海に潜っていくと、ある深さで水がひやりと冷たく変わることがあります。この、水温が急に下がる層は何なのでしょうか。
海面の近くには、風や波、海面の冷え込みでかき混ぜられ、水温があまり変わらない「表層混合層」があります。その下で、暖かい水から冷たい水へと水温が急に下がる移り変わりの層が「水温躍層」です。夏に浅いところにできて季節とともに変わる季節躍層と、熱帯や亜熱帯の水深数百mに常にある主水温躍層があります。この層は、サンゴ礁に冷たい水を運ぶ海の中の波や、魚の潜り方にもかかわっています。水温躍層のでき方と生き物とのつながりを、SOLBOY DIVE CENTERが気象庁やアメリカ海洋大気庁(NOAA)の解説と研究から結びます。
かき混ぜられる表層と、その下の移り変わりの層
気象庁によると、海面付近には、深さによって水温があまり変わらない層があり、これを表層混合層といいます。海面付近では、風の力で流れの上下の差が大きく、海面もしばしば冷やされるため、水をかき混ぜる乱れが生まれやすくなります。京都大学と東京大学の研究者による2017年の総説は、混合層の中の乱れを、風によるもの、対流によるもの、波によるものに分けています。
NOAAは、水温躍層を、表面の暖かく混ざった水と、その下の冷たい深い水とのあいだの移り変わりの層と説明しています。表面の層は風や波とかかわり合って水を混ぜ、暖かさを行きわたらせます。その層の下の端にあるのが水温躍層です。
暖かい水が上に、冷たい水が下に重なるのは、水の重さ(密度)の違いによります。気象庁によると、海水の密度は水温と塩分で決まり、たとえば水温が低く塩分が大きくなると、密度は増えます。
夏は薄く、冬は厚くなる混合層
表層混合層の厚さは季節で変わります。気象庁によると、冬は海面で海水が冷やされ、海上の風で上の水と下の水が活発にかき混ぜられるため、厚い混合層ができます。夏は海面付近の海水が日射で温められ、海面付近と下の層との温度差が大きくなるため、混合層は薄くなります。
気象庁は、海水の密度が「海面より0.5℃低い水温の海水の密度」と等しくなる深さを、表層混合層の厚さと定めています。この定義による1982〜2010年の平均では、日本近海の混合層の厚さは、夏は10〜20m程度で、冬は100mを超える海域が広がります。混合層が薄い夏は、海面を出入りする熱が薄い層の水温だけを変えるため、海面水温が熱の出入りに敏感に変わります。
夏にできる浅い躍層は、季節躍層と呼ばれます。長崎大学の研究者による2022年の総説は、季節躍層は海面が温められて表層の水が層に分かれることでできると説明しています。気象庁によると、台風の強い風は、海面下の冷たい海水と海面の温かい海水をかき混ぜることでも、海面水温を下げます。
熱帯の深みに常にある主水温躍層
浅い季節躍層とは別に、もっと深いところにも水温躍層があります。東北大学の研究者による2005年の解説によると、熱帯・亜熱帯の海域では、水深数百mあたりに水温躍層が常に存在し、これを主水温躍層と呼びます。海は大きく見ると、この主水温躍層を境に、上の暖かい水の層と下の冷たい水の層に分けられます。中緯度の典型的な外洋では、上から表層、季節水温躍層、主水温躍層、深海の水温がほぼ一様な層に分けられることも、音の伝わり方を調べた1997年の研究で示されています。
NOAAの気象教材は、水深200〜1000mの層は水温躍層を含むため、水温の変化が最も大きいと説明しています。これは深い主水温躍層の話で、夏に浅いところにできる季節躍層とは別のものです。NOAAによると、水温躍層の深さと強さは季節や年によって変わり、熱帯では半ば永続的で、温帯では変わりやすく、極域では浅いか、存在しないこともあります。水温躍層の強さは熱帯で最も強く、極域の冬には存在しないほどに弱まります。
熱帯の中でも、海域によって違いがあります。熱帯太平洋の研究をまとめた2021年の総説によると、熱帯太平洋では東から西へ水温躍層が深くなり、深い水温躍層が下の層からの栄養塩の供給をさまたげるため、西部は海面の植物プランクトンの色素(クロロフィルa)の濃度が低い、栄養の少ない海域になります。
