わせて広げることで、しまや斑点などの模様をつくり出せます。
頭足類の擬態を神経の面からまとめた2023年の総説によると、色素胞は神経で直接動かされるため、およそ100ミリ秒(約0.1秒)で広がることができます。これは一つ一つの色素胞が広がる速さで、全身の模様がいつも一瞬で完成するという意味ではありません。
赤・黄・茶色の色素で、なぜ多彩に見える?
同じ総説によると、頭足類が使う色素は、主に黄・赤・茶色の限られた色です。それでも多彩に見えるのは、皮膚の中に光を反射する細胞(英語でiridophore)の層があり、光の反射でできる「構造色」が色の幅を広げているからです。タコの皮膚には、光を散乱させて白っぽく見せる細胞(leucophore)もあります。
頭足類の構造色についての2009年の総説は、こうした虹色の反射や白い散乱光の多くは受け身で光を返すもので、神経で能動的に調節される反射細胞が知られているのはイカの一部だと説明しています。同じ総説は、皮膚の模様は主に神経で制御される色素胞がつくり、構造色はそれを補う役割だとまとめています。

岩のようなでこぼこもつくれる:皮膚の突起
タコが「岩そっくり」に見えるのは、色や模様だけが理由ではありません。2023年の総説は、タコとコウイカが皮膚の突起(英語でpapillae)を使って、海藻や砂、サンゴのような周りの立体的な質感にも近づけることができると説明しています。
この突起も、色素胞と同じように脳の運動ニューロンが制御していて、なめらかな肌からトゲトゲした肌へ、1秒もかからずに変えられるといいます。色・模様・質感を組み合わせることで、タコの体が、ごつごつした岩や海藻の一部のように見えてくるのです。
周りの様子は、皮膚ではなく目で見ている
「タコは皮膚で周りを見て、そのまま写し取っているの?」と思う方もいるかもしれません。2023年の総説は、頭足類は皮膚で世界を見ているのではないと述べています。周りの様子は目で捉えられ、脳で処理されて、皮膚の模様をつくる運動の指令になります。
2012年に発表されたタコの研究論文は、これまでの研究をまとめて、頭足類は背景の明暗の差(コントラスト)や明るさ、輪郭、向き、物の大きさなどを見て、どの模様を出すかを決めていると紹介しています。
一方で、2015年には、タコの一種(Octopus bimaculoides)の皮膚を切り取って光を当てると、目とつながっていなくても色素胞が広がるという実験結果が報告されました。ただし、この研究の著者自身も、体色の変化は主に視覚に頼っていると前置きしていて、皮膚が光を感じる仕組みが模様づくりに役立っている「可能性がある」という段階です。皮膚が周りの形や模様を見て写し取ることを示したものではありません。
目で見た情報が、脳の中でどのように皮膚の模様へ変換されているのかは、まだほとんど分かっていないと2023年の総説は述べています。擬態の仕組みの多くは、今も研究が続いているテーマです。
タコは周りの「何に」似せているのか
タコは、見渡す景色全体を体に写しているのでしょうか。それを調べたのが、2012年に発表された野外研究です。研究者たちは紅海のエイラートと、地中海のカプリ島周辺の自然の礁に潜り、2種類のタコ(Octopus cyaneaとOctopus vulgaris)を撮影しました。撮影したのは、体を低く平たくして、目立った動きのない個体だけです。約2m離れて1分以上観察したあと、真上から周りの海底ごと写真を撮り、別々の個体と考えられる11枚の画像を分析しました。
分析では、写真を明暗だけの画像に変えて、タコの胴の部分の模様と、写真の中のあらゆる場所の模様の似かたを比べました。すると、11個体のうち10個体(残る1個体ははっきりしませんでした)で、タコの模様とよく似ていた場所は、サンゴ、目立つ岩、色むらのある砂地、周りとは違って見える藻のかたまりといった、近くにある目立つ目印と重なっていました。
研究者たちは、タコは広い景色全体に合わせようとするのではなく、近くにある物の特徴を選び、それをもとに体の模様をつくっていると結論づけています。また、タコは特定の物を正確にまねるのではなく(この研究では、ある枝サンゴとそっくり同じになるわけではありませんでした)、周りによくある物の主な特徴を使っているのだろうと考察しています。
ただし、この研究は2種類のタコの11枚の写真で、じっとしている個体だけを対象にしたものです。比べたのは色そのものではなく、明暗の模様です。すべてのタコや、動いているときのタコに同じことが言えるかは、この研究だけでは分かりません。
動き出すと、擬態はどうなる?
