深い海の映像で、白い粒がゆっくりと降っていくのを見たことはありますか。まるで雪のように見えるこの粒は「マリンスノー」と呼ばれています。いったい何でできていて、どこへ向かっているのでしょうか。
マリンスノーは、海の上の層から深海へ沈んでいく、0.5mmより大きい有機物の粒(凝集物)です。動植物の死骸やふん、粘液のような物質、砂や塵などが絡まり合ってできています。沈む速さは粒によって大きく違い、何週間もかけて海底に着くものもあります。光の届かない深海の生き物の餌になり、海の表面の炭素を深い所へ運ぶ役割も担っています。マリンスノーの正体と役割を、SOLBOY DIVE CENTERが海洋研究の資料をもとに説明します。
マリンスノーは、沈んでいく有機物の粒
アメリカ海洋大気庁(NOAA)は、マリンスノーを、上の層の水から深海へ降る有機物のシャワーと説明しています。死んだ動植物のほか、ふん、砂、すす、そのほかの無機物の塵も含まれます。白いふわふわの小片のように見えることから「マリンスノー」と呼ばれ、この「雪片」は落ちながら大きくなり、数cmになるものもあります。
研究の世界では、肉眼で見える0.5mm(500µm)より大きい凝集物をマリンスノーと呼ぶことが多く、物理的・化学的に粒がくっつくことや、動物プランクトンの活動などでできます。さらに小さなゲル状の粒から、マリンスノーの大きさ(0.5mm超〜数十cm)まで、大きさは連続してつながっています。
自然のマリンスノーは、ゲル状の物質や、尾虫類が捨てた粘液の「家(ハウス)」などを土台に、細菌、原生動物、動植物プランクトンの死骸、ふんなどの細かい粒が複雑に絡まっているものと考えられています。土台になるゲル状の物質の一つが、透明細胞外重合体粒子(TEP)です。中身を形で見分けにくいため、死んだ有機物と説明されることが多いのですが、生きた生き物が加わることもあります。マリンスノーのもとになるプランクトンの基本は、海の食物網を支えるプランクトンのページで扱っています。
名前は、日本の研究者から
1982年の日本の化学の解説によると、マリンスノーを学術用語として最初に使ったのは日本の研究者たちでした。戦後、北海道大学の潜水艇くろしお号に乗った、雪の研究で知られる中谷教授が、海中の雪片のようなものを見て「海の雪」と叫んだ、という話が伝えられています。
同じ解説では、当時、この雪片のようなものは深海にもあることが知られていたものの、捕まえようとすると壊れてしまい、実体はよく分かっていないと書かれています。また、それ以前は、ただ舞っているだけで、物質を運ぶ役としては重要ではないだろうと考えられていたことも紹介されています。
沈む速さは、粒によって大きく違う
沈んでいく粒の速さはとてもばらつきが大きく、これまでの研究の値では1日に約1〜370mの幅があります。同じくらいの大きさの粒でも、速さは大きく違います。NOAAの説明では、何週間も落ち続けてようやく海底に着く雪片もあります。
粒の大きさと沈む速さの関係を調べた62のデータを集めた2022年の研究では、実験室の粒に比べて、海で実際に集めた粒では、大きさと速さの関係がずっと弱くなっていました。研究者らは、実験室の粒のほうが性質がそろっているためかもしれないとし、大きさだけから沈む量を計算する方法の欠点を指摘しています。近年は、0.1mmより小さく、1日に20mより遅く沈む粒の役割の大きさも分かってきました。
マリンスノーは、一般に水深2,000mまでの上の層にとても多く見られます。
深海の生き物の、大切な餌になる
光の届く層より下を沈んでいく粒は、ほかの生き物を食べて暮らす深海の食物網を支える主な栄養源とみなされています。NOAAによると、暗い海の多くの動物が、マリンスノーを水からこし取ったり、海底で拾って食べたりしています。
途中で食べられていくため、沈む有機物の量は深くなるほど急に減り、海底まで届くのは沈む有機物の1%だけという値もあります。浅い所で食べられずに残ったわずかな物質は、海底を覆う泥の層に取り込まれ、そこで生き物の働きでさらに分解されます。
マリンスノーを主な餌にする生き物も見つかっています。モントレー湾で、遠隔操作の無人潜水機の映像や胃の内容物を調べた2012年の研究では、頭足類の Vampyroteuthis infernalis が、小さな粒から大きな凝集物まで、さまざまな大きさの死んだ有機物を食べていました。餌の出どころとして最も可能性が高いのは、尾虫類の餌を集める構造を含むマリンスノーの凝集物です。研究者らは、ほかの頭足類と違うこの食べ方が、酸素がとても少ない深さで一生の大半を過ごすことを可能にしているとみています。
ウナギの仲間の赤ちゃんも、マリンスノーとの関係が注目されてきました。飼育したニホンウナギの仔魚を使った2015年の研究の紹介によると、天然のウナギの仲間の仔魚は、マリンスノーや尾虫類の捨てたハウス、動物プランクトンのふんを食べていると言われてきて、諸説の中でもマリンスノー説が最も有力になっています。
海の表面の炭素を、深海へ運ぶ
海の表面から沈んでいく粒は、大気から取り込まれた炭素を深海へ運ぶため、地球の炭素の循環の大切な要素です。こうした働きはまとめて「生物炭素ポンプ」と呼ばれ、沈む粒のほか、海水の物理的な沈み込みや、上下に移動する動物プランクトンの排出も炭素を運んでいます。
2026年の総説によると、生物炭素ポンプは年に約10ペタグラム(100億トン)の炭素を深い水へ運び、重力で粒が沈むしくみがそのうち70%を占めます。ただ、運ばれる炭素の量はばらつきが大きく、2021年の研究では年に5〜12ペタグラムと幅があり、正確に決めにくいとされています。
粒の種類によって、運び方も違います。4つの異なる海で沈んでくる粒を集めて撮影した2021年の研究では、9つの型の粒が見分けられ、長い円筒形のふんは深くなるほど最も速く減った一方、深くなってもほとんど減らない型もありました。また、尾虫類は粘液のハウスを小さい種では1時間ごと、大型の種では1日ごとに捨てて作り直すことがあり、大きなハウスはつぶれて深海底へ速く沈みます。地域によっては、大型の尾虫類が、表層近くから深海底への炭素の流れの3分の1を担うこともあると推定されています。
よくある質問
マリンスノーは、本当に雪のように白いのですか?
白いふわふわの小片のように見えることから名付けられましたが、雪ではありません。動植物の死骸やふん、粘液のような物質、砂や塵などが絡まり合った粒です。
マリンスノーは、すべて海底まで届くのですか?
いいえ。沈む途中で多くが食べられ、海底まで届くのは沈む有機物の1%だけという値もあります。マリンスノーは水深2,000mまでの上の層にとても多く見られます。
マリンスノーを食べる生き物はいるのですか?
暗い海の多くの動物が、マリンスノーを水からこし取ったり、海底で拾って食べたりしています。モントレー湾の研究では、頭足類の Vampyroteuthis infernalis がマリンスノーの凝集物を主な餌にしていると考えられました。
まとめ
マリンスノーは、動植物の死骸やふん、粘液のような物質などが絡まってできた有機物の粒で、海の上の層から深海へ沈んでいきます。沈む速さは粒によって1日に約1〜370mと大きく違います。
沈む間に多くの生き物の餌になり、光の届かない深海の食物網を支えます。同時に、海の表面の炭素を深い所へ運ぶ生物炭素ポンプの一部として働いていますが、その量はまだ推定の幅が大きいままです。