躍層をゆらす海の中の波
同じ場所でも、水温躍層は上下にゆれ動きます。防衛大学校の研究者による1986年の解説によると、海の中の密度が急に変わる面に力が加わると、海の中に波(内部波)が生まれます。水中の音の伝わり方に最も影響する内部波は、水温躍層の付近で生じるもので、内部波による温度の変動の幅は水温躍層で最も大きく、そこから離れるほど小さくなります。
タイの西のアンダマン海を調べた2015年の論文は、それまでの研究をまとめて、大きな内部波が砕けると、躍層の下の冷たい水の塊が浅いサンゴ礁へ運ばれると紹介しています。その水温の低下は、数分以内と急で、最大10℃と大きく、15〜30分と短く、とぎれとぎれで、海底付近に限られます。これはアンダマン海の例で、どの海でも同じように起こる値ではありません。
サンゴを冷やすことも、熱にさらすこともある
躍層の下の冷たい水は、サンゴを助けることがあります。同じ2015年の論文によると、2010年5月に広い範囲で海水温が高くなったとき、アンダマン海では、大きな内部波が冷たい水を頻繁に運び込んだことで、浅いところ(水深約15m)のサンゴの白化と死亡が和らぎました。内部波にさらされたミアン島の側では、水温が最低22.1℃まで下がりました。
反対の例もあります。フランス領ポリネシアのモーレア島の近くで15年間観測した2023年の論文によると、数十〜数百kmの渦が海面の高さと水温躍層の深さを変え、内部波による冷却を年によって弱めたり強めたりしました。2019年のはじめには、渦によって内部波が大きく減ったことが、長引いた海面下の高水温と、予想外に激しいサンゴの白化につながりました。
インド洋中央部のチャゴス諸島の環礁を調べた2023年の論文では、浅いところでは白化がないのに、水深90mでサンゴの白化が見られました。この白化は、インド洋ダイポール現象による水温躍層の持続的な深まりと関係していました。22℃の等温線は、約3か月のあいだに深さ60mから140mへ深まりました。
魚が潜る、躍層の下の冷たい水
水温躍層は、魚の潜り方にもかかわります。2022年の総説が紹介するマンボウの研究では、季節躍層が発達し、水温は海面の17〜21℃から深くなるにつれて急に下がり、深さ50mで10〜12℃、150mで6〜8℃でした。同じ総説は、メバチの行動を考えるモデルで、海面から深さ100mまで水温28℃の混合層があり、深さ500mにかけて10℃まで下がる水温躍層の下、400〜500mに餌がいる環境を想定しています。これは実際の特定の海の値ではなく、モデルの設定です。
よくある質問
水温躍層は、決まった深さにあるのですか?
決まってはいません。浅い季節躍層は季節で変わり、気象庁の定義による日本近海の混合層の厚さは、夏は10〜20m程度、冬は100mを超える海域が広がります。熱帯・亜熱帯の主水温躍層は水深数百mあたりに常にあります。モーレア島の近くでは、渦が水温躍層の深さを変えた例も報告されています。
同じ場所で、急に水温が変わるのはなぜですか?
水温躍層の付近では、海の中の波(内部波)で水温が上下にゆれます。アンダマン海では、大きな内部波が砕けると、躍層の下の冷たい水が浅いサンゴ礁へ数分以内に運ばれ、15〜30分ほど水温が下がる現象が知られています。
水温躍層は、どこの海にもあるのですか?
NOAAによると、水温躍層は熱帯では半ば永続的で最も強く、温帯では季節や年で変わりやすく、極域では浅いか、存在しないこともあります。
まとめ
海面の近くには、風や波、海面の冷え込みでかき混ぜられた表層混合層があり、その下で水温が急に下がる移り変わりの層が水温躍層です。夏は日射で表層が温められて混合層が薄くなり、浅い季節躍層ができます。熱帯や亜熱帯では、水深数百mあたりに主水温躍層が常にあります。
水温躍層の付近では内部波で水温がゆれ、躍層の下の冷たい水がサンゴ礁を冷やすこともあれば、躍層が深まってサンゴが暖かい水にさらされることもあります。