大きな魚が小魚につつかれてじっとしているのはなぜ?クリーニング共生の仕組み

口を開けたウツボのそばにいるホンソメワケベラ

サンゴ礁の海で、大きな魚が水中でじっと動かずにいて、そのまわりを小さな魚がせわしなく泳ぎ回り、体や口のあたりをつついている。そんな場面を見かけることがあります。食べられてしまわないのか、けんかをしているのかと、不思議に思う方も多いのではないでしょうか。

このような場面は、「クリーニング(掃除)」の最中かもしれません。クリーニングでは、小さな魚やエビが、ほかの魚の体についた寄生虫を食べて取り除きます。この記事では、クリーニングで何が起きているのか、研究で分かってきたこと、見かけたときに邪魔をしない観察のしかたを、マクタン島のSOLBOY DIVE CENTERがご紹介します。

クリーニング共生とは?小さな「掃除屋」と大きな「お客さん」

サンゴ礁では、エビや魚の仲間の一部が「クリーナー(掃除屋)」として、ほかの生き物の体表についた寄生虫を取り除いています。掃除を受ける側は「クライアント(お客さん)」と呼ばれ、その多くはサンゴ礁の魚です。

クリーナーは、礁の中の決まった小さな場所にとどまっています。この場所が「クリーニングステーション」で、お客さんの魚はそこへ自分から掃除を受けに来ます。ステーションでは、お客さんがじっと動かずに身を任せ、そのあいだにクリーナーがエラや口の中、うろこを調べて寄生虫を食べます。動かずにいる間のお客さんは、捕食者に狙われやすい無防備な状態でもあります。

クリーナーは食べ物を得て、お客さんは寄生虫を減らせる。双方に利益があるこの関係は、生物学では「相利共生」の例として研究されてきました。冒頭のような場面を見かけたら、クリーニングの最中かもしれません。

チョウチョウウオのそばにいるホンソメワケベラ

代表的な掃除屋、ホンソメワケベラ

魚のクリーナーとしてよく知られているのが、ベラの仲間のホンソメワケベラ(英名:Bluestreak cleaner wrasse)です。魚類の国際データベースFishBaseによると、最大で全長14cmほどの小さな魚で、ペルシャ湾や紅海、東アフリカから太平洋の島々まで、北は日本の南部まで、インド太平洋に広く分布しています。FishBaseの国別記録では、フィリピンにも在来種として記録されています。

ホンソメワケベラは、ほかの魚の体につく甲殻類の寄生虫や、魚の体表の粘液を食べています。決まったステーションにとどまり、掃除を受けに来る魚を迎えるのが特徴です。研究では、魚に取りつくグナシア科の等脚類という小さな甲殻類の寄生虫を食べることが確かめられています。

掃除の量は、想像以上かもしれません。2011年に発表された論文が紹介している観察値では、ホンソメワケベラ1匹が1日に平均2,297匹の魚を調べ、平均1,218匹の寄生虫を食べていました。同じ魚が何度も掃除を受けることも多く、1日に最大144回掃除を受ける個体もいたと報告されています。

FishBaseには、見慣れない魚がやって来ると、尾で体の後ろ側を上下に動かす踊りのような動きで迎えるという記述もあります。幼魚は、ダイバーが近くまで寄ったときにも同じ動きをすると書かれています。

掃除屋がいなくなると、サンゴ礁の魚はどうなる?

