魚は眠る?岩陰や砂の中で休む魚の暮らし

岩のすき間でじっとしている魚や、海底近くでほとんど動かない魚を見ると、「魚も眠るの?」と気になる方もいるでしょう。止まっている魚は休んでいるのか、それとも別の理由で動かないのか、見た目だけでは分かりにくいものです。

結論からいうと、多くの魚は活動や代謝を落として休みます。一部の魚では、実験で睡眠と呼べる状態も確かめられています。ただし、魚の眠りは人や陸の哺乳類の睡眠とまったく同じではなく、休む時間帯や場所、姿勢も種類によってさまざまです。セブ・マクタンの海へダイバーをご案内しているSOLBOY DIVE CENTERが、魚の休み方と、睡眠の研究から分かってきたことをまとめました。

なお、ここで紹介する研究には、実験室で飼育された淡水魚のゼブラフィッシュを使ったものや、ハワイやオーストラリアなど特定の海での観察が含まれます。サンゴ礁のすべての魚や、マクタンの海にそのまま当てはまるとは限らない点を踏まえて読んでください。

魚の「休息」とは:活動と代謝を落とす

NOAA(アメリカ海洋大気庁)は一般向けの解説で、多くの魚は活動と代謝を落として休むと説明しています。研究によると、魚は危険への警戒を保ったまま、活動や代謝を落とすことがあるといいます。

同じ解説は、魚の睡眠の性質はまだ研究が続いている分野で、魚は陸上の哺乳類と同じようには眠らないものの、ほとんどの魚は休息する、とまとめています。こうした休息が、人の睡眠と同じように体を回復させる働きを持っているのかもしれない、とも推測しています。

止まっている魚は、眠っているとは限らない

魚が動かずにいるだけでは、眠っているとは言い切れません。2024年に発表された魚の睡眠についての総説は、研究で使われる行動上の目安として、次のような点を挙げています。

  • 体内時計に合わせて、決まった時間帯に動きが止まる
  • 音や刺激などに反応しにくくなる
  • 種類ごとに決まった休む場所や姿勢がある
  • 刺激を受けると、すぐに目覚めた状態へ戻れる
  • 休息を妨げられると、その後に休む時間が増える(埋め合わせ)

すぐに目覚めた状態へ戻れることは、昏睡や麻酔、活動を極端に落とす休眠のような状態と睡眠を区別する手がかりになります。2026年に発表された日本語の総説も、魚類のように脳波を測ることが容易ではない動物では、こうした行動上の条件が睡眠の定義として広まりつつあると説明しています。

2024年の総説は、これまでの研究では、こうした目安をすべて確かめないまま休息行動を「睡眠」と呼んできた例が多いと指摘しています。目安のすべてを実験で調べられた魚は、ゼブラフィッシュ、メキシカンテトラ、ベラの仲間の一種など、ごくわずかです。

また、海の中で魚がじっとしている理由は休息だけではありません。たとえば、小さな魚に体を掃除してもらっている間、大きな魚がじっと動かずにいることがあります。この行動は大きな魚が小魚につつかれてじっとしているのはなぜ?クリーニング共生の仕組みで紹介しています。

実験室のゼブラフィッシュで分かったこと

魚の睡眠研究でよく使われているのが、淡水魚のゼブラフィッシュです。日本語の総説によると、遺伝学的な手法などを使えるモデル生物として、睡眠の研究が急速に進んでいます。生後およそ6か月の成魚を、水温28.5℃、明るい時間14時間・暗い時間10時間の水槽で調べた2007年の研究では、刺激への反応をもとに、ほぼ動かない状態が6秒以上続くことを睡眠の目安としました。この状態は、軽くたたく、音を出す、弱い電気刺激を与えるといった刺激で、すぐに元に戻りました。

同じ研究では、眠る場所は水面近くか水槽の底で、個体ごとに好みがありました。成魚13匹の平均で、眠っていた時間の割合は昼が5.1%、夜が58.1%と、夜に大きく偏っていました。暗い時間に休息を妨げると、その後に睡眠が増える埋め合わせも見られました。

