水中で見ていると、魚の色が濃くなったり薄くなったりするように見えることがあります。魚は、自分の体の色を変えられるのでしょうか。
多くの魚は、皮膚にある「色素胞」という細胞を使って体の色を変えます。色素胞の中で色素の粒が集まったり広がったり、光を反射する小さな板の間隔が変わったりすることで、色が変わります。この動きは神経とホルモンが制御していて、数分以内に起こる速い変化と、色素胞の数や形が変わる数週間単位のゆっくりした変化があります。ただし、どれほど変えられるか、神経とホルモンのどちらが主に働くかは、魚の種類によって違います。魚の体色が変わる仕組みを、SOLBOY DIVE CENTERが色素胞の研究から紹介します。タコの色の変わり方は、タコの擬態のページで扱っています。
魚の色は、皮膚の「色素胞」がつくる
東邦大学で色素胞を研究してきた研究者の解説によると、魚の体の色は、皮膚にある「色素胞」という特別な細胞によって表れます。色素胞には、細胞の中の色素の色を見せる「光を吸収する色素胞」と、色素を持たず、細胞の中の構造で光を反射して色を生む「光を反射する色素胞」があります。
魚の色素胞には、黒色素胞・黄色素胞・赤色素胞・白色素胞・虹色素胞があり、近年は青色素胞も加えられました。魚はプテリジンという色素は自分でつくれますが、カロテノイドという植物性の色素はつくれず、餌から取り込んで使っています。
多くの魚の青い色は、青い色素ではなく、光の反射でできる「構造色」によるものです。銀色の魚の虹色素胞の中には、厚さ約100nmの六角形のグアニンの結晶(光を反射する板)が、ほぼ等間隔に重なっています。
色素の粒が集まると薄く、広がると濃くなる
色の素早い変化は、色素胞の「運動」で起こります。ただし、細胞そのものが形や位置を変えるのではなく、細胞の中で色素の粒や光を反射する小器官が動くことが、その正体です。
光を吸収する色素胞では、色素の粒が細胞全体に広がると色素の色が強く出て、皮膚の色は濃くなります。反対に、粒が細胞の中央に集まると、粒の占める面積が減って、皮膚は白っぽくなります。
光を反射する色素胞の中にも、動くものがあります。スズメダイの仲間や、ニザダイの仲間のナンヨウハギなどの虹色素胞は、反射する板の間隔を広げたり狭めたりすることで、反射する光の色を変え、その変化はわずか1〜2分で起こります。サンゴ礁にすむルリスズメダイは、ふだんは光の反射でコバルト色に見えますが、恐怖を感じると真っ黒になると解説されています。
神経とホルモンが、色の変化を指令する
色素胞の動きは、主に交感神経とホルモンによって制御されます。神経の伝達物質であるノルアドレナリンが色素胞の受け手(受容体)に結びつくと、黒色素胞などで色素の粒が集まり、体の色は明るくなります。神経による変化は、とくに素早く起こります。ルリスズメダイの皮膚を使った1986年の実験では、動く虹色素胞は交感神経だけで制御されていると結論されました。
ホルモンも働きます。一般向けの解説では、白い環境では色素の粒を集めて体を薄くする「メラニン凝集ホルモン(MCH)」が、黒い環境では粒を広げて体を濃くする「黒色素胞刺激ホルモン(MSH)」が出るとされます。魚は、水面から目に入る光と、背景から反射して目に入る光の割合で、自分がいる環境の明るさを判断しています。また、一部の魚の色素胞は、網膜にあるような光を感じる分子を持ち、光で直接動くことも分かっています。
ただし、神経とホルモンのどちらが主に働くかは種によって違います。ニジマスやウナギを黒い背景に慣れさせると血液中のMSHが増えましたが、ヒラメの仲間では変わらなかったと報告されています。カレイの仲間の総説では、黒色素胞の反応は主に交感神経によるもので、ホルモンは背景に慣れたあとの状態を保つ働きをするとされています。
速い変化と、ゆっくりした変化
体色の変化は、2つに分けて考えられています。秒から時間の単位で起こる速い変化は「生理学的体色変化」と呼ばれ、色素胞の中の粒や構造が動くことで起こります。一方、ある背景に長く慣れると、色素胞の形や密度が変わる「形態学的体色変化」が起こります。こちらは数週間かけてゆっくり進むことがあります。
総説によると、速い体色変化は、背景に溶け込むこと、体温の調節、仲間への信号に重要です。MSHは速い変化だけでなく、長く背景に慣れたときのゆっくりした変化にも関わり、淡水と汽水にすむモザンビークティラピアにMSHを10日以上与え続けると、背景の色に関係なく黒色素胞が増えて大きくなったと報告されています。
カレイの仲間で調べられた、背景に合わせる色
多くのカレイの仲間は、体の下側が白く、上側が茶色や灰色です。ヒラメを使った1991年の実験では、白い背景で最も白っぽく、黒い背景で暗くなり、大きな市松模様の上ではいくつかの黒い斑点が目立ちました。右目を覆うと背景に合わせた変化が起こらなくなりました。
北里大学の研究者らがマツカワを黒・黄・白に塗った水槽で300日間飼育した実験では、白い水槽の魚で黒と黄の色素が集まっていました。一方で、皮膚の一定の面積あたりの色素胞の数には変化が見られませんでした。マツカワでは、MCHの遺伝子の働きは環境の色で変わりやすいのに対し、MSHに関わる遺伝子はほとんど反応しなかったと報告されています。
よくある質問
魚の青い色は、青い色素の色ですか?
多くの魚の青い色は、青い色素ではなく、細胞の中の構造が光を反射してできる構造色です。虹色素胞の中の結晶の板の重なりが関わっています。
魚の色は、どれくらいの速さで変わるのですか?
速い変化は秒から時間の単位で起こり、ルリスズメダイなどの動く虹色素胞では1〜2分で色が変わります。色素胞の数や形が変わるゆっくりした変化は、数週間かかることがあります。
魚の体色を変えているのは、神経ですか、ホルモンですか?
両方が働きますが、どちらが主かは種によって違います。カレイの仲間では主に交感神経が働き、ホルモンは背景に慣れたあとの状態を保つとされています。
まとめ
魚の体色は、皮膚の色素胞がつくっています。色素の粒が集まると薄く、広がると濃くなり、虹色素胞では反射する板の間隔が変わることで色が変わります。
この動きは神経とホルモンが制御し、数分以内の速い変化と、色素胞そのものが変わる数週間単位のゆっくりした変化があります。どちらの仕組みを主に使うかは、魚によって違います。