掃除屋そっくりの魚がいる?ニセクロスジギンポの擬態と、ふだんの食べ物

サンゴ礁には、ほかの魚の体をきれいにする掃除魚、ホンソメワケベラがいます。そのホンソメワケベラに、形も色も大きさもよく似た別の魚がいます。イソギンポ科のニセクロスジギンポです。

ニセクロスジギンポは、ホンソメワケベラと間違えて近づいた魚のひれをかじる、と紹介されることがよくあります。ただ、沖縄の瀬底島などでは、主にイバラカンザシやヒメジャコガイ、スズメダイの仲間の卵などを食べ、ひれかじりは小さい個体ほど多く見られました。一方、ほかの餌の少ない宮古島では、大きい個体もひれをかじっていました。似ていることで食べられにくくなる効果も、まだ確かめられていません。ニセクロスジギンポの擬態の研究を、SOLBOY DIVE CENTERが沖縄での調査を中心に読み解きます。

ホンソメワケベラにそっくりな、イソギンポの仲間

ニセクロスジギンポ(Aspidontus taeniatus)はイソギンポ科、ホンソメワケベラ(Labroides dimidiatus)はベラ科で、科の違う魚です。それでも体型・体色・体長がよく似ていて、脊椎動物の中で最も精巧な擬態の一つとして知られています。どちらもインド洋から東太平洋にかけて広く分布するサンゴ礁の魚です。同じ属のクロスジギンポ(Aspidontus dussumieri)は、ホンソメワケベラに似ていません。

考えられてきた2つの「得」

ホンソメワケベラに似ていることで、ニセクロスジギンポにはどんな利益があるのでしょうか。1968年に Wickler は、2種類の利益があると考えました。一つは、ホンソメワケベラと間違えて近づいた魚の尾びれをかじり取りやすくなる「攻撃擬態」。もう一つは、ホンソメワケベラが魚を食べる魚に食べられにくいことを利用して、自分も食べられにくくなる「保護擬態」です。

Wickler は、おもに水槽での観察から、ひれをかじる攻撃擬態の働きを強調しました。

野外では、ひれかじりは少なかった

ところが、沖縄の瀬底島で行われた最初の数量的な野外観察と胃の中身の調べ(1983年)では、ニセクロスジギンポはおもに多毛類の鰓冠を食べ、ときどきスズメダイの巣を襲って卵を食べていて、ひれをかじることはまれでした。2020年の日本の論文も、野外ではひれかじりはまれで、おもにイバラカンザシ、ヒメジャコガイ、スズメダイ科の魚が岩などに産みつけた卵を食べていることが、瀬底島などから報告されていると書いています。

グレートバリアリーフ、インドネシア、紅海でも、ひれをかじることはまれだったと報告されています。一方、フランス領ポリネシアでは頻繁にひれをかじっていました。1983年の研究は、ホンソメワケベラに似ていることのおもな働きは保護擬態だと結論しました。

ひれをかじる頻度は、体の大きさや場所で違う

その後、瀬底島の野外調査(2018年)で、ひれをかじる頻度は体が大きくなるほど減り、卵を食べる頻度は増えることが分かりました。ひれをかじるときは、掃除を一切せずに獲物の魚を攻撃していました。卵を狙うときは卵を守る魚に激しく攻撃されましたが、群れで巣を襲って成功することが多くありました。研究者らは、小さいうちだけ、別の餌のとり方として攻撃擬態を使っていると考えました。

2020年の研究では、餌の多さで違いが出ることも示されました。石垣島ではイバラカンザシとヒメジャコガイがとても少なく、5m²あたりの数の中央値は瀬底島の16に対して0でした。全長7cm未満の小さい個体を比べると、30分あたりのひれかじりの回数の中央値は、石垣島5個体で6回、瀬底島19個体で1.33回でした。食べた回数全体に占めるひれかじりの割合は、石垣島で83%、瀬底島で10%(中央値)でした。ひれかじりの成功率には差がありませんでした。著者らは、攻撃擬態の大切さは、その場所の餌の条件によって変わると結論しています。

