「ナマコは砂を食べている」と聞いたことはありませんか。海底の堆積物を食べるナマコは、たしかに口のまわりの触手で砂や泥を口へ運びます。けれども、栄養になるのは砂粒そのものではなく、砂泥に混じったり粒についたりしている有機物や細菌、微細な藻類だと考えられています。消化されなかった砂は、糞として出されます。
ただし、すべてのナマコがこうして食べるわけではありません。触手で砂泥を集めてから糞として出すまでの流れと、海底の砂とのかかわりを、SOLBOY DIVE CENTERが順にたどってみます。紹介するのはFAO(国連食糧農業機関)の資料や、フィジー、オーストラリアのグレートバリアリーフ、沖縄などで特定の種類のナマコを調べた研究で、マクタン周辺の海を調べたものではありません。
ナマコの食べ方はひとつではない
ナマコの仲間全体の研究をまとめた2022年の総説によると、ナマコは稚ナマコも大人も、ふつう小さな粒子を食べています。木の枝のように枝分かれした樹枝状の触手をもつグループは、水中を漂う粒子を集める懸濁物食で、流れや波の強い場所にすむ傾向があります。それ以外の多くのグループは、海底にたまった堆積物を取り込む堆積物食です。
ただ、食べ方は種類ごとに固定されているとは限らず、一部の種では堆積物食と懸濁物食を切り替える個体も知られています。堆積物食の中にも、砂地ではなく硬いサンゴ礁の上で、岩や海草・海藻の表面を覆う有機物の粒子を「モップがけ」のように集める種類がいます。
口のまわりの触手で砂泥を集める
FAOの2012年の図鑑によると、ナマコの口は体の前の端にあり、口のまわりの触手を伸ばして、食物、主に粒子状の有機物を取ります。触手は、棘皮動物に特有の「管足」のうち口の部分にあるもので、クロナマコを含むグループでは、中心の柄の先に小さく枝分かれした円盤がついた形をしています。
2022年の総説がこれまでの観察をまとめた説明では、堆積物食のナマコは食べ始めると、触手を広げて海底の表面に押し当てたり堆積物の中へ差し入れたりして、探るように動かします。粒子を集めた触手は縮みながら口の方へ曲がり、口の中へ入ります。
粒子を捕らえる方法について、総説は粘液でくっつけるのが主である可能性が高いとしています。ただし、触手の細かいつくりが調べられたのは16種で、うち13種は懸濁物食のグループでした。堆積物を食べるナマコについては、まだ調べられた例が少ないのです。
栄養になるのは、砂粒についているもの
では、取り込んだ砂泥の何が栄養になるのでしょうか。FAOの技術資料は、商業的なナマコの大半が、堆積物に混じったデトリタス(有機物のくず)、細菌、珪藻(けいそう)を食べていると説明しています。ニセクロナマコを例にした沖縄美ら海水族館の解説も、ナマコは触手で砂を口に運び入れて砂粒についている有機物などを食べ、消化されない砂はフンとして肛門から出すとしています。
2022年の総説は、多くの堆積物食のナマコの食物は、主にプロテオバクテリアと呼ばれる細菌の一群でできているようだと結論づけ、デトリタスや砂粒などの鉱物は、それ自体より、表面に多くの細菌がついているために取り込まれているのかもしれないと述べています。ただし、細菌についての知見は10種、500個体に満たない調査にもとづくものです。総説が紹介する、インド洋のレユニオン島のサンゴ礁での2006年の研究では、クロナマコは取り込んだ細菌の約53%を消化したと報告されています。
一方、和歌山県立自然博物館の研究者が日本のナマコ研究をまとめた2020年の総説は、ナマコ類は一般にえり好みせず堆積物を食べると考えられ、主な栄養源を「底泥中の有機物」とする記述が多い一方で、藻類や細菌とする考えもあると整理しています。自然の中で育ったマナマコの成長に役立つ栄養がどの餌に由来するのかは、明らかでないとしています。
何でも飲み込むのか、選んで食べるのか