2019年には、受精後7〜14日のゼブラフィッシュの幼魚を調べた研究が、哺乳類などの徐波睡眠やレム睡眠と共通点をもつ2種類の神経活動のパターンを報告しました。この研究では、睡眠を妨げた後や薬剤を用いた条件に加え、体を固定する実験条件に慣れた、薬剤を与えていない幼魚でも、通常の夜の時間帯に同様の活動が自発的に現れることを観察しています。ただし、脳の活動に共通点があることは、人とまったく同じ眠り方だと確定したことではありません。

こうした結果は、実験室の水槽で飼育された1種類の淡水魚のものです。睡眠と判断する動かない時間の長さも、成魚の研究では6秒以上、幼魚の研究では1分を超える不動と、研究ごとに違います。サンゴ礁の魚にそのまま当てはめることはできません。

休み方は種類によってさまざま

NOAAは、その場に浮かんだまま休む魚、泥やサンゴの安全な場所に体を押し込む魚、ちょうどよい寝床を見つける魚など、休み方は種類によって違うと紹介しています。サンゴ礁の魚では、次のような例が報告されています。

岩のすき間やサンゴの陰で休む

ハワイ島コナのサンゴ礁で、夕方と朝の薄明かりの時間に潜って魚を観察した1972年の研究では、ハワイにすむベラの一種(Thalassoma duperrey)が、夕方にサンゴのすき間を何度も出入りしたあと穴に入りました。近づいて確かめると、穴の中で体を横にして休んでいて、1時間後も同じ姿勢のままでした。

2024年の総説には、サンゴを寝場所にする例も紹介されています。スズメダイやニザダイの仲間の一部は夜に枝状のファイアーコーラルに身を寄せ、紅海のカワハギの仲間の一種は、歯でサンゴにつかまって体を固定したまま眠るといいます。サンゴのかけらを集めて寝床の山をつくるベラの仲間もいます。

砂に潜って休む

ベラの仲間には、夜に砂に潜って休む種類がいることが古くから知られています。静岡県の駿河湾で採集したイトベラを水槽で調べた1991年の研究では、底に砂があると、明るい時間に活動して暗い時間に休むリズムが保たれましたが、砂のない水槽ではほぼ一日中泳ぎ続けました。研究者は、活動のリズムを保つには暗さだけでなく、潜るための砂も関わっていると考えています。

サンゴ礁にすむベラの一種(Halichoeres trimaculatus)を調べた2012年の研究では、メラトニンというホルモンを与えると動きや呼吸の回数が減りました。研究者は、夜に砂に潜ったあとの眠りに似た状態をメラトニンが引き起こしていると考えています。ただし、すべてのベラが砂に潜るわけではなく、岩のすき間で休むベラもいます。

粘液の包みに入って休む

ブダイやベラの仲間には、夜に粘液で体を包み、その中で眠る種類が多くいます。沖縄美ら海水族館は、ナンヨウブダイが口やえらから粘液を出し、ゼリー状の寝袋のように体を包んで眠ると紹介しています。ハワイの観察でも、朝になると、小型のブダイの仲間が夜を過ごした粘液の包みの残りが海底近くを漂っていたと記録されています。

この包みは、捕食者から身を守るためだと長く考えられてきましたが、その働きはまだ決着していません。2011年に発表された研究では、サンゴ礁のブダイの一種(Chlorurus sordidus)を、包みがある状態とない状態で一晩、魚の血を吸う小さな甲殻類の寄生虫にさらしたところ、包みのない魚のほうが多く寄生虫に襲われました。ただし、寄生虫を防ぐ働きが実験で示されたのはこの1種についてです。ブダイの食事とサンゴ礁の砂の関係は、ブダイはなぜ岩をかじる?魚の食事とサンゴ礁の砂のつながりで紹介しています。

