海の中を泳ぐ魚は、いつも塩辛い海水に囲まれています。真水を口にする機会はなさそうなのに、体の水分は足りているのでしょうか。それとも、魚の体の中は海と同じくらい塩辛いのでしょうか。
海の硬骨魚のうち、真骨魚と呼ばれるグループの魚は、実際に海水を飲んでいます。体の中の液体が海水よりずっと薄く、えらなどから水が出ていってしまうからです。飲んだ海水からは腸で塩と一緒に水を吸収し、余分な塩はえらの塩類細胞がエネルギーを使って外へ出します。尿は少量で、血液とほぼ同じ濃さです。ダイバーを育てる店として、SOLBOY DIVE CENTERが、この水と塩のやりくりを順に見ていきます。
真骨魚は、海の硬骨魚の大部分を占めるグループです。サメ・エイやヌタウナギ、シーラカンスは別の方法をとっていて、この記事の説明は当てはまりません。また、ここで紹介する研究の多くはウナギやトラフグ、カレイの仲間などを調べたもので、マクタン周辺のサンゴ礁の魚を測ったものではありません。
体の中は海水よりずっと薄い
2021年に東京大学の研究者がまとめた総説(これまでの研究を整理した論文)によると、海の真骨魚は、血しょう(血液の液体部分)のイオンの濃さと浸透圧を、海水のおよそ3分の1に保っています。日本の研究者による別の解説でも、真骨魚の血しょうの塩の濃さと浸透圧は陸の脊椎動物と同じだと説明されています。
「およそ3分の1」は大まかな値で、種によって幅があります。2008年の総説によると、海水で飼育したトラフグの体液の濃さは、海と川を行き来できる魚より少し高めに保たれていました。
体の中と外とで液体の濃さ(浸透圧)が違うと、その差によって水が移動します。体の中が薄い海の真骨魚では、体の水が外の海水へ引き出されていきます。2023年の研究論文は、これを「強く脱水される環境」と表現しています。
水が出ていく主な場所は、えらです。日本の研究者による解説によると、えらでは厚さわずか数マイクロメートルの呼吸のための上皮をはさんで外の水と毛細血管が接しているため、浸透圧の差で水が動き、濃さの差に従って塩も動きます。水は皮膚など体の表面からも失われ、塩も体の表面から入り込んできます。
足りなくなる水は、海水を飲んで補う
出ていく水を補うため、海の真骨魚はまわりの海水を飲みます。2021年の総説によると、海の真骨魚がたくさん海水を飲むことは、1900年代の初めから知られていました。海の真骨魚の腸についての2012年の総説も、海水にすむ真骨魚にとって、まわりの水を飲むことは脱水を避けるために必要だと述べています。
2010年に魚の浸透圧調節の研究史をまとめた総説は、1930年の実験を紹介しています。研究者のホーマー・スミスは色素を目印に使い、カジカの仲間とウナギが海水を飲み込んでいること、そして腸の上皮が飲んだ水の多くを吸収していることを示しました。
2018年に東京大学の研究者を含むチームが発表した論文は、水中の魚は口の中にいつも水があるため、脳の後ろの部分(後脳)で起こる飲み込みの反射だけで飲水を終えられる、と説明しています。のどが渇いて水を探しに行く陸の動物とは違う飲み方です。ただし、この説明はおもにウナギを使った実験にもとづくもので、すべての魚で確かめられているわけではありません。
海水で飼育した Opsanus beta(英名 Gulf toadfish)という魚では、飲む量は体重1kgあたり1時間に2.6mLと報告されています。これは1種・1条件での値で、海の魚に共通する量ではありません。
飲んだ海水は、塩を先に取り込んでから水を吸収する
飲み込んだ海水は、口に入っただけではまだ体の水になりません。2021年の総説によると、飲んだ水は腸で吸収されて、はじめて体液の一部になります。消化管の中は、体の外側と同じ扱いなのです。
日本の研究者による解説は、魚も飲んだ海水から水だけを腸で吸収することはできず、まず塩分を吸収して取り除き、浸透圧を下げてから水を吸収する、と説明しています。研究の総説では、この流れが次のように整理されています。主にウナギやカレイの仲間などの研究にもとづく説明です。