擬態と動きの関係については、人を観察者にしたコンピューター上の実験で調べた2013年の研究があります。この実験では、止まった背景の上を1つだけで動く標的は、どんな迷彩模様でも、見つかることや捕まることを避けられませんでした。一方で、群れの仲間や動く背景のように、周りに似た物が一緒に動いている場合には、迷彩模様が「それが何か」を見分けるのを遅らせることも示され、著者らは動きが迷彩を完全に破るわけではないと結論づけています。タコを使った実験ではありませんが、じっとしているかどうかが目立ちやすさに大きく関わることを示す結果です。
野生のタコの行動を調べた研究もあります。太平洋のタヒチとパラオのサンゴ礁で、餌を探すタコを合計7.5時間録画した1999年の研究では、タコは平均で1分間に約3回、見た目を変えていました。ゆっくり移動するときは足元の海底に合わせて見た目を整えることが多かった一方、すばやく這うときや短い距離を泳ぐときには、魚に似せたり、くっきりした目立つ模様を出したりする、隠れるのとは別の防御をよく使っていました。餌を探している間ずっと隠れているわけではなく、周りに高度に溶け込んでいた時間の割合は、タヒチで54%、パラオで31%でした。
水の中で色が違って見えるのとは別の話
水中では、深くなるにつれて赤い光がすぐに水に吸収されてしまいます。NOAA(アメリカ海洋大気庁)は、深く潜るほど赤い魚が赤く見えにくくなるのは、魚の色が変わったのではなく、魚に当たって反射する赤い光が少なくなるからだと説明しています。水中の色の見え方については、水中では色がどう見える?赤が消えて青くなる理由と本来の色を楽しむ方法で詳しく紹介しています。
光による見え方の変化は、その深さにある物すべてに起こります。一方、タコの擬態は、タコ自身が色素胞や皮膚の突起を動かして、体の色や模様、質感を変えるものです。水中でタコの色が地味に見えるときは、光の影響と、タコ自身の変化が重なっていることもあります。

タコを見つけたら、そっと観察を
水中でタコを見つけたら、触ったり追いかけたりせず、少し離れた位置から眺めましょう。色が変わるところを見たいからといって、つついたり、隠れている場所から追い出したりするのもやめましょう。海の生き物を観察するときのマナーは、セブ島ダイビングの海洋保護区マナー|サンゴと生き物を守る基本でも紹介しています。
そのうえで、体の色や模様が周りのどんな物に似ているか、皮膚の表面がなめらかか、でこぼこしているかに目を向けてみると、ここまで紹介した仕組みを実際の海で感じられるかもしれません。
マクタンの海で
当店のハウスリーフでは、ウミガメやバラクーダ、タコなどに出会えることもありますが、野生の生き物なので、出会えるかどうかはその日によって変わります。セブの海の生き物はセブ島のダイビングで見られる魚や海の生き物で紹介しています。ライセンスがなくても10歳以上なら体験ダイビングで、ライセンスをお持ちの方はファンダイビングで海へご案内します。海の生き物について気になることは、LINEから日本語でご相談ください。
よくある質問
タコは皮膚で周りを見て、そっくりに写しているのですか?
頭足類の擬態の仕組みをまとめた2023年の総説は、頭足類は皮膚で世界を見ているのではなく、目で捉えた情報を脳で処理して皮膚の模様をつくっていると説明しています。切り取ったタコの皮膚が光に反応して色素胞を広げる実験はありますが、皮膚が周りの形や模様を見て写し取ることを示したものではありません。
タコの色はどれくらいの速さで変わりますか?
同じ総説によると、神経で直接動かされる色素胞は約0.1秒で広がることができ、皮膚の突起も1秒かからずに、なめらかな状態からトゲトゲした状態へ変えられます。どちらも一つ一つの仕組みが動く速さの目安で、全身の模様がいつも一瞬で完成するわけではありません。
深い所でタコの色が地味に見えるのも擬態ですか?
そうとは限りません。水中では深くなるほど赤い光が届きにくくなり、赤いものほど本来の色に見えにくくなります。タコ自身が色素胞で色を変えている場合と、光の影響で見え方が変わっている場合があり、両方が重なることもあります。
タコを見つけたら、触って色の変化を見てもいいですか?
いいえ。触れたり、つついたりして刺激するのはやめましょう。サンゴ礁で野生のタコを録画した研究では、餌を探してゆっくり移動するとき、足元の海底に合わせて見た目を整えることが多かったと報告されています。追いかけたりせず、少し離れた位置から、そのままの姿を眺めてください。
まとめ
タコが岩そっくりになれるのは、皮膚の色素胞を神経と筋肉ですばやく動かして色や模様を変え、皮膚の突起ででこぼこした質感もつくれるからです。周りの様子は皮膚ではなく目で見て、脳が模様を決めていると考えられています。
2種類のタコを調べた野外研究では、タコは景色全体を写すのではなく、近くのサンゴや岩など目立つ物の特徴を選んで模様をつくっていました。ただし、まだ分かっていないことも多く、すべてのタコに同じことが言えるとは限りません。水中でタコに出会えたら、触らずに少し離れた位置から、周りのどんな物に似せているのかを眺めてみてください。