サンゴにらせんの花?イバラカンザシの仲間の正体と、鰓冠の働き

サンゴの表面に、らせん状の小さな「花」が咲いているように見えることがあります。色とりどりで、近くで影が動くと、さっと消えてしまうこともあります。この「花」の正体は何なのでしょうか。

らせん状の「花」は、植物でもサンゴの一部でもなく、カンザシゴカイ科 Spirobranchus 属の多毛類(ゴカイの仲間)が広げる「鰓冠」です。英語ではクリスマスツリーワームと呼ばれ、日本ではイバラカンザシの名で知られてきました。体は石灰質の棲管の中にあり、多くはサンゴに埋まった棲管から鰓冠を広げ、危険を感じると棲管の中に引っ込み、ふた(殻蓋)で入口を閉じます。ただし、日本の和名と学名の対応は、分類の見直しによって変わってきています。SOLBOY DIVE CENTERが、らせんの「花」の正体を、分類と観察の研究から読み取っていきます。

正体は、管にすむゴカイの仲間

国立科学博物館の研究者による1979年の解説によると、多毛類のうち、浮遊する幼生がほかの物に付着し、石灰質の棲管を分泌しながら成長する一群は「管棲多毛類」と呼ばれ、カンザシゴカイ科がそこに含まれます。カンザシゴカイ科の体は、鰓冠部、胸部、腹部に分かれ、鰓冠部には、数対から数十対の鰓糸が半円状やらせん状に並びます。鰓糸の一部が変形したり、特別な柄が生じたりして、その先に殻蓋が付きます。

2022年の論文によると、カンザシゴカイ科は世界で562の有効種、69属からなります。その中でもクリスマスツリーワームと呼ばれる種群は、鮮やかな色のらせん状の鰓冠で、Spirobranchus 属の中で最も目立つ存在です。

和名と学名の関係は、見直しが進んでいる

日本の古い資料では、イバラカンザシの学名は Spirobranchus giganteus とされていました。1980年に静岡県沼津市内浦で行われた付着生物の実験(1981年の報告)や、1999年の瀬戸内海の弓削島での研究がその例です。一方、2015年度の日本付着生物学会のシンポジウムでは、近年分類体系が変更されたイバラカンザシが紹介され、この属の分類の再検討が進められていると報告されました。

インド・太平洋の Spirobranchus は遺伝子の研究で整理され、2022年の論文は、日本の暖温帯から熱帯の海で造礁サンゴに付く大型の種として、S. corniculatus や S. gardineri などを挙げています。どの学名がどの和名に当たるかは、資料の年によって違うため、一つに決めつけずに見る必要があります。

らせんの「花」で、水中のえさをこし取る

カンザシゴカイの仲間は、水中に漂う有機物をこし取って食べる、固着性の生き物です。カンザシゴカイの仲間の代謝を調べた研究は、こうした暮らしによって、海底と水中をつなぐ役割を持つと書いています。鰓冠は、その名の由来でもある、えさをとるための付属肢です。

鰓冠には、変わった眼や光を感じる細胞もたくさんあります。影や急な暗さを感じると、広げた鰓冠を素早く棲管に引っ込めます。頭にある眼は棲管の中に隠れていて、あまり役に立ちません。Spirobranchus corniculatus の鰓冠の眼を調べた研究は、鰓冠の光を感じる仕組みが、近づく捕食者の影を感じて引っ込む「防犯ベル」として働くという仮説を支持する結果を得ています。鰓冠は魚に食べられることもあり、沖縄のサンゴ礁では、ニセクロスジギンポがこうしたゴカイの鰓冠を食べていたと報告されています。

サンゴとの関係は、良いことばかりではない

クリスマスツリーワームは、サンゴ礁のサンゴによく見られる共生者で、カリブ海でもインド太平洋でも、さまざまな種類のサンゴに付きます。分泌した石灰質の棲管は、ふつう入口を除いて宿主のサンゴに取り込まれます。危険を感じると棲管の中に引っ込み、棲管は石灰質の殻蓋でふさがれます。ゴカイが死んでいなくなると、空いた棲管にヤドカリや魚が入ることもあります。

サンゴにとって利益があることを示す研究もあります。一方で、タイ湾のタオ島で2015年に行われた調査では、749個の殻蓋のうち157個(21%)が、隣のサンゴに傷を生じさせていました。紅海でも、殻蓋が塊状のサンゴに傷をつけることが報告されています。

観察するときは、影を落としたり触ったりして鰓冠を引っ込ませないよう、少し離れて見守りましょう。海で生き物と向き合うときの基本は、セブ島の海洋保護区のマナーにまとめています。

よくある質問

らせんの「花」は、サンゴの一部ですか?

いいえ。サンゴに付いて暮らすカンザシゴカイ科 Spirobranchus 属の多毛類が広げる鰓冠です。体は、サンゴに埋まった石灰質の棲管の中にあります。

なぜ、急に引っ込んでしまうのですか?

影や急な暗さを感じると、広げた鰓冠を素早く棲管に引っ込めるためです。鰓冠の光を感じる仕組みが、近づく捕食者の影を知らせる役割をしているという仮説があります。

イバラカンザシの学名は何ですか?

古い日本の資料では Spirobranchus giganteus とされていましたが、分類の見直しが進み、日本の造礁サンゴに付く大型の種は S. corniculatus や S. gardineri などとされています。資料の年によって扱いが違います。

まとめ

サンゴに見えるらせんの「花」は、カンザシゴカイ科 Spirobranchus 属の多毛類が、サンゴに埋まった棲管から広げる鰓冠です。鰓冠で水中の有機物をこし取り、影を感じると素早く棲管に引っ込み、殻蓋で入口を閉じます。

サンゴとの関係には、利益を示す研究もあれば、殻蓋がサンゴを傷つける報告もあります。和名と学名の対応も、分類の見直しとともに変わってきています。