「えり好みしない」という従来の見方に対して、2022年の総説は、堆積物食のナマコには細かい粒子や有機物に富む粒子を選ぶ傾向があると結論づけています。調べられた37種のうち29種が有機物に富む粒子を好んで取り込んでいましたが、残りの8種では示されていません。特定の粒の大きさを好むかどうかは、同じ種でも結果が食い違い、まだ議論が続いています。
沖縄島南部の港川の礁原でクロナマコとニセクロナマコを調べた2016年の研究では、腸の前の部分の中身に、周りの表層の堆積物より脂肪酸が有意に多く含まれ、2種とも栄養に富む粒子を選んで取り込んでいたことが示唆されました。大西洋東部や地中海にすむナマコの一種(Holothuria sanctori)の2025年の飼育実験では、堆積物の有機物が少ないと取り込む量を増やし、有機物の摂取量を一定に保っていました。どれも種類や条件の限られた結果で、ナマコは砂を何でも飲み込むとも、いつも選び抜くともいえません。
長い腸を通って、糞として出るまで
FAOの図鑑によると、ナマコの消化管は、咽頭・食道・胃がどれも短く、その先に非常に長い腸が続きます。先ほどの沖縄の研究では、脂肪酸は腸の中ほどと後ろの部分で大きく減り、糞では多価不飽和脂肪酸の多くがほぼ消えていました。砂泥に含まれていた栄養が、腸を通るあいだに消化・吸収されたことを示す結果です。
消化されなかった砂は、糞として外へ出されます。カリブ海のナマコを扱った2023年の論文は、先行研究を引いて、排泄された堆積物は食べた堆積物より有機物が少ないことが多いと紹介しています。一方、オーストラリアのグレートバリアリーフ南部で、夜に活動するナマコの一種(Stichopus cf. monotuberculatus)を調べた2023年の研究では、糞のかたまりは周りの表層の砂より有機物が多く、粒も細かいという結果で、このナマコが粗い粒を避けて栄養に富む粒子を食べているためだと解釈されました。比べる相手が「食べた砂」か「周りの砂」かで見え方は変わり、糞の中身も種類や場所によって違います。
体をおおう砂は、食べた砂とは別のもの
砂をかぶったように見えるナマコもいますが、その砂は食べて出したものではありません。FAOの図鑑によると、クロナマコの体は中くらいの粒の砂で覆われていることが多く、背中には砂のない円い部分が2列に並びます。琉球大学の2021年の発表は、クロナマコの背中の皮膚にある、砂をくっつけるための細胞を報告し、近い仲間のニセクロナマコの体には砂がつかないことで2種を見分けられると説明しています。体につけた砂は、柔らかい体の補強や紫外線よけになると考えられています。
ナマコは砂を作るのではなく、すでにある砂を通す
サンゴ礁の砂では、ブダイとナマコの働きを分けて考える必要があります。カリブ海のナマコを扱った2023年の論文も、ブダイの仲間がサンゴをかじり削ること(生物侵食)を通じて炭酸塩の動きに関わることを、ナマコとは別の働きとして挙げています。ブダイと砂の関係は、ブダイはなぜ岩をかじる?魚の食事とサンゴ礁の砂のつながりで紹介しています。
ナマコがしているのは、すでに海底にある堆積物を取り込み、腸を通して外へ出すことです。新しい砂を生み出すのではなく、すでにある砂泥を再処理し、かき混ぜている(生物撹拌)と考えると分かりやすいでしょう。
処理量は、仮定にもとづく推定
フィジーのバヌアレブ島の礁原でハネジナマコを調べた2018年の研究は、体長8〜16cmの27個体の糞の列から排泄量を測り、排泄した量が食べた量と等しいと仮定して処理量を計算しました。禁漁区の自然の個体群は、1,000平方メートルあたり年間約10,590kg(乾燥重量)の堆積物を処理しうると推定され、表層5mmだけを食べると仮定すれば、年に約2.5回、表層5mmを処理しうる計算です。
いずれも特定の場所・種類・仮定による値で、すでにある堆積物が腸を通った量であり、新しい砂ができた量ではありません。
取り込んだ砂の一部を溶かすという報告も