夜に休む魚ばかりではない

ハワイ島コナでの1972年の観察は、観察したサンゴ礁の魚の多くは昼に活動するか夜に活動するかのどちらかで、昼に活動する魚は主に夜に、夜に活動する魚は主に昼に休むとまとめています。夜に活動する魚の一種(Priacanthus cruentatus)は、昼の間は岩やサンゴのすき間に身を隠していて、夕方になると出てきました。

オーストラリアのグレートバリアリーフにあるフック島の海中展望塔から、1970年に夕方と朝の魚を観察した研究でも、夕方にサンゴのすき間へ入っていく魚がいた一方で、アイゴの仲間のように隠れ場所を探さず、その場で泳ぐのをやめるだけの魚もいました。数の多かった夜行性の魚2種は、昼に活動する魚がいなくなってから動き始め、朝は昼の魚が現れる前に動きを止めたり、姿を消したりしていました。

一方で、サバやマグロ、一部のサメのように、一日中泳ぎ続けて動きを止める時間を見せない魚もいます。泳ぎ続けることで、口からえらへ水を通して呼吸しているためです。

休んでいる魚を見かけたら

海の中で、岩のすき間やサンゴの陰でじっとしている魚を見かけたら、のぞき込んだり、手や棒でつついたり、隠れている場所から追い出したりせず、少し離れた位置から眺めましょう。砂地では、砂に潜っている生き物がいることもあるので、フィンで砂を巻き上げないように気をつけてください。海の生き物を観察するときのマナーは、セブ島ダイビングの海洋保護区マナー|サンゴと生き物を守る基本でも紹介しています。

小魚が群れで泳ぐ理由や、群れの中でぶつからずに動ける仕組みは、小魚はなぜ大きな群れで泳ぐ?ぶつからずに向きをそろえられる理由で紹介しています。

マクタンの海で

セブの海で出会えることがある魚や生き物は、セブ島のダイビングで見られる魚や海の生き物で紹介しています。ダイビングが初めての方も、10歳以上ならライセンスがなくても体験ダイビングで海の中をのぞけます。ライセンスをお持ちの方はファンダイビングへどうぞ。魚の観察について聞いてみたいことがあれば、LINEから日本語でお気軽にご相談ください。

よくある質問

魚は人と同じように眠るのですか?

まったく同じだとはいえません。多くの魚は活動や代謝を落として休みます。ゼブラフィッシュの幼魚では哺乳類などの睡眠と共通する神経活動も報告されていますが、特定の魚を実験室で調べた結果です。魚全体が人と同じ眠り方をすると分かったわけではありません。

じっとしている魚は眠っているのですか?

そうとは限りません。睡眠と判断するには、刺激への反応が鈍くなる、すぐに目覚めた状態へ戻れる、休息を妨げるとその後に休む時間が増える、といった点を確かめる必要があります。体を掃除してもらうためにじっとしている魚もいます。

魚はみんな夜に休むのですか?

いいえ。昼に活動する魚は主に夜に休みますが、夜に活動する魚は主に昼に休みます。サバやマグロ、一部のサメのように、一日中泳ぎ続けて動きを止めない魚もいます。

砂に潜って休む魚がいるのは本当ですか?

はい。ベラの仲間には、夜に砂に潜って休む種類がいます。日本のイトベラを水槽で調べた研究では、砂がないとほぼ一日中泳ぎ続けました。ただし、ベラの仲間がすべて砂に潜るわけではなく、岩のすき間で休む種類もいます。

まとめ

多くの魚は、活動と代謝を落として休みます。ゼブラフィッシュなど一部の魚では、刺激への反応が鈍くなる、すぐに目覚める、休息を妨げると埋め合わせが起こるといった点から、睡眠と呼べる状態が確かめられています。ただし、人の睡眠とまったく同じではなく、詳しく調べられた魚はまだごく一部です。

休む時間帯や場所、休み方は種類によってさまざまで、岩のすき間に入る魚、サンゴにつかまる魚、砂に潜る魚、粘液の包みに入る魚、泳ぎ続ける魚もいます。海でじっとしている魚を見かけたら、そっと距離をとって、その魚の様子を眺めてみてください。