ほかの餌が少ない宮古島の南岸で、2018〜2021年に全長5.5〜10cmの個体を観察した研究では、小さい個体も大きい個体もひれをかじり、スズメダイの巣を襲っていて、その頻度は体の大きさと関係がありませんでした。卵を狙うときは最大12匹の群れになることが多く、ひれかじりはふつう単独でした。同じ場所のクロスジギンポは、底の岩などをつつくことが多く、ひれや卵は食べていませんでした。

食べられにくくなる効果は、確かめられていない

保護擬態はどうでしょうか。2023年の論文によると、それまで保護擬態が生き残りに与える効果を調べた研究はありませんでした。そこでこの研究は、宮古島で2019年8〜12月に生存率を比べました。その結果、ニセクロスジギンポの生存率はクロスジギンポの2倍以上でしたが、統計的に意味のある差ではなく、保護擬態の効果は判定できませんでした。

瀬底島では、青ではなく茶色の、ホンソメワケベラに似ていない体色の個体(全長6.5cm)が見つかり、同じ礁の似た大きさの通常の個体より早く姿を消しました。ただ、同じ台風で通常の個体も6個体中3個体がいなくなっていて、1個体だけの観察です。

2023年の別の研究では、野外ではニセクロスジギンポがエソの仲間(Synodontidae)にときどき襲われました。水槽の実験では、野外でニセクロスジギンポを襲わなかった待ち伏せ型のハタの仲間 Epinephelus merra が、ホンソメワケベラ、ニセクロスジギンポ、クロスジギンポのいずれも襲いました。著者らは、掃除魚の体色がいつも捕食の危険を減らすわけではないとし、この擬態がおもに攻撃擬態として進化した可能性を支持しています。

色を切り替える、別の属の擬態者

ホンソメワケベラに似る魚は、ほかにもいます。別の属の Plagiotremus rhinorhynchos は、ほかの魚の組織を食べることに特化した魚です。パプアニューギニアのキンベ湾で行われた野外実験では、ホンソメワケベラを取り除くと、すぐに擬態の色から別の色へ変わりました。脊椎動物の擬態はふつう変わらないものですが、この魚は擬態の色をやめて、まったく違う見た目になれます。ニセクロスジギンポとは別の魚なので、同じ仕組みだとはいえません。

よくある質問

ニセクロスジギンポは、いつも魚のひれをかじっているのですか?

そうではありません。沖縄の瀬底島などでは、おもにイバラカンザシやヒメジャコガイ、スズメダイの仲間の卵を食べ、ひれかじりはまれでした。瀬底島では小さい個体ほどひれかじりが多く、石垣島の小さい個体でも多く見られました。一方、宮古島では大きい個体もひれをかじり、その頻度と体の大きさに関係はありませんでした。

ホンソメワケベラに似ていると、食べられにくくなるのですか?

まだ確かめられていません。宮古島の生存率の比較では差がはっきりせず、水槽の実験ではハタの仲間がホンソメワケベラも含めて3種とも襲いました。

ニセクロスジギンポとクロスジギンポは、どう違うのですか?

同じ属の魚ですが、ホンソメワケベラに似ているのはニセクロスジギンポです。宮古島の観察では、クロスジギンポは底の岩などをつつき、ひれや卵は食べていませんでした。

まとめ

ニセクロスジギンポは、掃除魚ホンソメワケベラに形も色も大きさもよく似たイソギンポの仲間です。似ていることでひれをかじりやすくなる攻撃擬態の使われ方は、場所によって違います。瀬底島では小さい個体ほど多く、ほかの餌の少ない宮古島では大きい個体にも見られました。

瀬底島などで主に食べていたのは、イバラカンザシやヒメジャコガイ、スズメダイの仲間の卵などでした。食べられにくくなる保護擬態の効果は確かめられておらず、2023年の研究は、この擬態がおもに攻撃擬態として進化した可能性を支持しています。