- 食道:水を通しにくい食道で、ナトリウムと塩化物(塩の成分)が体の中へ取り込まれ、水を失わないまま海水が薄められる。
- 腸の前の部分:腸の中に重炭酸イオンが出されて腸の中がアルカリ性になり、マグネシウムやカルシウムが炭酸塩として沈む。これで腸の中の液体の濃さが下がり、水を吸収しやすくなる。
- 腸:溶けている塩などの吸収と連動して、水が吸収される。
食道で取り込まれた塩は、捨てられたのではなく体の中に入ったものです。2021年の腎臓についての総説も、飲んで水を補うと、腸での水の吸収にともなってナトリウムと塩化物がさらに体に入ると説明しています。
こうして消化管を通るあいだに吸収されるのは、飲んだ海水の70〜85%で、全部ではありません。この数字は2021年の総説がまとめた値で、すべての種で測られたものではありません。それでも、腸が効率よく水を吸収できることは、失われる水を補ううえで欠かせない働きだと考えられています。
余分な塩は、えらの細胞がエネルギーを使って外へ出す
飲んだ海水からも、体の表面からも入ってくる塩は、どこから出ていくのでしょうか。2021年の総説によると、ナトリウムや塩化物のような一価イオンは主にえらから、マグネシウムなどの二価イオンは腎臓から体の外へ出されます。
えらで塩を出しているのは、塩類細胞と呼ばれる細胞です。日本の研究者による解説では、塩類細胞はミトコンドリアに富んだ大型の細胞で、えらの表面の大部分を占める扁平な被蓋細胞の間に散らばっていると説明されています。海の真骨魚は、体内に入り込んで余ったナトリウムと塩化物を、この塩類細胞からエネルギーを使って排出しています。
2010年の研究史の総説によると、1931年の研究で、液を流して(灌流して)調べたウナギのえらが、濃さの差に逆らって塩化物を外へ出せることが示されました。エネルギーを使って濃さの差に逆らって物質を運ぶ「能動輸送」の、おそらく最初の記載とされています。同じ研究者がウナギのえらに記載した「塩化物分泌細胞」が、今でいう塩類細胞にあたります。
2008年の総説が紹介する海水型の塩類細胞の一般的なモデルでは、ナトリウムポンプと呼ばれるエネルギーを使う仕組みがかかわり、ナトリウムは塩類細胞と隣の副細胞とのすき間を通って外へ出ていきます。えらは、薄いつくりのために水が出ていき塩が入ってくる場所であると同時に、細胞が働いて塩を外へ押し出す場所でもあるのです。
尿は少なく、血液とほぼ同じ濃さ
腎臓の役割は、えらとは違います。2010年の研究史の総説によると、1920年代の後半には、海の真骨魚が血しょうより濃い尿を作れないことが知られていました。日本の研究者による解説も、魚の腎臓は血液よりも濃い尿を作ることができず、ナトリウムや塩化物を出すうえでは腎臓よりえらのほうが重要だと説明しています。
そこで腎臓は、水をできるだけ手放さないように働きます。2021年の腎臓についての総説によると、海水中では腎臓で血液をろ過する量が大きく減り、尿細管はできるだけ多くの水を再吸収しながら、二価イオンを積極的に尿へ出します。こうしてできる尿は量が少なく、血しょうとほぼ同じ濃さで、マグネシウムなどの二価イオンを血しょうより多く含みます。海の真骨魚では、膀胱も、尿として出す前に水を吸収する最後の場所として働きます。
腸は二価イオンをほとんど通しませんが、一部は吸収されて体に入り、それを少量の尿で外へ出すのが腎臓の役目です。ただし、腎臓で二価イオンがどう運ばれているのか、その全体像はまだ明らかになっていません。
淡水の魚では、水と塩の向きが逆になる
日本の研究者による解説によると、淡水魚では、まわりの水が血液より薄いため、水が体内に入り込み、塩が流れ出していく傾向にあります。海の真骨魚とは向きが逆です。そのため淡水魚は、腎臓で薄い尿をたくさん作って水を出し、水に溶けているわずかな塩をえらから取り込みます。海水魚で塩を出していた塩類細胞が、淡水魚では塩を取り込む役を担うのです。
