ウツボの口の奥には、もう一つあごがある?獲物を飲み込む咽頭顎の仕組み

岩の隙間から顔を出して、口を開けたり閉じたりしているウツボ。その喉の奥に、もう一組のあごがあるのをご存じでしょうか。

答えは「あります」。ただし、喉の奥のあご(咽頭顎)そのものは、ウツボだけが持つものではありません。多くの硬骨魚が喉に咽頭顎を持っています。ウツボの仲間で特別なのは、この咽頭顎を口の中まで大きく繰り出し、かみついた獲物をつかんで食道へ引き込むという使い方です。どのように動き、なぜこの仕組みが役立つと考えられているのかを、SOLBOY DIVE CENTERが研究をもとにご紹介します。

喉の奥にある「咽頭顎」とは

多くの硬骨魚の喉には、口のあごとは別に、上下一組の咽頭顎があります。棘鰭類と呼ばれる多くの魚では、咽頭顎は喉の中で食べ物を食道へ送る働きをしています。シクリッドやベラの仲間のように、咽頭顎で食べ物を強くかみ砕けるよう特殊化した魚もいます。

多くの硬骨魚は、口を素早く広げて水ごと獲物を吸い込みます。口の中に生まれた水の流れが獲物を喉の咽頭顎まで運び、そこで咽頭顎が飲み込みを助けます。

ウツボの仲間は「吸い込む」のが苦手

ところがウツボの仲間は、この吸い込む力がずっと弱いことが分かっています。2007年の研究で2種のウツボ(Muraena retifera と Echidna nebulosa)の頭骨を調べたところ、吸い込みに使う骨や筋肉の主な部分が極端に小さくなっていました。

同じ研究では、飼育下のウツボが切ったイカを食べる様子を59本の映像で調べています。獲物が口へ吸い寄せられる動きは見られず、獲物を捕らえるまでの平均時間は約500ミリ秒で、比べたウナギの一種のおよそ10倍かかっていました。

ウツボは吸い込む代わりに、獲物にかみついて捕らえます。では、かみついた獲物をどうやって飲み込んでいるのでしょうか。

口の中まで飛び出す、もう一組のあご

2007年に発表された別の研究は、Muraena retifera が咽頭顎を喉から口の中へ繰り出していることを報告しました。口の中に出てきた咽頭顎は、暴れる獲物をつかみ、喉へ、さらに食道へと引き戻します。

研究者たちは当時、脊椎動物が二組目のあごで獲物を押さえ込み、しかも運ぶことが記載されたのはこれが初めてで、硬骨魚で知られていた水の流れによる運び方に代わる、ただ一つの方法だと述べています。また、この運び方はヘビが獲物を飲み込むときの歯止め(ラチェット)式の仕組みと、力学的に似ているとしています。

日本のウツボ科の研究でも、ウツボ科の魚は喉に鉤状の歯が並んだ咽頭顎を持ち、口のあごの歯で捉えた餌を咽頭顎で飲み込むと説明されています。

大きく動くためのつくり

咽頭顎がここまで大きく動けるのは、咽頭顎を動かす筋肉が長く伸び、隣り合うえらの骨組み(鰓弓)が小さくなっているためです。2008年の研究では、比べた2つの亜科のウツボのどれでも、咽頭顎を前後に動かす筋肉が長く伸びていました。咽頭顎を閉じる筋肉もよく発達していて、運ぶ間に獲物を強く挟めることがうかがえます。

歯の形も違います。一般的な魚の咽頭顎には食べ物を処理する幅の広い歯の板がありますが、研究されたウツボの咽頭顎は細長く、後ろ向きに曲がった大きな歯を備えていました。

ウツボの咽頭顎の仕事は、獲物を口のあごから食道へ運ぶことに限られます。獲物を捕らえたり処理したりするのは口のあごの役目です。それでも咽頭顎には種ごとの違いがあり、ウツボ科10種を比べた研究では、貝を食べる Gymnomuraena zebra が、ほかのどのウツボよりも多くの咽頭顎の歯を持っていました。

水の外でも飲み込める

咽頭顎で運ぶ方法は、水の流れに頼りません。そのため、陸の上でも獲物を飲み込めると考えられ、2021年に確かめる実験が行われました。

この実験では、飼育下の Echidna nebulosa 7個体に、水から出したスロープの上で角切りのイカを与えました。ウツボは陸上でもかみついて獲物を取り、咽頭顎で飲み込みました。咽頭顎を前に出すときの頭の動きや、食べ終わるまでの時間は、陸上と水中で差がありませんでした。野外でも、潮間帯やそれより上まで移動して、カニを食べるウツボの仲間がいると報告されています。

なぜこの仕組みが生まれたのか

この運び方がなぜ進化したのかは、まだ推測の段階です。研究者たちは、サンゴ礁の狭い隙間で狩りをしながら、口を大きく開けられないという制約を乗り越える手段として進化したのではないか、と考えています。また、咽頭顎を口の中まで突き出すことで、暴れる獲物に常にどちらか一組のあごをかけていられる、という仮説もあります。

ここで紹介した動きは、Muraena retifera や Echidna nebulosa、Gymnothorax mordax など、研究で詳しく調べられたウツボ類で観察されたものです。Gymnothorax mordax では、水温を15〜24℃の4段階に変えても、咽頭顎で獲物を運ぶ動きは変わりませんでした。

岩の隙間のウツボを眺めるときに

岩陰からのぞくウツボの口の奥では、こうした二組のあごの連携が働いています。動きを確かめようと餌を与えたり、手を近づけたりするのはやめて、離れた位置から眺めましょう。海の生き物との距離のとり方は海洋保護区マナーのページで、セブの海の生き物は海の生き物の紹介ページでご紹介しています。

よくある質問

ウツボ以外の魚にも咽頭顎はありますか?

はい。多くの硬骨魚が喉に上下一組の咽頭顎を持ち、食べ物を食道へ送っています。ウツボの仲間は、それを口の中まで大きく突き出して獲物をつかみ、運ぶ点が特別です。

ウツボは咽頭顎で獲物をかみ砕いているのですか?

研究されたウツボの咽頭顎は、獲物を口のあごから食道へ運ぶ役目です。獲物を捕らえて処理するのは口のあごです。シクリッドの仲間のように、咽頭顎で食べ物をかみ砕く魚とは使い方が違います。

ウツボは水の外でも獲物を飲み込めるのですか?

飼育下の Echidna nebulosa を使った2021年の実験では、陸上のスロープでも獲物にかみつき、咽頭顎で飲み込みました。水の流れに頼らない運び方だからだと考えられています。

すべてのウツボが同じ仕組みを持っているのですか?

咽頭顎で獲物を運ぶ動きは、詳しく調べられた複数のウツボ類で観察されていますが、すべての種を調べた結果ではありません。食べ物の違いによって、咽頭顎の歯の数や形には種ごとの差もあります。

まとめ

ウツボの喉の奥には、咽頭顎と呼ばれるもう一組のあごがあります。咽頭顎は多くの魚にありますが、吸い込む力の弱いウツボの仲間は、それを口の中まで繰り出して獲物をつかみ、食道へ引き込みます。長く伸びた筋肉や後ろ向きの大きな歯がこの動きを支えていて、水の流れに頼らないため、陸の上でも飲み込めることが実験で確かめられました。

この仕組みがサンゴ礁の狭い隙間での狩りに役立って進化したという考えは、研究者が推測として挙げている段階です。口のあごで捕らえ、喉のあごで運ぶ。二組のあごの分業が、ウツボの食事を支えています。