逆に、取り込んだ砂の一部を溶かしうるという報告もあります。ラグーンの堆積物を入れた実験水槽でナマコの一種(Stichopus herrmanni)を調べた2018年の研究では、ナマコが取り込んだ炭酸カルシウムの堆積物が溶けることと、呼吸による炭素の放出が、昼も夜も海水の炭酸系を変えるうえで大きな役割を果たしていました。
海底の砂泥への影響は、条件によって変わる
フィジーの研究は、ナマコは食べる・排泄する・かき混ぜることを通じて、礁の砂の中の有機物の再利用と無機化(分解されて無機物に戻ること)に重要な役割を果たすと述べています。ニュージーランド固有のナマコの一種(Australostichopus mollis)の稚ナマコを、有機物を増やした泥に入れた14日間の室内実験でも、有機物が過剰にたまった悪影響の一部を和らげる可能性が示されました。
ただし、同じ実験では、ナマコが海底の微細藻類を食べたことで、一次生産者の量と酸素生産の合計にマイナスの効果も出ています。バハマで2種のナマコを比べた2023年の研究は、1個体あたりの働きは種類で違っても、場所全体への影響はそこにいるナマコの数に左右されると結論づけました。ナマコがいれば海底がよくなる、と単純にはいえないのです。
ナマコを観察するときは触らずに
ナマコには、刺激に対して身を守る反応があります。グアムで採集したナマコを調べた2020年の研究は、先行研究をまとめて、クロナマコは刺激を受けると赤い液を出すか、消化管と、呼吸に使う器官の片側を体の外へ吐き出すと説明しています。一部の種類は、刺激を受けるとキュビエ管という粘着性の管を肛門から放出することもあります(クロナマコにはありません)。
観察するときは、触らない、持ち上げない、つつかない、近づきすぎないこと。反応を確かめるために刺激するのもやめましょう。観察の基本は、海洋保護区での観察マナーの記事で紹介しています。
砂地で暮らす生き物にも関心を寄せて
セブの海でどんな生き物に出会えるかは、海の生き物の紹介ページにまとめています。ダイビングのプログラムは体験ダイビングとファンダイビングの各ページで紹介しており、日程や参加についてのご相談はLINEで承ります。
よくある質問
ナマコは、どれも砂を食べるのですか?
いいえ。多くのグループは堆積物食ですが、樹枝状の触手で水中の粒子を集める懸濁物食のナマコもいます。岩や海草の表面の有機物を集める種類や、食べ方を切り替える個体も知られています。
砂そのものが栄養になるのですか?
栄養になるのは、砂泥に混じったり粒についたりしている有機物や細菌、微細な藻類だと考えられています。消化されない砂は糞として出されます。何がどれだけ栄養になっているかは種類によって違い、まだ分かっていない部分もあります。
ナマコの糞で、海の砂は増えるのですか?
ナマコは、すでにある堆積物を取り込んで腸を通し、糞として出しています。新しい砂を作るわけではなく、取り込んだ砂の一部を溶かしうるという報告もあります。ブダイがサンゴをかじり削ることとは別の働きです。
ナマコがいると、海底の砂泥はよい状態になるのですか?
砂泥の中の有機物の再利用に関わると考えられていますが、効果は種類や場所、個体数によって違います。海底の微細な藻類を減らすマイナスの効果が出た実験もあり、必ずよくなるとはいえません。
まとめ
堆積物を食べるナマコは、口のまわりの触手で海底の砂泥を集め、砂粒に混じったりついたりしている有機物や細菌、微細な藻類を長い腸で消化して、残りを糞として出しています。「砂を食べている」という言い方は半分正しく、栄養の中心は砂そのものではありません。水中の粒子を集めるナマコもいて、すべてのナマコが砂を食べるわけでもありません。
ナマコの働きは、新しい砂を作ることではなく、すでにある堆積物を取り込んで通す再処理です。砂泥の中の有機物のめぐりに関わる一方で、効果は種類や場所、数によって変わり、何を栄養にしているのかにも、まだ分かっていないことが残っています。