淡水か海水のどちらかにしかすめない魚を狭塩性魚、サケやウナギのように海と川を行き来できる魚を広塩性魚と呼びます。2008年の総説によると、狭塩性の真骨魚の塩類細胞は、塩を運ぶ向きを切り替えることができません。東京大学の研究者らの実験では、海水魚のトラフグは淡水では生きられませんでしたが、海水を20%程度に薄めた水であれば適応できました。
サメ・エイは、別の方法で海に適応している
同じ海の魚でも、サメやエイの仲間(軟骨魚類)は違う方法をとっています。日本の研究者による解説によると、海のサメ・エイは尿素などを体内に高い濃度でためて、体液の浸透圧を海水よりわずかに高く保っています。そのため水はむしろ体の中へ入ってきます。血しょうの塩の濃さは海水の約半分に調節され、塩を出す主な役目は、直腸腺という塩の排出に特化した器官が担っています。
2021年の総説によると、ヌタウナギの仲間は、体液のイオンの濃さも浸透圧も海水に合わせています。硬骨魚の仲間であるシーラカンスは、サメ・エイと同じように尿素をためて、浸透圧を海水と同じくらいに保っています。「海の魚はみんな海水を飲んでいる」とは言えないのです。海辺に生える植物の塩とのつきあい方は、マングローブと塩の関係を紹介した記事で取り上げています。
見えない体の働きを知って潜る
えらの細胞や腸の働きは、潜っていても目で見ることはできません。それでも、海水と水や塩をやりとりしながら泳いでいると知ると、魚の姿も少し違って見えてきます。セブの海の生き物はセブの海の生き物を紹介したページにまとめています。潜ってみたい方は体験ダイビングやファンダイビングの案内をご覧いただき、気になることはLINEからご相談ください。
よくある質問
魚の体の中も、海と同じくらい塩辛いのですか?
海の真骨魚では、そうではありません。血しょうのイオンの濃さと浸透圧は、海水のおよそ3分の1に保たれています(種によって幅があります)。サメ・エイは血しょうの塩の濃さを海水の約半分にし、尿素などをためて浸透圧を海水よりわずかに高くしているため、仕組みが違います。
飲んだ海水は、全部が体の水になるのですか?
いいえ。研究の総説によると、消化管を通るあいだに吸収されるのは、飲んだ海水の70〜85%です。しかも水だけを吸収するのではなく、まず食道で塩を取り込んで海水を薄め、腸で塩の吸収と連動して水を吸収します。
水と塩の調整に、魚はどれくらいエネルギーを使うのですか?
はっきりした答えはまだありません。Opsanus beta という1種の魚を調べた2023年の研究は、食道と腸の測定にすでに報告されていたえらの値を合わせ、全体のコストを、じっとしているときに使うエネルギーの約7.5%と推定しました。ただ、これまでの研究の推定は数%から30%超までばらつき、合意はありません。
サンゴ礁の魚も、同じように海水を飲んでいるのですか?
海水を飲んで水を補い、えらから塩を出すことは、研究の総説で海の真骨魚に共通する仕組みとして説明されています。ただし、この記事で紹介した研究はサンゴ礁の魚で測ったものではありません。ウナギの仕組みはサケの仲間や海にとどまる魚とかなり違うと指摘されていて、細かな仕組みや飲む量には種による違いがあります。
まとめ
海の真骨魚は、体液を海水よりずっと薄く保っているため、えらや体の表面から水を失い、塩を受け取り続けています。その水を補うために海水を飲みます。飲んだ海水は食道で塩を取り込まれて薄まり、腸で塩とともに水が吸収されます。体に入った余分なナトリウムと塩化物は、えらの塩類細胞がエネルギーを使って外へ出し、マグネシウムなどは腎臓が、血液とほぼ同じ濃さの少量の尿で出しています。
ただし、これは海の硬骨魚のうち真骨魚の話です。サメ・エイやヌタウナギ、シーラカンスは別の方法で海に暮らしています。同じ真骨魚でも細かな仕組みには種による違いがあり、腎臓の働きのように、まだ分かっていない部分も残っています。