巻貝の殻を背負って歩くヤドカリ。体が大きくなると、もっと大きな殻へ引っ越します。では、次の殻はどうやって選んでいるのでしょうか。
ヤドカリは、新しい殻をはさみ脚で内側も外側も調べ、今の殻より良いと判断したときに移ります。重さや大きさ、中の広さ、殻の種類、穴や傷みなどが評価の手がかりになります。ただし、貝殻はたいてい足りていないため、いつも好みの殻に住めるわけではありません。空き殻を探すだけでなく、ほかの個体と殻を取り合ったり、順番に受け渡したりしながら手に入れています。海のヤドカリと陸のオカヤドカリの違いにも触れながら、SOLBOY DIVE CENTERがご紹介します。
殻はヤドカリの「持ち運べる家」
ヤドカリの仲間は、一部の例外を除いて、巻貝の殻を持ち運べる住まいとして使います。殻に入るのは、柔らかい腹部を捕食者から守るためです。
ヤドカリは、生きた巻貝を襲って殻を奪うことは、少数の例外を除いてほとんどありません。巻貝が死んだあとに残る空き殻を使います。
はさみ脚で、内と外を確かめる
新しい殻を見つけたヤドカリは、はさみ脚で殻の内側と外側を調べ、質を評価します。そして、今の殻より良いと判断したときに殻を取り替えます。質の低い殻に住むと、成長や産む卵の数、生き残る確率が下がるため、殻を正しく見きわめることはヤドカリにとって大切です。
何を手がかりに選ぶのか
日本のヤドカリ研究の総説によると、殻の好みには重心や全体の形も影響しますが、主な選択の基準は、重さ・中の広さ・殻の厚さや形を反映する、殻の大きさと種類だと考えられています。
- 捕食性の巻貝に大きな穴を開けられた殻や、壊れた殻はふつう避けられます。
- 殻に付いている生き物が、好みに影響する例もあります。
- 体に対して窮屈な殻は、頑丈でも捕食される危険が高くなります。
厚く重い殻は身を守るには有利ですが、成長には不利で、軽い殻はその逆です。どちらを優先するかは個体の状態で変わり、脱皮が近い個体は、成長を見込んで大きめの殻を好むことが示されています。函館湾のホンヤドカリでは、メスは卵を多く産めて生き残りに有利な殻を、オスは成長に有利な殻を好みました。
貝殻は、いつも足りない
ヤドカリにとって、貝殻は一般に不足しています。そのため、必ずしも好みの殻を使えるわけではありません。野外のヤドカリに新しい殻を与えると約80%が殻を交換し、元の殻に戻ることはなかったという報告もあります。
殻を手に入れる方法は、空き殻を探すことと、ほかの個体と殻を交換すること(貝殻闘争)です。どちらが主な手段かは種によって違います。貝殻闘争では、交換を迫る側が自分の殻を相手の殻に打ち付ける行動が見られ、いまでは話し合いのような交換ではなく、相手に強いる攻撃的な行動だという見方が有力です。
大きい順に並ぶ「空き家の連鎖」
ヤドカリが集まった場所では、殻の交換が次々に起こることがあります。とくに知られているのが、陸にすむ Coenobita clypeatus という種の研究です。
タフツ大学の発表によると、新しい殻が現れると個体がその周りに集まり、大きい順に一列に並びます。いちばん大きな個体が空き殻に入ると、列のほかの個体も、すぐ前の個体が出たばかりの殻へ素早く移っていきます。大きすぎる空き殻を見つけた個体は、立ち去らずに近くで待っていました。コンピューターのモデルでは、この連鎖が起こるかどうかは、個体の密度と、合わない殻の近くで待つ時間の両方に左右されました。研究者は、合う殻が足りず、殻なしで過ごさざるを得ない個体もいると述べています。
この並び方は陸の種で調べられたもので、海のヤドカリでも同じように並ぶとは確かめられていません。
陸のオカヤドカリの事情
陸にすむオカヤドカリの仲間(Coenobita 属)は、海のヤドカリとは殻の事情が違います。オカヤドカリの仲間は殻の中に水をため、乾燥を防いだり、呼吸や卵の発生に使ったりしています。殻の内側を削って作り替えることも、これまでオカヤドカリの仲間だけで見つかっています。
コスタリカの Coenobita compressus が作り替えた殻は、元の殻より中が広く軽くなる一方、押しつぶす力には弱くなっていました。研究者は、陸の種は作り替えられた殻に住むことに特化していて、その殻を得る唯一の機会は仲間の死だと述べています。コスタリカのオサ半島での野外実験では、陸の種は仲間の死のにおいに強く引き寄せられ、素早く近づいて集団をつくりました。また、コスタリカの同じ種で65の集団を調べた研究では、29.2%が食べ物ではなく空き殻の周りにできていました。
同じ浜にすむオカヤドカリの仲間でも、好む殻の形が違うことがあります。モルディブの環礁で調べた研究では、Coenobita rugosus は短く丸い殻を、Coenobita perlatus は細長く口の狭い殻を好みました。
西表島の集落跡では、オオナキオカヤドカリが、昔の住民が捨てた食用の貝殻を住まいにしていました。傷みの少ない小さな殻か、傷みの多い比較的大きな殻のどちらかを使っており、条件の良い殻がいつも手に入るわけではないことがうかがえます。
ヤドカリを見かけたら
浜辺や水中でヤドカリを見かけても、殻から出そうとしたり、持ち上げたりせずに、そのまま観察しましょう。海の生き物に接するときの心得は、海洋保護区マナーのページにまとめています。ヤドカリの体を覆う殻は、カニやエビの脱皮で新しくなる殻(脱皮の仕組み)とは別のもので、ヤドカリ自身の骨格ではありません。
よくある質問
ヤドカリは、生きている巻貝から殻を奪うのですか?
少数の例外を除いて、ほとんどありません。巻貝が死んだあとに残る空き殻を使います。ほかのヤドカリから殻を取り上げる貝殻闘争はあります。
ヤドカリはいつでも好みの殻に住めるのですか?
いいえ。貝殻は一般に不足していて、好みの殻を使えるとは限りません。野外のヤドカリに新しい殻を与えると、約80%が交換したという報告もあります。
オスとメスで、選ぶ殻は違いますか?
函館湾のホンヤドカリの研究では、メスは卵を多く産めて生き残りに有利な殻を、オスは成長に有利な殻を好みました。ほかの種にそのまま当てはまるとは限りません。
まとめ
ヤドカリは、新しい殻をはさみ脚で内と外から調べ、今の殻より良ければ引っ越します。重さや大きさ、中の広さ、種類、穴や傷みなどが手がかりで、身を守るか成長を優先するかによって、好みは脱皮の時期や性別でも変わります。
ただし貝殻はたいてい足りず、空き殻探しや貝殻闘争、陸の種で知られる大きい順の受け渡しなど、ほかの個体との関わりの中で殻を手に入れています。陸のオカヤドカリは殻を作り替えるため、仲間の死が新しい家を得る機会になるという、海のヤドカリとは違う事情も抱えています。