クリーナーが本当に役に立っているのかは、実験で確かめられてきました。1999年に科学誌Natureに掲載された研究では、ホンソメワケベラがいる場合といない場合で、お客さんの魚についた寄生虫の数に、12時間以内に4.5倍の差が生じました。

もっと長い期間で調べた研究もあります。小さな礁からホンソメワケベラを18か月取り除いた実験では、クリーナーがいる比較用の礁に比べ、礁と礁の間を行き来する魚の種類数は約半分、個体数は約4分の1でした(2003年の研究)。

さらに、8.5年にわたってホンソメワケベラを取り除いた礁では、その礁に住みつく魚が比較した礁より37%少なく、種類も23%少なくなっていました。礁の間を移動する魚の幼魚も65%少なく、クリーナーが、若い魚がその礁に加わるかどうかにも影響している可能性が示されています(2011年の研究)。

クリーナーと一緒にいた魚は、捕獲や運搬、狭い水槽に入れられたときのストレス反応(コルチゾールというホルモンの値)が低かったという水槽実験の報告もあります(2007年の研究)。大きくても全長14cmほどの小さな魚が、まわりの魚の数や顔ぶれにまで関わっていることが分かります。

掃除屋にも「ズル」がある?協力が続く仕組み

クリーニングは、いつも行儀よく進むわけではありません。ホンソメワケベラは寄生虫を取って協力することもあれば、お客さんの魚の粘液をかじる「ズル」をすることもあります。

餌を選ばせる室内実験では、ホンソメワケベラは寄生虫のグナシア類よりも、魚の粘液を多く食べました(2003年の研究)。好みのままに食べれば、お客さんの体をかじることになります。そのため、お客さんの側がクリーナーに「好みに反して」寄生虫を食べさせる必要がある、と研究者は考えています。

お客さんの魚も黙ってはいません。野外の観察では、ズルをされたお客さんがクリーナーを追い払ったり、その場を離れてほかのクリーナーへ移ったりする様子が記録されています。皿から餌を食べるよう訓練したクリーナーを使った室内実験では、こうした「罰」や「相手の切り替え」があると、クリーナーがより協力的にふるまうようになりました(2005年の研究)。

そばで様子を見ているほかの魚も関係しています。様子を見ていた魚は、協力的な掃除をしたクリーナーのそばで長く過ごし、訓練されたクリーナーは、見られている状況でより協力的に食べるようになりました(2006年の研究)。相手の評判を見て行動を選ぶようなふるまいが、魚どうしの間にもあるわけです。

ホンソメワケベラは、腹びれや胸びれでお客さんの背びれのあたりに触れる「タッチ」もします。12匹を合計112時間観察した研究では、このタッチによって、お客さんが掃除を受ける時間が変わったり、かじられてビクッと体を震わせたお客さんが逃げたり追いかけたりするのを止めたりしていました(2001年の研究)。掃除中の魚が急に体を震わせる場面を見たら、こうしたやり取りの最中かもしれません。

そっくりな偽者、ニセクロスジギンポ

ホンソメワケベラによく似た姿の魚に、ニセクロスジギンポがいます。FishBaseによると、ホンソメワケベラに擬態し、ほかの魚のヒレや皮膚、うろこをかじる魚です。FishBaseの国別記録では、この魚もフィリピンに在来種として記録されています。

見分けるポイントは口の位置です。ホンソメワケベラは口が吻(ふん:顔の先端部分)の先にあるのに対し、ニセクロスジギンポは吻の下側に口があります。似た魚を見かけたら、顔の先をよく見比べてみてください。

長い触角と赤白の帯模様をもつオトヒメエビ

エビの掃除屋もいる

掃除をするのは魚だけではありません。2017年に発表された総説では、世界のクリーナーは魚が208種、エビが51種と推定されています。

クリーナーシュリンプの一種を調べた研究では、エビが体を左右に揺らす「ダンス」で魚に合図し、観察したダンスのあとには毎回、掃除が行われていました(2005年の研究)。小さなエビのそばで魚がじっととどまっていたら、エビによるクリーニングかもしれません。

クリーニングを見かけたら:邪魔をしない観察のしかた

クリーニングは、魚にとって寄生虫を減らす大切な時間です。ダイバーの存在がその時間に影響することも、研究で分かっています。

海外の研究ですが、何十年もダイバーが訪れてきたホンジュラス・ウティラ島の礁でも、ダイバーがいる間はエビによるクリーニングが5割を超えて減っていました。ダイバーがほとんど訪れない礁では、影響がさらに大きかったと報告されています(2015年の研究)。また、ブラジルの研究では、掃除を受けている最中の魚は、人が近づいても逃げ出すまでの距離がおよそ3割短くなっていました。研究者はこれを、掃除を優先するぶん危険への警戒が下がる、魚にとっての負担として捉えています(2020年の研究)。掃除中の魚が逃げないのは、安心しているからとは限らないということです。

