魚の赤ちゃんは、サンゴ礁の音を頼りにする?音に集まる種・避ける種と、音が届く範囲

サンゴ礁の魚の多くは、生まれてしばらく、赤ちゃんの時期を沖の海で漂って過ごします。広い海から、どうやって自分たちが暮らすサンゴ礁へ戻ってくるのでしょうか。その手がかりの一つとして研究されてきたのが、サンゴ礁から聞こえる音です。

一部の魚では、海底やサンゴ礁に住みつく(着底する)直前の仔魚が、サンゴ礁の音に引き寄せられることが、スピーカーで音を流す実験で示されています。ただし、反応は種や場所、時期によって違い、音を避ける種や反応しない種もいます。音が届く範囲にも限りがあり、においなどほかの手がかりも使われています。サンゴ礁の音と仔魚の関係を、SOLBOY DIVE CENTERが実験の条件とともに紹介します。

沖で育った仔魚は、自分で泳いでサンゴ礁へ近づく

サンゴ礁の魚の多くは、生まれてから沖で浮遊して暮らす時期をもちます。2007年の日本の総説によると、浮遊する期間はおおむね20〜30日で、3か月を超える種は少なく、4,000種以上いるサンゴ礁の魚のうち、浮遊する時期のない魚は10種ほどしか知られていません。

着底直前の仔魚は、かつては潮の流れなどで受け身に岸へ運ばれると考えられていましたが、実際には大きな遊泳力をもち、自ら岸へ近づいていることが分かってきました。サンゴ礁の沖1kmで着底できる大きさの仔魚を放すと、岸に近づく時間帯の夜にはサンゴ礁の方へ泳ぎ、昼にはサンゴ礁を避けるように反対側へ泳いだという報告もあります。

サンゴ礁の方向を知る手がかりとしては、海水の成分(におい)、音、波の向き、潮の流れ、地磁気が挙げられています。着底直前の仔魚が発達した嗅覚や聴覚をもつことは確かめられていて、仔魚は嗅覚などを使って、住みつく場所を積極的に探していることも明らかになってきました。なかでも音は、においより広い範囲に、潮の流れと関係なく伝わるため、多くの研究者に注目されてきました。

音を流すと、多く集まる仔魚がいる

サンゴ礁は、テッポウエビやウニ、魚がたくさん暮らしていて、とくに音のにぎやかな場所です。この音を録音して沖で流す実験が、各地で行われてきました。

夜に光で仔魚を集めるライトトラップに、サンゴ礁で録音した音を流すものと流さないものを並べて沖に置くと、音を流したトラップでより多くの仔魚が捕れました。スズメダイ類は、テッポウエビ類のはさみなどが出す高い音に反応して集まるという報告もあります。

ニュージーランド北部で2000年に報告された実験では、音を流すトラップは、海底で暮らす礁の魚の仔魚を多く捕まえました。一方、外洋で暮らす魚の仔魚では、音のある・なしで捕れる数は変わりませんでした。

グレートバリアリーフのリザード島で、2000年11月と2001年1月の新月の時期に、礁から500m・650m・1000m以上離れた海域で比べた実験では、Apogonidae や Pomacentridae などの仔魚が、音を流したトラップで最大155%多く捕れました。研究者らは、一部の分類群が夜にサンゴ礁の音に引き寄せられたとしつつ、その反応は場所と時期によって変わるようだと述べています。

引き寄せられる種もいれば、避ける種もいる

同じリザード島の実験でも、沖の海域の11月の調査では、Apogonidae・Blenniidae・Chaetodontidae・Mullidae・Pomacentridae の5つの分類群が、音のないトラップで多く捕れ、音のあるトラップで多かったのは Lethrinidae だけでした。

10科20種の仔魚に、いろいろな礁の環境の音と人工の音を聞かせて泳ぐ向きを調べた2015年の研究では、20種のうち16種が少なくとも1つの音に反応しましたが、反応はさまざまでした。音で住む場所を直接選ぶ種(45%)と、特定の音の環境を避けることで結果的に住む場所を選ぶ種(35%)があり、同じ属や科の種でも同じ音に違う反応を示すことがありました。研究者らは、音の影響は種ごとに調べる必要があるとしています。

