シャコの仲間には、こん棒のような脚で貝の殻を打ち割るものがいます。その一撃は、とても速いことで知られています。なぜ、あれほど速く打てるのでしょうか。
速さの秘密は、筋肉の力をそのまま使うのではなく、殻(外骨格)の一部をばねのようにたわませて力をため、留め金で止めておいてから一気に放つ仕組みにあります。ただし、極端な速さが測られたのは、ハンマーのような脚を持つ「打撃型」のモンハナシャコです。シャコの仲間のすべてが同じように速く打つわけではありません。SOLBOY DIVE CENTERが、研究で分かってきた仕組みをご紹介します。
日本で食用にされる「シャコ」は1種(Oratosquilla oratoria)の名前なので、この記事では仲間全体を「シャコの仲間」と書き分けます。
「打撃型」と「刺突型」
シャコの仲間が獲物を捕らえるのに使う脚は捕脚と呼ばれ、その形は槍のようなものからハンマーのようなものまでさまざまです。大きく分けると、2つのタイプがいます。
- 刺突型:砂の巣穴に隠れて待ち伏せし、近くを通る逃げる獲物を捕らえる
- 打撃型:巣穴から出て獲物を探し、硬い殻を持つ動かない獲物を、ハンマー状の捕脚でたたく
沖縄美ら海水族館の解説によると、モンハナシャコは岩礁やサンゴ礁域にすむ鮮やかな色の大型のシャコで、ハンマー型の捕脚で貝の殻を割って食べます。
モンハナシャコで測られた速さ
2004年、カリフォルニア大学バークレー校の研究者たちは、実験室でモンハナシャコが巻貝をたたく様子を1秒間に5,000コマの高速度カメラで撮影しました。大学の発表によると、捕脚の最高速度は秒速14〜23メートル、最大の加速度は重力の6,300〜8,000倍に達しました。
研究者たちは当初、捕脚を留め金で止め、筋肉にためた力を一気に解き放つ仕組みを考えていました。しかし、それだけでは撮影された極端な加速度を説明できませんでした。
殻のばねに、力をためる
そこで注目されたのが、捕脚の殻そのものがばねとして働く仕組みです。2004年の論文は、捕脚の長い節(長節)の上部にある、鞍(くら)の形をした構造が、捕脚を構えるときにたわんで弾性エネルギーをため、打つときに放出すると説明しました。
打つ前の準備として、モンハナシャコは反対向きに働く筋肉を両方同時に縮めて殻をゆがませ、エネルギーをためます。ためた力は留め金で止められていて、留め金が外れると、ばねの力が一気に捕脚を振り出します。こうした「ばねにためて、留め金で一気に放つ」仕組みは、跳ぶ昆虫などの速い動きにも共通するものとして研究されています。
その後の研究で、ばねの役割分担も詳しく調べられました。2009年に別のシャコ(Gonodactylaceus falcatus)の殻を測った研究では、鞍の寄与は全体の約11%にすぎず、エネルギーの主なため場所は、捕脚の長い節にある石灰化した腹側の棒だと示唆されました。現在は、鞍と腹側の棒の両方がたわんで力をためる、殻のばねとして説明されています。
てこの仕組みで、回転を増やす
ばねに加えて、関節のつくりも速さを生みます。2007年の研究によると、捕脚には4本の節を組み合わせた「リンク機構」があり、回転を入力のおよそ2倍に増やして、打撃の速さと加速度を高めています。捕脚は、留め金・リンク・てこを組み合わせ、殻の複数の場所にためた力で動く機械のような仕組みだと説明されています。
2021年には、幼生のシャコも、捕食を始める第4期には、すでにばねと留め金の仕組みを備えて使っていることが報告されました。
打撃型と刺突型で、速さはどう違う?
では、刺突型も同じように速く打つのでしょうか。2012年に刺突型の2種を実験室で調べた研究では、予想に反して、刺突型は打撃型より遅く長い打撃をしていました。大型の Lysiosquillina maculata の打撃の速さは平均で最高秒速2.30メートル、小型の Alachosquilla vicina は平均で最高秒速5.72メートルでした。
研究者たちは、待ち伏せには極端な速さは必要なく、最も速い打撃型は、殻を割るための大きな衝撃力を生むことに速さを使っているのではないかと示唆しています。2013年に12種のばねを比べた研究でも、ハンマーで獲物をたたく種は、刺突型よりばねの弾性の戻りが良いという結果でした。
一撃で2回の衝撃
モンハナシャコの打撃では、1回の打撃で、通常390〜480マイクロ秒の間をおいて2つの大きな力のピークが生じます。1つ目は捕脚が獲物にぶつかる衝撃、2つ目は打撃の勢いで水中にできた泡がつぶれるときの力(キャビテーション)です。衝突の最大の力は400〜1,501ニュートン、泡がつぶれるときの最大の力は504ニュートンに達し、体重の数千倍の衝撃になりました。泡がつぶれるときの仕組みは、テッポウエビの仲間の記事でご紹介しています。
壊れにくいハンマー
くり返し強い衝撃を受けるハンマー部分(指節)は、壊れにくいつくりをしています。2012年の研究によると、モンハナシャコのこん棒は、向きのそろった結晶性の鉱物(ハイドロキシアパタイト)や、結晶になっていないリン酸カルシウム・炭酸カルシウムに、らせん状に並んだキチン繊維を組み合わせた構造で、衝撃による破壊を食い止める何重もの備えを持っています。
それでも、打撃と泡の衝撃で捕脚の表面は削れていき、殻に穴が開く個体もいます。研究者によると、定期的な脱皮で硬い表面が新しくなります(脱皮の仕組み)。
仲間どうしの争いでも
シャコの仲間は、すみかをめぐる争いでも打撃を使います。2024年に Neogonodactylus bredini を実験室で対戦させた研究では、相手が丸めた尾の板(尾節)に強い打撃を打ち合い、自由に争う個体では、打撃のエネルギーの約90%が散逸していました。
よくある質問
シャコの仲間はみんな、とても速いパンチを打つのですか?
いいえ。極端な速さが測られたのは、ハンマー状の捕脚を持つ打撃型のモンハナシャコです。待ち伏せをする刺突型は、打撃型より遅く長い打撃をしていました。
筋肉が特別に強いから速いのですか?
筋肉の力だけでは、測られた加速度を説明できませんでした。殻の一部をばねのようにたわませて力をため、留め金で止めてから一気に放ち、関節のリンク機構で回転を増やすことで、速い打撃を生んでいます。
モンハナシャコの打撃の速さは、どのくらいですか?
2004年の実験室の撮影では、捕脚の最高速度は秒速14〜23メートル、最大の加速度は重力の6,300〜8,000倍でした。モンハナシャコを実験室で測った値です。
まとめ
シャコのパンチが速いのは、筋肉の力をそのまま使うのではなく、捕脚の殻をばねのようにたわませて力をため、留め金が外れた瞬間に一気に放つからです。関節のリンク機構が回転を増やし、壊れにくいハンマーが獲物の殻を割ります。一撃のあとには泡がつぶれる2回目の衝撃も加わります。
ただし、こうした極端な速さが測られたのは打撃型のモンハナシャコで、待ち伏せをする刺突型は遅く長い打撃でした。同じシャコの仲間でも、獲物の捕り方によって速さの使い方が違っています。