クリーニングを見かけたときは、次の点を心がけましょう。

  • 見つけたらその場で止まり、少し離れた位置から眺める。ステーションの正面に回り込んだり、上から覆いかぶさったりしない。
  • 掃除を受けている魚が逃げないからといって、近づき続けない。長く居座らず、ほかの魚が来られるように場所を空ける。
  • サンゴや岩につかまって体を止めない。姿勢を保つのが難しいときは、無理に近づかず、離れた位置から見る。
  • 写真を撮るときも、カメラを近づけすぎない。

水中で体を安定させて止まるには、浮きも沈みもしない中性浮力の感覚が役立ちます。詳しくはダイビングの中性浮力とは?をご覧ください。水中写真の基本はセブ島ダイビングで水中写真を楽しむには?で、保護区で守りたい基本はセブ島ダイビングの海洋保護区マナーで紹介しています。

マクタンの海で、魚どうしの関係にも目を向けてみる

SOLBOY DIVE CENTERは、ハウスリーフのコンティキや、海洋保護区のヒルトゥガン島、サンゴ礁とドロップオフ・スロープのあるナルスアン島などのポイントをご案内しています。どんな生き物に出会えるかはその日の海次第で、特定の生き物や行動が見られることはお約束できません。ポイントごとに出会えることがある生き物は、セブ島のダイビングで見られる魚や海の生き物で紹介しています。

魚の名前を探すだけでなく、「この魚はいま何をしているんだろう」と行動に目を向けると、同じ海でも見え方が変わります。水中で気になった場面は、浮上してからインストラクターに話してみてください。日本人インストラクターが日本語でご案内します。

ライセンスをお持ちの方はファンダイビング、初めての方は体験ダイビングでご参加いただけます。行きたいポイントや見てみたい生き物のご希望は、LINEでご相談ください。

よくある質問

ホンソメワケベラはフィリピンの海にもいますか?

魚類データベースFishBaseの国別記録では、フィリピンに在来種として記録されています。インド太平洋に広く分布する魚ですが、特定のポイントやその日に見られるかどうかは、海の状況によって変わります。

クリーニング中の魚に近づいてもいいですか?

少し離れた位置から眺めるのがおすすめです。海外の研究では、ダイバーがそばにいるとクリーニングが5割を超えて減った例が報告されています。ステーションの正面をふさがず、長く居座らないようにしましょう。

掃除屋にそっくりな魚がいるのは本当ですか?

ニセクロスジギンポという魚がホンソメワケベラに擬態し、ほかの魚のヒレや皮膚をかじります。ホンソメワケベラは口が顔の先端にあり、ニセクロスジギンポは顔の先の下側に口があるのが見分けるポイントです。

エビも掃除をするのですか?

はい。2017年の総説では、世界でエビ51種がクリーナーと推定されています。体を左右に揺らすダンスで魚に合図し、そのあと掃除をするエビの研究もあります。

まとめ

大きな魚が小さな魚につつかれてじっとしているのは、寄生虫を取ってもらう「クリーニング」の最中かもしれません。代表的な掃除屋のホンソメワケベラは、1日に平均2,000匹以上の魚を調べます。小さな礁での除去実験では、魚の数や種類が少なくなる結果が報告されています。一方で、粘液をかじる「ズル」や、それを防ぐお客さんの対抗策、そっくりな偽者のニセクロスジギンポなど、掃除の場には駆け引きもあります。

見かけたときは、少し離れた位置から静かに眺め、ステーションをふさがず、長く居座らないことが基本です。魚の名前だけでなく行動にも目を向けて、海の中の関係を観察してみてください。