魚ではありませんが、グレートバリアリーフの礁湖で約70万個体の甲殻類の幼生を調べた研究では、将来サンゴ礁で暮らす種の幼生は音に引き寄せられた一方、外洋性の種や夜に活動する種は積極的に音を避けました。

音は、どこまで届くのか

音が手がかりになるのは、聞こえる範囲の中だけです。リザード島の実験では、スピーカーから65m以上離れると、流した音の大きさが背景の音と同じくらいになり、これがその実験で音が仔魚を引き寄せられる最大の範囲でした。

ハワイの1つのサンゴ礁で、距離を変えて音を測った2016年の研究では、平均的な音の大きさは低く、礁のごく近く以外では方向の手がかりとして使うには弱すぎるかもしれないとされました。ただし、平均を大きく(ときに10倍)超える一時的な音は、幼生の聴力によっては礁から遠くでも聞き取れるかもしれません。また、多くの海の動物にとって意味のある刺激は、水の圧力の変化よりも、水の粒子の前後の動きだと考えられています。人が水中で音をどう聞いているかについては、水中での見え方と聞こえ方のページをあわせてお読みください。

においの手がかりにも限界があります。水に溶けた物質は、その出どころから流れの下流でしか感じ取れません。音とにおいは、届き方の違う手がかりとして研究されています。

音で、サンゴ礁に魚を呼び戻せるか

サンゴ礁の音は、礁の状態によって変わります。グレートバリアリーフで大きな劣化の前後に同じ場所を録音した研究では、自然の礁の音は大きく変わっていて、劣化後の音を流す野外実験では、劣化前の音より若い魚を引き寄せる力が弱くなっていました。

反対に、音を加えることで魚を呼び戻そうとする試みもあります。リザード島の南西の礁湖で、サンゴのかけらで作った小さな礁に健全なサンゴ礁の音を6週間流した2019年の研究では、音を流した礁で魚の着底と定着が増え、音を流さない礁に比べて、魚の数は2倍、種の数は50%多くなりました。カリブ海のキュラソーでは、サンゴの幼生もサンゴ礁の音に引き寄せられたことが報告されています。

船の騒音は、稚魚を食べられやすくする

人が出す音の影響も調べられています。リザード島で、着底したあとの Pomacentrus amboinensis の稚魚を調べた2016年の研究では、モーターボートの騒音を流しても、実際のモーターボートが通っても、稚魚の代謝が上がり、騒音でストレスを受けた稚魚は、捕食者をまねた刺激への反応が少なく、遅くなりました。野外の実験では、モーターボートが通っている間に、捕食者が食べた稚魚の数が2倍以上になりました。

よくある質問

魚の赤ちゃんは、みんな音を頼りに帰ってくるのですか?

いいえ。音に引き寄せられた種がいる一方で、音を避ける種や、外洋の魚のように反応しない種もいます。反応は種・場所・時期によって違い、においなどの手がかりも使われています。

サンゴ礁の音が聞こえるのは、礁からどのくらいの範囲ですか?

リザード島の実験では、スピーカーの音は65m以上離れると背景と同じくらいになりました。ハワイの礁の測定では、平均的な音は礁のごく近く以外では弱すぎるかもしれないとされましたが、一時的な大きな音はもっと遠くまで届く可能性があります。

サンゴの赤ちゃんも、音に反応するのですか?

カリブ海のキュラソーで行われた実験では、サンゴの幼生も、魚やエビ・カニなどが出すサンゴ礁の音の方へ移動しました。

まとめ

サンゴ礁の魚の仔魚は沖で育ち、着底の前には自分で泳いでサンゴ礁へ近づきます。その手がかりの一つがサンゴ礁の音で、音を流す実験では、一部の分類群が引き寄せられました。

ただし、音を避ける種や反応しない種もいて、反応は種・場所・時期で変わります。音の届く範囲にも限りがあり、船の騒音が稚魚の生き残りに影響することも示されています。